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第12話 戦士たちは試験に挑む

「転校してから二週間ほどしか経っていませんが……朝陽さんって、仲のいい女性がたくさんいるんですね」

「マジでそうだぞ。ラブコメの主人公かってくらいすごいからな、アイツ」

「ふふ。私が転校して来た日も、青葉さん叫んでいましたもんね」

「そりゃ叫ぶだろ。そもそも転校してきた子が実は~なんて、漫画の世界だっつの」

「もし――」

「あん?」

「もし私も、朝陽さんに好意を寄せていると言ったら――どうしますか?」


 青く澄んだ美しい瞳が俺をジッと見つめる。


 放課後、なぜか俺は今、廊下で月ノ瀬と二人で話していた。

 そして突然の……質問。


 いったいなぜ、こんな状況になったのだろうか。


 時間は遡って――。


 × × ×


 朝。


 会長さんの乱入で一波乱あったが、改めて今日から三日間は試験期間である。

 俺もやれるだけやりますかぁ。いい成績だったらもちろん嬉しいし。


 高得点を取って司に自慢してやらねぇとな。こういうところじゃないと司にドヤ顔できないし。


 ……あれ? それって俺は司に勉強しか勝てないって言ってるようなものじゃないか?

 いやいや、そんなことない。運動も間違いなく俺の方ができる。……できるはず。


 え? ほか?


 ──知りませんねぇ。


 そ、そんなことよりテストの方が大事だから! 変なこと考えるな俺!


 × × ×


 時間は過ぎ、無事に本日のテストが終了した。

 まだ一日目とはいえ、やはりテストというのは疲れる。


 帰りのホームルームを終えた教室は喧騒に包まれていた。やはり会話内容の大半はテストの答え合わせだろう。


 窓の外にはまだ太陽が燦々と輝いてる。

 んー……午前中で学校が終わるって最高だなぁ。


 俺は大きく伸びをした。


「あー終わった……昴、テストどうだった?」


 俺と同じように解放感に包まれていた司が疲れ切った表情で話しかけてきた。


「まぁまぁだな。問題はないと思うぜ」

「お前のまぁまぁと俺のまぁまぁは違うんだろうなぁ……」

「ふふふ。俺のまぁまぁが七十点くらいなら、お前のまぁまぁは五十点くらいだもんな」

「言うなって! お前なぁ!」


 俺は右手を口元に当てて意地悪く笑う。

 でも、見てる感じ今のところは大丈夫そうだな。


 赤点取らないように家でも志乃ちゃんに言われてるだろうし、酷い結果にはならないだろう。


 ……ドジらなければの話だけど。

 

「ねぇねぇ、みんなは放課後どうするの?」

 

 先ほどまで問題用紙を見て自己採点をしていた蓮見が、顔を上げて俺たちを見た。

 

 蓮見も……まぁ大丈夫そうだな。

 といっても今日は蓮見の苦手な教科は無かったしな。


「俺はなにもないよ。みんなは?」

「俺もなんもねぇな」

「わたしもないよ」

「私も特には……」

 

 俺たちは順番に返答していく。

 

「ならさ、今日も勉強していかない? もちろんみんながよければだけど……」


 テスト期間中の放課後は部活動が禁止されるだけで、基本的には自由だ。 

 すぐ帰るのもいいし、学校に残って勉強するのもありだ。


 実際、期間中は図書室の利用率が跳ね上がる。誘惑がない分、家より学校で勉強したほうが効率が上がるのだろう。


 特に予定が無かった俺たちは、蓮見の提案に「いいよ」と承諾した。


 その返答に蓮見はパァッと表情を明るくする。可愛い。


「やった! せっかくだから今日のテストの答え合わせとかしたくてさ。場所は前の空き教室でいい?」

「いいと思う。あ、志乃は今日クラスの友達と勉強して帰るって言ってたからこのメンバーで大丈夫そうかな」

「分かった! 私、ちょっと先生に呼ばれてるからそれが終わったら合流するね! 先行ってて!」


 そう言うと蓮見はパタパタと教室から出ていく。


「さーてと、ほんじゃ行きますか」

「……わたし、正直不安だからみんなと答え合わせしたいかも」

「ははっ、だから渚さんちょっと元気なかったのか」

 

 え、そうなの?

 いつも気だるそうにしてるから全然分からなかったんだけど?


 司の意外な言葉に渚は驚いていた。


「……う、うん。……バレてたんだ」

「さすがにね。なぁ、昴?」


 おっと? こっちに来たぞ?

 俺はソソソっと視界を斜め上にずらした。


「……朝陽君、あの顔は絶対分かってないやつだよ」

「あーうん。……ごめん、昴」

「なななななな、なんの話かなぁ?」

「はぁ……行こう、朝陽君。月ノ瀬さんも」

 

 いや分かるわけないだろ! そんなにジロジロ女子の顔見てたらヤバい男やんけ!

 ……とは言ったものの、司はよく渚の変化に気が付いたなぁ。


 それほどみんなのことをよく見ているのだろう。


 そういった小さな変化を見逃さないところがまた、司がモテる理由の一つなんだろうなぁ。

 我が親友の素晴らしさに感心。


「――あれ?」


 気が付くと、司たちが教室から消えていた。

 

 ……ふっ、どうやら置いていかれたってわけか。


 ………。


「いやちょっと待ってくれよ君たち~!」


 俺は急いで準備をして、司たちを追いかけていった。


 × × ×


 ――そして三十分ほど経過して。

 俺は一旦空き教室から退室し、トイレを済ませていた。


「ふいー。いやー外はいい天気だなぁ」


 空き教室と各トイレは、それぞれ廊下の両端に位置している。

 廊下自体はそんなに長くはないため、十秒程度歩いていけば辿りつける距離だ。


 俺は窓の外を眺めながら、のんびり空き教室に向かって歩いていた。


 こんなにいい天気なんだから外で身体動かしたいなぁ。


 ダラダラと歩き、俺は空き教室の前にたどり着く。


 中に入るため、ドアを少し開けたところで――。


 俺は、すぐに手を止めた。


「うわ、たしかに答えそっちじゃん! ミスったぁ……」

「ま、仕方ないよ。朝陽君、次の問題の答えはなににしたの?」

「俺は――」

「……え、嘘。わたしと違う。どうしよう」


 僅かに開いた扉の先から聞こえてきた声。


「……あ。これ、朝陽君の答えが正解だ。はぁ……間違えたぁ」

「お、これは渚さんに勝てそうかな?」

「ふふ、負けないから」


 俺は音を立てないように扉を閉める。

 そして一歩、扉から離れて腕を組んだ。


 うーむ。これはこれは……。

 扉は少ししか開いていないから、しっかり中が見えたわけじゃないが……。


 現在空き教室では、司と渚が仲良さげにテストの答え合わせをしていた。


 さーて、どうするかなぁ……。


 あれ……てか月ノ瀬は? アイツなんでいないの? いなかったよな?

 あと蓮見は? 


 俺はポケットからスマホを取り出してLINEを開く。


 この間蓮見が作成したグループを開くと、そこには一件のメッセージが来ていた。

 

 ――『ごめん! もう少し時間かかりそう!』


 ほーうほうほう。ほーうほうほうほう。


「面白いからこのまま放置しておこっと」


 ニヤりと笑い、俺はスマホをしまう。

 本当ならこのまま隙間から様子を見ていたいが、バレたらそれはもう大変なことになってしまうだろう。


 運動も兼ねて廊下往復大作戦でもする?

 トイレ籠城作戦でもする?


 うーんうーん、と頭を悩ませていると……。


「――青葉さん?」


 女子の可愛らしい声が耳に届く。

 そんな声で俺を呼ぶのは誰だ?


 呼ばれた方へと顔を向けると――


「あれ、月ノ瀬」


 ドアの前で立っている俺を見て、首を傾げた月ノ瀬の姿があった。


「お前もどっか行ってたのか」

「ええ、ちょっとお手洗いに……」


 ああ、なるほど。だからいなかったのか。


「そんなところに立って……どうかされたんですか?」

 

 月ノ瀬はそのまま歩いてくると、俺の隣に並んだ。

 

「あー……まぁ、ちょっとな」


 さて、どう答えるべきだろう。

 司と渚がさーと答えたところで、月ノ瀬からしたら関係ないだろうし。


 俺が言葉を選んでいると、その間に月ノ瀬はまず扉を見て……そのあとスマホを取り出した。


 そして、なにか理解したように「……なるほど」と小さく頷いた。


 ――おっと? まさか俺の言いたいこと全部分かったのか?


 てことは……さっきスマホを見ていたのは、蓮見からのメッセージを確認していたのだろう。


「ふふ、そういうことですか」

「察しがよろしいことで」

「ありがとうございます」


 月ノ瀬は小さく笑う。

 その表情は、どこか楽しそうに見えた。


 さすが優等生、頭の回転も早いことで……。


「別にお前は入って行ってもいいんだぜ? それもそれで面白いからな」

「でもそしたら青葉さん、その様子を隙間から覗くのでしょう?」

「ふっふっふ。それについてはノーコメントってやつだぜ」

「それ、答えを言っているようなものですよ?」


 おっと。と俺はわざとらしく口元を抑えた。

 そんな俺を見て月ノ瀬はまた笑う。


 大人しいヤツだが、結構表情豊かなんだよなぁ……。


 月ノ瀬は視線を落とし、顎に手を添えて考える素振りを見せる。


 大方、教室に入るかどうか決めかねているのだろう。

 別に俺が勝手に楽しんでいるだけなのだから、気にしないで入っていけばいいのに……。


「……あ、それでしたら青葉さん」


 答えが決まったのか、顔を上げて俺の方を向いた。


「おん?」


 俺は特になにも考えていなかったため、ポケーっとしたまま返事をする。

 月ノ瀬を穏やかな表情で、俺に告げた。

 

「――少し、二人でお話しませんか?」


 ……。


 …………。


 え?


 ――え?

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