第26話 こうして四人の物語は始まった
国語だの数学だのいろいろ授業あるけど、中には『LHR』ってあるだろ? ロングホームルームってヤツ。
行事のこと話したり、委員会とか決めたり、なんかいろいろするあの時間。
この学校はさ、一年生の最初の頃にそのLHRの時間を使ってグループ学習をやらされるんだよ。
多分、クラスメイトとの交流を深めるために〜っていう名目もあるんだろうな。
で、そのグループ学習でなにをするんですかって話なんだけど……。
事前に担任が決めた男女4、5人くらいのグループで、なんでもいいから一つのことについて調べて、一ヶ月後くらいに発表するんだよ。
調べる内容っていうのは本当になんでもよくて、コレをやれっていう指定はないんだ。
動物の生態とか、天体とか、食品の栄養価とか、とにかく倫理的にアウトじゃなければオッケーなんだ。
俺たちは当然そのグループ学習ってのを経験済みなんだが……。
そのときに俺と司と一緒にグループになったのが──
当時クラスの委員長だった蓮見と、その蓮見といつも一緒にいた渚だったんだ。
おぉ、面白いメンバーが揃ったなって当時は思ったぜ。
渚なんて最初の頃は全然目合わせてくれなくて、今改めて思ったらおもしろ──。
あ、はいすみません渚さん。
話を進めるから睨まないでください。
それで……だ。
それからかなぁ。
こうしてよく話すようになったのは──。
× × ×
一年生の春。
LHRの時間、担任教師の大原純一郎からグループ学習について聞かされた俺たちは、早速グループごとに分かれていた。
既に仲が良かった相手と離れて悲しそうなヤツや、これを機にどんどん仲良くなっているヤツ。
気になっている相手が一緒にグループにいるからか、どこか恥ずかしそうにしてるヤツ。
グループの様子はそれぞれ違っていて面白そうだ。
──で、肝心の俺たちだが。
「このグループは俺たち四人か。司とはいつも一緒にいるからつまらねぇなぁ」
グループごとに机を向かい合わせに付けて座る。
よく見知った…いや、あまりにも知り過ぎている相手が同じグループにいてため息をついた。
「それは俺の台詞だっての、昴」
隣に座る幼馴染、朝陽司も俺と同じような反応だった。
ま、いっか。
よく分からねぇヤツと組んで気を遣うより、知った顔がいてくれる方がマシか。
まだあまり関わったことがないクラスメイトも多いから、全員知らないヤツでも良かったけども。
んで?
俺たちと一緒になった女子は……と。
「あ、えっと……よろしくね」
司と向き合うように座る女子が優しく笑顔を浮かべる。
まさかコイツと一緒になるなんてなぁ。
「うん、よろしく」
「おうよ。よろしくなー委員長」
茶髪ショートカットの美少女で、スタイルも抜群。
明らかに現在このクラスで圧倒的オーラを放つ筆頭美少女。
他のクラスの女子のことは知らないが、普通に学年で一番可愛い説が俺の中で浮上している女子。
クラス委員長、蓮見晴香。
事務的な会話は何度かしているが、こうしてちゃんと関わるのは初めてか……?
にしても……アレだな。
メロンパンのヘアピンが謎過ぎる……。
触れていいのか悪いのか絶妙なラインすぎて困るぜ。
「んで? 最後の一人が――」
蓮見の隣…つまり俺の目の前に座る女子に目を向ける。
ソイツは俺と一瞬目が合ったが、肩をビクッと震わせて凄い勢いで顔を逸らされた。
おおぅ……昴くんちょっと傷ついたかも。
「ほら、るいるい」
るいるい、と呼ばれた女子は小さく頷く。
「……よ、よろしくお願い……します」
消え入りそうな声で。
その女子――渚留衣はそのまま俯いている。
薄緑色で癖毛気味の長髪を頭の後ろで結ったポニーテールスタイル。
前髪も長く眼鏡をかけているため、その瞳はよく見えない。
こう言っちゃ悪いが……華やかな蓮見とは正反対に、地味な印象を与える小柄な女子だ。
「るいるいはね、ちょっと人見知りで……」
蓮見がすかさずフォローを入れる。
なんだか慣れた様子だった。
「まぁそこはな、人それぞれだし。てかアレか? 見てる感じ結構前からの知り合いなのか?」
「あ、うん。そうなんだ」
るいるいって呼んでるし、一定以上の交流はあるのだろう。
俺の問いに蓮見は頷いた。
「私とるいるいはね、幼馴染なんだ。保育園からずっと一緒で……」
蓮見に同調するように隣に座る渚も頷いていた。
「あーなるほどな。だからいつも一緒にいるのか」
「そうそう。でも、二人も仲良いよね?」
今度は蓮見からの問い。
俺と司は顔を見合わせる。
確かに基本的には司と一緒にいるし、仲良く見えてもなにもおかしくはない。
……うーむ。
俺は司から顔を逸らし、恥ずかしそうに両手を頬に添えた。
「そ、それは……。実はその……ひ、人に言えない関係で……」
「えぇっ!?」
「はっ!? 昴お前っ!」
俺の突然の告白にガタっと椅子を揺らす二人。
蓮見は顔を赤くして動揺し、司は慌てた様子だった。
「そ、そんなんじゃないから! 俺たちも二人と一緒で幼馴染ってだけだから!」
「そんなっ! 酷いわ! あんなに将来を誓い合ったのに……!」
「存在しない記憶やめろ!」
俺たちのバカみたいなやり取り。
俺が適当なことを言ってボケて司がツッコむ。
昔からよく見る光景である。
そんなくだらないやり取りを見て、蓮見は「ふふっ」と楽しそうに笑っていた。
「二人は仲良しなんだね。幼馴染かぁ……私たちと同じだね。ね、るいるい?」
「う、うん……」
……性格も正反対だなぁこの二人。
でも今は俺たちがいるから緊張してるだけであって、二人のときよく喋るヤツなのかもしれない。
せっかく同じグループになったんだし、気楽に話してほしいものだが……。
そんな日は来るのだろうか。
「ま、とりあえずよろしくな。蓮見も渚も、あまり話したことないから楽しみだぜ」
「こちらこそだよ。よろしくね、青葉くん」
「よ、よろしく……」
「司もそうだろ?」
司に話を振ったが、頷かなかった。
あれ? もしかしてすでに交流あり?
「渚さんとは初めて話すかもだけど、蓮見さんとはこの間少し話したよね」
おっと?
なにやら風向きが変わってきたぞ?
「あ、う、うん。そうだね……」
「こうしてまた話す機会ができてよかったよ。よろしくね、蓮見さん」
「………は、はい」
頬を赤くして蓮見は頷いた。
なぜ敬語?
なぜ目を逸らしてるの?
なぜ恥ずかしそうなの?
なぜ俺のときとは違って緊張してる感じなの?
『なぜ』の大行進。
その後も蓮見はチラチラを司のことを見ている。
で、目が合うとあからさまに逸らしていた。
司はよく分からなそうな顔をしているが……。
――あれ?
今の蓮見がしているようなあの表情……俺は知っている。
子供のときから何度も……何度も見てきたあの表情。
まず、俺が知らない間に司と蓮見の間でなにかしらの交流があった。
そして今、蓮見は司を前にしてソワソワしているように見える。
しかし俺と話すときは至って普通の様子だった。
俺は良くて……司はダメ。
「あぁ……なるほど」
思わず、口にしてしまう。
「ん? 昴、なにか言ったか?」
「いや、なんでもねぇよっと」
司……お前まーたやってんのか。
高校に入って早速やってんのか。
どうせ、自覚ないんだろうけどさ……。
……ちょっと揺さぶるか。
「……司、お前蓮見となにを話したんだよ?」
「いや、別に大した内容じゃないぞ? 委員長大変だなーみたいな。だよね、蓮見さん?」
「そ、そうだね! 朝陽くんにはその……ちょっと応援してもらったーみたいな?」
「ふーん?」
あーもう大体把握したわ。
この朝陽司、言ってしまえば『ラブコメ主人公体質』なのだ。
本人にその自覚はないが、自然と周りに女子が集まり、そして自然と恋に落としている。
中学のときも、とある元気な後輩をバッチリ落としてたし……。
『は? それラブコメですか?』みたいな展開を、俺は何度も一番近くで見てきた。
まぁ要するにアレだ。
恋愛漫画とか恋愛ライトノベルとかでよく見る展開あるだろ?
朝陽司って男はそれを現実でやっちまう男なんだよ。
さしずめ俺はその親友ポジのキャラって感じ。
……なんか自分で言ってて悲しくなってきた。
――結論。
既に蓮見晴香は司に惚れている。
または気になっている。以上。
昔から司と一緒にいた俺にはすぐに分かってしまった。
「……?」
ふと、前から視線を感じた。
俺が顔を向けると、渚がジッと俺を見ていた。
それはまるで、俺を試しているかのような――
目が合う俺たち。
そしてそのまま……フッと逸らされる。
コイツどんだけ目合わせられないんだよ。
お兄さん悲しくなっちゃうよ。
なぜ俺を見ていたのかは分からないが……。
うーん、まぁ分からないことを考えても仕方ないな。
「ほんじゃ、話を戻すか」
「おう。なんだっけ、まずはなにを調べるのかを決めないといけないんだっけ?」
今日やるべきことは、グループでなにを調べるのか……いわゆるテーマを決めること。
ほかのグループは『〇〇とかどう?』『〇〇って楽しそうじゃない?』などと活発な話し合いを行っていた。
うーん、どうするかなぁ――