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第202話 青葉昴は各々を紹介する

 有木の紹介は終わったし、次は――と。


「で、有木。俺の前に座っているこの超絶美少女天使様が、朝陽志乃ちゃん。ひとつ年下の一年生。可愛い。あと超可愛い」

「す、昴さん……!? 変な紹介しないでくださいっ!」

「え~。ホントのことだからいいじゃ~ん!」

「ほ、本当のことって……も、もう……!」


 怒るに怒れない、そんな表情で志乃ちゃんはふいっと俺から顔を背けた。可愛い。


 志乃ちゃんの紹介をすると、有木が「あれ……?」と呟いた。


「朝陽……? って」


 なにかに気が付いたように有木はこちらを見上げた。


 朝陽、という名字を聞いてピンと来たのだろう。


 そりゃまぁ……有木だったら疑問に思ってもおかしくないか。


「ね、ねぇ昴くん。司くんが先月話してた妹さんってもしかして……」

「大正解。それこそがこちらにおわす志乃ちゃん様よ」

「そ、そうなんだね……!」

「あ、あの? 兄さんがなにか……?」

「司も入れて先月三人で会ったって言ったろ? そのときにアイツ、ずっと志乃ちゃんの素晴らしさを熱弁しててさ」


 喫茶店で三人で会ったあの日。


 諸々俺の話や有木の話が終わったあと、近況報告がてらに雑談していたときのことだ。


 学校のこと。

 家族のこと。

 それ以外のこと。


 もちろん話せる範囲ではあるが、いろいろなことを話した。


 そのなかで司の話題は三割が俺で、残りの七割は――すべて志乃ちゃんの話だった。


 それはもうシスコンっぷりが爆発していた。


 想像できるだろ? 司がハイテンションで妹自慢をする姿。まんまそれよ。


 そのせいで、有木はある程度司の妹の存在を理解していたわけである。


「なにしてるの兄さん……。は、恥ずかしい……」


 相変わらずの兄の話に、志乃ちゃんは羞恥で顔を赤くする。


 しかし、恥ずかしいと言っているが嫌そうには見えない。むしろ嬉しそうに見える。


 そのあたりに二人の兄妹愛が垣間見えた。


 アイツほどではないけど、志乃ちゃんだって司の話をするときはいつもよりテンションが上がるからね。


 本人に自覚があるのかは知らんけど。


「兄さん、なにか変なことを話していませんでした……?」

「い、いえ全然! ちょっとビックリはしましたけど、妹さんのことをすごく大切に想ってるんだなぁって伝わってきたので……! 聞いてて楽しかったです」


 志乃ちゃんの質問に有木はすぐに答えた。


 たしかに有木視点で考えれば、司のシスコンモードには相当驚いたはずだ。


 いつも冷静で、不自然なほどに大人びていて。

 穏やかな笑顔を絶やさず、みんなを支えてくれる柱のような存在。


 そんな姿しか知らなかった有木にとって、家族のことではっちゃける朝陽司は文字通り新鮮だったに違いない。


 そう考えると……改めて思う。


 朝陽志乃という存在は司にとって大きな助けになっていて、同時に支えにもなっているのだと。今更だけどな。


 それでも年相応の少年みたいな振る舞いをするなんて、当時の司を知る人間であれば本当に驚くべきことなのだ。


 やはり『支え』という存在は大事なのだと強く実感する。


 きっとそれは、志乃ちゃんも同様で。


 『家族』という意味を――

 『家族』という温もりを――


 お互いに知ることが出来たという意味では、二人の出会いは必然だったのかもしれないな。


「兄がお騒がせしたようで申し訳ないです……。あとで厳しく言っておきますね」


 はい。司くん、終わりのお知らせ。


 無事に明日を迎えられるといいね……。


「えっと……それで改めて、朝陽志乃です。よろしくお願いします、有木さん」

「よ、よろしくお願いします朝陽さん」


 おっ、志乃ちゃん側が少し慣れてきたっぽいか?


 同性だし、有木はグイグイ来るようなタイプじゃない。

 

 それに俺と司の知り合いということもあり、怪しさも感じないはずだ。


 性格も少し似た部分があるから安心できる部分もあるだろう。


 これにて、志乃ちゃんの紹介も終わり。


「……素敵な妹さんだね」


 小声で呟かれた有木の言葉は、俺に向かって言ったものだろう。


「……ああ。誇れる妹ちゃんだよ」


 ホントにな。


 さーてと。ラストは一番の難関にいくとしますかぁ。


「で、最後!」


 俺が声を張って言うと、残った人物であるポニーテールガールがビクッと肩を震わせた。


 『やべぇついに来ちゃった』……みたいな雰囲気が出まくっていて非常に面白い。


 有木や志乃ちゃんを軽く越えるレベルでコミュ障だからな、コイツ。


 俺たちが話している間ずっと無言だったのがその証拠である。


 三人の視線がその人物――渚へと向いた。


 それにより余計に緊張したのか、渚はサッと俯いた。


「このモサモサポニーテール眼鏡ちゃんは渚留衣。俺たちと同い年だな」


 普通に紹介しても面白くないし……。


「ちなみに愛称はるいるいだから、そう呼んでやってくれ。眼鏡が割れる勢いで喜んでくれるぞ」

「はっ……? ちょ、青葉……!?」


 あまりにも適当すぎる紹介に、渚が焦ったようにこちらを見た。


 文句があるなら自分で自己紹介しなさい! どうせ名前だけ言って、それ以上なにもなくて終わるんだろうけどな!

 

 俺に任せたのが運の尽きだな! フハハハ!


 ……それにしても。


 自分で言ったことだけど、眼鏡を割って喜ぶるいるい……見てみたくない?


 ギャグマンガでよくあるアレね。目玉が飛び出て眼鏡のレンズを突き破る描写的な。キャラ崩壊過ぎるのでNGです!


「ちなみに、本当にるいるいって呼ぶと……おっと。この先は言わないほうがいいか。ふふふ」

「えっ……ど、どうなっちゃうん、ですか……?」


 ニヤニヤしながら言うと、有木は焦ったように渚へ話の続きを求めた。


「どどど、どうにもならないで、すから……! こ、こいつの言うことは無視してくだださい……!」

「そそ、そうなん……ですか?」

 

 コミュ障同士が喋っておる。どもりながら必死に会話しておる。


 このまま放っておくのも面白そうだけど、それだと話が進まないからなぁ。


 しょうがないから、お互いの交流が捗る手助けをしてやろう。

 

 他者との会話をスムーズに行う材料の一つとして、『共通の話題』というものが存在する。


 それは陽キャであろうが陰キャであろうが変わらない。


 例えば先ほど、志乃ちゃんと有木の間には『朝陽司』という共通の話題が生まれた。


 それにより、互いの緊張感が若干緩和された。


 以降は、司の話題を通じてお互いに話を広げることができる。


 で、あるならば。


 渚と有木にも『ソレ』を作ってやればいい。


 やれやれ、手のかかる女子たちだぜ……。


「渚」

「なに」


 返事こわっ。


 なんでおどおどしてたくせに、俺が名前を呼んだ瞬間スッと真顔になるんだよ。


 しかし昴くんは優しくて我慢が出来る偉い子。ここはグッとこらえるとしよう。


 決して鬼様が恐ろしいからじゃないヨ。違うヨ。


「お前、今なんのアニメとか漫画観てんの?」


 俺の質問に、渚だけではなく隣の有木もピクっと反応を見せた。


 ……よし、これは行けそうだな。


「え、アニメ? 漫画? な、なんで」

「いいから教えろっつの」


 渚が疑問に思うのは分かる。


 なんで急にそんなこと聞くん? お前バカなん? ってなるのは当然だ。バカは余計だろ!


 まぁ当然ではあるのだが……。


 説明が面倒くさいからさっさと答えて欲しい。


 こちとら、この自己紹介フェーズをさっさと終わらせて次にいきたいねん。


「……あ、アニメだったら『創造のフルーレ』とか漫画だったら『メガコイ』とか……だけど。というかあんたも知ってるでしょ」

「そりゃもちろん」


 渚が不審そうに眉をひそめる。


 俺が知っているかどうかなんて今はどうでもいい。


 重要なのはそこじゃない。


「それがなに――」

「あっ、あたしも……!」


 ほら、釣れた。


「あたしもその二つ……ど、どっち観てます……! お、面白いですよね」


 ガタッと音を鳴らし、有木が会話に加わってきた。


「は、はい……。えっと……有木さんって、その……もしかして……」

「渚、有木もお前と()()()()()だ。話が結構合うと思うぜ」

「えっ」

「んでもって有木、渚はなかなかのオタクガールだ。ゲームとかアニメとか漫画とか、そっち方面に超強い」

「えっ……!」


 お互いの『趣味』を知って思うことがあるのか、二人はチラチラと様子を窺い合っている。


 踏み込んでいいのか……!? ちょっと控えたほうがいいのか……!? みたいなオタク同士の間合い管理をしていた。


 有木が二次元系の趣味を好んでいるというのも、喫茶店で話したときに知ったことだ。


 そのとき思ったのである。


 あーこれ。渚と仲良くなれるタイプだな――と。


 一言でオタク同士とはいっても、なかには相容れない者たちもいるらしい。


 考え方が違うとか、楽しみ方が違うとか。


 しかし、渚と有木に関しては似たような部分を感じるから問題はないだろう。多分。恐らく。メイビー。


 これで急に『はぁ!? なにそれ解釈違いなんですけど!?』みたいな喧嘩が始まったら全力で逃げます。


 ……ま、あとは放っておいても徐々に仲良くなれるだろう。俺の手助けはここで終わりだ。


「……な、渚留衣です。結構その、ゲームとか好きで……いろいろやってます」

「そ、そうなんですね。今はなにを遊んでるんですか……? あっ、ごめんなさい。答えられるならで大丈夫なので……!」

「えっと……スマホだったらナイドラとか」

「ナ、ナイドラならあたしもやってます……!」

「……!」


 ほい、仲介成功。


 この通り、共通の話題ってのは本当に強い。あるだけで話題に困らなくなる。


 様々な知識を身につけておくだけで、多くの人と話すことができるようになる。


 便利だから覚えておくといい。昴お兄さんからのアドバイスだぜ☆

 

 俺は興味ない知識は絶対に身に付けたくないけど。面倒くさいし。苦痛だし。うん。


「ふふ、よかったですね渚先輩」

「う、うん……」


 仲間が見つかってウキウキ状態の渚に、志乃ちゃんは優しく声をかける。


 ……志乃ちゃんのことだ。


 きっと自分のことのように嬉しく思っているのだろう。


 この子はそういう子だから。


「ち、ちなみになんですけど……てからどれくらい――」

「は、はい。あたしはリリース日からやってて――」


 早速ゲームのことについて話し始める二人。


 さっきまで口数が少なかったのに、急に饒舌になりやがって……。


「ふぃー……」


 一仕事終えて息をつく。


 仲介業者もなかなか大変よこれ。


「昴さん」


 ふと、志乃ちゃんが俺の名前を呼ぶ。


 盛り上がり始めたオタクコンビの邪魔をしないよう、少しだけこちらに身を乗り出してくる。


 それにより俺との距離が物理的に縮まった。美少女接近注意報。


「ん? なんだい」

「やっぱり昴さんはお話が上手ですね。お二人、すぐ仲良くなっちゃいましたよ」

「ふふふ、そうでしょ? 流石は俺様だぜ」

「そうやってすぐ調子に乗らない」

「はいすんません」


 メッ、と志乃ちゃんは人差し指を立てて頬を膨らませた。可愛い。超可愛い。


 一旦渚たちには好き勝手に話してもらうとしよう。そのほうが本題に入りやすい。


 ひとまずそれぞれの紹介は完了ということで……。


 ちょっと休憩しよっと。ジュース飲みたいジュース。

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