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第29話 ドキドキワクワクの班分け発表

 翌日、最後の授業はLHRの時間。


 予想通り、月末にある学習合宿についての話がメインだった。

 細かい部分はまた次回伝えるようで、今日はひとまず班分けについて。


 昨日話していたように、合宿中は基本的に班単位で行動するようだ。


 勉強はもちろん食事もそうだし、あとはなんか……自然を感じるためのハイキング? だの二日目のカレー作りだの……そういったものも班単位で行うとのことで……。


 なんか……勉強だけの退屈な合宿だと思ったらいろいろそれっぽいこともやるんだな……。


 会長さんが楽しいと言っていた理由も分かる気がする。


 ますますラブコメ的なアレが期待できそうですなぁ。


「――ってなわけだ。まぁ詳細は次に説明するから、いよいよお前らがお待ちかねの班分けの発表するぞー」


 『おぉ!』とクラスが沸く。


 俺たちがドキドキワクワクしていたのは班分けの部分であるため、当然と言えば当然である。


 好きな人と一緒になれるかなーとか。

 仲のいいヤツと一緒になれるかなーとか。


 それぞれ期待と不安に胸を膨らませて。


 かくいう俺も、どんな班になるのか楽しみだった。

 

 ……いや、まぁどちらかと言えば俺ではなく司の班のほうが楽しみだな。


 場合によってはラブコメが加速するしなぁ!?


「納得いかない班でも文句言うなよー? これでもかなり考えたんだからな?」


 ニカッと白い歯を覗かせて大原先生は笑う。


 いやー……相変わらず声も顔もイケメンだなぁこの人……。


「ほんじゃ、一人一人名前を発表していくぞ。まずは――」


 いよいよ班分けの発表が始まる。

 クラスメイトたちはソワソワした様子だ。


 さーて、どうなるかねぇ。


 一人一人、先生が生徒の名前を呼んでいく。


 名前を呼ばれるたびに本人や周囲から声があがっていた。


「私たち一緒だね!」

「うん! よろしくね!」


 同じ班になった女子二人が嬉しそうにハイタッチを交わしていた。


 おーアイツら一緒の班なのか……仲良しコンビだし嬉しいだろうなぁ。


 一つ目の班、二つ目の班、そして三つ目の班と次々名前が挙がっていく。


 班分け発表が進むごとにクラス内の熱気が上がっていた。


 ちなみに俺や司たちはまだ呼ばれていない。


「おー! やったな一緒だぜ!」

「んだよー、まーたお前と一緒かよー」


 なんて。

 微笑ましいやり取りが目の前で繰り広げられる。


「おいおい、あんま騒がしくするなよお前ら。じゃあ次な」


 残っている生徒の数的に、そろそろ俺の名前が呼ばれてもおかしくはないだろう。


 これは……間違いなく誰かしらとは一緒になるなぁ。


 いやー……楽しみ楽しみ。


 ――そんな呑気に考えていると、唐突にそのときは訪れた。


「――朝陽、それと《《渚》》。以上」


 お……っと!?

 

 自分の名前が呼ばれたわけではないのに、俺は思わず背筋が伸びた。


 ──マジかそうきたか。


「……えっ」


 カタッと右隣から椅子を鳴らす小さな音が聞こえてくる。


 先ほどまでボーっと班分けを聞いていた渚が動揺していた。

 

「おっ、渚さんと一緒か。よろしくな」


 後ろから司の嬉しそうな声が聞こえてきた。

 

「……う、うん。よろしく」


 渚は左斜め後ろにいる司にチラッと視線を向けて、すぐに戻した。

 

 いや……分かる。分かるぞ。

 後ろ向けないよな、というか向きたくないよな。


 蓮見と月ノ瀬の顔、見れないよな。


 俺も絶対後ろ向きたくない。


 特に蓮見なんてすごい顔してそうだもん。

 面白そうだけど後々が怖そうだからグッと我慢。


「よーし、じゃあ次が最後の班な」


 くそ……やりやがったな大原純一郎。

 このパターンは全然予想してなかった。

 

 司と渚かぁ……そこが一緒になるのか……。


 となると、残りの呼ばれていないメンバー的に──


「──月ノ瀬、蓮見、そして青葉。これで全部の班だな。呼ばれてないヤツはいないよな?」


 …………。


 いや。


 よりにもよって……俺がこっち側かよぉぉぉ!!! 


 なんでだよ! せめてダブルヒロインの片割れくらいとは一緒になっておけよ司!


 お前抜きでこの二人と組まされるのはいろいろキツいって!


 俺は思わず頭を抱える。


 だったらもう俺以外の四人が固まるか、俺と司だけが一緒の班になるとか、そういう方向がよかった。


 絶対これ渚も困ってるだろ……。


 隣を見ると、案の定困惑状態の渚の姿があった。 

 まさかこんな班になるとは思ってなかっただろうからなぁ……。


「おー、昴たちは三人一緒かぁ。変にバラバラにならなくてよかったな」


 またもや呑気に言う司。


 おうコラてめぇ。

 そんな楽しそうにしてるのお前だけだからな?

 

 お前の両隣の精神状態考えろ?


「……ああ、そうだね。ホントにネ」

 

 ため息混じりに返事をする。

 司からすれば、蓮見さんと月ノ瀬さんが昴と一緒の班になって安心……くらいの気持ちなんだろうなぁ。


 そこに善意しかないのがまたむず痒いところである。


「よーしじゃあ班は決まったから……。次にそれぞれの班で集まって班長を決めてくれ」


 あ、やっぱり班長とかあるのね……。


「班長だからといって責任重大な役目とかそういうのはないからな。深く考えないでいいぞー。ほい、班長決め開始!」


 パンッと先生が手を合わせて合図をする。

 その音でクラスメイトはそれぞれ席を立ち、班同士で固まり始めた。


「それじゃあ渚さん、俺たちも行こうか」

「あ、うん」


 司と渚も同様に立ち上がった。


「昴」

「なんだよ」


 座ったままの俺を見下ろし、ニヤッとして。


「月ノ瀬さんと蓮見さんに迷惑かけるなよ?」

「うるせぇさっさと行けっての」


 こっちの気も知らないで……。

 

 とりあえず俺も行動開始するか……。


 × × ×


 その後、班員が集合すると軽く挨拶を交わした。

 俺たちの班には、他に二名の男子が所属している。


 もちろんクラスメイトであるため何度も会話は交わしており、気兼ねなく接することができる相手だ。


「よろしくな!」

「蓮見さんと月ノ瀬さんと同じ班……これは勝ちだな」


 健康的に日焼けしている陽気金髪男子は広田(ひろた)拓斗たくと。サッカー部に所属している。

 次にガタイのいい黒髪男子は大浦(おおうら)トシ。こっちは柔道部に所属している。


 二人は普段から仲が良く、去年も同じクラスだったようだ。


「ええ、よろしく」

「よろしくね。二人とも」


 改めて……俺、月ノ瀬、蓮見に加えてこの二人。

 以上五人が俺たちの班だ。


 野郎どもは我がクラスが誇る二大美少女と同じ班になれたことに喜びを感じている。


 いいなぁ! 俺もそっち側だったら『ひゃっほー! 美少女と同じ班キタァ!』って絶対なってるのに。


 なにも知らない青葉昴でいたかった。


「どうしたんだよ青葉? いつものお前だったら『ひゃっほー! 美少女と同じ班キタァ!』ってなってるだろ?」


 一言一句同じなのやめろ! なんか恥ずかしいわ!


 広田は陽キャらしくガシッと肩を組んでくる。

 本来であれば俺もガシッといっているところだが、今はいろいろ事情があってそんな気分じゃない。


「へいへい、よろしくな野郎ども」


 適当に相手をしながら横目で司の班の様子を見てみる。

 

 司班も男子三人、女子二人の構成で仲良さげに会話をしていた。

 渚のほかにもう一人女子がいるが、ソイツはクラスの中でもかなり陽キャ側であるためコミュニケーションには困らなそうだ。


 とはいえ、ああいうタイプが相手だと渚は恐らく苦労するだろうな……。


 そのあたりは司が上手くフォローしてくれるだろうから問題なさそうだな。うん。


「にしても、アンタと同じとはね」


 俺の隣に立っていた月ノ瀬が話しかけてくる。


 蓮見もそうだが、特に変わった様子はなく平然としていた。 

 まぁ……表に出していないだけであって、なにかしら思っていることは間違いないだろうけど。


 好きな人と同じ班になりたいと思うのは当たり前のことだもんなぁ。


 でも二人がそういう感じなら……俺も深く考えるのはやめておこう。


「俺も普通にビックリだっての。お前もそうだが、蓮見とも一緒になるなんてな」

「ふふ、そうだね。でもよかった。二人がいてくれて!」


 月ノ瀬の隣に立っていた蓮見が会話に加わる。


「るいるいも朝陽くんがいてくれたら安心できるしね」


 チラッと蓮見の視線が司たちに向けられる。


「いやぁ蓮見……司と一緒になれなくて残念だったなぁ」


 我が子を見守るような温かい目で。

 俺の言葉が届くと、蓮見の顔がみるみるうちに赤くなっていく。


 ホントこいつ分かりやすいな。


「べ、別にっ……! 青葉くんはすぐそういうこと言うんだから!」

「晴香、顔真っ赤よ?」


 おっと……なに他人事のように言ってるんだ?


 蓮見を真っ赤にさせて満足した俺は、次の標的である月ノ瀬を狙う。


「いやいや。お前もだろ? 司と一緒になれなくて……ドンマイ☆」


 爽やか笑顔でサムズアップ!


「はっ……はぁ?」

 

 予想していなかった攻撃に月ノ瀬は動揺し、サッと顔を逸らした。

 

 しかし、その横顔が薄っすらと赤みを帯びていることは見逃さない。


 うんうん、二人そろって乙女で大変よろしいことで……。


 あー楽しい楽しい。

 やっぱアレコレ考えるより、こうやってみんなをおちょくってる方が生きてる実感あるわ。


「いやマジで……朝陽モテすぎだろ」

「同意だ」


 乙女な二人を見て広田と大浦は悔しそうに呟いた。


 ハッハッハ! 悲しき野郎どもよ! そうだろうそうだろう! 悔しいだろう!


 ――それに関しては俺も全力で同意するっす。


「そ、それより!」


 月ノ瀬はわざとらしく咳払いをして注目を集める。


「班長を決めるんでしょ? 誰がやるの?」

「あーそういえばそんな話だったな。蓮見たちをイジることに夢中だったわ」

「もう、青葉くんはさぁ……」


 班長かぁ。


 先生はああ言っていたが、どうせやることは割とあるんだろ?

 点呼だの報告だのなんだの……この手の班長といえばそういったことを担当するイメージだ。


 蓮見たちはそれぞれお互いを見回し……。


 そして。


 最後に全員の視線が俺一点に集まった。


 ……え?


「ね、ねぇ君ら……なんで俺を見てるの?」


 嫌な予感がする。


 そんな俺を他所に、一同は口を開いた。


「青葉がやればいいんじゃね?」

「ああ。青葉でいいと思う」

「青葉くん……そういうの向いてそうかなって!」

「アンタがやりなさいよ」


 おい最後のヤツおかしいだろ。

 それはもうただの命令じゃねぇか。


 てか蓮見は絶対やり返しにきてるだろ!

 

 無駄に可愛い笑顔やめろ!

 無条件で班長引き受けちゃうでしょ!


「いやちょっと待ってくれって。ここは平等に話し合いをだな──」


 さすがにそんな面倒そうなことやりたくない!

 俺は苦労する班長を後ろで見てニヤニヤしてたいの!


 俺はできる限りの抵抗を試みるが――


「じゃあ決を採るわよ。青葉が班長に賛成の人」


 勢いよく上がる四本の手。


 それはつまり。


 わたくし、青葉昴が班長に決まってしまったということである。

  

 …………なんで?

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