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第182話 朝陽司は突然お願いされる

 ――翌日。


 いよいよ本格的に学校が始まり、またあの明るく騒がしい日常が帰ってきた。


 まずここまでの感想としては、三時間目の数学はマジで寝そうでした。


 優しい蓮見と一応月ノ瀬と違って、るいるい様は俺が寝てても起こしてくれないからね。だから眠気に耐えるのに必死よ。


 なんで起こしてくれないのかって?


 だってアイツも寝落ちしてるもん。寝不足の日は特に。


 そういうときは俺がシャーペンでツンツンしたり、コッソリ机に落書きしたりして遊ぶわけだ。


 バレたら超怖いけどね。マジで。でも楽しい。


 そんなわけで――現在は昼休み。


 昼食を済ませてトイレに行っていた俺と司は、教室に戻るためにダラダラと廊下を歩いていた。


 当然ながら、俺たち以外にも同級生たちが歩いていたり、立ち話をしていたりなど……ザ・昼休みといった光景である。


「――でよー、アレも面白かったよなー。中学のとき、斎藤がタンクトップ一枚で登校してきたときさー」

「待ってくれ昴。まったく記憶にない話なんだけど? 俺とお前って中学一緒だよな?」

「あれ? じゃあアレは? 中村がタンクトップを上半身じゃなくて下半身に履いて登校してきた話。いやー流石の俺もたまげたよ」

「いや初耳なんだが? 斎藤も中村も俺たちのクラスに一人もいなかったよな? ……というかなんなんだよ、そのタンクトップ武勇伝」


 中身ゼロの生産性の欠片もない話である。


 そんなしょうもないトークを繰り広げながら、廊下を歩いているときの話だった。


「あっ、いたいた!朝陽君! ちょっといい?」


 おっと……?


 後ろから聞こえてきた司を呼ぶ声に、俺たちは同時に立ち止まる。


 声的にきっと女子だろう。それもちょっと親しげだし……。


 これまた同時に振り向くと、一人の小柄な女子生徒がこちらに向かって手を振りながら歩いて来ていた。


 歩くたびに短い茶髪ポニーテールがぴょこぴょこと揺れている。どこぞのもさもさポニテと違ってその揺れ方は軽快である。


 ……おん? アイツってたしか……。


「あれ、井口(いぐち)さん?」

「あ、あー……井口ね。うんうん、井口だわ」

「……お前、一瞬忘れてたよな?」

「ナンノハナシカナ」


 そうだそうだ、井口井口。


「ごめんねー、急に呼び止めちゃって。……って青葉君もいたんだ。全然気づかなかった」

「どこからどう見てもいただろうが。並んで歩いてたの見えなかったの? ん?」

「あははっ、うそうそ。相変わらず二人は一緒にいるんだねー」

 

 ケラケラと笑うこの女子は井口(いぐち)美悠(みゆ)


 去年のクラスメイトで、今年は隣の二年三組に所属している。


 今の会話で分かると思うが陽気なヤツで、その性格ゆえに友達も多い。


 そんな陽キャちゃんが俺たちにいったい何の用だ?


「お前、司に用があったっぽいけどどうしたんだよ?」


 名前を呼んでいたし、目的は司なのだろう。


 井口は「そうそう!」と頷き、パチンと音を当てて両手を合わせた。合掌!


「朝陽君! 私の()()を聞いてほしいんだけど! どうかな!?」

「……え? 相談?」

「うん! 相談!」


 元クラスメイト女子からの突然のお願いに、司は頭上にハテナマークを浮かべる。


 そりゃまぁ……司の反応としては正しいだろう。


 いきなり女子が話しかけてきて、『相談』とやらを聞いてほしいとお願いされる。


 はぇ? そうだん? なんでぇ? なんでぼくぅ? ってなるのも頷ける。そんなおバカになってはいないけど。


 井口から期待マックスのキラキラした瞳を向けられ、司は困惑は様子で俺を見た。


 『え、待って。なにこれどういう状況?』とその目は物語っていた。


 とりあえずウィンクしておこっと! 


 パチンッ――☆


「…………」


 うわすっごい嫌な顔された。


 あの聖人君主朝陽君にすっごい嫌な顔された。


「えっと……ごめん、全然状況が飲み込めてなくて……」

「あ、そう? 朝陽君に相談すれば間違いないって話で……」

「……間違いない?」


 相談すれば間違いない。


 司は未だに全然分かっていないと思うが……。


「はん……?」


 俺は今の言葉ですべてを察した。


 俺だからこそ、理解できた。


 ははーん……これはこれは……。


 どうやらさっそく()()()()()()みたいだな。


「ちなみなんだけど……井口さん」

「うん?」

「相談っていうのは……なにについての相談? まずはそれを教えてもらってもいい? あ、もちろん言いづらいことだったら大丈夫だよ」

「いやいや、そんなの一つしかないじゃん!」


 そうだな。一つしかないだろうな。


 井口はパッと手を放し、そのまま腰に当てて胸を張った。


 ……あー、月ノ瀬よりちょっとあるくらいか。ドンマイ月ノ瀬。なにがとは言ってないよ?


 ――――。


 ッッッ! なに!?


 その瞬間、とてつもない寒気が俺を襲った。


 思わず後ろを振り向くが……誰もいない。


 ……。


 考えたらヤバそうだから思考を放棄しよう。うん。


「一つしかないの……?」

「当たり前じゃん! それはねー」

「それは?」


 井口は胸を張ったままニコッと笑って――



()()()()!」



 キタキタ――!!


 反応される前に、俺は先んじて「おぉ!」と声を上げて司の肩に手を乗せた。


「面白そうじゃねぇの! 話だけでも聞いてやろうぜ、司?」


 笑顔の井口。


 ニヤニ……ニコニコの俺。


 二人の視線をその身に浴びた司は困ったように笑いながらも、少し間を置いて頷いた。


「まだよく分からないけど……せっかく頼ってくれたんだしね。俺でよければ力になるよ」

「おー! 流石朝陽君! 頼りになるー!」

「さっすが司~! 頼りになる~!」


 ここで断らないのが司という男である。


 とはいえ、司一人だと心配だし俺も付いていくことにしよう。


 別に楽しそうとか、場合によっては冷やかしてやろうとかそういう理由ないよ? ないんだからね!


「あ、別に青葉君には頼んでないから聞かなくて大丈夫だよ?」


 しかし当の井口はお断りモード。


 そこで諦める俺様じゃないのだ!


「俺にも聞かせてよ井口ちゃ~ん! 俺たちの仲だろ~!?」

「仲って……。去年、散々からかわれた記憶あるんだけど? それに、さっき私の名前忘れてたでしょ」

「ギギギギギギギクゥゥ!!!」

「自分の口でギクって言う人いるんだ……。話には聞いてるけど、相変わらず青葉君は残念なんだね……顔はいいのに……顔は」

「強調しないで? 二回言わないで?」

「はぁもう……分かったよ。それじゃ二人とも、また放課後ね!」


 そんなわけで、元クラスメイトの恋愛相談とやらを聞くことになったら司と……ついでに俺でした。


 さーてと。


 ――ここまで順調だな。


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