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第191話 青葉昴は助け舟を出す……が

「あら司、また最近話題の恋愛相談かしら? 人気者は違うわね」


 男子生徒との話を終えて教室に戻ると、月ノ瀬が頬杖をつきながら俺たちに声をかけてきた。


 言い方や表情がどこか不満げであるあたり、彼女の感情を表している。


 朝陽司の恋愛相談案件は当然月ノ瀬たちの耳にも入っているし、最近はそれについて話すことも多い。


 一方で、放課後や昼休みに時間を割いているせいで……彼女らと会話する時間が以前より減ったことは事実だ。


 好きな男との会話……すなわち一緒に過ごす時間が減ってしまえば、そりゃ不満に思うのは仕方ないと言える。


「人気者って……。そう言われても、俺だってどうしてこんなことになってるのか分かってないのに……」

「本当にすごいよね朝陽くん! 恋愛成就の達人みたいな扱いになってるよ? 私も他のクラスの子から朝陽くんのことを聞かれたし」


 元気で可愛らしい笑顔を浮かべる蓮見が、お褒めの言葉をかける。


 その蓮見の前に座る渚は、眠そうにあくびしながらスマホゲームを遊んでいた。


 別に三人とも先に帰ってても良かったのに――とは、思っても決して口にしない。


 どうしてまだ残っているかなんて、考えなくても分かるからな。


「達人もなにも恋愛経験ないんだけど俺……」


 達人なのに恋愛経験無しとはこれ如何に。流石にちょっと面白い。


「アンタねぇ……。相談に乗った子から逆に好かれて、面倒なことになっても知らないわよ?」

「そんなこと起きないって。月ノ瀬さん、ちょっと機嫌悪くなってない?」

「……別に気のせいよ」

「れ、玲ちゃんは朝陽くんを心配してるだけだと思うよ? ね、玲ちゃん?」

「……………し、知らない」


 そう言うと、月ノ瀬はふいっと目を背けてしまった。


 なんだか拗ねている子供を見ているようで、思わずニヤニヤしてしまいそうになる。


 蓮見の言う通り、複雑な乙女心ながらも司を心配しているのだろう。


 バカにするのは可哀想だから、ここは寄り添ってやるか。俺は優しいからね。


「察してやれ司。これはいわゆる嫉妬と――」

「昴? なにか言った?」

「いえなんでも」

 

 こっわ。怖いよ。怖いって。


 これぞ怖いの三段活用。違う? 違うか。


「晴香だって寂しいんじゃないの」


 スマホに視線を落としたまま呟かれた、渚の何気ない一言。


 思いもよらない攻撃に、蓮見は考えるようにパチパチと瞬きし――


 渚の言葉を理解した途端、まるで火が付いたかようにボンっと顔を赤くさせた。


 相変わらず蓮見の赤面着火芸は、見ていて感心するレベルである。すげぇぜ。


「る、るいるい!? いい、いきなりなにを言うのかなぁ!?」

「あぁごめん朝陽君。別に晴香はなんとも思ってないみたいだから気にしな――」

「ススストッープるいるい! ダメ! それ以上はダメ! 禁止!」


 ブンブンと両手を大げさに振り、蓮見は渚の話を遮る。


 当の司くんは「えっと……?」とハテナマーク状態だし。


 ツンツンしている月ノ瀬。

 あわあわしている蓮見。


 場はカオス一歩手前である。


 やれやれ……仕方ねぇな。


 ここは俺様がヒロインズのために一肌脱いでやるとしよう。


 脱ぎ脱ぎ……。


 あ、別にいやらしい意味じゃないよ? ホントダヨ?


 俺は咳払いをして、司たちの注意を引いた。


「そういえば司。お前昼休みのとき、歴史の先生になんか頼まれてたよな?」

「あ、うん。資料? かなにかを準備室に運びたいから手伝ってほしいって」

「そうだそうだ。よくもまぁ……そんなめんどそうなこと引き受けるよなぁ」

「先生も困ってたからな。俺も特に予定もなかったし」


 今日の昼休みに司と廊下を歩いているときの話だ。


 偶然、歴史の先生と鉢合わせてしまい……。


 なんでも新しい歴史の資料を仕入れたようで、それらを準備室に運ぶために手伝ってくれる生徒を探していたようだった。


 自分でやってくださいよ! と言いたいところだが、そこを見過ごす司ではなく……。


 『あ、じゃあ放課後俺が手伝いますよ』とサラッと手伝いを申し出ていた。


 ――ちなみに、司が先生の手伝いをするのは今に始まったことではない。


 ほかの生徒が嫌がりそうなことを進んでやっているせいか、先生からの評判もなかなか高かった。


 優等生だねぇ。授業中寝落ちしまくってるけど。


 俺はもちろん却下しました。素直に面倒だし。


 さて、話を続けるとしよう。


「お前一人で大丈夫なのかよ」

「うーん。量は多いみたいだけど……先生もいるから大丈夫だと思うぞ?」

「へぇ。でもしんどそうだな。誰か手伝ってくれるヤツでも――」


 声のボリュームを僅かに上げて、蓮見……そして月ノ瀬の順番に視線を向ける。


 渚はずっとスマホ見てるからどうでもいいや。


「「!!!」」


 俺の意図に気が付いた二人は、同時にハッと目を見開いた。


 お膳立てはこれくらいだろ。あとは頼んだぜっと。


 いち早く行動に移したのは――


「あっ、じゃ、じゃあ朝陽君! 私も手伝おうか? も、もちろん朝陽君に迷惑じゃなければ……だけど……」


 はすみんでした。


 頬を赤く染めて、チラチラと司の様子を伺っている。


 ピピー! ラブコメ警報発令!!


 耐性のない生徒はすぐに避難してください!


「えっ、全然迷惑じゃないよ。むしろいいの? 蓮見さんの時間を取っちゃうことになるから……」

「まったく! もって! 迷惑じゃ! ないです!」


 物凄く気合入っていますね。これは大変可愛らしい。

 いかがでしょうか、解説の青葉さん。


 そうですね。蓮見選手は実に良いスタートを切ったと思います。

 彼女に必要なのは積極性ですからね。

 正統派ヒロインとして、グイグイ主人公に距離を縮めようとする姿は私的にも高得点ですね。


 なるほど。解説ありがとうございました。


「なら……お願いしていいかな? いきなりでごめんね?」

「う、うんっ! よろしくお願いします!」

「ははっ、なんで敬語なの?」

「な、なんとなく……です……」


 これはこれは……。


 目の前でこんな光景を見せられちゃあ――


「ちょ、ちょっと待ちなさい!」


 黙っていられるわけないよな。


 月ノ瀬は焦ったように二人の会話に入っていくと、勢いよく椅子から立ち上がった。


「し、仕方ないわね! 私も手伝ってあげるわ!」


 満更ではなさそうな顔なのに、なぜか言葉は上から目線。


 先ほどツンとした態度を取ってしまったから、どうやら引くに引けないらしい。


 でも、姉御のツンデレからは特別な栄養素を摂取できますからね。ありがとうございます。素敵でございます。


 にしても月ノ瀬……蓮見に先を越されたなぁ。


「え? いや月ノ瀬さん、別に無理しなくて大丈夫だよ? 元々俺だけでやる予定だったんだから――」

「なによ? 文句あるの?」


 月ノ瀬は腕を組み、ジト目で司を見る。


 威圧感に負けた司は「な、ないです!」と背筋をピシッと伸ばした。


 そうそう、お前はそれでいいんだよ月ノ瀬。


 蓮見とはタイプが違う以上、持っている武器も異なるのだ。


 鈍感な司には、今みたいに押し切る選択肢を取るほうが場合によっては丁度いい。


 それぞれの性格が出たアプローチを見ることができて、俺は一人で満足感に浸っていた。


「なら決まりね。三人でやったほうが早いでしょ? それに――」


 月ノ瀬は言葉を止めて、意味あり気な視線を蓮見へと送る。


 蓮見はすぐに気が付くと、素早く意味を理解してふっと微笑んだ。


「……うん。そうだね。私も()()()()()()


 深くは詮索しない。


 司を想う者同士、いろいろと感じるものがあるのだろう。


 細かいことは置いておいて、司周りはこれでオッケーだ。


 あとは月ノ瀬と蓮見に好きなように動いてもらおう。


 となると、最後に残るのは渚か……。


 俺としては、お前にも司に同行してくれたほうが――


「あ、疲れそうだからわたしはパス。三人で頑張って」


 ……。


 俺の考えを見越したように、渚は淡々と言った。


 まぁ……お前はそう言うだろうな。


「晴香、わたし先に帰ってるね」

「うん、気を付けてねるいるい!」

「ん」


 話は終わり、か。


 司たちの『仲良しお手伝い作戦』を遠くから覗き見したい気持ちもあるが、バレたら面倒だし今回は諦めよう。


 ほんじゃ……。用は済んだことだし、さっさと帰るかぁ。


「蓮見、月ノ瀬。うちの司くんを頼んだぜ」

「頼んだぜって……昴、お前は俺の保護者かよ」

「うんうん! 任されましたっ!」

「ええ、分かったわ」


 ビシッと敬礼する蓮見ちゃん可愛い。


 月ノ瀬も機嫌良くなったっぽいし、これで一安心だな。


 いやぁ、俺いい仕事したな~! 流石昴くん!


 ――なんて思っていたら。


 月ノ瀬は座ったままの渚に視線を向けたあと、次にこちらを見てニコッと微笑んだ。


 それはもう、絶対的美少女の姉御にピッタリな笑顔だった。


 どうしよう。


 怪しすぎるんですけど!?


「そういうわけだから……昴」

「ななな、なんですか姉御」

 

 上機嫌な声で――月ノ瀬が言い残したことは。


「アンタも――留衣と仲良く帰りなさいね?」


 ……。


 …………。


「「え」」


 声が重なった。


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