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第91.5話 川咲日向はやべー先輩について聞かれる

 あー勉強かぁ。ヤダなぁ。

 テストなくなってくれないかなぁ。


 なんて言っても当然なくなるわけもなく──


 先輩たちに勉強会に誘われたあたしは、現在帰り支度を済ませていた。


 あたしの後ろの席である志乃も同様に、教科書やノート類を鞄にしまっている。


 司先輩が待ってるから早く行かないと……!

 

 はぇ? 昴先輩?


 あの人は……まぁ待たせてもダイジョーブ。なにも問題なし。うんうん。


「ねぇねぇ、日向ちゃん! 志乃ちゃん!」

「なにー、よっちゃん」


 先ほどまで一緒に話していたクラスメイトの一人、黒縁丸メガネがトレードマークのよっちゃんがニコニコしながら話しかけてきた。


「さっきの先輩たちって誰? 志乃ちゃんのお兄さん?」

「そーだよー! 黒髪の人が司先輩! 志乃のお兄ちゃん!」


 そういえば高校に上がってから、先輩たちがあたしたちの教室に来ることはめっきり無くなった。


 中学時代は結構な頻度で来てたんだけど……アレは志乃の様子を見にきてたんだろうなぁ。


 当時はまだ少し不安定なところがあったし……。


「あっ、あの先輩が噂の司先輩なんだぁ。志乃ちゃんと苗字同じだもんね!」


 おろ……?

 

「え? 兄さんって噂になってるの?」


 志乃の質問によっちゃんが頷いて話を続ける。


 噂とはなんぞや……!?

 あたし気になるんだけど……!?


「うんうん。優しくていい先輩だーって。一年の子とか何回か助けてもらったことあるみたい」

「うわーまさに司先輩らしいなー」


 司先輩は困っている人を見るとすぐに声をかける人だ。


 それは先輩後輩、学校の中や外であっても変わらない。


 そこが先輩の魅力の一つなのである! これ日向的ワンポイントねっ!


 あれ……?

 じゃあ司先輩ってそこそこ有名だったり……?


「たしかに優しそうだったし、志乃ちゃんは素敵なお兄さんがいるんだねー!」

「うん、自慢の兄さんだよ?」

「おー、志乃ちゃんの兄自慢!」

「そーそー! 司先輩は優しくて素敵な先輩なのだよー!」

「もう……なんで日向が得意げなの?」


 実際、志乃と司先輩はとても仲良しだ。


 血の繋がった兄妹ではないけど、そんなの関係なしにお互いのことを大切に想っているのが伝わってくる。


 さっきも司先輩がシスコンっぷりを発揮してたけど……。


 その気持ちはすごーく分かる! 志乃可愛いし!


「あ、じゃあ……もしかして……お兄さんと一緒にいたかっこいい先輩って、まさか……」


 よっちゃんは先輩たちが待っているであろう扉のほうをチラッと見る。

 


 かっこいい先輩……?

 え、かっこいい先輩……?

 かっこいい、先輩……?




 …………。




 あぁ!


「昴さんのこと?」


 志乃が首をかしげながら昴先輩の名前を出した。


 そうだそうだ。

 あの人顔はいいんだった。


 普段の言動のせいで完全に忘れてたけど……。

 なにも知らない子が見たらあの人って、ただのかっこいい先輩なのか……。


 えー……なんかヤダぁ。


 しかし、そんなあたしの予想とは違う方向へ話は進み――


「昴さん……ってひょっとして、青葉昴先輩だったりする?」

「ほぇ? よっちゃん、昴先輩のこと知ってるの?」

「知ってるっていうか……部活のときに二年の先輩に教わったんだ。『同学年に残念イケメン』がいるって」


 ――あ、もうそれだけでだいたい分かった気がする。


 残念イケメンってもう……完全に昴先輩のことじゃん。

 これ以上にないほど昴先輩にピッタリな言葉じゃん。


 あたしと志乃は顔を見合わせ、お互いになにか察したように「あー……」と声を漏らす。


「えっと……ちなみにどんな話を聞いたの?」


 志乃ちゃんが恐る恐る尋ねると、よっちゃんが「うーんとねぇ」と腕を組む。


「例えば……廊下ですれ違うと、ウィンクとか謎のスマイルをしてくるとか」


 うわ。


「校庭に大きな謎の絵を描いて『見よ! 名付けてスバルの地上絵だ!』とか言ってドヤ顔でみんなに見せてくるとか」


 うわ……。


「アイドルごっことか言って階段の踊り場でライブ始めたりとか。それも女性アイドルのほうね」


 うーわ……。


「勉強も運動も出来て、顔もいいのに……とにかく言動がすべてを無にしているやべーヤツ……ってその先輩は言ってたかな」

「うわー……まさに昴先輩らしいなー……」


 ――反論できる要素が一つもなかった。


 これでも昴先輩とはそこそこ長い付き合いだ。


 流石になにか気に障ることとか、ムッとくるようなことがあれば言い返そうと思ったけど……。


 ……うん。無理だねこれ。


 昴先輩ならそういうことを平気でやってもおかしくないし……。


 それに――


「ねぇ志乃、あの人って中学のときもそんなんじゃなかった?」

「そ、そうかも……」

「だよねー……」


 志乃もあたしと同じ気持ちのようだ。


 あたちたちはもう一回顔を見合わせて――


「あははっ」

「ふふ」


 同時に笑い合った。

 呆れ笑い……と言ってもいいかもしれない。


 あたしたちがずっと知っている青葉昴先輩そのままで――


 なんだか少し……安心した。


 まったくもう……昴先輩はいっつもバカなことしてるんだなー……。


「二人って先輩たちと仲良さそうだったけど……」

「うん、あたしたちって同じ中学なんだよね」

「あの頃から……昴さんってそういう人だったよね」

「そうそう、当時からあたしたちも言われてたんだ。一個上にやべー男子がいるって」

「え、えぇ……そんな先輩と仲良しなんだ……すごいね……」


 バスケ部の先輩にも言われたなぁ。

 『青葉昴には騙されるなよ~!』って。


 最初に昴先輩と顔を合わせたときは、それこそ『イケメンの先輩じゃん!?』とか思ったけど……。


 あの人と関わって残念な部分を目の当たりにしてきたことで、当初の印象は地平線の彼方へといってしまった。


 好き勝手いろいろなことをやっては、そのたびに司先輩に止められて……あたしと志乃がそれを見て笑って……。


 思い返せば……うん、懐かしい。


「たしかに残念なところも多いけど……」


 志乃が口を開く。

 同じように中学のことを思い出していたのか、懐かしさで目を細めていた。


「その分、いいところもたくさんあるんだよ? ね、日向?」


 うぇ……そこであたしに振る?


「なーんか素直に認めなくないけど……。……うん、まぁそうだねー」


 むむむ……と眉をひそめて同意する。

 

 癪だけど……志乃の言う通りだと思う。


 昴先輩はバカだけど、面白くて……いつもあたしたちを笑顔にしてくれる。これは事実だ。


 それに……あの人には遠慮しなくていいというか……なんというか……。


 そういう独特の雰囲気があると思う。


 面倒くさそうにしながらも、話は絶対に聞いてくれるし。


 先輩組の中で誰が一番気楽に話せるかって聞かれたら……昴先輩の名前を出すだろう。

 だってほら、気を遣わなくていいしね。楽だしね。うんうん。


 でも! いつもあたしのことをバカにしてくるからそれは許しません!

 頭ガッて掴んでくるし! あれ地味に痛いんだよ!?


 あの人、絶対あたしに対してだけ対応が雑だと思うんだ!? 志乃にはあんなに優しいのに!


 フコーヘーだと思います!


「へぇ!」


 志乃の話を聞いたよっちゃんの眼鏡がキラッと光った。


「そういえば志乃ちゃん、青葉先輩にはちょっと雰囲気違ったよね? ほかの男子には遠慮がちというか……そういう感じなのに」

「えっ、そ、そうかなぁ?」

「そうだよ! 可愛かったもん!」


 それはあたしも同意。


 超、同意。


「うーん……兄さんと昴さんって親友同士だから、私も接する機会が多くて……」

「中学も一緒って言ってたもんね」

「私にとっては、もう一人の兄さん……みたいな気持ちなの」

「おー……そういうことかぁ……なるほど……なるほど……? ふーん、そっかそっかぁ……」


 よっちゃんがニヤニヤしてるけど……どうしたんだろう?


 それにしても昴先輩がお兄ちゃん……かぁ。


 楽しそうだけど……うるさそうだなぁ。

 三日くらいなら我慢できそう。


 あたし的には司先輩がお兄ちゃんになってくれたほうが嬉しい!


 なんだかんだでいろいろ許してくれそうだし! 現にお兄ちゃん力高そうだし!


 先輩たちの話をするあたしたちのもとに――


『おい司! あの雲見てみろよ! 渡部さんに似てね!?』

『誰だよ』

『渡部さんだよ! 俺と同じアパートの一階に住んでるおっさん!』

『いやホントに誰だよ』

『いやー……アレは間違いなく渡部さんだ……渡部雲だ……』

『勝手に名前付けるなよ』


 なんとも、()()()会話が聞こえてきた。


 あたしは思わずため息をつく。


「まったくもー……せっかく志乃がフォローしてくれたのにあの人は……」

「ま、まぁああいうところが昴さんらしいからね……」


 志乃もすっかり苦笑いだ。


 てか渡部雲ってなに?

 あたしもちょっと気になるんだけど?


 見に行っていい?


「でも……ちょっと安心したかも」


 よっちゃんがホッと胸を撫で下ろした。


 なにに対して安心したんだろう?


「志乃ちゃんが心を開けるような相手がいて。それだけでよっちゃんは安心です!」

「ふっふっふ、そうでしょー!」

「だからなんで日向が得意げなの?」

「そりゃほら、志乃はあたしの将来の義妹(いもうと)だからね!」


 あたしは胸を張って堂々と言い放つ!


「日向……!?」


 だってそうでしょ!

 司先輩とー、結婚したらー!


 そういうことでしょ!?


 志乃に『日向お義姉さん』って一回くらい呼ばれてみたい!


「おー……! なるほどそういうご関係で…!」

「ご、誤解しないで……!? 違うからね?」


 よっちゃんがパチパチと拍手をした。


 今は違うけど、いずれはそうなるから!

 なってみせるから!


「あっ、というか先輩たち待たせてるのにごめんね……! じゃ、二人ともまた明日ね!」

「うん! またねーよっちゃん!」

「また明日」


 よっちゃんはあたしたちに手を振り、男子二人のところへ戻って行った。


 そういえば、先輩たちが来る前にあたしたちに言おうとしてたことなんだったんだろうなぁ。


 うーん……まぁいいや! 考えても分からないし!


「よーし志乃! 行こっ!」

「うん。頑張って勉強しようね?」

「うぐっ」


 ヤダなぁ……。


 がんばろっと……。


 ――あたしたちは鞄を持ち、先輩たちのところへ向かった。

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