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第209話 よっちゃんは先輩に問いかける

 よっちゃん曰く、森君とやらはどこか不気味な存在に見えるらしい。


 ただの勘違いならそれに越したことはない。


 しかし当然、勘違いではないパターンも存在する。


 もしそうだとしたら、日向に渡った手紙の意味は……。


 そして、日向をどうする気だ……?


 仮にアイツを陥れたり、傷つけたりするようなことであれば──


「昴さん先輩、ちょっと顔が怖くなってますよ」


 よっちゃんから声をかけられたことで表情をハッとさせる。


「うぉっと失礼。イケメンが台無しになっちったぜ」

「あー知ってます? イケメンって掛け算の後ろのほうが映えるんですよ?」

「あ、そうな──っておい! しれっと恐ろしいこと言うな! 知りたくないからそんな情報」


 素のテンションでとんでもないこと言うじゃんこの子……。


 あまりにも純粋無垢な瞳で言うものだから、うっかりただの雑談だと思って話を広げようとしちゃったよ。


 掛け算とかちょっと生々しいこと言うのやめてほしい。


 これから俺は『二×四』とかをどういう目で見ればいいの? なるほど四が後ろか……とか思い始めたら末期では?


 そのたびによっちゃんのことが頭にチラつきそうだし、ホントにとんでもねぇなコイツ。


 盛大なため息をつくと、そんな俺を見たよっちゃんが「うーん」と眉をひそめた。


「先輩ってお兄さんがいないとき……つまり一人のときはちょっと雰囲気が違うんですね」

「え、そう?」

「はい。なんとなーく、ですけど」

「それもよっちゃん的直感ってやつ?」

「そうかもです!」


 司がいないときの俺……か。あまりそこに意識を向けたことはなかった。


 もちろん、普段から誰の前であってもどこにいても極力『俺』であることを心がけている。

 

 とはいえ、最近いろいろあったせいで僅かにブレが生じてしまっているのかもしれない。


 変に突っ込まれてもこちらが面倒なだけだ。これからは気にしてみることにしよう。


 俺にこんなことを言ってくるあたり、よっちゃんの直感は案外正しいのかもな。


 その考えでいくと森君も……。


「とりあえず了解。話を聞かせてくれてサンキューな。助かったぜ、よっちゃん」


 これ以上、身になる話は聞けそうにない。この子と話す理由はもうないだろう。


 ここで切り上げて、さっさと次に行くか。

 

 日向が森君と会うのは明日の放課後なのだから、あまりダラダラしている暇はない。


 よっちゃん以外からも話を聞いておきたいし。


「いえいえー、こんな話でもお役に立てたのなら良かったです。今度はお兄さんと一緒に来てくださいね。ぬふふふ……」

「身の危険を感じるから遠慮しておく」

「えー、それは残念です」

「じゃ、またな。志乃ちゃんと日向とこれからも仲良くしてやってくれ」


 不満げに唇を尖らせているよっちゃんに手を振り、背を向ける。


 最初にしてはなかなか良い話が聞けた。これは深堀りしてみる価値はありそうだ。


 なにもなければそれでヨシ。なにかあるようなら、それ相応の策を考えないといけない。


 あの手紙から感じた違和感。

 よっちゃんの話。


 俺の感覚が正しければ、やはりこれは――


「あ、昴さん先輩。私からも聞いていいですか?」


 立ち去る俺を、よっちゃんは呼び止める。


 半身で振り向いて「ん?」と返事をした。まだなにか言い忘れたことでもあったのだろうか。




「志乃ちゃんと日向ちゃんのこと、好きですか?」




 表情一つ変えることなく、ただ淡々と俺に問いかける。


 眼鏡越しの翡翠の瞳は、俺をジッと見つめていた。


 ふざけているようには……見えない。


 質問の意図が分からない。

 真剣に答える理由が見つからない。


 なにを思って、なぜタイミングでその質問をしてきた――?


 よっちゃんはこちらの返事を待っている。


 それなら……。


 二秒程度間を開けて、俺はふっと笑みをこぼした。





「――ああ、そりゃもちろん」



 明るい声音で、ハッキリと。





「二人とも()()()()()、だからな」


 答えは、これで十分だ。


 本当に。本当に。


 大事な後輩、だよ。


 一人も欠かせるわけにはいかない。

 二人はこれから先も必要な人材なんだ。


 だから不確定要素の余計な介入はお呼びじゃない。


 


「……そうですか。それなら友達として私も安心です!」

「そうかい。んじゃな」

「はい。また!」


 一つだけ、分かることがある。


 アレはきっと。

 あの目はきっと。




 俺という人間を値踏みする目だ。




 安心しろよっちゃん。


 元より俺に、値踏みするだけの価値なんて存在しない。










「うわー……。よく分からないけどあの先輩、絶対に敵にしちゃいけない人だ……よっちゃん的直観……」


 × × ×


 ――その後、俺は校内に残っている一年生を中心に森和樹のことを聞いて回った。怪しまれない程度に上手いこと誘導して、だ。


 これまでの『恋愛相談』のおかげが、司の名前を出せばある程度俺に対する警戒心を下げることができる。


良くも悪くも、俺もそれなりに校内で知られているようだし。


 それにより、あとは適当な話を展開して話を聞き出せば簡単に目的を果たせるわけだな。


 苦労して仕込んだかいがあったってものだ。


 そして最後に、男子バスケ部が活動する体育館を覗いてきた。

 

 話に聞いていた外見、言動、声。


 そのすべてに一致していた男子が、そこにいた。

 離れた場所から見ていただけだったから、それ以上の情報はない。


 ただ、外見を完璧に把握できたことだけで大きな収穫だと言える。




 ――あぁ、こういうことをしていると中学時代を思い出す。




 アイツに近付いてくる女子たちを調べていたあのときを。なかにはとんでもねぇ女もいたもんだ。




 ──そんなわけで。


 一通り目的を終えた俺は、ようやく下校するために昇降口へと移動した。


「ふいー……なんか無駄に疲れたぜ。早く帰って漫画でも読もうっと」


 下駄箱を開けたとき――


「あれ、青葉くん?」


 俺を呼ぶ、聞き馴染みのある明るい声。


 視線を向けるとその先には……。


「蓮見……」


 正統派美少女ヒロインこと蓮見が、可愛い笑顔を浮かべてこちらに向かって手を振っていた。


 手には鞄を持っていて、これから下校するところなのだろう。


 つまり、偶然タイミングが被ってしまったわけか……。


 そういえばコイツ、今日校内で用事があるとか言ってたな……。まさか鉢合わせをするとは。


 下駄箱に向かって歩いてくる蓮見に「おう」と短く返事を返す。


「青葉くん、まだ残ってたんだね。これから帰り?」

「そゆこと。お前も?」

「うん。なんだかこうしてバッタリ会うと嬉しくなっちゃうね!」

「うわぁ陽キャ眩しい……!」


 これが俺じゃなくて、ただの一般生徒A君だったら間違いなく勘違いしてる。そしてそのまま告白して振られる。ドンマイA君。


 ……。


 ――待てよ。告白?


 ……そうか。


 むしろここで、蓮見と遭遇したのは俺にとって好都合だったかもしれない。


 言わずもがな、蓮見は持ち前の容姿とスタイル、そして性格のおかげで非常にモテる。それはもうガッツリモテる。男女問わず友達も多い。


 一年生のときから何度か男子に告白されていたし、渚曰く小学生の頃からそうだったらしい。


 と、なると……。


 告白『される側』においては、スペシャリストと言っても過言ではないのでは?


「そうだ蓮見」

「ん? どうしたの?」


 この好機、逃す手はない。


 首を傾げて俺の言葉を待つ蓮見に、ニッと笑いかける。


「途中まで一緒に帰ろうぜ。せっかくだしな」


 手に持っていた鞄を肩にかけて、明るく務めて言った。

 

「えっ、うん! もちろんだよ! 青葉くんからそんなことを言ってくるなんて……さてはなにか企んでるな~?」

「失敬な! ただ一緒に帰るついでにお前が好きな服のブランドとか、ドラマの話とか、料理の話とか、下着のサイズとか聞こうと思っただけだし! ただの雑談だし!」

「あれ!? 混ざっちゃいけないの混ざってたよね!?」

「ふんっ! そんなこと言うヤツは知らん! 俺は先に帰らせてもらう!」

「あっもう! 待ってよ青葉くん!」


 すまねぇな蓮見。


 お前の言う通り、バッチリ企んでるぜ。


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