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第247話 月ノ瀬玲は勘が鋭い

 森君といろいろ『お話』をした翌日。

 

 そして、月ノ瀬の誕生日前日でもある。

 

 だからといって、なにか特別なことをするわけではないが……。


 そんなものより、昨日蒔いた種がどのように芽吹くのかが俺としては重要だった。


 わざわざ森君の前で、あんなに意味深なやり取りを見せたのだ。


 きっと今頃、小西の俺に対する不信感は底知れないだろう。


 あとはその感情に従って、俺の望む行動を取ってくれるかどうかが鍵となる。


 ここまで小西は青葉昴ではなく、渚留衣へと接触を図っていた。


 なぜ司や蓮見たちではなく渚なのかは不明だが、俺に関係する情報を集めていたのはほぼほぼ間違いないと言える。


 本人に直撃する前に、まずは周囲の人間から当たるというのは……。至って合理的な判断だ。俺がアイツの立場でもそうする。


 ――とはいえ、こちら側からすれば知ったことではないのだが。


 気が立っている小西は、恐らく直接俺か……あるいは再び渚に接触する可能性が非常に高い。


 では……俺が取るべき行動は。




 ここまで泳がせた()を――最後まで利用することだ。




 だからこそ俺は昨日、小西に対してなにもアクションを取らなかった。


 あの段階で、森君の一件をすべて話すという選択肢はたしかに存在した。


 しかし……それではなにも()()()()()だろう?


 森君が『実はあの日こんなことがあって~、青葉先輩は~』と正直に話して、小西がそれを『そっかー』と受け入れて、はい終わり……ってか?


 つまらん。まったくもってつまらん。


 第一、小西からすれば森君が俺に無理やり言わされているという可能性だってある。そしてあの状況では、森君の言葉を証明する手段もない。


 渚の件も。

 森君の件も。

 小西の件も。


 まとめて解消するためには、まずはああやって振る舞う必要があった。その分のリスクも生じるが、リターンも大きくなる。


 潰すなら徹底的に。

 抑えるなら徹底的に。


 そのうえで――小賢しい連中をさっさと退場させる。


 × × ×


「――る。――ばる。ちょっと昴!」

「おぉうビックリしたぁ! え、なに、敵襲!? 敵襲か!? 野郎ども武器を持て!」

「なに馬鹿なこと言ってるのよ。アンタがボーっとしてただけでしょ?」


 ハッとして目の前を見てみると、そこには呆れた様子で立っている月ノ瀬の姿があった。


 やれやれとため息をつき、こめかみに手を当てている。


 あぁ……そういえば、演劇の練習をしていたところだっけ。


 ――現在は放課後。


 昨日に引き続き、放課後に入ると同時に汐里祭の出し物の準備を進めていた。


 俺は月ノ瀬たち演者組の読み合わせを聞いていた……はずなんだけど。


 森君関連のことについて考えごとをしていたせいか、一切頭に入っていなかった。


 それが月ノ瀬にバレて、こうして声をかけられているのだろう。


「すまんすまん。どうすれば学校中の女子から告白されるのかっていう難題を考えてたわ」

「はぁ? 叶わないことを考えてても無駄なだけよ。諦めなさい」

「めっちゃバッサリ言うじゃん。即答じゃん。もうちょっとこう……オブラートに包んでだな……」


 適当なことを言ってごまかしたものの、月ノ瀬はため息まじりに俺の言葉をバッサリと切り捨てる。


 ひどい! ひどいわ! あたしの学校ハーレムの夢が無駄だなんて! たしかにハーレムどころか好意すら持たれているか怪しいけど!


 ……あれ、待って。


 ひょっとして俺、司は当然として……あの森君より女子たちの好感度が低い可能性あるってこと?


 え。やだぁ……なんかそれやだぁ……。


 俺が心の中で落ち込んでいると、月ノ瀬はこてんと首をかしげた。


「ビブラート?」

「バッサリ言うじゃぁぁぁぁん~~~!! っておいやらせんな! ビブラートに包ませんな!」

「ふふっ、そんなツッコミができるなら体調は大丈夫そうね」


 月ノ瀬は明るく笑い、安心したようにホッと息をつく。


「……なんだよお前。心配してくれたのか?」

「だって話しかけても無反応だったのよ?」


 なんてお優しい……。

 これは間違いなく姉御ムーブ。


「それにアンタのことだから……。道端に生えてる草を、なんか美味しそうって理由で食べててもおかしくないでしょう? そのせいでお腹を壊してたら困るもの」

「道端の草……? 玲ちゃんはぼくちんをなんだと思ってるのカナ?」

「……人?」

「うーん正解ッッ! たしかに人だけどッ!」


 あまりにも失礼過ぎる。


 流石に俺でも火を通したり、茹でたり、軽く味付けくらいするわ! 引っこ抜いてそのまま食べないわ!


 あ、そういう話じゃないって?


 ――はい。話を戻します。


「で? 今はどういう状況? 正直に言うと、お前らの読み合わせまったく聞いてなかったわ」

「まったくもう……」


 月ノ瀬は俺から視線を外し、教室内を見回した。


「司は広田たちと動きの確認。留衣は晴香と一緒に衣装周りの話をしているわ。そして私はアンタを起こしに来たわけ」

「うむ、報告ご苦労。悪くない報告だ。なかなかやるじゃないか」

「はっ倒していいかしら?」

「や、優しくしてね……?」


 可愛らしく言ったつもりだが、「うわ……」と隣でドン引きされている。おかしいな。結構キュート昴きゅんだったんだけどな。


 月ノ瀬のことは一旦置いておいて、俺はチラッと時計を確認した。


「月ノ瀬、今日は実行委員の集まりあるのか?」

「あるわよ。あと少ししたら司と一緒に行ってくるわ。終わったらそのまま下校って感じね」

「おけおけ。……てことはお前、最近司と二人で帰ってるってことか?」

「ふふ、そうよ?」


 得意げに笑う月ノ瀬に対して「へぇ……」と返す。


 実行委員の特権を上手く利用してやがるぜ。ちゃっかりしてんなぁ。


 こちらとしては微塵も問題ないけど。このまま自由にやってくれ。


「実行委員はどうよ? 楽しいか?」

「まだ始まったばかりだから、なんとも言えないけれど……。せっかくなら楽しい思い出を残したいって思っているわ」

「そうかそうか」


 具体的にはなにをしているのか分からないし、そこまで興味もない。


 なにかあったとしても、司や会長さんがいるのだから心配することはなにもないだろう。


 月ノ瀬はこう見えて意外とメンタルに不安がある。しかし、そのあたりは司たちが上手くサポートするはずだ。


 ぜひとも、実行委員として頑張ってほしいところである。


「それに実行委員はもちろん、私は演劇も成功させたいの。せっかくアンタが素敵な話を書いてくれたんだから、ね?」

「お、言うねぇ」


 素敵な話、と言われて悪い気はしない。


「アンタから見て私はどう? ちゃんと『ルナ』になれているかしら?」

「ああ、バッチリだよ。むしろ予想以上だ」

「なら良かったわ。人に裏切られて、人を信じられなくなったルナの気持ち……私には分かるから」


 裏切られ、信じる気持ちを失ったルナはサンとの出会いを通じて、少しずつ優しい心を取り戻していく。


 まさに……月ノ瀬玲にはピッタリな役だろう。


「それとも、()()()そういうキャラクターとして作り上げたのかしら? 司の役やストーリーも含めてね」

「さぁ、どうだろうな。とりあえず今の調子で最後まで頼んだぜ? メインヒロインさん」

「ええ、任せておきなさい」


 現状の月ノ瀬の演技力であれば、当日までにはきっと良い仕上がりになる。


 これまでの人生で、月ノ瀬が感じてきたもの。ぶつけられたもの。支えられたもの。救われたもの。


 さまざまな経験と、それによって得た感情を乗せることで、より理想のルナを演じ切ることができるだろう。


 せいぜい期待させてもらおうじゃねぇの。頑張ってくれたまえ。


 ……さて。もうじき実行委員の集まりに向かう頃合いか。


 ほんじゃま、俺も行動開始といくかね。

 

「じゃあ、私たちは行くわね。準備のほうはよろしく」

「おう」

「司~! そろそろ行くわよ!」


 広田や大浦、その他演者たちと話していた司が「あ、分かった!」と返事をする。


「……あ、そういえば昴。聞きたいことがあったのだけど」


 離れようした月ノ瀬が足を止めて、俺の名前を呼んだ。


 そして一瞬渚へと視線を向け……俺との距離を僅かに縮める。


 ……うわ近っ。なにコイツ俺のこと好きなの? めっちゃいい匂いするんだけど? ドキドキワクワクなんですけど?


 なんて考えていたら、月ノ瀬は予想外の質問を俺にぶつけてきた。


「……アンタ、留衣となにかあった?」


 周囲に聞こえないように――声をひそめて。


 ……やっぱりコイツは、勘が良くて困る。

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