閑話44 夜LINE㉗【お勉強組!】
汐里祭前日、午後八時頃にて。
星那
『さて皆、明日はいよいよ汐里祭当日だ。各々準備はできているか?』
晴香
『バッチリです!!! すっごく楽しみですもん私!』
ひなた
『あたしも楽しむ準備万端です! 一年生は出し物がないので、ただひたすらに遊びますよー!』
星那
『そうか。それなら私も安心だ』
星那
『日向や志乃は来年のために、先輩たちがどんなことをしているのか見て回るといい。きっと参考になるぞ』
ひなた
『はーい!』
晴香
『そういえば星那先輩のクラスはなにをやるんですか?』
星那
『フフ、それは当日になってからのお楽しみだ』
星那
『気になるのなら、ぜひ三年三組まで来てみたまえ』
ひなた
『えーなんだろー! あたし気になります!』
青葉
『あたしも気になる!』
ひなた
『だよねー!』
青葉
『ねー!』
ひなた
『誰ですか?』
晴香
『日向ちゃんの急な裏切り!』
朝陽司
『俺は先輩のクラスの出し物知ってるので……ここはなにも言わないでおきます』
青葉
『マジかよ! でも会長さんのことだからなぁ、レオタード喫茶とかじゃね? なんかこう……ギリギリな感じで、こう……煩悩にまみれた感じで……』
晴香
『朝陽くんたちは実行委員の準備はどう? 上手くできそう?』
朝陽司
『そうだね。当日は時間ごとに運営の仕事だったり、見回りだったり……いろいろあるけど、超忙しいってわけじゃないから大丈夫だよ』
晴香
『なるほど!』
月ノ瀬玲
『自由時間もちゃんとあるから、一日中縛られてるわけじゃないものね』
星那
『キミたちの場合は演劇もあるからな。そのあたりの時間配分にも注意しつつ、自由に過ごすといい』
青葉
『あのー……』
星那
『どうした昴。いたのか』
青葉
『記憶から綺麗に抜けていらっしゃる!!』
朝陽志乃
『昴さん』
青葉
『はいすみませんでした』
朝陽志乃
『よろしいです』
晴香
『話が早い!』
ひなた
『やっぱり昴先輩には、志乃かるいるい先輩をぶつけるのが一番早いですね!』
朝陽司
『同感。それに、蓮見さんも昴の扱い方が上手くなってきたよね』
月ノ瀬玲
『なにもなかったかのようにスルーしたものね』
青葉
『スルー、するー、つって!』
青葉
『さて、昨今の地球温暖化についてだが……』
ひなた
『無視されると思って、自分からなかったことにしましたよこの人』
青葉
『冗談は置いておいてだ』
青葉
『司も月ノ瀬も、なんかやべぇことあったらいつでも言うんだぜ』
朝陽司
『お前、急にまともになるのやめろよ』
月ノ瀬玲
『大丈夫? 悩みがあるなら話聞くわよ?』
青葉
『あれぇ??? ちょっと良い感じのこと言ってやったのに!』
月ノ瀬玲
『冗談よ。ありがと昴』
朝陽司
『ありがとな』
青葉
『キュン…』
なぎ
『チョロすぎない?』
晴香
『あ、るいるい!』
ひなた
『るいるい先輩の登場です!』
晴香
『今日はちょっと遅かったね!』
なぎ
『うん。ちょっと試合中だった』
星那
『試合……といえば、留衣』
なぎ
『なんですか?』
星那
『私のクラスではないのだが……ほかの三年のクラスの出し物で、キミ向きのものがある』
朝陽志乃
『渚先輩向き……?』
ひなた
『なんだろー。メガネ展示会! とか?』
なぎ
『川咲さん? わたしそんなメガネ愛好家に見える?』
ひなた
『見えますん!』
なぎ
『どっち??』
朝陽志乃
『本当に日向が適当でごめんなさい先輩……』
なぎ
『大丈夫だよ』
星那
『ゲーム関係、と言っておこう』
晴香
『おー!』
朝陽司
『たしかに渚さんにはピッタリかもね』
月ノ瀬
『明日か明後日、どっちか行ってみたら?』
なぎ
『そう……ですね。ありがとうございます生徒会長さん』
星那
『うむ。きっとキミも楽しめるものになっているはずだ』
青葉
『どっかでミスコン的なのやってないんすか!?』
青葉
『汐里ナンバーワン美少女を決めよう! みたいな!』
なぎ
『あんたそういうことしか言わないじゃん』
青葉
『こういうお祭り行事には付き物だろうが!』
ひなた
『それ、漫画とかの話でしょ先輩』
朝陽司
『あるわけないだろ昴』
青葉
『くそぉ!! 水着審査とか歌審査とかそういうの見たかった! なんなら審査員やりたかった! 下心丸出しで女子のこと見たかった!』
ひなた
『この人どこかに埋めません?』
朝陽志乃
『日向、それはさすがに昴さんが可哀想だよ』
ひなた
『えーでもさー!』
朝陽志乃
『大丈夫。あとでちゃんと私がお話しておくから』
青葉
『どうしようめっちゃ悪寒が走ったんだけど』
晴香
『志乃ちゃんに任せておけば安心だね!』
星那
『まぁミスコンといったイベントは私も嫌いではないし、むしろ出場してみたいところなのだが……』
星那
『そしたら私が優勝してしまうだろう? ほかの生徒に申し訳ない』
青葉
『誰も否定出来ないのがたち悪いって』
月ノ瀬
『たしかにね……』
ひなた
『沙夜先輩に勝てる人はいなさそうですねー』
なぎ
『同意』
晴香
『私もです』
星那
『む。一人くらい否定してほしかったのだが……』
星那
『少々恥ずかしくなってくるな……』
朝陽司
『じゃあ逆に、美男子コンテストとか? これなら誰が優勝できるのか分からないんじゃない?』
青葉
『いや俺だろ』
朝陽司
『え?』
青葉
『だからそんなもん俺が優勝するに決まってんだろ。俺よりイケメンで、俺よりハイスペックで、俺より魅力あふれる男子なんてこの学校にいるか?』
青葉
『いやいない!!!』
青葉
『よって俺様が優勝!!!』
なぎ
『性格審査でゼロ点取るから優勝はないでしょ』
青葉
『おい。なんだよ性格審査って』
青葉
『志乃ちゃんはそんなこと言わないよねー! 性格もなにもかも満点評価だよね!』
朝陽志乃
『えっ?』
青葉
『え?』
朝陽志乃
『えっと……』
朝陽志乃
『昴さんはかっこいいですよ! 私はずっとそう思ってます!』
青葉
『ありがとう。でもおかしいね。質問と答えが合ってないね?』
なぎ
『笑う』
星那
『残念だったな昴』
青葉
『コンテストの話なんて終わりだ終わり!! やっぱりそういうことで順序付けるの良くないと思う! 十人十色! みんな違ってみんないい!』
朝陽司
『言い出したのお前だったよな?』
青葉
『はぇぇ???』
星那
『とにかく、明日からの二日間各々楽しむといい。思い出作りも兼ねてな』
星那
『司たちの演劇は私も観に行かせてもらう。楽しみにしているぞ』
ひなた
『あたしもあたしも! 明日と明後日どっちも観に行こーっと! 司先輩と姉御の晴れ舞台をバッチリこの目で見ます!』
朝陽志乃
『私も日向と一緒に行くね、兄さん。頑張って!』
朝陽司
『ありがとう志乃。頑張るよ!』
晴香
『ちょっと緊張してきた……。多分私の親も観に来るんだよね……』
青葉
『大丈夫だ蓮見。俺たちは舞台袖で見守ってるだけだからよ』
なぎ
『がんばってね、二人とも』
朝陽志乃
『あ、兄さん。多分お母さんたちも観に来るかもーって。さっき話してたよ』
朝陽司
『えぇぇマジか……変な緊張してきた……』
ひなた
『司先輩のご両親! あたし、制服じゃなくてスーツで行ってもいいですか? 挨拶してもいいですか?』
晴香
『日向ちゃん?』
月ノ瀬
『日向?』
ひなた
『先手必勝早い者勝ち!!!』
朝陽司
『えっと……?』
青葉
『気にすんな。日向が勝手に暴れてるだけだ』
星那
『とりあえず夜更かしせず、早めに寝るのだぞ。明日からの二日間は忙しくなるからな』
青葉
『ういーっす』
晴香
『るいるい、ゲームのやり過ぎて寝坊しないようにね!』
なぎ
『ぜんしょする』
青葉
『絶対明日も眠そうにしてるぞコイツ』
なぎ
『うるさい』
星那
『では解散だ。皆、また明日』
朝陽司
『明日から頑張ろう!』
晴香
『おー! がんばろー!』
月ノ瀬
『また明日』
なぎ
『また』
朝陽志乃
『先輩たち頑張ってください!』
ひなた
『がんばれー!』
青葉
『そうですよー! 頑張ってくださいね!』
朝陽司
『お前はこっち側だろ昴』
青葉
『おっと失敬』
× × ×
「明日からいよいよ本番……か」
あっという間に訪れる汐里祭に、改めて時の流れの速さを感じる。
先生から一方的に実行委員を命じられ、昴からは主役を押し付けられ……。
自分でも本当に上手くできるかどうか分からなかったけど、みんなのおかげでここまで来ることができた。
あとは明日、これまで積み重ねてきた練習の成果を披露するだけだ。
『The Sunlit Path』……。
昴、やっぱりお前はすごいよ。
あんなに面白い話を書けて、あんなに素晴らしい演劇を作り上げてくれて……。
もちろん、月ノ瀬さんや蓮見さん、渚さんやほかのクラスメイトたちもなくてはならない存在だ。
だけど……昴。
お前が作った『物語』で、みんなが一丸になって前に進んでいるんだ。
絶対に成功させるために。
最高のものを作り上げるために。
お前が始めた物語を、みんなで彩って……今日ここまで来ることができた。
お前がどうして、この話を作り上げたのか。どうしてこんなにも……『身近』に感じる物語を描き上げたのかは……分からない。
でも……きっとお前は、なにか伝えたいことがあるんだよな。
この演劇を通して、俺たちに……届けたいものがあるんだよな。
それだけは……なんとなく分かる。
だからこそ――昴。
お前を今のまま、『そこ』にいさせるわけにはいかない。
これはすべて……俺のわがままだ。
青葉昴の親友の……朝陽司のどうしようもないわがまま。
どんなに悪く思われても、どんなに避難されても……『これ』だけは絶対に通してみせる。
「……よし」
俺はとある人に一件のメッセージを送った。
先に謝っておく。
悪いな、昴。
そして――
渚さん。




