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狼騎士と異世界の客人  作者: 星いも
1.狼騎士と異世界の客人
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8.邪魔者

 絶対に似てると、思うんだけどなあ。

 前を歩く男の後頭部を眺めながら、祐はムムムとうなった。

 特に灰色の髪が昨晩の獣を彷彿とさせる。昨日アルバティナについてたくさんの人に囲まれたときは、金髪とか茶髪の人が多かった印象だ。黒髪の人もいたけれど少数派で、灰色なんて一度も見かけなかった。それにあの月色の瞳。きらりと光ったあの瞬間と確実に重なったのに。

「ごめんなさい。祐は『異世界の客人』なのよ。悪気があったわけじゃないわ。」

 凍り付いた空気を和らげるようにアルバティナが苦笑で騎士の男に謝ったあと、今度は祐に向かって諭すように言った。

「昨日も話したけど。獣人は凶悪狂暴で、人間の敵なんだから。冗談でも親しくない人に対して言ったりしたらだめよ。」

 ねえ、ハン?と、おそらく昨日のことを根に持っていてアルバティナが扉のほうにあてつけたが、彼は平然と肩をすくめただけで済ませた。

「でも、ほんとに!昨日襲われたんだから!こーんな大きな、犬になって!」

 祐が両腕を広げてあの大きさを再現すると、アルバティナも当の本人の騎士の男も眉をひそめた。ハンというオッサンだけは祐の必死さを見てうつむいて口元を隠した。……笑われた。

「もう、ユウったら。セリックは、子供のころからこの城にいるのよ。そんなことあるはずないわ。」

 ついには両手を腰に当てて目を三角にしたアルバティナに怒られてしまった。どうやら彼は昔からこの城に仕えていて、一定の信用を得ているらしい。……怪しい。そうやって信用させておくのが奴らの常套手段だとアルバティナも言っていたではないか。

 やっぱりここの人たちは、獣人なんかおとぎ話の中にしかいないと思って油断している。あの場ではアルバティナの手前、すみませんでしたと一応謝っておいたけれど。祐は疑いを捨てきれずに、さっと辺りを窺った。

 アルバティナの部屋を出ると、しばらく誰もいない通路が続く。たぶん、王族の居住空間だから、余計な人は入ってこれないのだろう。カチャカチャと、男が歩く度に腰の剣がたてる金属音が響くのみ。誰にも邪魔されずに獣人の男を仕留めるには、なかなか都合がいい場所だといえる。

「ねえ、あなた。」

 後ろから声をかけると男はぴたりと止まった。そして顔半分だけで振り返る。

「昨日の夜、客室にいたでしょう。」

「……。」

「私見たんだから。おっきな犬になったところ……。」

 お前の秘密は知っている、そう簡単に思い通りにはさせないぞ。という気迫を込めて突きつけてやると、男は嫌そうな顔をして何かをぼそりと喋った。犬じゃないとかなんとか言った気がする。それからため息をつきながら体ごと振り返って、

「そういうことは、あまり言わないほうがいい。」

 まるっきりアルバティナと同じように祐を諭しにかかった。

「な、そうじゃなくて!本当に見たんだから!」

「……さっき信じてもらえなかったのに?」

「う……。」

 真実を知っているというのが祐のこいつに対するアドバンテージだったが、アルバティナにも信じてもらえなかったということでそれらが全て打ち消されている。痛い事実を指摘されて祐が言葉に詰まると、男は呆れたようなため息を吐いて前を向き直そうとした。

「ちょっと待ってよ!私は正体を知ってるんだから。そのうち、ティナの目の前で正体を暴いてやる。」

 だから何かを企んでいても無駄だぞ。そういう牽制をこめて挑むように言った祐を、男のほうも睨むようにわずかに瞳を細めてじっと見つめる。

「だから、そういうことはあまり言わないほうがいい。」

 それさっきも聞いた。なんでまた同じことをと祐のほうも眉をひそめると、

「……俺なら、脅威になりそうな邪魔者は真っ先に排除する。」

 影になった男の、目だけが一瞬きらりとどこかの光を反射したように見えた。その時ようやく祐は気づいた。向こうにとっては真実に気づいてしまった祐こそが邪魔者で、事実が広まる前に真っ先に消そうと、それこそたった今襲いかかられても不思議ではないのだ。

 しまった。一対一では分が悪い!ようやく気付いて辺りを窺うも、人っ子一人いない薄暗い通路だ。こいつを獣人扱いしても誰にも咎められない代わりに、逆にこいつに襲われたとしても誰にも気づかれないのだった。いや、今なら大声を上げればアルバティナが気づいてくれるかも……。

 内心冷や汗を垂らしていると、男のほうは予想外にもすぐにふいと視線をそらして前を向き直した。そしてそのまま何事もなかったかのように進んでいってしまう。

「え、あ、ちょっと……。」

「命令だから。……案内。」

 そっけなく言って、緊迫したにらみ合いをなかったことにした。あくまでも忠実な家来ぶってアルバティナの命令を実行するつもりのようだった。これまでに得た信用のほうが大事だと思っているのか、もしくは、いくら真実を知っていたって、誰にも信じてもらえない祐では大したことはないと見くびっているのか……、たぶんその両方に違いない。

 ……油断していられるのも今のうちだ。

 こいつが祐を見くびっているうちに証拠を集めて、アルバティナの目の前で正体を暴いてやればこちらの勝ちだ。絶対に、獣人の思い通りになんかさせてやらないんだから。

 祐は決意も新たに男のあとに続いた。

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