閑話28 夜LINE㉑【青葉昴・渚留衣】
――午後十一時頃にて。
青葉
『るいるい~、起きてる~い? るいだけに! ドッ!』
なぎ
『うざ。寝てる』
青葉
『じゃあ起こしにいっちゃお♡』
なぎ
『わたしの家知らないでしょあんた』
青葉
『いや知ってるけど』
なぎ
『え』
青葉
『はすみんから聞いた』
なぎ
『え、嘘でしょ』
青葉
『嘘☆』
なぎ
『LINE ブロック バレない』
青葉
『検索すんなおい。もうバレたから! その時点でバレバレだから!』
なぎ
『うるさ』
なぎ
『で、なに。わたし今対戦で負けてガチ凹み中なんだけど』
青葉
『そんな凹みるいるいに、こちら』
青葉
『ほい』
※【送信】テキストファイル
なぎ
『メモ帳? なにこれ』
青葉
『いいからいいから。暇なら見て意見でもくれ』
なぎ
『大丈夫これ。開いたらウイルス感染されない?』
青葉
『俺という名のウイルスがるいるいのハートに侵食するぜ♡』
なぎ
『LINE 相手のアカウント 削除 存在も』
青葉
『おい四つ目。検索しちゃいけないワード入れてるからお前。せめて消すのはアカウントだけにして???』
なぎ
『とりあえず見る』
青葉
『よろ』
なぎ
『少し見た。あんたこれって』
青葉
『ああ。ザックリだけど演劇の概要ってか、超大雑把な流れ? みたいなやつを書いてみた』
青葉
『マジで雑に書いたから細かい部分は色々足りてない』
青葉
『んで、ノリと勢いだけで突き進んだのはいいものの他人の意見も欲しくてな。頼むわ』
なぎ
『いいけど、あたしでいいの』
青葉
『俺の補助役だろうがお前。つか、それ抜きにしてもこういうのはお前が一番頼みやすい』
なぎ
『なんで』
青葉
『こっちに気を遣わないでバッサリ言ってくれるからな。そりゃもうバッサリと』
なぎ
『そ』
青葉
『そ』
なぎ
『時間ちょうだい。見るならちゃんと見たいから』
なぎ
『適当なこと言いたくないし』
なぎ
『待てないなら寝ててもいい』
青葉
『どうせまだ寝ないから待ってるわ。読み終わったらまた連絡くれ』
青葉
『癒しのネコちゃん動画でも見てニヤニヤしてるからよ』
なぎ
『癒しのハンチャン動画?』
青葉
『なんで麻雀の半荘動で画癒されるんだよ。賭博狂いか俺は』
なぎ
『じゃ、見る』
青葉
『よろしく。終わったら連絡頼むなり』
なぎ
『りょ』
× × ×
――十五分後。
なぎ
『見た』
青葉
『おっす。よく分からんおっさんの動画見てたわ』
なぎ
『猫動画どこ行ったの』
青葉
『知らん』
青葉
『で、どうだった。遠慮はいらんから思ったまま言ってくれ』
なぎ
『遠慮するつもりないけど』
青葉
『知ってる。むしろそれでいい』
なぎ
『まず一通り見て思ったことなんだけど』
青葉
『おう』
なぎ
『悔しいけど、やっぱりあんたって優秀なんだね』
青葉
『おっと? 明日は雪か?』
なぎ
『そもそもの文章が読みやすい。なにこれとか、よく分からないとか、そういうのが少なくてスッと頭に入ってきた』
なぎ
『無駄に話が上手いだけある。あんた実は向いてるんじゃない、物書き。知らないけど』
青葉
『おいおいおいおい』
青葉
『るいるいが俺を褒めるとかなんだ? 明日は雨と雪と雷のミックスウェザーか?』
なぎ
『お疲れ』
青葉
『待て待て待て! 分かった! 大人しくしてるから! 続きプリーズ』
なぎ
『はいはい』
なぎ
『あんたさ、この話を本気でやるつもり?』
青葉
『もちろん。じゃなかったらわざわざ書いてねぇよ』
なぎ
『だってこれって……この話って……。わたしの勘違いじゃなければ』
青葉
『そうだな。お前の思ってる通りだ』
青葉
『有木から教わったことを俺なりに嚙み砕いて、理解して、落とし込んだ結果……そうなった』
なぎ
『でも、たしかにこれ』
なぎ
『あんたにしか書けない話かもね』
なぎ
『朝陽君や月ノ瀬さんが演者だからこの話にしたの?』
青葉
『さぁな。本音を言えば蓮見にも出て欲しかったけど無理なら仕方ない』
なぎ
『晴香まで出たらこれってもう……』
なぎ
『いや、なにも言わない。まだ未完成だろうけど話自体は面白いと思うし、演劇にも向いてると思う』
青葉
『お、そうか』
青葉
『ミニスカフリフリメイドちゃんの話も有りだったんだけどな』
青葉
『もちろんお前も出演で。めっちゃ短いスカート着させたかったわ』
なぎ
『当日風邪引く予約入れたからよろしく』
青葉
『風邪って予約制だったんだな。初めて知った』
なぎ
『冗談は置いておいて、わたしもできる範囲で協力する』
青葉
『いいのか? こんな話無理だろとか、論外とかそういうのねぇの?』
なぎ
『ない』
なぎ
『だって、あんたが作りたいって思った話なんでしょ』
青葉
『それはそう』
なぎ
『ならわたしはそれを手伝うだけ』
青葉
『お前、たまにいい奴になるよな』
なぎ
『喧嘩売ってる?』
青葉
『いくらで買う?』
なぎ
『3000円』
青葉
『人の喧嘩で10連ガチャ回そうとしてんじゃねぇ』
なぎ
『そんなわけで、詳しくはまた来週でいい? わたしのほうでももう一回ちゃんと見て考えてみる』
青葉
『助かる』
なぎ
『はい。お疲れ』
青葉
『ういー。おやすも』
なぎ
『も』
なぎ
『あ、忘れてた』
青葉
『おん? たしかに俺様への愛の言葉は忘れてるな』
なぎ
『あーうんたしかに雨がすごいね』
青葉
『受け流しの達人。まったく雨降ってねぇし』
青葉
『それでなんだね』
なぎ
『今日、あんたが席を外してるときに有木さんから聞いた』
青葉
『なにを?』
なぎ
『月ノ瀬さんとの間にあったこと』
青葉
『マジか』
なぎ
『そう。秘密にしたままわたしたちと話したくないって』
青葉
『なるほどな。まさかアイツが自分でそこまで話すとは』
青葉
『それでお前はどうしたんだ?』
なぎ
『別にどうもしないけど。二人の間で話をして、解決……というかどうするか決めたならそれでいいんじゃない』
なぎ
『わたしたちがとやかく言う問題じゃないし』
なぎ
『志乃さんもそうだと思う』
青葉
『あっさりしてんな』
なぎ
『有木さんが超性格悪い人とか、そういうのだったらまた違ったんだろうけど』
なぎ
『それぞれ事情っていうのはあるし。ま、うん。わたしからはそれだけ』
青葉
『了解。報告サンキュー』
なぎ
『じゃ、おやすも』
青葉
『もー』
× × ×
「ロクでもない話を考えるかと思ってたのに……あいつ……」
青葉から送られてきたテキストファイルを見て、わたしはため息をついた。
演劇の概要。大まかなあらすじ、登場人物などなど。
本当に勢いで書いたのが伝わってくるレベルで、ずらっと書かれていた。でも、文章は崩れていなくて読みにくさは感じない。
有木さんがあいつに送っていたアドバイス――
感じたもの。
思ったもの。
伝えたいこと。
残したいこと。
それらを自分なりに落とし込んで、形にしたもの。
国語力の低いわたしには、ちゃんと理解することができない難しいものだけど……。。
でも、なんとなく……ホントになんとなく分かったが少しだけあった。
この『物語』がきっと……あいつが伝えたいものなんだって。
そして同時に、思った。
この物語を見てみたい。この物語に触れてみたい。形にしてみたい。
面白そう、なんて。
素直に思ってしまった。
流れで決まってしまったとはいえ、わたしの今回の汐里祭での役割はあいつの補助役だ。
それならば、とことんあいつが作りたい物語に関わっていこう。より良くしていこう。
変にふざけて暴走したら、そのときは全力で止めよう。
たいした役には立てないかもしれないけど……。
わたしがただ、そうしたいから。
「……でも、どうして」
どうしてあいつは、この物語を……?
まるで自分のなかのなにかを『残す』ような――
「残す……?」
どうしてその言葉が咄嗟に出てきたのだろうか。
徐々に、徐々に……胸に中に広がっていくモヤモヤ。
足音一つ立てず、着々と忍び寄ってくる疑惑。
今のわたしはまだ、それらに気が付くことすら出来なかった。