表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
169/475

閑話23 渚留衣・誕生日LINE②【渚留衣・青葉昴】

八月三日。零時十五分頃にて。


青葉

『よっ、るーいるい。まだまだ起きてるっしょ。ちょっと話そうZE☆』


なぎ

『おやすみ』


青葉

『待てって! お前絶対寝ないだろ! どうせゲームやってるか動画見てるかの二択なんだろうが!』


なぎ

『ストーカー?』


青葉

『それほどお前に対して深い愛をだな……』


なぎ

『初めてブロック機能使うかも。どうやるんだっけ』


なぎ

『教えて青葉』


青葉

『おかしくね? ブロックしようとしてる相手にその方法聞くのおかしくね?』


なぎ

『うるさ』


青葉

『おい』


なぎ

『で、なに? 今配信見てるんですけど』


青葉

『やっぱ余裕で起きてんじゃねぇか』


なぎ

『じゃ、お疲れ』


青葉

『分かったって! さっさと用件言うから! ちょっとだけ付き合ってるいるい!』


なぎ

『るいるい言うな。なんなの』


青葉

『お前今日誕生日やん?』


なぎ

『で?』


青葉

『いやほら、俺の誕生日のときお前にレアアイテム貰ったからさ』


青葉

『なんか俺もあげようかなって』


なぎ

『あーそういえばそうだったね』


青葉

『考えても分からねーから、もう本人に聞こって』


青葉

『俺様にプレゼントして欲しいものがあればなんでも言いたまえ!』


なぎ

『パソコン。最新スペックの』


青葉

『むり。次』


なぎ

『アケコン。最新の』


青葉

『むり。次』


なぎ

『ヘッドセット。最新の』


青葉

『むり。次』


なぎ

『おやすみ。じゃ』


青葉

『無理に決まってんだろ! 高校生が気軽に買えるもんじゃねぇ!!』


なぎ

『使えない』


青葉

『使えないとか言うな!!』


なぎ

『あのさ』


青葉

『んだよ』


なぎ

『別に無理になにかしなくていいから』


なぎ

『わたしだってお返しが欲しくてアイテムあげたわけじゃないし』


青葉

『断る』


なぎ

『なんで』


青葉

『俺の気が済まない』


なぎ

『自分のためってこと?』


青葉

『そうだ。俺の自己満足のためだ』


青葉

『なんかさせろ』


なぎ

『なにそれ』


なぎ

『でもま、あんたらしいかもね』


青葉

『ハッハッハ! そうだろう! 褒めてもイケメンしか出ないぞ!』


なぎ

『イケメンどこ?』


青葉

『ここ』


なぎ

『あ、ごめんなぜか文字化けして見えない』


青葉

『だからお前のスマホ都合がいいな!?』


なぎ

『実際、急に言われても困るんだけど』


なぎ

『パッと思いつくようなものなんて』


なぎ

『あ』


青葉

『お?』


なぎ

『物じゃなくていい?』


青葉

『もちろん。なにかねなぎちゃん』


なぎ

『なぎちゃん言うな』


青葉

『るい♡』


なぎ

『キモ過ぎてキーボード投げそうになった』


青葉

『泣いた』


青葉

『で、なんだよ。言ってみなさい』


なぎ

『駅前のゲーセンあるじゃん。あんたとも結構行くところ』


青葉

『あーうん。そこが?』


なぎ

『そこで、来週末に大会があるの』


青葉

『大会?』


なぎ

『そう。あんたとよくやる格ゲーのね』


青葉

『豪拳?』


なぎ

『それ。豪拳』


なぎ

『その大会に、わたしがよく見るプロゲーマーの人も来るんだって』


青葉

『え、マジ? やば』


なぎ

『選手側じゃなくて解説? とかだった気がするけど』


なぎ

『わたし、その人の動画昔から見てたからさ』


なぎ

『リアルで見てみたくて』


青葉

『ファンってわけか、なるほどな。そんで、俺がどう関わってくるんだよ?』


なぎ

『せっかくだから、わたしのその大会に参加しようって思ってる』


青葉

『おー! マジかよ! あの引きこもりるいるいが!?』


なぎ

『うるさい。ただ見に行くだけじゃアレだし、どうせなら大会に出てみようかなって』


なぎ

『ちょっと興味あったし』


青葉

『お前ならワンチャン優勝できんじゃね? オンラインでも上のランクなんだろ?』


なぎ

『そんな甘くないと思うけど』


なぎ

『だけど、大会に一人で行くとか無理ゲーだから』


青葉

『俺に付き添ってほしいってわけか』


なぎ

『そゆこと』


青葉

『つまりデートのお誘いってことでOK?』


なぎ

『NO。絶対NO』


青葉

『まぁ、格ゲーの大会なんて男ばっかりだろうし……女子一人で行くのはキツいか』


なぎ

『そう。だから晴香とかにも頼めなくて』


青葉

『蓮見とか月ノ瀬レベルの美少女がいたら超目立ちそうだしな』


なぎ

『こういうの頼めるのあんたしかいなかった』 


青葉

『あ、今の台詞いいね! ドキっとしちゃうわ!』


青葉

『でも司でもよくね? なんなら二人で付き添ってやろうか?』


なぎ

『こんな個人的なこと朝陽君に頼むわけないでしょ』


青葉

『待てや。俺ならいいのかよ』


なぎ

『あんたなら気を遣わなくていいから。遣う必要ないし』


青葉

『そんな感じだと思ったわ』


なぎ

『別に嫌ならいいけど』


青葉

『いいぜ』


なぎ

『はや』


青葉

『断る理由ねーもん。ただお前の付き添いして、試合を見てればいいんだろ?』


なぎ

『そうだけど……』


青葉

『むしろ楽しそうじゃねーの。俺は大会に出れるほど上手くないし、るいるい選手のボディーガードをしてやろう!』


なぎ

『正直、快諾されるなんて思ってなかった』


青葉

『誕生日プレゼントのお返しってことで。詳細はまた改めて連絡くれよ』


なぎ

『分かった』


なぎ

『あ』


なぎ

『ありがとう』


青葉

『おうよ。むしろ俺の自己満足に応えてくれて感謝だぜ』


なぎ

『めんどくさ』


青葉

『んだと!』


なぎ

『ま、そんな感じで。よろしく』


青葉

『はいよ』


青葉

『あ、渚』


なぎ

『なに』


青葉

『どうせなら今見てる配信のリンク貼ってくれよ。大会に来るってのもその人なんだろ?』


なぎ

『そうだけど』


青葉

『どうせまだ寝ないからさ。見ながら解説してくれね?』


青葉

『大会見に行くなら、ある程度の知識を付けてた方が楽しめるし。俺普段そういうの全然気にしてねーからさ』


なぎ

『え、同じ配信見てわたしが解説するの?』


青葉

『そうだが?』


なぎ

『なんかそれ』


青葉

『おん?』


なぎ

『なんでもない』


青葉

『はーやーくー!』


なぎ

『うるさ。はい』


※動画URL


青葉

『サンキュー!』


青葉

『あ、これ相手のキャラってお前の持ちキャラじゃん! お前以外で使ってる人いるんだな』


なぎ

『少ないけどね』


なぎ

『あ、ほらさっきの下段攻撃見た?』


青葉

『おん』


なぎ

『あれって明らかに相手の動きを見てから出してて。カウンターからコンボ取ったからダメージ増えるわけ』


青葉

『ふむふむ。あ、そんなこと話してたら負けちゃったぞお前のキャラ』


なぎ

『これはプロゲーマーのほうが上手いだけ。アマチュア同士なら分からなかった』


青葉

『なるほどなー』


なぎ

『ちなみにこの人のどこが上手いのかっていうと』


 × × ×


 動画を見ながらキーボードをカタカタと入力する。


 試合内容を解説して青葉に伝えて、青葉からの質問に答えて。


 手元と目がなんとも忙しいけど――


 なんというか……うん。


 楽しい。


 癪だけど。

 ホントに癪だけど。


 同じものを見て。


 同じことを話して。


 同じ時間を共有して。


 ――楽しいと、思ってしまった。


 今まで、わたしにとって友人と呼べるのは晴香だけで……その晴香はゲーム関係のことは全然詳しくないし。


 だからずっと一人で楽しんできたわけだけど……。


 話せる相手ができて、今もこうして話している。


 ――あ、いや。


 別にだからといってどうってことはないけど。うん。


 楽しいけど……それだけだし。


 青葉がどうこうってわけじゃ……。


 ――『つまりデートのお誘いってことでOK?』


 違う違う。絶対違う。


 わたしが言った通り、これは頼める相手がアイツしかいないからだ。


 ホントにそれだけだ。


 ……わたしは誰に対して言い訳しているんだろうか。


 よく喋る心の中のわたしにため息が出る。


 とりあえず大会にエントリーして、それまでにもっと腕を磨いておかなきゃ。


 参加する以上勝ちにいきたいし。


「あ、今の上手い……。アイツにも教えてあげよう」


 リアルタイムで流れた上手なプレイを青葉に伝えようとしたとき――


「……ん?」


 青葉からメッセージがまた送られてきた。

 

 今わたしが解説を打ち込んでる最中なのに……。


 なになに……。




青葉

『あ、そういえばちゃんと言ってなかったわ』


青葉

『誕生日、おめでとさん。今年もよろしくな』



 キーボードを入力する手が止まる。


 どうしてコイツは、普段は適当なのにこういうときだけ律儀なのだろう。


 あぁ……もう、腹が立ってくる。


 そんなヤツへの返信なんて、一言でいい。



「『うるさ』……と」



 うん。これでいい。


 さ、配信に戻ろう。



 …………。



 まったく……。






「……ありがとう」


 


 本当に。本当に。嫌いだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ