1話 こじらせ達の部活動
「今日も一日、お疲れ様。また明日ね」
担任の天地先生がそう告げた瞬間、俺、西里玲は誰よりも早くに鞄を持ち、教室の外へ出ていこうとする。
部活に所属していない俺にとってこの場所に長居するのは無駄以外の何物でもない。
さっさと家に帰るのが吉である。
しかし、その目論みは担任が次に発した言葉で儚く散っていくのであった。
「あと、西里君と白雪さんは後で職員室まで来てください。お話がありますので」
そう言われて俺は鞄を掴もうとするその手をピタリと止める。
思い当たる事は一つしかない。
この学校では一年間は部活動に参加する必要があるのだが、そんなことをするくらいなら家で絵を描いていたい。
そのため、俺は今の今まで部活動は無いものとしてそれとなく過ごしていたのである。しかしまさか呼び出しを食らう羽目になるとは。
「はい」
俺がまだこの場を乗り切れる筈だと返事せずにいた所、俺に代わって天地先生の言葉に返事する者がいた。
白雪絢乃である。入学早々に学校一の美少女として噂が流れていた。そして入学試験も首席で入った才女らしい。
まさに俺とは対照的な完璧少女だ。
あいつも部活に入ってなかったのか。てっきり真面目な性格だからさっさと入ってるもんだと思っていた。
「西里君も分かりましたか?」
「……はい」
俺も渋々といった様子で返事をする。それを聞いた天地先生はうんと大きく頷き、教室から出ていった。
こういうのは早く終わらせるのに限る。よし、さっさと行くか。
天地先生が出ていったのを見計らって俺も教室の外へ出る。
職員室の前に行くと既に白雪絢乃が居た。どうせ一緒の用事だろうし、一緒に行くか。
「よっす。白雪も部活動入ってなかったんだな」
「……」
華麗なる無視である。え、ちょっとくらい反応してくれても良くないですか? まだ入学したばかりだというのに既に俺の格が低くなってる気がするんだが。
兎にも角にも気まずい雰囲気を流しながら二人で職員室の中へと入る。
「あ、二人とも。こっちこっち~」
職員室の中に入ると天地先生に呼ばれ、そちらへ向かう。
「何の用事でしょうか先生。出来れば早めに終わらせてほしいのですが」
いきなり何てことをぶちかますんだこの女は!? 先生の機嫌が悪くなっちまったら俺の「作戦アルファ:適当な返事をして本題から逃げる」が出来なくなっちまうじゃねえか!?
「二人が協力的だったらすぐ終わるよ~。じゃ早速聞くね? この学校では一年の間は部活動に入るのが必須なんだ。だからどこかの部活動に入ってほしいんだよ」
「嫌です」
「そんな話もありましたよね~。ところで近くの新しくできた喫茶店ってもう行かれましたか? あそこスイーツが充実しててそれでいて……」
「うん、ちょっと待ってね。先生の脳じゃ一気には処理できないから。まず西里君。無駄な事話し過ぎね。喫茶店? 何それちょっと行きたいかもだけど。後、白雪さんはもう少しその理由とかあったら、ね? スパッと行かれちゃうと先生も怖いから」
くっ、俺の「作戦ベータ:関係ない事をべらべらと喋る」は失敗に終わったか。
いや、でもこれは白雪の妨害さえなかったら大丈夫だったはずだ。ちょっとつられてたし。くそ、白雪め。やりやがったな。
「はあ、どうして二人ともそんなに部活に入りたくないの」
「「時間が無駄だからです」」
理由は二人とも同じらしくまるで仲の良い双子の様にまったくの同タイミングで声が重なる。
俺は白雪の理由が意外であったため、思わず隣を見るとあちらも俺の事を見ていたらしく一瞬だけ目が合う。
まあ、悲しくもその視線というのは酷く冷徹なものであったため、ほんわかとした雰囲気にはならなかったわけだが。
「そもそも部活動が強制される意味は何なのでしょうか? 本来、やりたい人だけがやれば良い物だと理解しております」
「う~ん、白雪さんの言う事も分かるんだけれど、部活動を通して成長できることも沢山あると思うんだよ。だからこの学校では一年生の間だけ強制してるんだよ」
「成長? 私は部活動をしなくとも成長できます。それに」
そう言うと白雪は何故か俺の方をちらりと一瞥するとこう続ける。
「そもそもどの部にも男子が沢山いるではありませんか。私、男性が苦手ですので入りたくありません」
何だ、男子が嫌いなだけで俺単体が嫌われてるわけじゃないのか。ふう、安心ってどっちにしろ嫌われてんじゃねえか。
「僕もそもそも集団行動があまり好きじゃありませんので人がいっぱいいるとちょっとしんどいと言いますか、家に帰りたいと言いますか」
おっと最後の方本音が出てしまった。
「はあ、お二人とも頑固ですね。頑固だし特殊だし……とにかく、この学校では校則として一年だけ部活に入らなければいけません。なので二人には今回私が顧問として新しく作ったこの部に入ってもらいます」
そう言って渡されたのは何やら文字が書かれた二枚の紙だった。部活動報告書みたいなやつだったか、その部活の名前を書く欄には「新聞部」と書かれている。
「これから毎週月曜日と水曜日に学生新聞を掲示板に貼ります。その新聞を二人には作っていただきます」
「え、キツ」
「……何故私がそんなことを」
「あとサボろうとしても駄目だよ。ちゃんと先生が部室に来るか見張ってるからね」
キラリと光る天地先生の瞳。この先生、可愛らしい見た目で人気って聞いたけどやってることは全然可愛らしくないんですけど!
「……家で作っても?」
「駄目です。それじゃあ部活動の意味が無いでしょ。それに生徒たちから聞き込みしないと駄目なんだし家に居るだけじゃ作れないよ」
駄目なんだ。何か知識的なのを詰め込んでテキトーに新聞にまとめるんだったら楽だなって思ってたのに。
「先生。私男子と二人だなんて耐えられません。せめて女子を一人増やしてください」
「よく当人を目の前にしてそれを言えるよな」
「西里君の言う通りです。白雪さん、西里君に失礼だよ。後、部活動に入ってないの白雪さんと西里君だけだから他の女子は今のところ増やせないよ。兼部とかもありだから友達を連れてきても良いけど」
「友……達……く、諦めるしかないみたいね」
どうやら友達が一人もいないらしい。まあこんだけキツイ性格してたら友達なんて居るわけないわな。
「とにかく二人とも、明日から新聞部だからね。よろしく☆」
キュルンという効果音が聞こえてきそうな先生のウインクを受け取ると俺と白雪は職員室を後にする。
当然、二人の間に会話はない。
どちらからともなくスッと廊下で分かれ、そのまま帰路に就くのであった。
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