閑話16 夕方LINE②【朝陽司・月ノ瀬玲】
午後四時頃にて。
月ノ瀬玲
『司、今って時間大丈夫?』
朝陽司
『大丈夫だよ。絶賛パシリ中』
月ノ瀬玲
『え、パシリ? アンタなにかしたの?』
朝陽司
『ゲームに負けた』
月ノ瀬玲
『は? ゲーム?』
朝陽司
『今、昴が家に来てるんだけどさ』
朝陽司
『志乃と三人でゲームして、負けた罰ゲームとしてコンビニパシリの刑に遭ってる』
月ノ瀬玲
『ああ、そういうことね』
朝陽司
『昴が執拗に俺を狙ってきてさ。もうボコボコだった』
月ノ瀬玲
『あー……なんか想像できたわ。アイツならそういうことやりそうね』
朝陽司
『外暑いのに大変だよ……』
月ノ瀬玲
『ふふ、頑張りなさいパシリくん?』
朝陽司
『誰がパシリくんだ』
月ノ瀬玲
『ついでに私も欲しいものあるからお願いしようかしら』
朝陽司
『無茶言うのやめてくれる?』
朝陽司
『あのおしとやかな月ノ瀬さんはどこに行ったのやら……』
月ノ瀬玲
『おしとやか……でしょうか?』
月ノ瀬玲
『その、そういうの私はよく分からなくて……!』
朝陽司
『急にお嬢様モードに切り替えるのやめてくれ。笑うから』
月ノ瀬玲
『笑うってなによ』
朝陽司
『まぁまぁ。それで、俺に用があるんでしょ? どうかした?』
月ノ瀬玲
『そういえばそうだったわね』
朝陽司
『そういえばて』
月ノ瀬玲
『駅前の大きいショッピングセンターあるじゃない?』
朝陽司
『うん』
月ノ瀬玲
『あそこで明日、七夕のちょっとしたイベントがあるみたいなの』
月ノ瀬玲
『ほら、もうそういう時期でしょ?』
朝陽司
『たしかに……七夕かぁ』
月ノ瀬玲
『それのお誘い。どんな感じなのか気になっちゃって』
月ノ瀬玲
『もちろん、アンタが暇だったらの話だけど……』
朝陽司
『いいよ』
月ノ瀬玲
『え』
朝陽司
『え?』
月ノ瀬玲
『軽くない?』
朝陽司
『そうかな? だって楽しそうだし』
朝陽司
『昴にはあとで俺から話しておくよ。蓮見さんたちには?』
月ノ瀬玲
『あー……だから軽いのね……納得』
朝陽司
『納得?』
月ノ瀬玲
『こっちの話よ。晴香にはすでに連絡済みで、留衣は用事があるからNGみたい』
朝陽司
『そうなんだ。用事があるなら仕方ないね』
月ノ瀬玲
『志乃と日向は?』
朝陽司
『そういえば志乃、明日は日向と会うって言ってたような気がするなぁ』
月ノ瀬玲
『なるほど。まぁ無理強いするものじゃないし、いけるメンバーで行きましょ』
朝陽司
『だなぁ』
月ノ瀬玲
『アンタさ』
朝陽司
『うん?』
月ノ瀬玲
『晴香たちもいるって分かってたから、私の誘いをすぐにOKしたの?』
朝陽司
『それもあるけど』
月ノ瀬玲
『けど?』
朝陽司
『君、まだ一人で街中歩けないでしょ』
月ノ瀬玲
『え?』
朝陽司
『前にあんなことあったしさ、また前のクラスメイトたちと鉢合わせしたら大変でしょ?』
朝陽司
『そういうとき、誰かしらが一緒にいればなんとかなるだろうし』
月ノ瀬玲
『じゃあ……もしもよ?』
月ノ瀬玲
『晴香たちが急に行けなくなって、二人きりだった場合でも……アンタは来てくれるの?』
朝陽司
『そりゃもちろん。それだったら尚更一人にはできないでしょ』
朝陽司
『君は強気に見えて意外とメンタル弱いし』
朝陽司
『……って、待てよ? そうなると男女二人で出かけるってことだよな。あれ? それって所謂……』
朝陽司
『あれ? 月ノ瀬さん? 返信ないけど大丈夫?』
月ノ瀬玲
『大丈夫。精神統一してただけだから』
朝陽司
『なんで急に……?』
月ノ瀬玲
『アンタは気にしなくていいの』
月ノ瀬玲
『まったく……そういうところよ、アンタは』
朝陽司
『どういうところですかね……』
月ノ瀬玲
『用はそれだけ。パシリ中ごめんなさいね。青葉たちにもよろしく言っておいて』
朝陽司
『はいはいっと。また明日よろしくな』
月ノ瀬玲
『ええ、また明日』
× × ×
「ビックリした……急に変なこと言われたから……」
顔が熱い。
クーラーが効いているのにも関わらず、パタパタと顔を扇いだ。
普段は鈍感なくせに変なところは気が利くんだから……。
たしかに司の言う通り、一人で街を出歩くのは……正直、まだ怖い。
また前の学校のヤツと顔を合わせたらって思うと――
「よく分からないヤツ……」
晴香はアレと一年以上一緒にいるのよね……。
苦労するわね……ホントに……。
「あ、その晴香に連絡しないとダメね」
司が来る旨を晴香に伝えよう。
青葉が来るのかは分からないけれど……そこは司に任せるとして……。
ふふ、テンションが上がる姿が目に見えるわ。
――いつか晴香とも、しっかり話をしないとね。
現状はまだお互いなんとなく察しているだけで、ハッキリとは伝え合っていないし……。
そのあたりは私自身、ちゃんとしておきたい。
とりあえず今は……。
明日の服を考える――もなにも、そういえば私って全然私服持ってないんだった。
ショッピングセンターへ行くついでに、晴香に洋服を選んでもらおうかしら……。
私、あまりそういうの詳しくないのよね……。
よし、明日が楽しみね。