閑話23 渚留衣・誕生日LINE②【渚留衣・青葉昴】
八月三日。零時十五分頃にて。
青葉
『よっ、るーいるい。まだまだ起きてるっしょ。ちょっと話そうZE☆』
なぎ
『おやすみ』
青葉
『待てって! お前絶対寝ないだろ! どうせゲームやってるか動画見てるかの二択なんだろうが!』
なぎ
『ストーカー?』
青葉
『それほどお前に対して深い愛をだな……』
なぎ
『初めてブロック機能使うかも。どうやるんだっけ』
なぎ
『教えて青葉』
青葉
『おかしくね? ブロックしようとしてる相手にその方法聞くのおかしくね?』
なぎ
『うるさ』
青葉
『おい』
なぎ
『で、なに? 今配信見てるんですけど』
青葉
『やっぱ余裕で起きてんじゃねぇか』
なぎ
『じゃ、お疲れ』
青葉
『分かったって! さっさと用件言うから! ちょっとだけ付き合ってるいるい!』
なぎ
『るいるい言うな。なんなの』
青葉
『お前今日誕生日やん?』
なぎ
『で?』
青葉
『いやほら、俺の誕生日のときお前にレアアイテム貰ったからさ』
青葉
『なんか俺もあげようかなって』
なぎ
『あーそういえばそうだったね』
青葉
『考えても分からねーから、もう本人に聞こって』
青葉
『俺様にプレゼントして欲しいものがあればなんでも言いたまえ!』
なぎ
『パソコン。最新スペックの』
青葉
『むり。次』
なぎ
『アケコン。最新の』
青葉
『むり。次』
なぎ
『ヘッドセット。最新の』
青葉
『むり。次』
なぎ
『おやすみ。じゃ』
青葉
『無理に決まってんだろ! 高校生が気軽に買えるもんじゃねぇ!!』
なぎ
『使えない』
青葉
『使えないとか言うな!!』
なぎ
『あのさ』
青葉
『んだよ』
なぎ
『別に無理になにかしなくていいから』
なぎ
『わたしだってお返しが欲しくてアイテムあげたわけじゃないし』
青葉
『断る』
なぎ
『なんで』
青葉
『俺の気が済まない』
なぎ
『自分のためってこと?』
青葉
『そうだ。俺の自己満足のためだ』
青葉
『なんかさせろ』
なぎ
『なにそれ』
なぎ
『でもま、あんたらしいかもね』
青葉
『ハッハッハ! そうだろう! 褒めてもイケメンしか出ないぞ!』
なぎ
『イケメンどこ?』
青葉
『ここ』
なぎ
『あ、ごめんなぜか文字化けして見えない』
青葉
『だからお前のスマホ都合がいいな!?』
なぎ
『実際、急に言われても困るんだけど』
なぎ
『パッと思いつくようなものなんて』
なぎ
『あ』
青葉
『お?』
なぎ
『物じゃなくていい?』
青葉
『もちろん。なにかねなぎちゃん』
なぎ
『なぎちゃん言うな』
青葉
『るい♡』
なぎ
『キモ過ぎてキーボード投げそうになった』
青葉
『泣いた』
青葉
『で、なんだよ。言ってみなさい』
なぎ
『駅前のゲーセンあるじゃん。あんたとも結構行くところ』
青葉
『あーうん。そこが?』
なぎ
『そこで、来週末に大会があるの』
青葉
『大会?』
なぎ
『そう。あんたとよくやる格ゲーのね』
青葉
『豪拳?』
なぎ
『それ。豪拳』
なぎ
『その大会に、わたしがよく見るプロゲーマーの人も来るんだって』
青葉
『え、マジ? やば』
なぎ
『選手側じゃなくて解説? とかだった気がするけど』
なぎ
『わたし、その人の動画昔から見てたからさ』
なぎ
『リアルで見てみたくて』
青葉
『ファンってわけか、なるほどな。そんで、俺がどう関わってくるんだよ?』
なぎ
『せっかくだから、わたしのその大会に参加しようって思ってる』
青葉
『おー! マジかよ! あの引きこもりるいるいが!?』
なぎ
『うるさい。ただ見に行くだけじゃアレだし、どうせなら大会に出てみようかなって』
なぎ
『ちょっと興味あったし』
青葉
『お前ならワンチャン優勝できんじゃね? オンラインでも上のランクなんだろ?』
なぎ
『そんな甘くないと思うけど』
なぎ
『だけど、大会に一人で行くとか無理ゲーだから』
青葉
『俺に付き添ってほしいってわけか』
なぎ
『そゆこと』
青葉
『つまりデートのお誘いってことでOK?』
なぎ
『NO。絶対NO』
青葉
『まぁ、格ゲーの大会なんて男ばっかりだろうし……女子一人で行くのはキツいか』
なぎ
『そう。だから晴香とかにも頼めなくて』
青葉
『蓮見とか月ノ瀬レベルの美少女がいたら超目立ちそうだしな』
なぎ
『こういうの頼めるのあんたしかいなかった』
青葉
『あ、今の台詞いいね! ドキっとしちゃうわ!』
青葉
『でも司でもよくね? なんなら二人で付き添ってやろうか?』
なぎ
『こんな個人的なこと朝陽君に頼むわけないでしょ』
青葉
『待てや。俺ならいいのかよ』
なぎ
『あんたなら気を遣わなくていいから。遣う必要ないし』
青葉
『そんな感じだと思ったわ』
なぎ
『別に嫌ならいいけど』
青葉
『いいぜ』
なぎ
『はや』
青葉
『断る理由ねーもん。ただお前の付き添いして、試合を見てればいいんだろ?』
なぎ
『そうだけど……』
青葉
『むしろ楽しそうじゃねーの。俺は大会に出れるほど上手くないし、るいるい選手のボディーガードをしてやろう!』
なぎ
『正直、快諾されるなんて思ってなかった』
青葉
『誕生日プレゼントのお返しってことで。詳細はまた改めて連絡くれよ』
なぎ
『分かった』
なぎ
『あ』
なぎ
『ありがとう』
青葉
『おうよ。むしろ俺の自己満足に応えてくれて感謝だぜ』
なぎ
『めんどくさ』
青葉
『んだと!』
なぎ
『ま、そんな感じで。よろしく』
青葉
『はいよ』
青葉
『あ、渚』
なぎ
『なに』
青葉
『どうせなら今見てる配信のリンク貼ってくれよ。大会に来るってのもその人なんだろ?』
なぎ
『そうだけど』
青葉
『どうせまだ寝ないからさ。見ながら解説してくれね?』
青葉
『大会見に行くなら、ある程度の知識を付けてた方が楽しめるし。俺普段そういうの全然気にしてねーからさ』
なぎ
『え、同じ配信見てわたしが解説するの?』
青葉
『そうだが?』
なぎ
『なんかそれ』
青葉
『おん?』
なぎ
『なんでもない』
青葉
『はーやーくー!』
なぎ
『うるさ。はい』
※動画URL
青葉
『サンキュー!』
青葉
『あ、これ相手のキャラってお前の持ちキャラじゃん! お前以外で使ってる人いるんだな』
なぎ
『少ないけどね』
なぎ
『あ、ほらさっきの下段攻撃見た?』
青葉
『おん』
なぎ
『あれって明らかに相手の動きを見てから出してて。カウンターからコンボ取ったからダメージ増えるわけ』
青葉
『ふむふむ。あ、そんなこと話してたら負けちゃったぞお前のキャラ』
なぎ
『これはプロゲーマーのほうが上手いだけ。アマチュア同士なら分からなかった』
青葉
『なるほどなー』
なぎ
『ちなみにこの人のどこが上手いのかっていうと』
× × ×
動画を見ながらキーボードをカタカタと入力する。
試合内容を解説して青葉に伝えて、青葉からの質問に答えて。
手元と目がなんとも忙しいけど――
なんというか……うん。
楽しい。
癪だけど。
ホントに癪だけど。
同じものを見て。
同じことを話して。
同じ時間を共有して。
――楽しいと、思ってしまった。
今まで、わたしにとって友人と呼べるのは晴香だけで……その晴香はゲーム関係のことは全然詳しくないし。
だからずっと一人で楽しんできたわけだけど……。
話せる相手ができて、今もこうして話している。
――あ、いや。
別にだからといってどうってことはないけど。うん。
楽しいけど……それだけだし。
青葉がどうこうってわけじゃ……。
――『つまりデートのお誘いってことでOK?』
違う違う。絶対違う。
わたしが言った通り、これは頼める相手がアイツしかいないからだ。
ホントにそれだけだ。
……わたしは誰に対して言い訳しているんだろうか。
よく喋る心の中のわたしにため息が出る。
とりあえず大会にエントリーして、それまでにもっと腕を磨いておかなきゃ。
参加する以上勝ちにいきたいし。
「あ、今の上手い……。アイツにも教えてあげよう」
リアルタイムで流れた上手なプレイを青葉に伝えようとしたとき――
「……ん?」
青葉からメッセージがまた送られてきた。
今わたしが解説を打ち込んでる最中なのに……。
なになに……。
青葉
『あ、そういえばちゃんと言ってなかったわ』
青葉
『誕生日、おめでとさん。今年もよろしくな』
キーボードを入力する手が止まる。
どうしてコイツは、普段は適当なのにこういうときだけ律儀なのだろう。
あぁ……もう、腹が立ってくる。
そんなヤツへの返信なんて、一言でいい。
「『うるさ』……と」
うん。これでいい。
さ、配信に戻ろう。
…………。
まったく……。
「……ありがとう」
本当に。本当に。嫌いだ。