表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
213/475

第149話 星那沙夜は意味深な言葉を残す

「……む? どうした志乃、少し不服そうだが?」


 会長さんの言う通り、志乃ちゃんが少し複雑そうな表情だった。 


 少なくとも俺とは違い、喜んでいるようには見えない。


 どうしよう。なんか悲しくなってきたんだが?


「え、志乃ちゃんまさか。お前みたいな兄貴なんていらねぇ! ってことぉ!?」


 ガーン――!


「そ、そういうわけじゃなくて……! 私だって、昴さんのことはずっともう一人の兄さんのように思っていたので……!」


 俺がわざとらしく落ち込む姿を見せると、志乃ちゃんがあせあせとフォローを入れてくれた。


 いい子だなぁ……。


 そんな志乃ちゃんを会長さんは微笑ましそうに見ている。


 しかし、その瞳には……なにか()()()()が映っているように見えた。


「……。……だ、そうだ。昴も安心だな」


 妙な間が空いたのが気になるけど……わざわざ今突っ込んでも仕方がない。


 俺はうんうんと大きく頷く。


「ええ、超安心です。志乃ちゃんに嫌われたら土に還りますからね、俺」

「す、昴さん……! 変なこと言わないでください……!」

「ホントのことだもーん。土に還っちゃうもーん」

「だもんって……急に子供みたいにならないでください」

「はいはい」

「返事は一回だよ?」

「はいすんませんでした」


 志乃さんタメ口注意報により、俺はすぐさま謝罪を口にする。


 危ない危ない……。


「フフ、これではどちらが兄か姉か分からなくなるな」

「なるほど。志乃ねぇって呼ぶルートもありますね……いとをかし」

「あ、ありません……! あと昴さん、いとをかしはやめて」

「ないそうだぞ昴」

「残念です」


 志乃ちゃんが妹ではなく姉の世界線か……。


 可愛くて。

 優しくて。

 いつも気に掛けてくれて。


 しっかり者だけど、たまに抜けちゃうところもある。


 そんでもって美少女。


 そんなお姉ちゃん。


 ――可愛すぎない? 最高じゃない? そのお姉ちゃん欲しすぎるんだが?


「だが、実際昴のような弟がいれば……毎日が楽しそうだな」


 会長さんはこちらを見てフッと笑みをこぼすが、俺は思わず顔を引きつらせる。


 この人が……姉?


 いやいやいや……。


「えぇ……俺はちょっと嫌っすよぉ。会長さんみたいな姉は怖いっす」

「怖い? どこがだ?」

「全部」

「おや……それは悲しいな」

「ホントにそう思ってんのかね……」


 計画性に富んでて、なにを考えているのか分からなくて、自分よりずっと頭のいい姉。

 

 ――怖いって。


 ただの好意でも絶対なにか裏があるって疑うわ。


 あーでも。


 会長さんって美人だよな。それもかなりの。


 今回のグループのなかで、一番の美人は誰かと聞かれれば……間違いなく会長さんの名前を上げるだろう。うん。


 超美人で、巨乳の、姉……。


 …………ありかもしれない。いやむしろあり。ありだ!!


「やっぱり僕の姉になってください会長さん!」

「この数秒で昴さんのなかでなにが起きたんですか……!?」


 テーブルにゴンっとぶつけるように勢いよく頭を下げる。


 そんな俺に志乃ちゃんがかかさずツッコミを入れた。


「嬉しい誘いだが……お断りだ」

「そっちから言ってきたのに!? くそぅ! 俺の美人で巨乳なムフフお姉ちゃん計画が……!!!」

「――昴さん? 今なんて言ったの?」

「なんでもないです気のせいですマジでホントに多分恐らく」


 っぶねぇ……。


 一瞬、五度くらい室温が下がった気がした。


 流石にふざけ過ぎたかもしれん。

 

 ちなみに怖すぎるので志乃ちゃんの顔を見ないようにしてます。


 絶対ニコニコしてる。でも絶対目元は笑ってない。


 このままではニコニコからの正座コースになるため、目を合わせるわけにはいかない。


 俺が冷や汗をかいていると、会長さんは言う。



「なぜならば……兄妹はそこまでの関係だろう?」


 穏やかに紡がれたその言葉一つで、場の雰囲気が変わった。


 そこまでの……関係。


 会長さんの意図が分からず、俺と志乃ちゃんは首をかしげた。


 微笑みを崩さずに、会長さんは話を続ける。


「兄妹では――()()()()()()()()になれない。それ以上――進めない。そうだろう?」

「いや、まぁ……そりゃそうですけど……」


 深い関係、が具体的になにを指しているのかは分からない。


 友達か。

 親友か。

 

 それとも……恋人か。


 会長さんが俺を……俺たちを見る表情が僅かに変化する。


 この人特有の、相手に答えを委ねる……そんな表情だ。


「……」


 志乃ちゃんはなにか思うところがあるのか……なにも言わずに俯いた。


 ふと見てみると、シャーペンを持っている右手にギュッと力がこもっている。


 兄妹……か。


 どちらかといえば俺というより……志乃ちゃんを対象とした言葉だ。


 会長さんは俺ではなく、志乃ちゃんに向けて今の言葉を言い放った――と考えるのが自然だろう。


 ……なにがしたいんだ?


 志乃ちゃんを困惑させるわけにはいかないため、俺はすぐさま口を開く。


「え、じゃあ待ってくださいよ。ってことは会長さん……俺と深い関係になりたいってことですかぁ!? 昴くんドキィ!」


 場の空気を変えるために、冗談めかしてそう言った。


 しかし、会長さんは依然微笑んだままで――


「さぁ。それはどうだろうな」

「え~! 気になりますよ~! 意味深なこと言われたら俺もうドキドキですよ~!」

「フフ……。志乃、俯いているが大丈夫か?」

「だ、大丈夫です!」


 ハッと顔を上げ、志乃ちゃんは頷いた。


「……少しばかり、()()には重い話だったかもしれないな」

「せ、生徒会長さん……!」


 志乃ちゃんは焦ったように会長さんを呼ぶも、ただフッと笑ったまま流される。


 やっぱり……。


「さて、雑談はこの程度にしておこう。――椿」

「はい」


 ようやく星那さんが言葉を発した。


 俺たちが話している間も、この人はずっとノートパソコンで作業をしていた。


 会話に加わる姿勢など微塵も見せずに。


 背景のように……ただずっとそこに溶け込んでいた。

 

「志乃の宿題を見てやるといい」


 お、星那先生の誕生か?


「あいにく私は……なにかを教えることに向いていないようだからな。キミなら出来るだろう」

「承知いたしました」

「え、いいんですか……? お仕事中なんじゃ……」

「問題ございません。では志乃様、宿題の進捗を教えていただけますか?」

「は、はい――!」


 どうせ星那さんも頭いいんだろうなぁ……。


 というか良さそうにしか見えない。


 見た目だけなら学校の先生とかやってそうだし。


 星那さんは椅子から立ち上がると、志乃ちゃんの後ろまで歩いていく。


「志乃の宿題は――早く済みそうだな」

「すねぇ」


 言葉通りの意味か……それとも。


「昴、キミも進めたまえ」

「……俺は()()()()()が気になるんすけどね」

「どの話だ? いろいろ話し過ぎて分からないな」

「……そうかい」


 ――結局、肝心の中身はあやふやなままで。


 少しずつ。少しずつ。


 俺の中にモヤモヤだけが募っていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ