短篇一篇 その8
うっかりしていました。
短篇一篇の「その8」が抜けていました。「その9」と順番入れ替わりますが、あまり気にしないようにして下さい。
中学への入学と同時にタブレットを贈られた。
本当はスマホの方が良かったのだが、何が基準なのか「中学生にはまだ早い」と言われた。中学生でもスマホを持っている奴はいるし、「まだ早い」という意味がわからなかったが、自分で通信料を払うことはできない。しかし、タブレットの通信料も自分では払えないが、少なくとも自宅のWi-Fiは月額いくらの固定料金だから構わないらしい。
そんなこんなでタブレットが一台が僕の財産に加わった。
小学五年生で僕は小さなラジオを買って貰って以来、部屋に居る時はラジオを流しっぱなしだった。地元のラジオ局を起床から就寝まで流しっぱなしである。但し、番組の内容が頭に入っているわけではない。例えるなら商店街で流れている有線放送と言った感じだろうか。なんとなく声が聞こえる、時々音楽が聞こえる、それぐらいの感じで音量も小さくし、僕の部屋で寂しくならない程度に音が聞こえるという状態を作っている。
夏になると蝉の鳴き声もあるので多少音量を上げるが、それでもラジオの音が蝉の鳴き声に負けることしばしばである。
ラジオを聞いていて良かったと思うのは色んな世代の人がリクエストをするので祖父母世代の曲やそれよりも古い世代の曲が流れてくることだろうか。
時々、知らない曲が流れていると気付いて意識して曲名などを聞くこともあった。
タブレットを貰った時も最初は普段聞いているラジオ局のYouTubeチャンネルを探し、画像付きでラジオを聞くようになったが、どうにも違和感が拭えなかった。勿論、タブレットを貰った直後からYouTubeで色んな動画を視聴していたが、検索の仕方が悪かったのか、自分に合う動画と出合えていなかった。一方、それまでラジオを聞いていて疑問に思わなかったが、朝から晩まで一つのラジオ局を聞いているとたくさんのパーソナリティ、DJが番組を進行しているし、定時のニュースはアナウンサーが読んでいる。その事に閑して疑問に思わなかったのだが、YouTubeを観るようになると何故か声を意識するようになった。
自分に合う声、好きな声のYouTuberを探そうと思い、数多のYouTuberのチャンネルを訪ね歩くこととなった。
一か月以上の時間を費やしたが、一人だけ自分に合う声のYouTuberを見付けることができた。そうは言ってもそのYouTuberは十年以上前に活動を休止しており、アーカイブを視聴するだけなのだが、その声質と話し方が僕にはしっくりきたのだ。
そのYouTuberは毎週決まった曜日の決まった日時に配信していた。しかも配信時間もほぼ同じという、僕にしてみれば充分ラジオ感があって良かった。放送の内容も季節の話題や日常の他愛も無いこと、最近食べた物、流行りのゲームを楽しんだことなど色々、いわゆる雑談配信だったし、アーカイブには他にも当時流行ったゲームを楽しんでいる動画、いわゆるゲーム配信も残っていた。
残念ながらそのラジオ的な雑談配信は二年半ぐらいで終わっているのだが、それでも一日一本視聴したとしても約百三十日楽しめるわけだ。
ラジオを聞くことから徐々にタブレットでYouTubeを観ることへと移行していく僕が居た。
当初はテレビと同様にタブレットを視聴していたのだが、二回三回と視聴しているとタブレットの画面を見なくなり、声だけを聴くという状態になっていた。
土曜日や日曜日、夏休みに冬休み、春休みも含めて休日は部屋に居る限り朝から晩までループ再生で流しっぱなしだった。時々、他のYouTuberを視聴することもあったが、結局は元に戻っている僕が居た。
高校へ入学してようやくスマートフォンを買って貰えた。その際、お小遣いでイヤホンを買って外出時も音だけは聴ける様にした。
大学へ入学した後、必要でノートパソコンを買った時は何を考えたのか、モニターを買い足して数年ぶりに映像を観ながら声を聴くこととなり、「こんな場面、あったっけ?」と再発見することが幾つも有った。
そして今、卒業論文を書き終えた僕がいる。
実を言うとそのYouTuberさんには以前から一度メッセージを送ってみたいという思いはあったのだが、何を書いて良いのかわからなかったし、相手に失礼では無いか、怒られたらどうしようとか、色んな思いが重なって書くこと自体を控えていた。
しかし、卒論を書き終えたからと言うわけでは無いが、文章が無茶苦茶であっても「まずは感謝の気持ちを伝えよう」という思いがここに来て優ったわけだ。それにこちらはハンドルネームだし、相手のYouTuberに僕の素性がわかることは無いだろうとか、そういう意味の無い心配も消えていた。
中学一年生で貴方のアーカイブに出合い、声や話し方、内容が気に入って約十年間視聴を続けたこと、高校受験に大学受験と集中が必要な時にも癒されたこと、卒論も無事に書き終えたことなどを書いたメッセージを送ってみた。
幸いにしてメッセージの送り先自体はまだ機能していた。
問題は相手のYouTuberさんが僕の送ったメッセージを読んでどう思い、どの様な反応をするのか、そこは気になっていた。
あっさりと無視してくれればそれはそれで良いのだが、相手が機嫌を損ねてアーカイブ自体を消したりしたらどうしようとか、送信した後に考えたりもした。
思えば僕がそのYouTuberさんを知った時点で活動を終えて約十年経っていたし、さらにそこから約十年経っているわけだからメッセージを送っても気が付かない可能性もある。いっそのこと気が付かないで欲しいとも思った。
半月ほど経って僕の中でも返事は無いと思っていた時に返事が来た。
まずは約二十年を経てメッセージが来て驚いたこと、文章は苦手で幾度か書いては消し、書いては消しを繰り返したこと、自分のアーカイブがまだまだ誰かの役に立って良かったこと、またアーカイブを観た感想などを送って欲しいとの内容だった
当たり障りの無い返事だったが、それでも僕は嬉しかったし、飽きず懲りずに僕はまたアーカイブを視聴し続ける事となった。
いつの日か、飽きる時が来るのかもしれないし、大学を卒業して就職したらYouTubeの視聴自体が難しくなるかもしれないが、それでもこのYouTuberさんのアーカイブが有る限り、僕は頑張れるような気がしている。
小学五年生の時に携帯できる小さなラジオを買って貰ったのは筆者の思い出です。
その後、テレビ無しで暮らしていた時期もありました。
二〇一八年にVirtual YouTuberを知ってから徐々にラジオからYouTubeへ移行して今に至っています。
本当は本文中にもVirtual YouTuberと表記したかったのですが、Virtual YouTuberと私が限定するのもおかしい気がして控えました。
生身のYouTuberさんが頑張ったからこそ、Virtual YouTuberも追い掛けて追い越そうと頑張っているわけですし、今の発展は無かったと思います。
一人の視聴者が生意気なことを言って申し訳ないのですが、この後書きも含めて文章を書く時はYouTubeで誰かの声か音楽を流しっぱなしにしています。
それでも時々、静寂の中で紙とペンを使っている時もありますが……
最後に「見」と「観」や「聞」と「聴」の使い分けができていないのはご容赦下さい。




