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第16話 一行はスポーツパークに訪れる

「ごめんごめん! ちょっと遅れちゃったな」

「もう……兄さん、野良猫さんと遊んでるからだよ?」

「でも猫は可愛いから仕方ないだろ?」

「それは……そうだけど……」


 待ち合わせ時刻から六分ほど経過して、朝陽兄妹が息を切らした状態で到着した。


 なんでも、来る途中に遭遇した野良猫を構っていたら時間が経ってしまったようで……。


 まぁ……猫だったのなら仕方ない。猫は可愛い。猫に罪はない。

 

 二人はすでに到着していた各々に挨拶を済ませる。

 そして志乃ちゃんは圧倒的存在感を放つ月ノ瀬を見て「わぁ……」と目を丸くした。


「月ノ瀬先輩……綺麗……」

「あ、ありがとうございます……」


 だよねぇ……お綺麗だよねぇ月ノ瀬先輩。


 後輩からの純粋な褒め言葉に月ノ瀬は恥ずかしそうに視線を落とした。


 あ、そうそう。私服だよ私服。

 志乃ちゃんは白のワンピースにベージュのハットの組み合わせかぁ……いいなぁ。この『ザ・清楚』って感じ。


 俺が可愛い志乃ちゃんを見てうんうん頷いていると、司がこちらに向かってきた。


「おい昴。なに人の妹をジロジロ見てるんだよ」

「いやぁ……志乃ちゃんは可愛いなぁ……って。どう思うよお義兄さん」

「そりゃ志乃は可愛いだろ……って、ん? お前なんか今発音おかしくなかったか?」

「いや別にぃ?」


 あるのか? 司をお義兄さんと呼ぶルートがあるのか?

 ……なさそうだなぁ。少なくとも今のところは。


 こんなキモいこと考えてるってバレたら、女性陣から揃ってゴミを見る目を向けられそうだ。主にあの眼鏡娘から。


 ――そんなことより。司には聞かねばならぬことがある。

 

 俺はガッと司の首に手を回すと、顔を近付けた。

 突然のことに司は驚いている。


「なぁなぁ司。正直誰の私服がタイプよ?」


 ニヤニヤと。

 やっぱこれを聞いておかないとなぁ!


「タイプって……お前ホントそういうのばっかだな」


 呆れた司に俺はチッチッチと指を振った。

 やっぱりコイツはなにも分かってない。


「男たるもの頭の中はそういうのばっかなんだよ。……で? 誰よタイプは」

「誰って……」


 司は現在お話し中の女性陣に顔を向ける。


 はてさて、今回司は誰を選ぶのか。

 

 シンプルながら美少女力で圧倒的存在力を醸し出している月ノ瀬。

 清楚ながらも親しみやすいカジュアル系な蓮見。

 性格ピッタリなスポーティー女子日向。

 ザ・清楚こと王道派の志乃ちゃん。

 四人ほど目立つわけではないが、控えめだからこその良さがある渚。


 ――え、まさか大穴で俺って線ある? あ、ない? 知ってた。


 それぞれの私服を順番に見た後、ゆっくりと呟いた。


「蓮見さん……かなぁ」


 ピキーンと俺の面白そうセンサーが反応する。


 お、おぉ……。

 ここに来て最近ヒロインレース低迷気味だった蓮見の名前が挙がった。


「おおいいねぇ。なんでなんで?」


 テンションが上がってきた俺はグイグイ攻める。


「い、いや別に変な意味はないって」

「大丈夫だって。男子高校生なんだから変な意味でも致し方なし」

「お前……それ蓮見さんたちに聞かれたら大変な目に遭うぞ?」


 平気平気。本人たちには言わないから。


「まぁ……その、親しみがあるなって……」


 あかん。ニヤニヤし過ぎて口角がおかしなことになりそうだ。

 にしても蓮見かぁ……そうかそうかぁ……ふーん……ふふふ。


「だから変な意味はないぞ? あくまで私服の話であって――」

「分かってるって。……おーい! 蓮見――」

「お、おわぁー!? お、お前なにしてんの!?」


 話を強引に切り上げ、蓮見を呼んだ瞬間司が慌てて俺を制した。

 まるで関節技を決めるかのごとく、俺の腕を振りほどきそのまま首を締め上げた。


 加減こそしてくれているが地味に痛い。

 

 俺は「ごめんて! ギブ! ギブ!」と司の腕を叩いた。


「ったく……お前ホントそういうところな」


 ため息をついて司が解放する。


 あぶねぇあぶねぇ……もう少しで某川の向こう岸に渡るところだったぜ……。


「ちょ、ちょっと二人ともなにしてるの!? それに呼ばれた気がするんだけど……」


 俺たちのプロレスが目に入った蓮見が慌ててこちらに駆け寄る。

 その表情は心配そうだった。


 ゴホゴホと俺は咳をしながら、問題ないと手を振った。


「いやー大丈夫大丈夫。ちょっと司と世間話で盛り上がってた」

「そ、そうそう。なんか昴のヤツが勝手に呼んでたけど気にしないで?」

「う、うん……?」


 俺はチラッと司の様子を見る。

 先ほどの一件のせいか、蓮見と話しながらもその顔は少し赤くなっていた。


 ふふふ……よかったなぁ。タイプの私服を着た女の子と話せて……。


 だが甘いな司! 

 俺は諦めが悪い男なんだぜ!


 俺は司が油断していることを確認すると、とっさに切り込んだ。


「おうよ。司が蓮見の私服をタイプって言ってただけだから気にする――」

「す、昴!? お前マジで――!」

「ふははは! 甘いぜ司!」


 突然の暴露に焦った司が再び掴みかかってきたが、華麗によける。

 

「あっ、蓮見さん……えっと……昴が言ってたことは……その……」

「い、今の話……本当?」


 ……おっと?

 蓮見が顔を赤くしながらも司に尋ねる。


 これは……感じるぞ。ラブコメの波動を……!


 敏感に波動を感じ取った俺はコソコソと二人から距離を空けた。


「……う、うん。ごめん。気持ち悪いよな。だけど悪気は全然なくて――」

「ううん。そんなことない」


 うんうん。そんなことないよ。


「え?」

「す、すごく……嬉しい。本当に……似合ってるかな?」

「……に、似合ってるよ」


 そうそう。似合ってるよ。


「えへへ……ありがとう」


 ………。

 かゆっ! なんか尻が痒くなってきた!


 二人のキラキラ青春ライトに俺は思わず目を細める。眩しくて前が見えねぇ……!


 司に言われて蓮見が喜ぶことなんて当然分かってたし……。

 普段はサラっと色々言う割に、こういうときになると恥ずかしがるんだよなぁ。司のヤツ。


 ま、ちょっかいをかけたかいがあるってもんですわ。


 あー仕事した。もう帰っていいかな俺。


「ちょ、ちょーっと待ってください~!」


 達成感に浸っていると、見かねた日向が二人の間に割り込んだ。


「うおっ! な、なんだよ日向」

「なんだよじゃないですよ! なーにあたしたちがいるのに二人の世界入ってるんですか! 晴香先輩もです!」

「ふ、二人の世界だなんて……そんな……」


 そう言う割には顔が緩んでるぞ蓮見。


「そうだよ。みんなもいるんだから二人の世界なわけないだろ? なぁ蓮見さん?」


 司の鈍感発言来たぁ!

 

 特に意識せず言ったであろうその言葉を聞いて、蓮見は小さく頬を膨らませた。

 頷くことなくそのまま顔をプイっと横に向ける。


「……はい。そうですねっ」

「あれ? なんか怒ってる?」

「怒ってないですー」


 コイツらまたイチャつき始めたぞ。


「あーそうやってまた! 司先輩と晴香先輩はお話禁止です!」


 日向はブブ―っと腕でバツマークを作る。

 そんな三人の様子を月ノ瀬は楽しそうに眺め、渚は呆れたようにため息をついていた。


 一方で――


「兄さんのバカ……私だってオシャレしたのに……」


 志乃ちゃんは不満げにポツリと呟いていた。


 いやー……アレだな。

 俺みたいな立場って基本的には楽しいんだけど……。


 ……ちょっとヒヤヒヤするぜ。


 × × ×


 ――それから場所を移して。

 

 俺たちは一件の大きな建物の前にたどり着いた。

 

「スポパ来ました~!」


 わぁー! っと日向が建物を見上げて手を広げる。

 

 俺たちの住む町に一昨年に建てられた大型アミューズメント施設。


 『わくわくスポーツパーク』――通称スポパ。


 一階にはゲームセンターが用意されており、二階からはボウリングやフットサル、バドミントンといったさまざまなスポーツで遊ぶことができる。

 年齢や男女問わずみんなでワイワイ遊べるこの施設は、常にさまざまなお客さんで賑わっていた。


 本日俺たちがこうして遊びに来た理由はいたって単純で……。


 俺が定期試験前に話した『テストが終わったらみんなで遊ぼうぜ』って話がこうして実現したわけである。


「ふふん! スポーツといえばこのあたしですから! 司先輩にいいとこ見せちゃいますよー!」


 ふんす、と日向は一人で気合を入れる。

 確かにスポパではバスケもできるから、アピールする絶好のチャンスかもしれない。


 日向は司たちに「どこから周ります!? なにからやります!?」とまるで子犬のように元気よく聞いていた。


 テンション上がってるなぁスポーツ娘……。


「……わたし、川咲さんについていけるかな」


 隣に立つ渚が呟く。


 日向とは対照的に、渚はスポーツを苦手としている。

 なんでも特に体力に自信がないようで、体育の時間ではヒイヒイ言いながら頑張っているようだ。


 そんな渚とは去年、スポパでバドミントン勝負をしたことがある。


 結果は俺の圧倒的勝利。

 疲れ切って座りこむ渚に高笑いをしてやったことを思い出す。


 大人げないって?


 いやいや、勝負は常に全力で臨むのが俺のモットーなんでね。

 まぁその日解散するまで渚には無視されたけど。


「ヤバかったらゲーセンで時間潰しててもいいんじゃね?」

「それも魅力的だけど……せっかくみんなと来たんだから頑張る」


 グッと力強く拳を握る。

 その気持ちがずっと続けばいいけど……。


 結局ダウンして蓮見に介抱される姿が容易に想像できる。


「今日はあんたにバドミントン勝つから。リベンジ」

「ふっふっふ。俺様に勝てるかな?」

「勝つよ。こっちには秘密兵器の月ノ瀬さんがいるから」

「ふふ。そのときは私に任せてください」


 月ノ瀬は自信満々の様子で頷いた。


「だからそれめっちゃズルいよな?」


 月ノ瀬さんは運動も超出来るんですって。

 ワンチャン普通に負ける可能性あるんですって。


「志乃ちゃんはもちろん俺を応援してくれるよね?」


 ここは俺も味方を探さなければ――!

 

 俺はすかざす志乃ちゃんに話を振った。


「昴さんと渚先輩の勝負ですよね?」

「そうそう。志乃ちゃんからの可愛い応援があれば俺は――」

「もちろん渚先輩を応援しますっ」


 うんなんで?


「これで三対一。わたしの勝ちだね、青葉」


 ドヤァと渚は俺を見る。

 いやなんでお前が得意げなんだよ。ただの他力本願じゃねぇか。


 もしもこれで、本当に三対一で勝負することになったらどうするんだよ。


 さすがに青葉ボコボコからの渚高笑いコースになるだろ。


「ほらほら司先輩! 行きますよ~!」

「あ、おい日向! そんな引っ張るなって!」

「日向ちゃん元気だねぇ」


 司を引っ張り歩き出す日向の後に続き、俺たちも中に入っていった――

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