弱さに秘められた強さ
奥に進むに連れ暗くなる洞窟。ルーブが慣れた手つきで灯りをともす。「<湧き出る光よ・その内より見せろ>」
「手のひらが光るって違和感だなー」「ユキサダの普通は違うのか?」「それじゃ俺がおかしい奴みたいだろ。まぁそうだな、本来はライトで照らすもんだし」「ライトだと!使い道も少ないのに無駄に高い術に金なんてかけれないぞ」「いやー、まぁ見とけ」ライトを起動しようとスマホのボタンを押すが電池切れのようだった。仕方なくガラケーで手前を照らした。「なるほど魔石の類いか」「まぁ少し暗いけど」「気にする事はない。私とて魔力が無限にある訳では無い。これはこれで助かる」「そう言えばさ、詳しく聞いていいか分からないけどルーブとソフィアってどんな関係なんだ?」「そうだな。姉妹のようなものだ、私はルシフ師匠に稽古を付けられ育ちルシフ師匠の元ライセンスBまで行って免許皆伝を。ソフィアは私がB級に上がった当時、魔王軍から命かながら戻ってきた勇者パーティーに守りきれなかった事を叱責され追い出された。普通に考えて見れば負けた理由を誰かのせいにして責任逃れをしたかっただけだろう。それで失意の中ギルドの端でうずくまってた所に私が来た訳だ。私は剣士、ソフィアは盾持ちと、悪いコンビではないしな。組んだ当時はずっと落ち込んでたけどルシフ師匠や周りのおかげで今みたいに持ち直したってわけだよ」「なるほど。それで?勇者パーティーは未だに生きてるのか?」「なんだ、そんなことが気になるのか。生きてるとも、たまたま魔王軍の休息日とあって今は力を付けてる最中さ」「休息日に襲えばよくないか?」「最低限のルールさ。それに両軍とも損傷は大きい、下手に動いて両方全滅の方が厄介だろ?だから向こうが動かないうちはこちらも動かない」「おおかた理解出来た」「なら次はユキサダについて聞こうか」「俺は昔結んだ契約によって呼ばれたって感じだな。まぁー契約内容が滅茶苦茶で把握しきれてないが」「サクリファイスか。生贄儀は危険だぞ、あまりしない方がいい」「もうしてないよ、それに二度としたくねぇ」「ならいい」自然と会話が消えていき、それにつれ寒さと暗さが増してる気がした。
「なぁ、少し寒くないか、奥だからか?」「いや、おかしい……もっと早く気付くべきだったか。何かいる」「探知とか出来ないのか?」「あいにく無とは縁がなくてな……剣士なのに探知すら出来ないわけさ」「俺も使えないしどうしよう」「C級からB級に上がる試練にすら最近は使われてない程度の洞窟だ、仮に何か居てもその程度、倒せばいい」「まじかよ」「私は真面目だ。なーに、剣士とて仲間を守る術は習っているぞ」「いや、さすがに女性に守られるほど」「剣士だ、剣の道に男も女もあるまい。それにいざと言う時に男の方が竦んで動けないだろ?」「それは知らないが……確かに俺が一般人より弱々しいのは認める」「はっはは、それでいい。私の生き甲斐ってモノに入るさ」「なんか意味が違うような」「ルシフ師匠の教えさ、他にも色々聞いたぞ?良ければ話してやる」暗い洞窟とは思えない程明るい話で盛り上がっていた。
ふと、ルーブが闇の奥に剣を構える。「来るぞ!」ルーブを無視して幸定の方に駆けてくるブラッドリードッグ
「ちょ、え」「いつもはソフィアが引き付けるが、今回は居ないからな!」その首を踊るような剣技で落としていく。
「はァァァァ!!!」五体程で敵襲が終わった。「どう?」「どう?ってかっこよかったぞ。剣が水の流れみたいだった」「よくわかったな、私の剣技は水の流れさえ変えれるほどしなやかで強い」ドン!と不意に飛ばされる。「てやぁぁ!!!」死に損ないが噛みつきに掛かっていたのだ。ルーブに飛ばされていなければ食われていただろう。「すまん、助かった」「なーに、もとよりその約束だ。ともいえこれで少なく見積っても100ルーブは行く、運良く新しいここの持ち主にも合わなかったし帰るか」「だな、欲張って死ぬのはゴメンだ」「ああ─────え?たす」ルーブの声が遠ざかる。地面に吸い込まれて行ったのだ。「な、おい!」叫ぶが声がコダマするだけだった。それを見計らうかのように大量のブラッドリードッグが現れた。「おいおい、勘弁してくれよな……」ふと、ライトにしていたガラケーのカメラを起動する。「前回のがまぐれだとしても運が良ければ助かるはずだ!」ボタンを押し続ける。5分と経たずに幸定以外に立っているものは消えた。「はぁはぁ……こいつら光に弱いのか?」また癖でフォルダーを見ると写真が増えていた。「敵性モブか、増えてんな」起き上がったら怖いからとゆっくりブラッドリードッグの合間を進む。
「はぁはぁ……犬にあそこまで恐怖を抱いたのは初めてだ……」下層に下る階段を見つけて降りるとルーブが壁にもたれかかりながら座っていた。「ユキサダ遅かったな……」周りに散らばるブラッドリードッグの死体。「さて、行くか……よいし、ぐっ……」立ち上がろうとしたルーブの顔が真っ青になる。「ルーブ、大丈夫か?」「落下の勢いで何処かやられたのかもな、治癒さえ使えれば」「ほら、よいしょっと」ルーブを抱き抱えた。「む、すまないな。もしきつくなったら置いていってくれ、なーに私とて弱いわけじゃない。ソロで死ぬ覚悟は出来ている」「強がるなよ、震えてるぞ」「これはだな……寒いだけだ」元来た道を引き返して居たはずなのに気付いたら大きな門の前に辿り着いていた。
「どうやら持ち主は私達を出したくないようだな」「ルーブは休んどけよ。俺一人で倒してくるから」「ダメだ。ギルドの掟は家族の絆より優先される程だ、ローランカーのソロ討伐なんて言ったらユキサダはおろか私やソフィア、ルシフさんまで処刑は免れない」「だけど緊急事態だろ?そういう時のあれは無いのか」「あるがそれでも第三者とやらの目撃談が必要になる。つまりだ<隙を付け・無防を見せろ>」ユキサダの耳元でルーブが囁く。その声にユキサダは為す術なく地面へと倒れた。「すまないな。門の前なら敵も来ない。それに眠っていればしばらく持つだろ?多分ソフィア達が来て助けるさ」片足を引き摺りながら門の中に入るルーブ。
「ホゥ、ルーブ・シュトルムか」形のない影が喋る。「それは古い名だ。剣の道を歩む時から家名なんぞ捨てた。それより貴様は誰だ?気安く人の名前を呼んどいて」「ハッハハ!ソウダッタナ、ナノッテヤロウ。ワガナハ、ルーブ・シュトルム・ルハ・ヒエロハイム!またの名を魔王」形のない影は人型を型どり始める「っ……な、な」「畏怖する必要は無い。あぁ、我が愛しき子孫よ」「王国初代にして我が血筋の原点!なにを悲嘆すればそんな成れ果てに身を落とせるか!」「なぜ?かつて魔族を根絶まで追いやった我ら勇者は絶大な支持を浴び広大な土地を貰った。魔族以外に苦しむ人達もいるのにそれで終わった。自由を謳歌した。それに元来より魔族は悪とされたが拠り所の無い果ての人々を受けいれ組織化し統制を整えていただけだ。軍事拡張なんぞされた形跡もない程弱々しいものばかりだった」「そんなはずはない!現に魔族、1部は魔物として人々を脅かしている」「形勢逆転って奴だよ。魔族は長寿でねぇ。未だに改悪し続ける人の現状に殲滅を持って対抗するとね」「ならば、剣士の誇りにかけ貴様を殺すまでだ」「よかろう。家名という加護を捨てたやつに見込みは無いが、同じ名を受けし者として。では、我を示せ。魔王軍第1席にして先鋭部隊隊長ラド・ゴールド。いざ参る」骸骨面に薄く汚れた銀の鎧、手入れしてなさが逆に歴戦の勇士を見せるような風格である。
「いくぞ!うぉぉぉ!!」ルーブが踏み込む。「ぐっ、ううぉ!!」足の痛みに堪えつつ剣を振るう。
「甘いぞ!」嫌な鈍い音が剣の振動がルーブを襲う
「加減はせんぞ、剣士に加減は尊厳を損なうからな」「あぁ、ならば来い!貴様の剣は切る気配を見せないぞ」「フッ、そうだな。我が剣は回転の性質を持つ。故にこちらから来ることは不可能だ」「違うな。愚弄するな、私が女だからか!それとも怪我人だからか!」「何故そうなるか?剣士に性別謎関係ない。そうだな。強いていえば託したいか、一定の力量さえあれば魔族と人の共存世界を……いや儚き望みか」「そうだな。弱きを救うが主義だ、しかしっ!現時点で弱き立場は人だ!分かり合うことはない」「はっはは、それでこそ我が子孫。若き頃は似たような苦痛を覚えたよ……そうだな、断ち切らねばならないか」ラド・ゴールドの持つ剣が大きく鈍く変わる。
「仕方あるまい、出来れば我に正常な心がある内に、ある内に……人類にも期待をもたらしたかった。勇者達では両極に滅びを与えるだけだと。意を決して出てみれば、まぁ期待通りでは無かったな」「何が言いたい!」「最後に一言、我が子孫よ。魔法剣の素質がある。磨け、唯一共存の道が斬り開け──────やれやれ。取り込めきれなかったとは。お見苦しい所を、我々は共存なんて望みません。死にたくなければ降伏する事ですね。別に取って食べるでもありません」「魔王軍幹部が態々出てきて女々しく帰れと?死しても何か残せるなら剣士として本望だ。何処でのたれ死ぬやもしれぬ生業だ」「そうだな、では精々僕を楽しませてくれよ」
ルーブとラド・ゴールドが剣を構え向き合う。
「一撃だ、一撃で決めてやるよ。魔法剣、そう……先代はよく見抜いたな……<魔法付与・剣>元より魔法量が豊富な私は何かに溜めるか元々ある何かに流しながら使う事でしか調節が出来ない。だから使える量が少ないだけさ。別に弱い訳でもないさ……私の剣は国唯一のミスリル性でさ、斬ることすらままならないから剣に微細な風魔法を仕込んでな……」何処か諦めの目でラド・ゴールドを見る。「無理もないさ、無駄に加護を増やしてるんだ。魔族とてその辛さは理解できる」「ふっ、最初で最後の理解者が魔族とは皮肉だな。行くぞ!!」「こい!」最高速の剣撃は音を発する間も無くすれ違いルーブが倒れる音を合図に終了した。
「ふっ、仕方ないな……そうか……そうだな後少し経てば。今回はお前の意見を尊重してやるよ」ラド・ゴールドはひとりでに呟きながら影となり消えていった。
その頃ギルドでは
「ルーブとユキサダが交信不可になった」居残りのソフィアに受け入れ難い報告が成された。「ルシフさん。嘘ですよね?」「そんな嘘言うわけ無いだろ……信じられねぇけど、ブラッドリードッグのあの洞窟でだ」「そんな……私が着いていけば」「慣れた狩場ほど危険なんだ、たっく。ちょっとまっとれ、泣くなよソフィア」精一杯の優しい笑みでソフィアを励ましたルシフはギルド内で呼びかけをした「これより!緊急救出部隊を結成する!交信の途絶えたものはルーブとユキサダ、共にBとC。魔族の関与の可能性もある。死にたくないやつは来なくていい、来たいヤツらは来い!報酬は600ルーブだ」ギルド内は騒然とする。その後、数人がやってきた。「お、紅龍の御三方じゃないか。すまないな、うちのもんがヘマしてな」「なーに、困った時はお互い様ってもんだ。俺らは報酬じゃなくて義理で動く。だから気にすんなって」「おうよ!やってやろうじゃないの」「さすがっす姉御!」鎧のサイズからも伝わる巨漢と軽量重視で薄い服に大きな斧の女、それと短剣使いのバンダナ少年。「ほかは、居ないか。まぁそうだな、街では随一の剣士がやられたってんだから臆するのも無理はない。じゃぁゴーハイム、ヴェルナー、ロスト、それと私も出向く」ルシフがバッとカウンターから飛出て先頭に立つ。「なーに、案内がなきゃ面倒だろ?」
4人が向かい始める。洞窟の方角からは黒い煙が立ち昇っていた。
「ありゃなんだ?」ゴーハイムと呼ばれた巨漢が黒い煙に疑問を投げる「あれは魔力だ、高すぎて、常に放出し過ぎてああ見えるのさ」「じゃぁいそかねぇーとな!」
4人が街を出ると同時にソフィアが追いかけて来た。
「待って!!私も行く」「やめときなよー、ソフィアちゃん居ないと街守れる人居ないじゃん?」「いや、ソフィアにも来てもらおう。ルシフさんは長らく潜ってないから道に疎い。それに、彼女の失態だ」「まぁわたしゃ良いけど万一に漏れたヤツらがこっち来たら」「大丈夫です、私は最高位の盾持ちですよ?<阻みしモノ・その界を見せろ!>」街全体が高圧縮された魔力に包まれる
「ひゅー、さすがっす!」「今回は私のせいなのにみんなありがと……」「弱気なのか強気なのかはっきりしなよ。まぁ意気込みは買うよ」「だな、さて、話してる時間はもう無いぞ。ロスト、5人運ぶとなると持つか?」「行けるけど俺、入口待機っすよ?」「ソフィアに守ってもらえ」「ソフィアちゃんのカゴ貰えるならバチOKしょ!<狂いし時限よ・結果を見せよ!>」洞窟の入口に5人は舞い降りた。ロストは過呼吸気味に倒れていた。
「すまないがロストに」「えぇ<我護りし者よ・他者へ慈愛を見せろ>」「はぁはぁ……すまねぇっす……これ、多分3日は死ぬっす」
一行は奥へと進む。ブラッドリードッグの残骸がチラホラと散らばっていたが人っけはない
「改めて見るとブラッドリードッグは可愛らしいな。侍従法に引っかかっらないなら飼いたかったくらいだ」「ゴーハイムくらいだろ、可愛いなんて言うのは」「ハッハハ!そうか、そんなもんか?」「ちょっと暗いわね<灯せ溢れる炎よ・その光を見せろ!>」火炎が地面を這いながら先を照らして行く。
「ヴェルナーのそれ便利だなー、トリックファイアの応用技だろ?」「まぁね、ガキども喜ばす為に非戦闘系も取ったから」「ルシフさんも今度聞こうかな」「あんたに教える事なんてないだろ?何を戯れ言」進むと階段が現れた。
「何、この階段……見た事ないわ」ソフィアが呟く。
「隠し部屋か。しかしこの手の旧繁忙洞窟は全て終わってるはず……いや、誰も居ないからか」「警戒しながら行くぞ、生憎みんな探知は無いだろ?直感だけを信じろ」下って直ぐに門の前に行き着いた。
「そこ誰かいるぞ」地面に倒れているユキサダを見つけたゴーハイムが片手で持ち上げて肩に担ぐ。
「こいつがユキサダとやらか?」「そうだよ、ルシフさんの花園に入ってきた。いや新入りさ」「ユキサダ!目を覚まして、ルーブは?」「ダメだな、眠り系の。しかし誰のだ?ルーブは''剣技以外殆ど持ち合わせていない''筈だぞ」「まぁそれはこの門の先の奴に聞けば分かるだろうな」バン!と勢いよくゴーハイムが門を蹴破る。
中には倒れているルーブのみだった。ただ広く宝は愚かそこがなんの空間だったのかも分からないような、そんな場所
「ルーブ!」「ルシフさん迂闊に近付くなよ。トラップの可能性もある」「ルシフさんは大丈夫だ!気にすんな」ゴーハイムの静止を無視して中へと走るルシフ。
「ソフィア、すまん。一応加護を掛けといてやってくれ」「う、うん。わかった<影潜みし悪の手から・我が親しき者を護って見せよ!>」「ルーブ!大丈夫か!」「うっ……だれ……」「ルーブぅ!ルーブ!」「はっは、その声ルシフさんか…………」「ルーブ、眠ったか」「とりあえず交信不明者2名無事保護って訳だな」