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第28話 蓮見晴香はママである

 ――ってな感じで、俺たちはこうして話すようになったんだよ。


 グループ学習が終わってからも、なんか席替えで近くになったりとか、他の授業でグループを組まされるときにたまたま一緒になったりとか……なにかと絡む機会が多かったんだ。


 それもあって、お互いに話すことも増えていったって感じだな。


 で、そのままなんだかんだで一年が終わって……『来年のクラスどうなるのかなぁ』って思ってたら、コレだ。


 蓮見なんか「みんなと一緒で良かったよ~!」って言いながら泣いてたんだぜ?


 まぁでも、それについては俺も同意見だったな。

 司もそうだろ?


 むしろ離れたら一番困るのは渚で……あの渚さんが一からお友達を作るなんてそれはもう難し――。

 あ、はいだからすみませんって。睨まないでくださいって。


 ……にしても尚更分からねぇなぁ。


 今話した通り渚は最初、俺相手にすら人見知りモードだったのに……。

 本当にいつ、今のような関係性になったのか……謎だ。


 と……まぁ、簡単だけどこんな感じだ。 


 ほかにもいろいろあるが……それはまた機会があったときに話すよ。


 × × ×


 そして現在。


「ご清聴、ありがとうございました」


 司たちが「おー」と小さく拍手。

 

 ひとまず必要なことは話せただろう。

 

 もちろん、恋愛云々とかそういう個人的な部分までは話してないけども。

 さすがに蓮見のこととか、アレコレ勝手に話すほどバカ野郎ではない。


「去年のことなのに、ちょっと懐かしいね」


 あはは……と蓮見は恥ずかしそうに笑う。

 

 蓮見はまぁ……あの頃からなにも変わっていない。

 ずっといいヤツのままだ。


 ただ……うーむ。


 司絡みになるとポンコツになるのも変わっていないから……そこは少し残念である。


 とはいえ、それ以上に司と一緒のクラスになれて良かったなぁとしみじみ思う。


「へぇ……なんだか面白い話ね。留衣なんかもう別人じゃない」

 

 俺の話を静かに聞いていた月ノ瀬の一言。


 俺はすぐさま反応すると、激しく首を上下させた。超同意!


「そう! そうなのよ! あの頃はまだちょっと気まずそうに『あ、青葉君』って感じだったのに……! 今はコレよ」


 ビシッと渚を指さす。


「は? 文句あるの?」

「いや文句しかないんですけど!?」


 コレですよコレ!


 さっきまで回想の中にいた控えめな渚留衣ちゃんはどこに行ったの!

 ガッツリ青葉君って呼んでたよね!?


 迷子のお知らせです。渚留衣ちゃんを探しています。


「ふふ、話を聞いたあとだとホント別人みたいだよね。るいるい」

「だなぁ。まぁそれだけ俺たちに心を開いてくれたってことかな?」

「は、晴香と朝陽君まで……!」


 優しい表情を浮かべる司たちに渚は「ちょっ……や、やめてそういうの……!」と恥ずかしそうに顔を逸らした。


 にしてもまぁ……これに関しては司の言う通りかもしれない。


 去年のグループ学習が終わった時点では、まだ渚と俺たちはそんなに仲良く話せていなかった。


 それこそ、蓮見がいなければ言葉のキャッチボールが一瞬で終わってしまうほどで……。


 今こうして話せているのは、少しは俺たちに対して心を開いてくれたってことだろう。


 ……俺に対してのアレコレは心を開くとかそういうレベルの話なのか……?

 これについてはあまり深く考えないほうがよさそうだ。うん。


「あとまぁ月ノ瀬の知ってる通りだな。四月に同じクラスとしてまた顔を合わせて、五月に――」

「私が転校してきた……ってわけね」


 そゆこと、と頷く。


 おかげで今ではすっかり五人グループとなり、司を巡るラブコメも一段と面白くなってきた。


 まさかここに来て、とんでもねぇレベルのヒロインが乱入するとは思わなかったぜ。


「あ、そうだ。グループっていえばさ」

「なに、晴香」

「今月に『学習強化合宿』あるよね」


 蓮見の言葉に俺たちはそれぞれ思い出したように声をあげた。


 ただ一人、月ノ瀬を除いて。


 そうか……コイツは転校生だから分からないんだよな。

 とはいっても、俺たちも経験するのは初めてなのだが。


「合宿……?」


 案の定、頭の上にハテナマークを浮かべる月ノ瀬。


 「あのね」と蓮見先生による説明が始まる。


「この学校はね、二年生と三年生には『学習強化合宿』っていう行事が用意されてるの」

「へぇ、なんだか仰々しいわね。……合宿だからひょっとして泊まり?」

「うん、えっと……山? にある合宿所に行って二泊三日でみんなで勉強するんだって」

「ま、これでも進学校だからなウチは。それっぽいイベントもちゃんと用意されてるってわけだぜ」


 蓮見先生の言う通り、この学校には二年次と三年次に『学習強化合宿』という行事に参加することになる。


 二年生は今月……つまり六月。

 そして三年生は九月に行われる。


 みんなでバスに乗って山のほうにある合宿所に向かい、二泊三日で勉強する……らしい。


 細かい部分はもちろん知らないが、星那生徒会長曰く『なかなか楽しい行事』とのこと。


「ふーん……? で、その合宿とグループがなんの関係あるのよ?」


 グループっていえば……、という蓮見の言葉から始まったこの会話。

 

 月ノ瀬の疑問はごもっともである。


「星那先輩から聞いたんだけど、その合宿ってグループっていうか……この場合は班か? まぁとりあえずその班単位で勉強するらしいんだよ」


 司が答える。

 

 話を聞いた当時、会長さんは「くっ、司と一緒に合宿行きたかったよ……」と非常に残念がっていた。


「班?」

「うんうん。もちろん授業的なのはあるみたいなんだけど、それとは別で基本的には自習を推してるみたい」

「その自習のときの班ってこと?」

「そういうことだと思う。明日あるLHRの時間とかに班分けの発表がされるんじゃないかな?」


 合宿の班ねぇ。


 どうやらその班は男女混合らしい。

 仲の良さ云々より、学力とかそういった諸々を考慮してバランスよく分けられそうだな……。


 月ノ瀬が「なるほどね」と蓮見の話を聞いている中、司が「それと」と付け足す。


「勉強以外の活動でも、基本的にはその班で行動するんだってさ。ご飯の時間とか」

「えっ!? ま、まさかお風呂の時間とか寝る部屋とかも――!?」


 昴くん恥ずかしいわ! ポッ。


「そんなわけないでしょ。あんたバカなの?」


 いつもの如く隣からの冷たいツッコミ。

 

 きょ、去年はもうちょっと優しいツッコミだったのに……!

 やっぱり変わったってこの人。


 ここは一つ言い返しておこう。


 俺はドヤ顔で渚を見る。


「ふっ、バカとは失礼な。君は俺に一つでも成績で勝ってるのかい?」

「ぐっ……ム、ムカつく……なにも言い返せないのが余計にムカつく……」


 グギギ……と渚は悔しそうに俺を睨む。


 ハッハッハ! そうだろう!


 これからはバカだの非モテだの残念イケメンだのそういう発言は控えるんだな! 

 え? そこまで言ってない?


「今のるいるいたちの話じゃないけど……成績とかいろいろ考慮して班分けされるって話だから……どうなるか心配だなぁ」


 不安そうに言う蓮見。

 

 そんな蓮見を安心させてあげるために、俺は優しい微笑みを浮かべた。


「大丈夫だぜ蓮見。俺と違う班になったら寂しいと思うが──」

「あ、ううん。そういうことじゃなくて」

「せめて最後まで言わせてっ!!!」

 

 泣きそう。

 

 俺を弄るためとかそういうのじゃなくて、ただ素で返答されてるから余計に泣きそう。


「あ、ご……ごめんね青葉くん?」

「昴知らないもん」

「あー蓮見さん、コイツのことは放っておいていいよ。それで心配って?」


 おいコラ。


「うん、ほら。みんなと別れちゃったら寂しいなぁって思うのは実際そうなんだけどね」


 それとは別に、と蓮見の視線は渚へと向けられる。

 

 あー……なんとなく蓮見がなにを心配しているのか分かった気がする。

 

 渚は「え、な、なに?」と困惑しているが。

 

 月ノ瀬も察したようで「なるほどね……」と呟いていた。

 司には関しては……うん、言うまでもないわな。察してるわけがない。


 ここは俺が代表して言ってやるとしよう。



「アレだろ。もしお前が俺らと離れたら、上手く班活動できるのかって心配されてるんだろ」

「……は?」


 そのは? やめて。るいるい怖い。


「わたしをバカにしすぎ。さすがに上手くできるよ。…………多分」

「るいるい……最後の一言で心配になってきちゃったよ私……」


 不満げな渚に心配の眼差しを向ける蓮見。


 とはいえ、いくら人見知りでもクラスメイト相手であればそこまで苦労はしないだろう。

 渚がほかの生徒と積極的に交流するところはあまり見ないが……。


 それでも軽く雑談程度で話している姿は何度か見かける。


 蓮見の心配も分かるが……まぁ大丈夫だろ。


 ……多分。


「なんだか留衣の母親みたいね、晴香」


 月ノ瀬が楽しそうに言う。

 

 なるほど……母親……ママか。


「晴香ママ、俺もお世話してくれ」

「えぇ……そんな大きい子はちょっと……」

「ぐはっ!」


 撃沈。


 蓮見なら絶対優しい母親になれると思うんだ。

 優しいし真面目だし、美人だし。間違いなく家庭的だし。


 ……え? そんな美少女から好意を寄せられてる男がいるってマジ? 


「残念でした。晴香はわたしのママだから」


 フッと勝ち誇った表情の渚。


「お前はそれでいいのかよ」


 お世話される気満々じゃねぇか。


「ま、まぁとにかく……班分け楽しみだねって話!」

「……ちょっと不安だけど」

「はは、やっぱりちょっと不安なんだな。渚さん」


 学習強化合宿は月末に行われる。

 となると……やはり明日のLHRの時間には発表されそうだな。


 コイツらの中の誰かと一緒になるのか。

 はたまた俺だけ省かれるのか。

 

 どちらにしろ、学習強化合宿そのものは楽しみではある。


 だって……ほら。


 そういう泊まり込みの行事ってラブコメの定番だろ?


 司の主人公パワーで、絶対なにかしらのイベントが起きると思うんだよなぁ。

 

 ――ま、ワクワクしながら待ってるとしよう。


 そんなわけで。


 月ノ瀬のイメチェン騒動だったり、俺たちの去年の話だったり……。

 そして月末に行われる学習強化合宿だったり……。


 いろいろ濃かった本日の学校が終わりを告げた。

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