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許し

「リンクスちゃん、マジで強すぎん?もういいからあいつらに会いに行ったら?たぶん、涙流して喜ぶで?」


冗談めかしてニャルさんがそう言ってくるが、まだまだだ。

課題はいくらでも見つかるし、初心者相手に苦戦を強いられていればそれこそ幻滅されてしまう。

いや、彼らはそういうことはしないだろうけど、私の中にいるイマジナリーな彼らは私に幻滅するのだ。


「まだまだですよ」


「難儀やなぁ……」


……さて。

決闘に敗北した彼らを見る。彼らは分かりやすくしょぼんと肩を落としていた。


「どないするリンクスちゃん?」


「私に決定権はないですよ」


「うちは通報して消したった方が反省できるしええと思うんや。おそらく中高生の子どもやろ?でもゲームでもリアルでも人に迷惑をかけたらあかんなんてことはもう学んでないといかん年やし、言動には責任がついてまわることを覚えるいい機会や」


「はい」


「やけどなぁ、こうなんというかイキった子どもがリンクスちゃんにこてんのぱんぱんにされて逃げもしないでしょんぼりしてる姿を見るとなぁ、大人げないって考えもあるわけで、決闘の勝者のリンクスちゃんに委ねてもいいなぁってうちは思うんやけど」


まぁ……

子どもだから何しても許されるってわけじゃない。

だけど、こうして公衆の面前での敗北という罰が与えられ、逃げもしない彼らに一方的に罰を与えるのが正しいとも思えない。


甘い考えだろうか?

子どもはこうした言動をするもんだと思う。肯定する気はない。ダメなものはダメで、人に迷惑をかけて楽しむようなやつはカスだ。


だけど、彼らは人に迷惑をかけて楽しんでいたわけではないのだろう。

譲れないことがあって、私には分からない子どもなりの考えがあったのは確かで、そこを無視してはいけない。

彼らはニャルさんに迷惑をかけたが決してそれを楽しんでやっていたわけでも、何かを壊したりしたわけではない。


それを理解してその上で、子どもを大人は叱らないとはいけない。

叱るというのは寄って集って叩くことでも、一方的に罰を与えることでもない。

何が悪かったかを理解させ、反省させ、そして二度と同じ過ちを繰り返さないようにすることだ。


はぁ。

自然とため息がもれる。


「ニャルさん、私に損な役回りさせようとしてません?」


「信頼って言ってほしいわ。リンクスちゃんなら丸く収めてくれるやろ?」


ニャルさんが上目遣いで挑戦的に笑みを浮かべる。


「はいはい、分かりましたよ」


私は観念して頷いた。

背後からついてくるニャルさんと一緒にカルマその他二人のもとへ歩いていく。


するとカルマはその悪い目つきの目をぎゅっと瞑って、頭を下げた。


「すみませんでした!最初に文句をつけたのも俺だし、後ろのやつらは関係ないんで、通報は俺だけにしてもらえませんか!」


おお……!

かっこいいじゃないか、カルマよ。

まあ、実際ヒートアップしちゃったのはカルマくんだし、後ろの子たちは止めようとしてたのも確かだ。


「俺たちもすみませんでした!カルマを止められなかった俺にも責任があるんで通報してください」

「すみません、でした!ぼ、僕も友だちなら止めるべきでした、一緒に文句言ってごめんなさい……!」


ハンニバルとラクトも頭を下げる。


なんかこれ、私が悪いみたいじゃない?

いや、狂乱のローブ脱いでないし普通に悪役側かもだけど。


「キミたちが納得できなかったことがあったのは理解してあげるけど、他人に迷惑はかけたらダメだ。他のプレイヤーだって、キミたちと同じようにゲームを楽しんでいるんだから楽しみを奪おうとすれば、自分たちも同じような目に合うことになる」


「……はい」


説教なんてしたくない。

人に偉そうに何かを言える人間じゃないから。

なんなら説教される側だ。


「それができるなら、私はキミたちを通報しない」


少年たちの顔が上がる。


「ニャルさんもそれでいいですか?」


「ええよ。でもお前ら、二度はないってことよく覚えときや。うちは仏様やないから二度も許さへん。これからは商人に対価をちゃんと払って買いもんすんなら、金も取らんし通報もせん、全部水に流したるわ」


「い、いいんですか……?」


「もう悪いことすんなよ~」


「……はい!あ、ありがとうございます!」


少年たちが走っていく。


それを見送ると、ニャルさんが盛大にため息をついた。


「どうしました?」


「いやぁ、やっぱ金ぐらいは取っとくべきやったなぁて。リンクスちゃんの戦闘見れたからまあ実質儲けみたいなもんやけど」


この世界のニャルさんは根っからの商人みたいだ。


「それで、決闘勝ったお礼は何にする?」


そういえばそんな話もあった。

装備、装備か……


今欲しい装備が一つあった。


それは今の私には必要ないけどいつか必要になるものだ。


「なら攻撃力の高い剣とか見せてくれませんか?」


「剣?リンクスちゃんが使うやつじゃなく?」


「内緒です」


口もとに人差し指を当てて、小さく笑う。

今はまだ話せるようなものじゃない。


ニャルさんは目を輝かせながらも「ええやんええやん!」と何も聞かずに武器を見せてくれた。

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