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第148話 星那沙夜は二人を見て微笑む

「む? どうした志乃?」



 ――志乃ちゃん。


 思えばこの子だけ、まだ宿題の進捗が不明だった。


 とはいえ、心配なことはなにもない。


 この子はコツコツ進めるタイプだし、きっと言うまでもなく終わっているだろう。

 

 例年通りなら──きっと。




「実はその……私も、まだ宿題が終わってなくて……」




 周囲から『えっ!』と声が上がる。


 待て待て待て。


 この流れは完全に予想していなかった。


 日向じゃなくて……まさかの()()()



「終わったと思ってたんですけど、一つ……抜けがあったみたいで……だから今日、それをやっちゃおうかな……って」

「ほう……?」


 目を伏せてそう言った志乃ちゃんに、会長さんが興味深そうに目を細める。


 志乃ちゃんにしては珍しいミスだけど…まぁこの子だって一人の人間だ。


 見落としがあるのは当然だと言える。


 俺だって『え? そんな宿題あったっけ?』ってなって先生に怒られるパターンなんかざらにあるし。


「……では、昴と志乃は私と楽しく宿題の時間だ」

「へーい」

「はい……! よろしくお願いします!」


 俺と志乃ちゃんと会長さん……か。


 なかなかレアな組み合わせかもしれない。


「ほかの者は自由に過ごしてくれ。遊ぶのも寝るのも各自に任せる」

「やったー! 司先輩、遊びましょ!! 姉御たちも!」

「分かったよ。日向も頑張ったからな」


 うむうむ。よかったなぁ日向ちゃん。


 


「……月ノ瀬さん、すっかり姉御になってるね。わたしもそう呼んだほうがいい?」

「やめて」

「あはは……でも玲ちゃんにピッタリだよね」


 はしゃぐ日向を微笑ましそうに見ながら、月ノ瀬たちが話している。


 実際、月ノ瀬にピッタリなあだ名だと思うわ。


 姉御感凄いもんね。俺も呼んでやろうかな。


「沙夜様、私もお手伝いいたします」

「む? そうか? ではよろしく頼む」


 星那さんも追加……と。


 会長さんには聞きたいことがあったから、出来れば二人のほうがいろいろ都合良かったのだが……。


 こればかりは仕方ない、か。




「志乃――よか――緒」

「恥ず――けど――そういう――」



 日向と志乃ちゃんがコソコソとなにかを話していた。


 日向はウキウキした様子で。

 志乃ちゃんは恥ずかしそうな様子で。


 二人がなにを話しているのかは――当然俺には分からなかった。


 × × ×


「昴さん、あとどれくらい宿題が残ってるんですか?」

「ん? あー別にたいして残ってないよ。日本史の問題集と、あと英語が少々……って感じかな。志乃ちゃんは?」

「私は古文のプリントが別にあったのを忘れてて……」

「あらま。そんなうっかり志乃ちゃんもいとをかし――ってやつだな! がはは!」

「……あ、は、はい。えっと……」

「純粋な戸惑いやめて。昴お兄ちゃん傷ついちゃうから!」


 ――時間はまた少し経ち。


 リビングでは俺と志乃ちゃんが隣同士で座り、対面には会長さんと星那さんが座ってた。


 問題集やプリントを並べている俺たちに対し、会長さんたちはそれぞれノートパソコンを開いてカタカタとなにか作業を行っている。


 パソコンを使用している時点で、学校とはあまり関係なさそうだけど……会社関係のやつとかかな。なにそれかっこいい。


 ちなみに司たちは日向に引っ張られるようにして海に行ってました。


 ……おい。


 それって水着ってこと!? アイツ月ノ瀬たちの水着見てんの!? はぁ!?


 写真送ってもらおうかな……ぐぬぬ……。


 危ない危ない。うっかり俺の中の思春期が暴走して問題集を引きちぎるところだったぜ……。


「それにしても、まさか志乃ちゃんより先に日向が宿題を終わらせるなんてなぁ」

「わ、私もビックリしてなにも言えませんでした。でも日向らしいというか……なんというか……」

「だなぁ。もう日向に『宿題ちゃんとやって!』って言えなくなっちゃうな。逆に日向から言われちゃうかもね?」

「なんか嫌です……それ……」


 志乃ちゃんは気まずそうに苦笑いを浮かべた。


 日向に説教される志乃ちゃんはあまりにも解釈違いが過ぎる。


 アイツはこれから先も説教される側でいてほしい。昴先輩からのお願いである。


「でもホントに珍しいね。志乃ちゃんが宿題忘れてたなんて。別に夏休みはまだ終わってないから、なにも問題ないんだけどさ」

「そ、それは……」


 こちらを見ていた志乃ちゃんが視線をプリントに落とした。


「多分昴さんも――って」

「え?」

「い、いえ……! 本当に忘れちゃってて!」

「ふーん……? まぁそういうときもあるかっ!」


 ――嘘だな、これ。


 志乃ちゃんは嘘が下手だから、表情ですぐに分かってしまう。


 普段が素直な子だからなおさらだ。


 でも……その嘘がどういう嘘で、なぜそんな嘘をついたのかまでは分からない。


 ボソッと俺の名前が聞こえたが……それが関係あるのか?


「……す、昴さん? なにか……?」


 おぉっと。


 どうやら志乃ちゃんをジッと見ながら考えごとをしてしまっていたようだ。


「ごめんごめん、志乃ちゃんが可愛くて!」

「も、もう……!」


 志乃ちゃんは頬を膨らませ、それはもう可愛らしくぷいっと顔をそむけた。

 

 恥ずかしさのせいか頬も若干赤みを帯びていて、つい俺の顔もにへらぁと緩んでしまう。


 でへへ。志乃ちゃんはいつも可愛いなぁ。


「フフ」


 ――そんな俺たちのやり取りを、会長さんが頬杖をついて微笑ましそうに見ていた。

 

 さきほどまでパソコンとにらめっこしていたのに、いつの間に……。


「ちょ、なんですか会長さん。兄妹の触れ合いを盗み見ないでください。有料です」


 司に聞かれたら胸ぐら掴まれそう。そのまま鬼のような形相で詰めてきそう。


「そうなのか。いくらだ? 大抵の額なら出せるが」

「お嬢様発言ッッ!!!」


 これは間違いなく社長令嬢。


「失礼。キミたちがまるで本当に兄妹みたいだな、と思って」

「お、兄妹ですか? 嬉しいこと言ってくれるじゃないですか~!」

「兄妹……」


 俺と志乃ちゃんは一度顔を見合わせて、その後再び会長さんへと視線を戻した。


「……む? どうした志乃、少し不服そうだが?」


 会長さんの言う通り、志乃ちゃんは少し複雑そうな表情だった。


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