3話 こじらせ達のダンス練習
「それで何で白雪が俺のペアなんだよ」
「こちらが聞きたいくらいです」
どんよりとした空気が俺と白雪の間で漂う。今回の社交ダンスで新入生は友達の輪を広げることが目的であると言われ、体育教師である平松によってくじ引きでペアを組まされた。
まあそもそも女子の時点でハズレなため、白雪でなければ誰でもいいやという心意気で引いたところ、唯一の大ハズレ枠が当たってしまったという訳である。
「……まあ別に真面目にやらんくても良いしな。取り敢えず体育の間は一人で舞ってるか」
そう。何も他の生徒たちの様に体を密着させて踊らなくても良いのである。
社交ダンスとは何ぞやとは思いもしないが、兎にも角にも変な所を触ったなどと言われてしまえば俺の未来が危うい。
てか第一、伝統だからって今頃こんな事させるなよって。
「そりゃ、とりゃっ」
「……あなたは一体何をしているのでしょうか?」
「いやダンスに決まってるだろ」
「ダンス? その無駄に長い手足を溺れた虫けらの様にバタバタとさせているのがでしょうか?」
むきー! ダンスが下手というのは百歩譲って良いとして別に溺れた虫けらみたいになんて言う必要ないだろ。
まったく、失礼な奴だ。
「何もしてないと怒られるからこうして社交ダンスの練習の体をなしてるんだ。お前も見てないでなんかしてろよ」
「はあ、あなたの提案に乗るようで癪ではありますが、あなたと体を重ね合わせるなど考えるだけで悍ましいですし。仕方ありませんね」
何ともまあ誤解を生むような表現をした後に白雪がその白く細長い手足を動かし始める。
ふん、どんなもんか見てやろうじゃねえか。
俺をあそこまで侮辱してたんだし、さぞ上手なんだろうなぁ!
うん、うんうん。
緩慢な動きに時折キレのある動きを混ぜ合わせる。手先、足先までを滑らかに動かしながら白雪は舞う。
そう、それはまさに天から下る天女の様に……。
「って上手いんかい!?」
「当たり前です。幼少期の頃からバレエを嗜んでおりましたので。あなたのようなドブネズミとは育ちが違うのですよ」
またもや凄まじい侮蔑の言葉が俺の心を刺してくる。
「育ちが良いんならもう少しその口汚さをどうにかしてくれ」
「これでも精一杯綺麗な言葉を選んで表現しております」
「うん、より酷かった」
ええ~。なんでこんな言われないといけないの俺? こいつに何かしたっけ? 何もしてないよね? ただ男ってだけで嫌われてるんだよねぇ!?
だったら他の男子にもそんな感じの悪口ぶつけてくんない!?
あ、でもこいつが他の男子と話しているところなんて見たことないわ。
じゃあ何で俺に話しかけてくんだよっ!!!!
「白雪さん、かっこいい!」
「ねえねえ白鳥さん、ダンスのやり方教えてくれない? 全然上手くいかなくてさ」
俺が絶望に打ちひしがれていると別のペアの女子たちが白雪の下へと集まっていく。
大分上手かったもんな。正直、先生に聞くよりも白雪に聞いた方がよっぽど良いだろう。
ペアであるというのに完全に蚊帳の外である。
まあ良いけど。元々、別々に練習するつもりだったし。
「はあ、ツイてねえな」
「まあまあ、そう落ち込むなって」
「大地か」
俺が自分の不運を呪っていると後ろの方から大地が話しかけてくる。
どうやら大地のペアの女子は白雪の下へと教えを請いに行っているらしく大地もフリーになっているみたいだ。
「せめて他の女子だったらマシだったのに」
「俺はお似合いだと思うけどな。あいつ、お前としかあんま話さないだろ?」
「ほとんど罵倒されてるだけだけどな」
「まだ良い方じゃねえか。俺なんて話しかけても『あ、はい』とか『分かりました』だけで会話を終わらせられるんだぜ?」
「いや俺もそっちのほうが良かったけどな」
少なくとも傷を負う事はないだろうし。まあ別にそこまで傷付いてる訳でもないけど。
寧ろ嫌悪感を露にされている方が安心感すらある。だってそんな相手から好かれてるって思う訳ないから、必然と「西里って白雪さんの方が好きらしいよ」なんていう下らない噂が流れなくなるだろうしな。
「一部じゃあお前と白雪がデキてるって噂もあるくらいなんだぜ?」
「はあっ!? どうしてそうなる」
って思ってたのに大地からは全く真逆の意見が飛び出してくる。
意味が分からない。どうして嫌悪されてる俺が白雪と付き合ってるみたいなことになってんだよ。
「だってあれ見ろよ。男子だけじゃなくて女子から話しかけられても滅茶苦茶素っ気ない態度なんだぜ?」
そう言われて白雪の方を見ると確かにあまりにも素っ気なく教えを請うてくる女子に対応している。
いや、教えていない訳ではなく動き方の細部まで教えているようなのだが、言い方があまりにも事務的なのである。
「人生ムッズ」
「何言ってんだお前は」
こうして俺の初回のダンス練習は終わりを告げるのであった。
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