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第201話 青葉昴は再び彼女と会う

 客対応のためにやって来た店員さんに「あ、待ち合わせですー」と伝え、俺は有木が座っているテーブルに向かう。


 四人掛けの場所に案内されているということは、事前に有木が伝えておいてくれたのだろう。


 渚と志乃ちゃんはどこか浮かない表情で、俺の後ろをついて来た。


 いや、浮かない顔をしているのは志乃ちゃんだけか。


 渚の場合は……また別の理由で困っているだろうし。コミュニケーション的なアレで。


 少し歩いてテーブルまでたどり着くと、俺は改めて「うっす」と手を振り上げた。


「やっぱり有木だったか。なんとなくそんな感じがしたんだよなぁ」

「え? 月ノ瀬さんからなにも聞いてないの……?」

「ああ。なにを聞いても『ふふん! 行けば分かるわ!』しか言わないんだよアイツ」

「そ、そうなんだね……。あ、今のって月ノ瀬さんの真似? あとで教えなきゃ……」

「僕がボコボコにされるのでやめてください」


 有木は小さく笑みをこぼし、俺から渚たちへと視線を移した。


 こんな冗談が言えるようになったあたり、心象の変化が伺える。


 月ノ瀬もたまに有木の話を出しているし、なんだかんだでお互いに上手くやっているのだろう。


 そして驚いた反応を見せないということは、会いに来るのが俺だと知っていたはずだ。


 そのあたりも合わせて月ノ瀬から話を聞いていた可能性が高い。志乃ちゃんのことは流石に伝わっていないと思うけど。


「あっ、えっと……と、とりあえず座って? 立ったままだとお店に迷惑だし……」

「そうだな。渚、志乃ちゃん。まずは着席じゃ!」

「……」

「あ、はい」


 無言で頷く渚と、少し固まっている志乃ちゃん。


 一方は早速コミュ障を発動してるし、もう一方は緊張しているご様子。


 程度が違うだけで、二人とも人見知り体質だからこうなるのも仕方ない。


 有木も引っ込み思案タイプだし……。


 ……。


 あれ? ということは?


 ひょっとして、俺以外の三人ってみんな同じタイプなの? 俺がいろいろ大変なパターンですかこれ?


 えー……とりあえず……うん。有木の言う通り座るとしよう。


「……あ」


 とあることに気が付いてしまい、声が出る。


 俺たちは四人。テーブルも四人掛け。


 ――さて。ここで問題です。


 昴くんはどこに座るべきでしょうか!


 個人的には俺一人に、対面女子三人という形が理想的だ。しかし、このテーブルでそれは難しい。


 つまり、俺は誰かしらの隣に座らないといけない。


 有木か、渚か、志乃ちゃんか……。


 ここは……普通に考えて有木の隣が無難か?


 初対面のヤツと隣同士に座らせるのは流石に困るよな。めっちゃ気を遣いそうだし。


 答えは出たぜ。ようするに昴くんは女子に気を遣えるイケメンってことで。


「んじゃ、隣失礼するぜ有木ちゃん」

「えっ、う、うん」


 そう言うと有木は少し驚いたあと、俺が座れるように奥へとずれる。


 そんな俺たちを――


「「……」」


 渚と志乃ちゃんは、目をパチパチと瞬きさせて見ていた。


 いや……うん、分かる。


 二人がなにを考えているかなんて余裕で分かるけども。特に志乃ちゃん。


 とりあえず、今は座ってほしいところである。


 俺の気持ちが伝わったのか、渚が「志乃さん」と声をかけた。


「わたしたちも座ろう」

「そう……ですね。失礼します。…………ふふ」


 ちょっと志乃ちゃんさん? なんで最後笑ったの? 怖いんですけど?


 と、いうわけで。


 ちょっと不思議なメンバーによる四者面談の始まり始まり。


 × × ×


「にしても有木、だいぶバッサリ髪切ったな。一瞬誰だか分からなかったぜ」

「へ、変……かな? こんなに短くしたの初めてだから、まだ自分でも慣れなくて……」

「いや、似合ってると思うぜ? 有木が美少女に変身してるもんだから昴くんビックリ! だはは!」

「び、びしょっ……!?」


 席についた俺たちは、とりあえずドリンクバーと軽食を注文した。


 その後、隣に座る有木を改めて見てみるが……その変化に戸惑いがあることは事実だ。


 以前までの『メカクレおさげ系』こそが俺や司にとって有木恵麻だっただけに、現在の『素朴美少女系』はビックリ展開以外の何物でもない。


 とはいえ、それ自体はまったくもって悪いことではない。むしろ成長の賜物と言える。


「……あ、写真撮って司に送っていい? あとついでにSNSに流していい? あとついでに動画サイトにアップロードしていい? SNSも動画も動画サイトもやってないけど」

「や、やめて……!? やってないならなんで言ったの……!?」

「小学校の卒業アルバム写真と一緒に流出させるわ」

「昴くん……!? な、なんか……い、いじわるに戻ってない……?」


 おっとこれは失礼。

 

 旧友との再会にテンションが上がっていたのかもしれない。別に友達じゃねぇけど。


 愉快なアイスブレイクもほどほどに、そろそろ話を――





「――昴さん」


 

 

 ひえっ――!


 綺麗ながらも……突き刺すような鋭い声にビクッと俺の肩が震える。


 ゆっくりと前を見てみると……。


 それはもう――

 

 素敵な素敵な天使様が、ニッコリと笑顔を浮かべて俺を見ていた。


 おかしいね。


 笑顔なのに、背景に『ゴゴゴゴゴゴゴ』って文字が見えるね。これって漫画の世界だったっけ?


 天使様……もとい志乃ちゃん様は、俺の返事を待つことなく言葉を続ける。


「お二人で楽しむのもいいですけど……そろそろ紹介していただいてもいいですか? 私たちもお話に参加したいので」


 口調はしっかり丁寧なままで。


 一見、ニコニコ笑顔で穏やかに話しているように見えるだろう。そこに違和感なんて存在しない。


 その証拠に、有木の様子は至って正常で、志乃ちゃんを見て「綺麗な人……」と小声で呟いていた。


 それについては同意だけど。めっちゃ美人だけどこの子!


 しかし、彼女をよく知っている俺や渚は……そうとはいかず。


 志乃ちゃんから醸し出されるオーラを前に『やばい』と顔を引きつらせていた。


 ……。


 ヘルプ! ヘルプミー! 助けろ日向! お前の親友が怒ってらっしゃるぞ!


 誰か瞬時に日向を召喚する魔法『サモンヒナタ』を編み出してください。


「それで。お二人は――どういったご関係なんですか?」


 機嫌が良さそうに『思える』声音で、志乃ちゃんは問いかけてくる。


 ヤバいって。めっちゃ怖いって。


 今、テーブルの下で俺の足ガックガクに震えてるからね。


 ここは仕方ねぇ! 日向と比べるとだいぶ頼りないけど、俺を助けろるいるい!


 そんな気持ちを込めて、渚に助けを求めるも――


「……」


 スッと目を逸らされました。


 『無理』ってハッキリ意思表示されました。


 ぐぐぐ……だったら一人で乗り切るしかねぇぜ!


「そ、そうだな! 志乃ちゃんの言う通りだな! ごめんごめん!」


 ここは変にふざけないで謝っておくのが正解だ。


 選択肢をミスってしまうと、椅子の上に正座させられかねない。


 そんなことになったら、ほかのテーブルにいるお子様から指差されて笑われてしまう。なんとか回避せねば。


 『ママー! あそこの人が椅子の上に正座してるよ~!』なんて言われたらたまったもんじゃない。


 俺は「よし!」と両手を合わせて音を鳴らし、三人の注目を集める。


「まずは各々の紹介からいくとするか!」


 各自に任せると人見知りのせいで時間がかかりそうだし、俺からサクッと済ませるとしよう。


 まずは有木に手のひらを向ける。


「コイツは有木恵麻。女子高に通ってる二年生。お互いにちょっとした知り合い同士だ」

「へぇ……お知り合いなんですね。ふふ」


 やめて志乃ちゃん。へぇっ、からの笑いはやめて。


 ちょっとした、という部分は詳しく話したら長くなる。ここは割愛しよう。


「どんな知り合いかっていうと……。まぁ――()()()()()の同級生だ」

「しょ、小学校……」

「……」


 小学校。


 その単語が出た瞬間、志乃ちゃんと渚は僅かに反応を見せる。


 まるで質問してしまって申し訳なさそうに、志乃ちゃんは眉をひそめ――


 渚は言葉こそ発していないが、なにか言いたげに俺を見ていた。


 ったく……。


 いらねぇ気遣いをどーもっと。


 さっさと話を進めよう。


「といっても、四年までだけどな。そのあと有木は転校して……またこっちに帰ってきたらしい。だからお互いに面識があるってわけ」


 本当は月ノ瀬周りのことなど、いろいろ有木個人の事情はあるが……。


 そこは俺の独断で話していい部分ではない。


 ひとまず当たり障りない程度の紹介をしておこう。


「そう、だったんですね。でも……今見ていた感じ、まるで最近も会ったかのような……?」


 志乃ちゃんの疑問はごもっともだろう。


 嘘をつく場面でも理由もないし、お答えしようじゃないの。


「いろいろあって、先月会ったんだよ。それこそ司を合わせて三人でプチ同窓会的なね」

「な、なるほど……そうなんですね。だから昴()()……と。子供の頃からの知っている仲……」

「そゆこと」


 あれから有木とは会ってなかったし、久しぶりなのは事実だ。


 簡単ではあるが紹介を終えると、有木は二人に向かってぺこりと頭を下げる。


「ゆ、有木恵麻です。昴くんが言った通り……小学校のときのど、同級生で……。え……っと、よろしくお願いします……」


 たどたどしくも、有木はなんとか自己紹介を済ませた。


 それに対し、二人も頭を下げる。


「よ、よろしくお願いします有木さん」

「……お、お願いしま……す」


 気まずいって! もっとこう、笑顔で自己紹介し合おうよ!


 おい日向! 部活とかどうでもいいから今すぐ来い! ここのメニューなんでも奢ってやるから来い! サモンヒナタ発動!


 アイツは放っておいてもうるさいくらい好き勝手に喋ってくれるから、こういう場にいてくれると、めちゃめちゃありがたい存在ではある。


 ぐぬぬぬ……きっと今だけだ。もう少し経ったらお互いに慣れるはずだ。


 渚はともかく、志乃ちゃんは最初こそ人見知りだけど、慣れるまでそう時間はかからない。


 とにかくそれぞれの紹介を進めよう。


 さて、有木の次は――と。


いつもお世話になっております。

本日カクヨムにて「朝陽志乃」「星那椿」「青葉昴」のクリスマス特別イラストを公開いたしました。

気になる方はぜひお越しくださいませ!

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