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第185話 黒縁メガネの後輩ちゃんは○○○○推しである

 お兄さん。昴さん先輩。


 俺たちをそんな癖強ネームで呼んできたのは、話したことのない後輩女子だった。


 ……え、話したことないよね? 俺だけ忘れてるパターンじゃないよね?


 身長は志乃ちゃんより少し高い程度だろうか。


 真っ先に目が行くのは黒縁の眼鏡で、その眼鏡越しに見える綺麗な翡翠色の瞳には俺たちが写っていた。


 肩程度まで伸びた黒髪のサイドテールは、毛先が僅かに巻かれているけど派手な印象は感じない。


 全体的に落ち着いた雰囲気の子で、知的そうに見える。


 うーむ……この子、やっぱりどこか見たことあるような気がするなぁ。いつだっけなぁ。


「あっ」


 俺が頭を捻っていると、司がなにかを思い出したように声を上げた。


「君、ひょっとして前に志乃たちと話してた……?」

「え、なにお前の知り合いなん?」

「あぁ、いや。ほら、勉強会のときに志乃と日向を迎えに来ただろ? そのとき話してたクラスメイトの子かなって」

「あ……あー! 言われてみればたしかに!」


 そういえば、五人くらいで話してたよな。


 女子三人と男子二人だったっけ?


 そんときの子か!


 あまり細かく覚えてはいないけど、黒縁眼鏡の子だった気がする。


 モヤモヤが晴れたようなスッキリした気分に俺は満足です。もう帰ってもいいな。


「そうですそうです」


 後輩ちゃん(名称不明)は優しい笑顔を浮かべて頷いた。


 知的オーラが醸し出てるなぁ……。


 容姿も十分可愛らしいし、これはなかなかハイレベルな美少女かもしれない。


 とりあえず、会話のために名前を聞いておくとしよう。


 そう思った矢先、後輩ちゃんは俺たちに向かってぺこりと頭を下げた。


「一組の天使、志乃ちゃんと日向ちゃんがいつもお世話になっております。私のことは――よっちゃんと呼んでください。みんなからもそう呼ばれてるので」

 

 後輩ちゃん改め、よっちゃん。

 

 恐らくあだ名だろうけど、苗字から来ているのか名前から来ているのかは謎である。どっちなんだろう。


 ……。


 ちょっと待って?


 さらっと流しそうになったけど、この子自己紹介の前になんて言った?


「ヘイ、よっちゃん? いろいろ聞きたいことあるけど、まずは一ついいかね?」

「あ、はい。なんでしょうか昴さん先輩」

「うーーーん呼び方が気になる……けど!」


 殺虫剤みたいな響きじゃない? 気のせい?


 今はそれは置いておいて……と。


「その前に、『天使』ってなんぞや?」

「それ俺も気になった。一組の天使って言ってたよね?」

「お、やっぱりそこが気になりましたかー」


 俺の質問に司も同意する。


 一組の天使、志乃ちゃんと日向ちゃんが~と言っていたのは聞き間違いではないだろう。


 よっちゃんは腕を組んで「ですよねぇ。気になりますよねー」としみじみとした様子で頷いていた。


「ま、文字通りの意味ですよ。ほら、二人ってめっちゃ可愛いじゃないですか? それぞれ違ったタイプで」


 それは否定しない。


 志乃ちゃんが可愛いのは今更だが、日向もウザ可愛い系だからね。うん。


「親友同士で、美少女同士で、それでいて反対のタイプ……! 二人のやり取りを見ているだけで癒されるので、二人はもう一組の天使的な存在なんですよ!」


 眼鏡をくいっと上げると同時にレンズが光った。キラッ☆


 よっちゃん、なんかテンション上がってきてないか……?

 

 それにしてもあの二人って、クラスでそんな神々しい立ち位置にいるのか。


 俺たちのクラスで言うところの蓮見と月ノ瀬のような感じかね?


 よっちゃんのトークは留まることを知らず、さらに畳みかける。


「志乃ちゃんは大和撫子! って感じで最高ですし、日向ちゃんは名前通り太陽みたいに明るいですし! いやーもう、二人と一緒のクラスになれてよっちゃん的には大満足っていうか! 知的タイプとおバカタイプを同時に接種できる尊さっていうか――!」


 朗報。よっちゃん、めっちゃ早口。


 まるでゲームの話をするときの渚みたいである。


 アイツ、普段はボソボソ喋るのにゲームの話になった途端饒舌になるからね。面白い。


「あぁ尊みが深い……! 尊みでご飯六杯はいける……! ふへへ……じゅるり」


 ――話の流れが変わってきた。


 よっちゃんは眼鏡を光らせたまま、鼻息を荒くして二人のことを語っている。


 その姿は、さながら自分の推しについて話す熱狂的ファンのようだ。


 やっぱり自分の好きなことになると、人って早口になっちゃうんだねぇ。


「うーむ……」

「えーっと……」


 返答に悩んでいることに気が付いたのか、よっちゃんがハッとして両手で口元を抑えた。


 どうやら自分の世界から帰って来たようです。


 ひょっとしてこの子アレか? おもしろ系眼鏡ガールか?


「ご、ごめんなさい。『しのひな推し』の魂が疼いちゃいました……」

「しのひな……?」

 

 しのひなとか言い出したよこの子。ガチじゃん。ガチのファンじゃん。


 首をかしげた司の呟きに、よっちゃんの眼鏡がまたキラッと光った。


「そうです! しのひなです! ひなしのではなく、しのひなです! ここはよっちゃん的大事ポイントなので譲れません!」


 ふんすっ! とよっちゃんは胸の前で拳を握る。


「お、おう……?」

「司、あまり深く考える必要ねぇぞ」


 落ち着いた印象の子……だったのが、今はもうその欠片もなかった。


 もしかしたら、志乃ちゃんと日向絡みの話になるとハイテンションになるのかもしれない。


 まさか後輩の女子でカップリングが生まれているなんて……。


 しのひな――か。


 ……悪くないかもしれない。


「あっ、先輩たち。用件を聞く前に……一個だけ確認したいことあるんですけど、いいですか?」


 よっちゃんは俺たちを交互に見ながらそう言うと、ふっと微笑んだ。


 推しの話以外になったからか、先ほどまでの熱はどこかへ行っていた。


「いいけど……どうしたの?」

「俺は正直嫌な予感してるけどな」

「そんなこと言わないでくださいよー。ちょっと疑問に思っただけですって」

「えぇ……なによ?」


 よっちゃんは何故かきょろきょろと周囲を見回したあと、俺たちとの距離を縮めた。


 ほかの人に聞かれたくない話なのか、そのまま手を口元まで持っていくとメガホンの形を作る。


 表情はいたって真剣で、ふざけているようには見えない。


 俺と司は一度顔を見合わせたあと、よっちゃんの言葉を待つことにした。


 悪い子には見えないし……割と重要な内容かもしれない。多分。



 よっちゃんの確認したいこととは――





「――先輩たちって『つかすば』ですか? それとも『すばつか』ですか?」




 

 あ、この子ヤバい奴かもしれない。


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