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第206話 青葉昴は可愛い後輩から呼び出される

『昴先輩、ちょっとお話があるので放課後に一人で来てもらってもいいですか?』


 お元気ツインテール娘こと川咲日向ちゃんからそんな連絡が飛んできたのは、週明けの朝のHRが終わった直後のことだった。


 アイツらしくない、かしこまった内容に思わずなりすましを疑ってしまったが、流石にそんなことなかった。


 話がある。

 一人で来てほしい。


 読めば読むほど、アイツらしくない連絡。


 それに司じゃなくて俺と話したいという点も疑問だった。


 日向が悩んだり困ったりしたとき、真っ先に相談するのは志乃か司だ。


 今回そうではなく俺ということは……。


 もしかしたら、二人に話せないような内容なのかもしれない。


 もっとも、重要な話でもなんでもなくて、全然たいしたことのない用事という線も――


 いや……その可能性は低いかもな。


 絵文字もついてないしビックリマークも付いてない。

 本当に俺に対して『お願い』しているのだと分かる。


 伊達に付き合いが長いわけじゃねぇって話だな。


 とにかく考えても仕方がない。


『よく分からんけどいいぜ。どこに行けばいい? いやー、まさかお前から愛の告白されるとはな! ドキドキしてきたぜ♡』


 俺はメッセージを返信して、そのまま授業へと臨んだ。眠かったです。


『そんなわけないじゃないですか♡ ぶっ飛ばしますよ♡』


 なんて返信が来たのは、一時間目が終わったあとのことであった。


 うちの後輩は今日も凶暴である。


 × × ×


「――で、どうしたんだよ。朝っぱらからあんな連絡をしてきて」


 時間は経って、放課後。


 俺は言われた通り、日向に会いに階段の踊り場までやってきた。


 教室まで迎えに行ってやろうと思っていたのだが、事前に『踊り場まで来てください』と言われていたことで、ここにいるわけである。


 それにこの場所は先日、伊藤君の相談に乗った場所で……。


 そのうち相談事の聖地にでもなるんじゃね? この踊り場。俺もダンスしちゃうよね。踊り場だけに。


 ……寒っ。


「あたし、先輩がこんなあっさり来てくれるなんて思いませんでしたよ」


 あのときの伊藤君と同じように、階段に座る日向が俺を見上げて言った。


 メッセージのテンション的に一応心配してやっていたが……。


 日向の様子はいたっていつも通りで、なにか深刻なものを抱えているようには見えない。


 ただ、それでも僅かに悩んでいるような印象を受ける。


「そりゃ可愛い可愛い後輩ちゃんからのお願いだからな! 昴先輩は日向後輩のこと大好きだからねっ!」

「へー、それは嬉しいですね。……本音は?」

「暇だったから来た。あんま興味ないけど暇つぶしにはなるだろって」

「テンションの差が酷くないですか!? 興味ないとか言っちゃってるし!」


 おっと、いけないいけない。ついうっかり本音が出ちゃったぜ。


 まるで猫のように『フシャー!』と威嚇してくる日向から俺はそっと目を逸らす。


 どうする? 鶏のささみでもあげて機嫌とる? 缶詰? それともマタタビ? 探すのダルいから雑草でいい?

 

 そんな主に呼応しているのか、ツインテールもゆらゆらと蠢いている……ような気がする。


 これがSFものだったら、スコープ越しにツインテールを見て『生体反応有り!!』って言ってるレベル。


 今日も今日とて自我のあるツインテールでなによりです。


 あまりからかってるとツインテールで刺してくるとかないかな。大丈夫かな。


「冗談だっつの。お前が俺を頼るのは珍しかったからな」


 司でも志乃ちゃんでも、ほかのメンツでもなく俺。


 珍しいというのは事実だった。


 日向は「ま、まぁ……たしかに……」と言葉を濁し、視線を落とした。


「その……正直、先輩に話すのも抵抗があるっていうか……めっちゃからかわれそうっていうか……」

「なんだよからかうって」

「でもまだ昴先輩のほうがあたしの気持ち的に余裕があるっていうか……なんというか」

「そんな昴先輩のことを好きっていうか……正直愛してるっていうか……おかしくなりそうなくらい好きで好きで……」


 照れ照れ。


 とりあえず乗っかってみたものの、自分で言ってて気持ち悪くなってきた。俺はいったい後輩の前でなにをしているんだ。


「いやそんなことを誰も言ってないし思ってもいないですから。気持ち悪いのでやめてください」

「おい。素直過ぎる反応って時には人を傷つけるんだぞ!」


 俺がそう言うと、日向がわざとらしく目を見開いた。


 そのままパチパチと大げさに瞬きをして、右手を口元に持っていく。


「えっ! 昴先輩って傷つくんですか!? あたし初耳です!」

「そうなのよ~! あてくしって繊細なのよ~! 初耳でしょう?」

「わ~! 先輩のことを知れて嬉しい☆」

「あてくしも嬉しい☆」

「「いえーい!」」


 ハイタッチ!


「っておぉぉい! ツッコミ不在の無法地帯やめろ! 仲良しコンビか! 蓮見か月ノ瀬を呼べ!」

「まったく……すぐそうやって話を逸らすのやめてくれますかー?」

「いやそれはお前……いや俺だな。俺だわ。ごめんなさい!」

「許しましょう」


 許されました。


 話題が逸れたのは完全に俺のせいだったわ。反省反省。


 ――話を戻して、と。


 ブツブツと呟かれていた日向の言葉に、俺の疑問は膨れ上がるばかりだった。


 抵抗だの、からかうだの、気持ち的に余裕だの……。


 コイツはさっきからなんの話をしているんだ。わけ分からん。ツインテールをトライテールにしてやろうか?


「あ、なにお前。もしかして告白でもされたのか~? だからそんな言いづらそうにしてんの? きゃわいいね~!」


 さっさと話を切り出させるため、ニヤリと笑って再びしょうもない話題を繰り出す。


 どうせ違うって分かってるし、大事なのはそこじゃない。


 『ち、違いますよー! 実は――!』と話を誘導させることが目的なのだ。


 日向はおバカだから、狙い通りに乗ってくれるでしょ。うん。俺も俺で失礼ですね。


 しかし――


「……うぇっ、と……」


 乗ってくれる……あれ? え?


 俺の予想とは違い、日向は気まずそうに俯いて黙ってしまった。むきー! って反応が返ってこない。


 ……え? あの、え?


 これって反応的に……そういうことでいいんですか? いいんですか!?


 ずっと立っていた俺だったが、なんだか急に落ち着かない気持ちになってきたため、とりあえず日向の隣に座る。


「……え、お前。マジ?」

「ち、ちがっ! 告白はされてないです! 違いますからも~!」

「告白()……ねぇ」


 赤くなった顔を上げて、焦りながら日向は否定する。手をブンブンと振り回し、実に必死な様子。


 はーん……? これは……ちょっと話が見えてきたな。

 

 もしも俺が思った通りの案件だとしたら、志乃ちゃんはともかく司に相談するのは若干の抵抗があるかもしれない。


 日向は自分の中で葛藤するかのように「むむむ……」と唸りながら、俺をチラチラと見てくる。


「……先輩。あたしの話を聞いて馬鹿にしないですか?」

「する。超する」

「あ、じゃあ部活行くんで。先輩は命に気を付けて帰ってくださいね」

「待て待て待てい!」


 スッと真顔になって立ち去ろうとする日向を慌てて引き止める。


 さっき顔を赤くしていたというのに、急に虚無顔になりやがって。普段からヘラヘラしてる分余計に怖いわ。


「物騒なことを言い残してどっか行こうとするな!」

「はぁ……やっぱり相談する相手間違ったかなぁ……」


 気を付けて帰ってください、ではなく『命に気を付けて帰ってください』とか俺人生で初めて言われたんだけど? 今って世紀末かなにかなの?


 日向は俺を見て再びため息をつき、少し考え込んだあと「……うん」と自分に言い聞かせるように頷いた。


 その後、ブラウスの胸ポケットから『四つ折りの紙』を取り出し……。


 迷った表情をしながらも「ん!」と、その紙を俺に差し出した。


「なんだよこれ」

「いいから見てください」

「おう……?」


 よく分からんが、とりあえず差し出された紙を受け取る。


 見ろってことは、手紙かなにかってことだよな? 話の流れから察するに……。


 いや、まずは見てから考えよう。話はそれからだ。


「どれどれ……」


 畳まれていた紙を広げると、中には日向宛ての手紙が書かれていた。


 紙は俺たち学生がよく使用するルーズリーフ。

 文字に使われているのはシャーペン。

 消しゴムを使ったような跡は無し。

 

 筆跡は男子で……綺麗とまでは言えない字。


 ふーん……。


 内容より真っ先にそういった部分へと目が行ってしまったのは、これまでの経験のせいだろう。

 

 『手紙』など、これまで何度見てきたか分からない。何度渡されてきたか分からない。


 まぁ俺の話はどうでもいい。


 それで、内容としては――


 『川咲日向さん

 大事な話があるので、明日の放課後体育館裏まで来てほしいです。

 俺の気持ちを聞いてください。

 一年三組 (もり)和樹(かずき)


 短く、そう書かれていた。


 用件だけを簡潔に書いた手紙。


 大事な話。明日の放課後。俺の気持ち。

 

 一年三組の、森和樹……ね。


 へぇ……。


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