閑話23 夜LINE⑯【蓮見晴香・渚留衣】
午後九時頃にて。
晴香
『そんなわけでるいるい』
なぎ
『どんなわけで?』
なぎ
『いや待って晴香言わないで』
なぎ
『あんたが言おうとしてること分かったから』
晴香
『水着だってさ!!!』
なぎ
『最悪』
なぎ
『むり』
なぎ
『は???』
晴香
『絶対そんな感じになってるだろうなって思ってた』
晴香
『るいるい、海だよ海!』
晴香
『なんか青春っぽいね!』
なぎ
『どこが?』
なぎ
『陰キャオタクのわたしにはあまりにも場違い過ぎるんですけど?』
晴香
『じゃあ一緒に行ってくれないの?』
なぎ
『それは』
晴香
『私はるいるいに来て欲しいけどなぁ』
晴香
『るいるいが居ないと心から楽しめないもん』
なぎ
『……そういうこと言うのズルいと思う』
晴香
『ふふふ、るいるいは私から逃げられないのだ~!』
なぎ
『わたしじゃなくて朝陽君を追ってください』
晴香
『うぐぐぐぐぐ』
なぎ
『わたしの勝ち』
晴香
『そういうこと言うのズルいと思います!』
なぎ
『ふふふ』
晴香
『まったくもー……』
晴香
『でも本当にビックリだね。別荘とか海とか……』
なぎ
『別世界の住人って感じ』
晴香
『みんなで遊びに行くのは楽しみだけどね!』
晴香
『そんなわけで水着なんだけどるいるい』
なぎ
『おかしい。文字化けが……』
晴香
『わー都合のいいスマホだー』
なぎ
『水着ってだって……あの水着でしょ?』
なぎ
『いやいやいやいや……』
晴香
『私、ずっと持ってた水着があるんだけどさ』
なぎ
『うん』
晴香
『サイズがちょっと……なんといいますか……』
なぎ
『うわ』
晴香
『うわってなにるいるい!?』
なぎ
『なに、また成長したの?』
晴香
『うん……』
なぎ
『うわ』
晴香
『だからうわってなに!?』
なぎ
『いいじゃんサイズ小さくても』
なぎ
『そのほうが朝陽君喜んでくれるんじゃないの?』
なぎ
『知らないけど』
晴香
『むむ無理に決まってるって! それに無責任過ぎない!?』
なぎ
『晴香ホントに大きいよね』
晴香
『恥ずかしいからやめてください』
晴香
『とにかく! だから買いに行かなくちゃって!』
なぎ
『行ってらっしゃい』
晴香
『るいるいも水着買うんだよ?』
なぎ
『拒否。断固拒否』
なぎ
『海だからって別に着なくていいでしょ。わたしは愛しのジャージがあるからそれでいい』
晴香
『るいるいさ、最後に水着着たのいつ?』
なぎ
『中学』
晴香
『学校指定のやつじゃん! じゃなくてプライベート用の!』
なぎ
『???』
晴香
『ダメだこれ』
晴香
『わたしはるいるいと水着で遊びたいの! 泳ぎたいの~!』
なぎ
『それ言っておけばいいと思ってる?』
晴香
『ダメなの?』
なぎ
『ダメっていうか……』
晴香
『恥ずかしいのは分かるけどさ』
晴香
『私たちだけならともかく……ねぇ?』
晴香
『分かる。分かるよるいるい。分かる!』
なぎ
『なんか腹立ってきた』
晴香
『私だって恥ずかしいけど!』
晴香
『それはそれとして、見て欲しいといいますか……男の子関係なく着たいといいますか……』
なぎ
『変態?』
晴香
『酷くない!?』
なぎ
『いいんじゃない? アピールする絶好のチャンスでしょ。いい水着買ってきな』
晴香
『だからるいるいも着るの!』
なぎ
『ひょっとしてあんた最初の村人? 同じことしか言わないNPC?』
晴香
『NPC?』
なぎ
『なんでもない気にしないで』
晴香
『だってさー』
なぎ
『なに』
晴香
『るいるいが水着なんて着たら、彼も絶対喜ぶと思う!!!!』
なぎ
『そんなわけないでしょ』
なぎ
『むしろバカにしてくるでしょ』
晴香
『待ってるいるい』
なぎ
『?』
晴香
『私、名前出してないよ? 誰のこと思い浮かべてたの?』
なぎ
『おやすみ』
なぎ
『また来世』
晴香
『ごめんごめんごめん!!!』
晴香
『というか来世は寝すぎじゃない!?』
なぎ
『最悪』
なぎ
『は????』
晴香
『落ち着いてるいるい!』
晴香
『じゃー……分かった! 無理強いさせても仕方ないし』
晴香
『着なくてもいいから買い物だけ付き合ってよ!』
なぎ
『買い物?』
晴香
『そう! 私の水着! どんなのにしようか悩んでて……』
なぎ
『まぁ……それくらいなら……』
晴香
『ほんと!? やった~!』
なぎ
『といっても大したこと言えないし、見てるだけになりそうだけど』
晴香
『それでもいいの! るいるいと一緒にお出かけするだけで楽しいから!』
なぎ
『そ』
晴香
『あ、ひょっとして照れてる?』
なぎ
『一人で水着選び頑張って。それじゃ、おつ』
晴香
『冗談です!』
なぎ
『もう……』
なぎ
『いつ行くの?』
晴香
『うーん、週末とかどう?』
なぎ
『週末? いいよ』
なぎ
『あ、嘘』
なぎ
『ごめん。わたし予定入ってる』
晴香
『あれ珍しいね。どこか行くの?』
なぎ
『うん、そんな感じ』
晴香
『……むむむ???』
なぎ
『え?』
晴香
『私分かっちゃいました。親友センサーがバッチリ反応しました』
なぎ
『なにその胡散臭いセンサー』
晴香
『青葉くんとデートでしょ』
なぎ
『は』
晴香
『え、まさか本当!? うそ! るいるいも青春してるじゃん!』
晴香
『言ってくれればよかったのに!』
なぎ
『待って』
晴香
『誕生日のときに言ってたのってそれか~!!』
晴香
『どうしよう私今すっごくニヤニヤしてる。超嬉しくなってる』
なぎ
『違う』
なぎ
『違うから』
晴香
『あ、そうなの? なーんだ』
なぎ
『あ、いや』
晴香
『パソコンの前で動揺してるるいるいが想像できました』
なぎ
『うるさい』
なぎ
『デートとかじゃないから。青春とかじゃないから』
晴香
『やっぱり青葉くんなんだ!』
晴香
『わ~!!!!』
なぎ
『もうむりおわりねるおやすみさようなら』
晴香
『待ってよるいるい~!』
晴香
『本当に嬉しいんだから私!』
なぎ
『なんで』
晴香
『だってあのるいるいが外に出るんだよ?』
晴香
『それも自分の意思で!』
晴香
『自分からじゃ絶対に外出ないじゃん!』
なぎ
『それはそうかもだけど』
晴香
『ちなみにどっちから誘ったの?』
なぎ
『なんでそんなこと言わないとダメなの』
晴香
『いいじゃ~ん!』
なぎ
『完全に女子のノリじゃん。はい殲滅対象』
晴香
『物騒なこと言わないで!?』
晴香
『でで、どっちなの?』
なぎ
『……わたしだけど』
晴香
『え!!!!! え!!!!』
なぎ
『いやでも最初はあっちっていうか。わたしは仕方なく付き合ってあげるっていうか……』
晴香
『はぁ……幸せ……楽しい……』
なぎ
『こっちは正反対ですけどね』
晴香
『るいるい、週末なんだよね?』
なぎ
『そうだけど』
晴香
『集合時間は?』
なぎ
『え、多分昼ぐらい』
晴香
『分かった! ちょっと朝るいるいの家行くね!』
晴香
『朝るいるい!』
なぎ
『ファーストフードみたいに言わないで』
なぎ
『というか全然理解できない。え、なに』
晴香
『ん? だからるいるいが出かける前にちょっと家に行くねって』
なぎ
『なんで?』
晴香
『秘密!!!』
なぎ
『嫌な予感しかしない』
晴香
『ふふふ、親友の私に任せてって話!』
なぎ
『なにを』
晴香
『秘密!』
なぎ
『絶対出ないでってお母さんに言おう』
晴香
『その手が通用するかな?』
なぎ
『ダメだ晴香だったら逆にすぐ入れちゃいそう』
晴香
『でしょ~?』
晴香
『とにかく週末行くね! でも邪魔はしないから。用が済んだらすぐ帰る!』
なぎ
『……はいはい』
なぎ
『もうなに言っても無駄なパターン』
晴香
『水着はまた次の日とかに行こっ!』
なぎ
『分かった』
晴香
『今日はよく眠れそうだな~! へへへっ!』
なぎ
『楽しそうだねあんた』
晴香
『うん! 楽しい!』
晴香
『るいるいとこういう話ができてすっごく楽しい!』
なぎ
『怒るに怒れない……』
晴香
『じゃあ最後! いっこだけ!』
なぎ
『なに?』
晴香
『るいるいにしか出来ないことが絶対にあると思うから』
晴香
『それを忘れないで……ってこと!』
なぎ
『なにそれ。いきなりどうしたの』
晴香
『ううん、なんとなく伝えたかっただけ』
なぎ
『そっか』
晴香
『そうそう。言いたいこと言えたし、今日はこんな感じかな』
晴香
『お開き!』
なぎ
『ん、また』
晴香
『あ、夏休みだからって夜更かしし過ぎちゃダメだよ?』
なぎ
『善処します』
晴香
『絶対しないやつだ』
晴香
『じゃあまたね! おやすみ!』
なぎ
『み』
× × ×
「そっか~。そっか~!」
まさか、あのるいるいが男の子と二人で出かけるなんて……。
少し前だったら絶対に考えられなかったことだ。
そもそもの話、るいるいは男の子と話すことが苦手だし、一緒に出かけるなんてまずありえない。
というか性別関係無しで、こっちから誘わない限り家から出てこないし。根っからのインドア派なのだ。
そんなるいるいが――
それも自分から誘って――?
「ふふ、ふふふ……」
感情に任せてベッドの上をゴロゴロと転がる。
まるで自分のことのように、嬉しい気持ちで胸がいっぱいだった。
どこに行くのかーとか、どうして一緒に出かけることになったのかーとか、知らないことはたくさんあるけど……。
とりあえず!!
当日はるいるいの家に行って、それでそれで――
「うん、完璧……! 楽しみになってきた……!」
せっかくのデートなんだから……ね?
期待して待っててね。
――青葉くん。