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第152話 青葉昴は問いかける

――去年の冬。


『星那先輩、頼りになる助っ人を連れてきましたよ』

『おお、すまないな司。それでいったい誰を……』

『おいっす生徒会長! 俺は司の大親友イケメンこと――』

『青葉昴、だろう? よく来てくれたな』

『え、なんで知ってるんすか。初めましてっすよね?』

『フッ、私は生徒会長だからな。全校生徒の名前はしっかり把握しているのだよ』

『めっちゃすげぇけど! 生徒会長であることは絶対関係ないと思う!』


 司に声をかけられて、初めて生徒会長室に行った……あの日。


 それが――


 美人で。

 大人っぽくて。

 知的で。

 身長が高くて、髪がめっちゃ長くて。


 そんな星那沙夜との――初めての会話だった。


 初めての――はずだった。


 × × ×


 俺と向かい合うように座る会長さんは、ただ穏やかな微笑みを浮かべてこちらを見ていた。


 俺の言葉を心待ちにするかのように。


 俺の質問を待ちわびるかのように。


 そんな『期待』の眼差しだった。


 ――さぁ、キミは私になにを聞いてくる?


 口には出さずとも、明らかにその顔がそう物語っている。


 志乃ちゃんはすでに司たちにところに行っていて、星那さんは一時的に席を外している。


 それが偶然なのか狙ったのかは俺には分からないが……どちらにしても好都合だ。


 聞きたいことはいくつかある。


 焦らずに一つずついこう。


 まずは……。


「夏休みが始まったばかりのとき、日向の練習試合を観にいったんすよ」

「ほう、そうなのか」

「そうっす」

「……」


 はっ、白々しい……。


 わざとらしい反応を見せる姿にピクッと眉が動くが、俺は話を進めることにする。


「んで、対戦相手の学校が清晶女子だったんですよねぇ」

「なるほど。女子高の生徒が見られてさぞかし満足ではないのか?」

「ええ。美少女がいっぱいだったんで目の保養になりましたよ」

「フフ、それは喜ばしいことだな」

「――明石ひかる」


 俺がその名前を口にすると、会長さんはスッと目を細めた。


 茶番に時間を使って、誰かがここに戻ってきたら面倒だ。


 悪いがさっさと進めさせてもらう。


「俺の中学の同級生で、清晶女子に進学してたんですけど……そいつが試合に出てたんですよね」


 非モテ男子を勘違いさせる圧倒的陽キャ女子……明石ひかる。


「そんで、久しぶりだったし声もかけられたんで試合後にそいつと少し喋ったんですよ」


 あいつは全然変わっていなくて、良くも悪くも距離感がバグっているヤツだった。


 そういえば、俺と司は改めてあいつと連絡先を交換したけど……なんか連絡取り合ってんのかな。


 俺のほうは軽く会話をした程度だが、司のほうはどうなのだろう。


 それは後ほど本人に聞くとして……重要なのは、そこじゃない。


「まぁそれで、そいつが妙なことを言ってきて……」

「妙なこと?」


 はい、と頷いて俺は腕を組む。


 明石が俺たちに言い残したこと――


 それは。


「自分の学校に、汐里の生徒会長が来た――って言ったんですよ」


 ――『うちの学校にさ、汐里の生徒会長さん来たよ』


 けろっとした顔でそう言った明石の一言に、俺と司は同時に『は?』って言ってしまったものだ。


 だって、全然予想していなかった人物が急に出てきたんだぞ?


 うちの生徒会長が? なんで? って明石に聞いたところ。


 ――『んー、分かんない! その日、引退した元キャプテンが部活に来ててさ。その先輩と親しげに話してたんだよねー!』


 とのことで、特になにも知らないようだった。


 その後、元キャプテンとやらに話を聞いたところ、汐里高校の生徒会長だと教えられたらしい。


 明石自身は会長さんとなにかを話したわけではなさそうだが……。


 試合を観に行ったら、そこにたまたま中学時代の同級生がいて。


 しかも、事前にその学校へと会長さんが足を運んでいて。


 女バスの元キャプテンと親しげに話をしていた。


 こんなの――偶然だといえばそこまでだが。


 だとしても、明らかに……『匂う』。


 俺は一度ふっと息を吐き、目の前に会長さんを真っすぐに見て……言った。



「――なんか仕組みました?」



 根拠はない。ただなんとなく……思っただけだ。


 だけど、理由なんてそれで十分。


 この人が関わっている以上『ただの偶然』で済ませたくない。


 少しでも違和感を覚えたのなら、見逃すわけにはいかない。


「……フフ」


 会長さんはただ……笑う。


 どんなに穏やかな顔をしても。

 どんなに美しく笑っても。


 その真紅の瞳に巣食う『おぞましさ』だけは――隠せていなかった。


 俺だから感じるのか。感じてしまうのか。


 それは……分からないけど。


「やれやれ……『仕組む』だなんて、印象の悪い言い方をされては困る」


 会長さんは肩を竦めて言った。


「実は清晶女子の女バスの元主将……彼女とは中学時代の同級生なのだよ」


 中学時代の同級生。


 俺たちと明石のような関係性ってことか……?


「へぇ……?」

「あの日、たまたま学校の近くを通りがかったら……彼女と顔を合わせたのだよ」


 たまたま……ね。


「そしたらせっかくだから……と、女バスが練習している体育館まで連れていってもらってな。そのまま雑談をしていたわけだ」

「よく他校の生徒なのに入れましたね」

「こう見えて、私は知り合いが多いのだ。生徒、教師問わず……な」


 なんでだよ最強かよ。


 んなバカな……と言いたいところではあるが、この人の場合余裕で真実っぽいからなにも言えない。


 俺が内心呆れていると、会長さんは悲しそうに目を伏せた。


「……友人は少ないがな」

「急に悲しいこと言うのやめてください」


 ちょっと同情しちゃうでしょ。


 流石にツッコミを入れると、会長さんはククッと笑って「すまない」と言った。


 知り合いは多いが、友人は少ない。


 こう言っては失礼だが、星那沙夜らしい特徴だと素直に感じた。


「――楽しかったか?」

「は?」

 

 頬杖をつき、微笑ましそうに俺を見て。


「中学時代の同級生との再会は楽しかったか? と、聞いている」


 その質問に思わず舌打ちをしそうになるが我慢する。


 この流れでそれを聞くということは……。

 

 もう、そういうことじゃねぇか。


「否定しないんですね。『仕組んだ』ことを」

「だから、そんな言い方をしないでほしいな」


 はぁ……とため息をついて、会長さんは話を続ける。


「私はただ、その同級生に勧めただけだ」

「なにをですか」

「日程が合えば、私の学校の女バスと練習試合でもどうだろうか――とな」

「……それを仕組んだと言わずになんて言うんですねぇ」

「フフ、提案と言ってもらうか」


 なにが提案だよ。


 良いように言い変えただけだろうが。

 

「しかし決定権は当然、私にはなく生徒にもない。決められるのは大人だけだ」

「まさか……あんた顧問にまで……?」

「先方の顧問とは以前にも顔を合わせたことがある。話をするだけなら簡単だ」


 教師にまで知り合いが多いと自分で言っていたが、そのレベルかよ……。


 うちの学校の生徒会は『学校間交流』……といって、その名前の通り他校の生徒会と交流をする機会があるらしい。


 なんでも伝統のようだが……。


 その延長線上なのか、はたまた会長さん個人の繋がりなのか……。


 いずれにせよ、簡単だと言い切るあたり恐ろしい。


「……どうしてそんなことを? まさかうちの女バスの発展を願って……って話じゃないですよね」

「ああ。そんなことは……私にとって()()()()()()

「どうでもいい……って」


 言い切りやがったよ。


 生徒会長が自分の学校のことをどうでもいいとか言っちゃったよ。


「すべては私の目的のためだ」

「その言い方だと、やっぱりたまたまじゃねぇな」


 すべては自分の目的のため。


 女バスの件は、その目的のために役立つ材料だったということ。


 となれば……当然。


 それは偶然なんかじゃない。


「――明石か?」


 再びその名前を口にしたとき。


 会長さんの口角が上がった。


「あんたがやりたかったのは、女バス同士に対戦させることじゃない」


 あんたの目的を……あんたの願いを俺は知っている。

 

 生徒会室で司の一件があった日、俺が直接言われているからだ。


 星那沙夜の目的。


 星那沙夜が動く理由。


 それらを鑑みると――辿り着く場所は、一つしかない。


「明石を俺たちと……いや、司と会わせること」


 しかし――分からないことがある。

 

「清晶女子に知り合いがいる分、その舞台を用意しやすかった。だからあんたは……利用した。違うか?」


 なぜ――明石を選んだ? 手頃だったからか?


 司と同級生を会わせたい。


 自分には清晶女子に同級生がいる。


 そして、そこには司の同級生となる明石ひかるがいる。


 だから最も簡単でやりやすい手段を取った。


 ――本当にそれだけか? そんな単純なのか?


 明石と俺たちはクラスこそ一緒だったが、特別仲の良い関係性ではなかった。


 あいつの大勢いるお友達の一角……そんなイメージだった。


 その明石にフォーカスした理由はなんだ……?


 それだけが――ハッキリと分からなかった。


「フフ……」


 確信のない俺の言葉に。


 会長さんはただ――


「フフフ……」


 どこか嬉しそうに、笑っていた。


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