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第124話 青葉昴はやっぱり面倒くさい

「ほんっっっっとに面倒くさいわねアンタは!!!」

 


 

 ――それは月ノ瀬玲の心からの叫びだった。




「どこがだよ。ここまで純真無垢を絵に描いた少年もそういねぇだろうが」

「……はぁ。純真無垢、あと少年の意味をあとでちゃんと調べてみなさい」

「おうコラ」


 なんで少年まで調べさせるんだよ。少年でしょうが!


 俺の反論に耳を貸さず、月ノ瀬は呆れた様子で追い打ちをかける。


「まったく……なんでアンタは素直に『どういたしまして』が言えないのよ。言い返してばっかり……まるで意地になってる子供ね」

「誰が子供だ。俺はただ事実を言っただけだろ」

「……なるほど。これは()()()()()も苦労しそうだわ……」

「なに言ってんだ?」


 呟くようにこぼれた一言。


 苦労しそう……って言ったか?


 月ノ瀬はこめかみに手を当て「うーん……」と表情を曇らせるも……さらに追及するようなことはせず、言葉を止める。


 そして、自分のなかにある感情を吐き出すかのように大きくため息をついた。


「アンタにはまだまだ言いたいことがあるけれど……すっごくあるけれど……」

「なんだよ」

「……もうなにも言わないわ。これ以上は専門家に任せるってことで」

「嫌な専門家もいたもんだな」

「ふふ、そこは自分の愚かさを恨みなさい?」

「ついに愚かとか言い出したよこの人」


 ため息をつきたいのはこっちなんですけど? と言いたいところを我慢する。怖いですからね。


 月ノ瀬が表情を崩したことで、張り詰めていた空気が解かれる。


 そのまま月ノ瀬はいたずらっぽく笑って「でも……」と言葉を続けた。


「アンタのそういう面倒くさいところ……私は結構好きよ? 面倒くさいけど」


 ド、ドキィ――!!!


 ……となるわけがなく。主に最後の一言が原因で。


「おいなんで二回言った? 途中までいい感じだったよな?」


 どんだけ面倒くさい男なんだよ俺は。


「アンタ、本当に面倒くさいもの。うんざりするくらいね。いやもううんざりしてるわ」

「何回言うんだよ! 好きなんじゃねぇのかよ!」

「そうよ? だって──」


 終始呆れ顔だった月ノ瀬の口角が僅かに上がる。


「だって、そうでもないと……あのお人好し男の隣になんて立っていられないでしょ?」


 お人好し男。


 それは―─司のこと以外ないだろう。


「面倒くさいアンタがそばに居てくれるから、司は今も司らしくいられてるんじゃないの?」

「……」

「出会ってまだ数ヶ月の私がこんなこと言うのはおかしいけれど」

「……まぁたしかに? 俺がいなかったら、賑やかし役不在で退屈にはなるかもな」

「はいはい。それでいいわよもう」

「なんでそんな飽きたような反応なんだよ。お前が振ってきた話だよなこれ」


 軽く睨みつけるも、月ノ瀬は適当にあしらって椅子から立ち上がる。


 司が司らしく……ね。果たして本当にそうなのだろうか。


「さ、言いたいことは終わり。ほら帰るわよ」

「いや締め方雑……」

「そう? だって私の言いたいことは全部伝えたもの」


 こてん、と可愛いらしく首をかしげる月ノ瀬になんとも言えない気持ちを抱く。


 最後までただ自分のやりたいことに俺を付き合わせただけかよ。


 なかなか振り回してくれるじゃねぇか。


 ――ま、だけど。


 そういう……ちょっと強引なヤツのほうが、アイツを上手く引っ張っていってくれるかもな。


 ……いやちょっとじゃないわ。かなりだわ。


 ──さて、月ノ瀬のターンが終わったのなら……次は俺の番だな。


 言うだけ言って帰らせはしない。



「月ノ瀬。最後に二つ、質問してもいいか?」



 帰ろうとしたところを一方的に引き留め、二本の指を立てる。


 そんな俺を見て、月ノ瀬は怪訝そうに眉をひそめた。


「二つ……? いいけど、変なことは聞くんじゃないわよ?」

「じゃあ手始めにスリーサイズを……」

「ここで大声を出したら大人が来てくれるかしら」

「ホントすんませんした」

「もう……ふざけてないでちゃんと質問しなさいよ。なに?」


 まぁスリーサイズはね……うん。


 いや、別に体格が云々とか……そういう気持ちはないから。


 どうせ渚とかと同じくらいだろ、とか思ってないから! 身長は高いよね!


 コホン。


 気を取り直して、真面目に質問をするとしよう。


 俺は座ったまま腕を組み、月ノ瀬を見上げた。


 ――まずは一つ。




「司のこと――好きか?」




 空色の瞳が、僅かに揺れる。



 以前、蓮見にも同じような質問をぶつけたことがあった。


 どう返答されるかなんて分かっている。簡単に想像できる。


 分かっているからこそ、俺は改めて尋ねているのだ。


 月ノ瀬は俺の質問に対し、驚いた様子など一切見せず……すぐに優しく微笑んだ。



「ええ、好きよ」



 一言一句、ハッキリと。


 ――『うん。――好きだよ』


 簡潔且つ強い気持ちを宿したその言葉。


 蓮見晴香と同じ、偽りのない言葉。


「生徒会室でも言ったけど……私は私なりに、あいつを支えたいって思っているわ。紛れもない……本心でね」


 ――そうか。


 だったら尚更……お礼を言うのは俺の方だ。


 ありがとう、月ノ瀬。


 あの日――逃げてくれて。


 そして――立ち上がってくれて。


 本当にありがとう。


「よし」


 堂々とした返事を聞けて満足だ。


 だったらこれからも、アイツのことを頼んだぜ。


 お前なら。お前たちになら。

 あのお人好し鈍感ラブコメ野郎を支えられるだろう。


 それじゃあ、次の質問──


「あ、もちろんアンタのことも好きよ? 司の次に、だけどね」


 俺をからかうように、月ノ瀬はニッと笑った。


「お前なぁ……」


 んなこと聞いてねぇっつの……。


 急に変なこと言うんじゃないわよ。おっと、つい口調が移ってしまった。


 俺はわざとらしくヘラヘラと笑う。


「へいへい。嬉しいお言葉をありがとう。うっかり好きになっちゃうところだったぜ」

「二番目の男でいいならキープしてあげるわよ?」

「魅力的な提案だが、一番目と二番目との差がとんでもなさそうだから辞退で」

「あら、それは残念ね」


 月ノ瀬は言葉通り残念そうに肩をすくめた。

 

 そういう発言が思春期の男を勘違いさせるのだとちゃんと理解しなさい!


「俺も残念だよ。……んで、満足したか? 次の質問に行っていいか?」

「いいわよ。なにかしら」


 二つ目の質問。

 



「お前――今は楽しいか?」

「……」




 先ほどの質問には特に反応しなかった月ノ瀬が、今回は一瞬驚く様子を見せた。


 ……ん? どうしてこっちには反応したんだ?


 俺が疑問に思っていると、なにがおかしいのか月ノ瀬はすぐに「ふふ」と笑う。


()()()()()それを聞くなんて……本当に親友同士ね」

「おん?」

「なんでもない。こっちの話よ」


 驚きこそしたが……結局悩む姿を一切見せず、月ノ瀬はこくりと頷いた。


「ええ、楽しいわよ。どこかのお節介さん()()のおかげでね」


 意味深にこちらへと視線を向けて。


「お節介さんたちねぇ。当然あのイケメンスポーツマンも入ってるんだよな?」

「……どうかしらね? それにしてもイケメンでスポーツマンの友達なんて……私に居たかしら……」

「おいおい、忘れたのか? さっきボコボコにされたばっかなのに?」

「ぐっ……せっかく忘れかけてたのに……! あとボコボコにはされてないわよ!」

 

 笑ったり、怒ったり、日向ほどではないが忙しいヤツだ。


 あんなに作り物の姿しか見せなかった月ノ瀬が、今ではこんなにも自然体で振る舞っているのだ。


 楽しいと思う気持ちは、決して嘘ではないのだろう。


 素敵な友人に囲まれ、自分らしく高校生活を過ごせている。


 そして、朝陽司を慕い……自分なりに支えたいと、好きだと……そう言ってくれた。


 月ノ瀬玲という人間の真実。


 それは(青葉昴)からすれば――ただただ満足のいく答えだった。


 こんな質問なんて、すべて俺の自己満足でしかないのだから。


「回答どーも。質問は以上だ。帰るとしようぜ」

「本当に一方的な質問ね」

「だろ? ちゃんと答えてくれてサンキュー」


 椅子から立ち上がり、俺は出口に向かって一歩踏み出す。


 さーてと、これで本当に漫画が読めるぜ。


 まさか月ノ瀬とのデートイベントが発生するなんて……。開発者さんイベントの設定ミスってますよ!


 ――と言いたいところだが、これも必要なことだったのかもしれないな。


 こうして二人で話す機会なんて全然なかったわけだし。


「昴」


 帰る気満々の俺にかけられた声。




「んぁ?」



 歩き出した俺の隣に並び、月ノ瀬は言った。



「もちろん、アンタも入ってるわよ。大事な友達だもの」


 

 最後まで――ハッキリと。



「……」



 それはなによりだ。


 





 どうでもいいことは置いておいて。




 ――そういえば……大事なことを忘れてるよな? ふふふ。


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