8 園真会長、バクバク食べる
「残念ながら、彼女は高校で部活には入らないわ。
学校が終わったら、探偵事務所での仕事があるからね」
その人物は園真会長で、ちゃっかり由奈ちゃんの卵焼きをひとつつまんで口に運んでいる。
「あら、この卵焼きおいしいわね。ちょっと詩琴、あなたもこれくらい作れるようになりなさいよ」
「う・・・・・・れ、練習します。っていうかいきなり現れて何なんですかっ!
ちゃっかり由奈ちゃんのお弁当をつまみ食いしてるし!」
「人聞きの悪い事を言わないで頂戴。私はつまみ食いをしてるんじゃなくて、堂々と食事をしているのよ!」
「そんな堂々と言う事じゃないでしょ!」
私が園真会長にツッコミを入れていると、由奈ちゃんは私の肩をポンと叩いて言った。
「まあまあ、お弁当は沢山あるし、大勢で食べた方が楽しくていいじゃない。
それより園真会長、探偵事務所での仕事って、
しぃちゃんもそのお仕事のお手伝いをするって事ですか?」
「そうよ」
タコさんウインナーをほおばりながら答える園真会長(本当に堂々と食事してるなこの人)に、
由奈ちゃんは心配そうな顔で私に目配せをしてこう続ける。
「あの、そのお仕事って、この前私を助けてもらった時みたいな、危ない事もするんですか?」
すると園真会長は由奈ちゃんの顔をじっと見詰め・・・・・・
今度は鶏のから揚げを口に放り込んで言った。
「このから揚げも家で作ったの?なかなかいけるわよ。あなた、料理のセンスがあるわね」
この人本当に食べる事優先だな!
それに対して由奈ちゃん。
「いえ、これは私のお母さんが作ったんです。揚げ物はまだまだ練習中で」
由奈ちゃんもちゃんと答えなくていいよ!
そんな中両手におにぎりを持ってそれを交互に口に運ぶ綾芽が、
口の周りにご飯粒をまき散らしながら言った。
「大丈夫ですよ由奈さんモグモグ!
しぃちゃんはあくまで助手なんで、あんな危ない仕事を手伝ったりはしませんパクパク!
そういうのは私の担当ですからモシャモシャ!」
だから食うか喋るかどっちかにしろっての!
心の中で私がツッコミを入れる中、由奈ちゃんは腑に落ちない様子でこう続けた。
「でもそれじゃあ、綾芽ちゃんも危ない仕事をしてるって事でしょう?
大けがするかもしれないし、下手をすれば命にかかわる事だって・・・・・・」
「ま、それが仕事だからね。」
園真会長の答えはにべもない。それを引き継いで綾芽が言った。
「そうです。それに私はそうやすやすと敵にやられたりしないし、
しぃちゃんを危ない目にあわせたりもしません!だから安心してください!」
「で、でも・・・・・・」
と言葉を続けようとする由奈ちゃんに、園真会長は冷たい口調で言い放った。
「これは仕方のない事なの。詩琴は私に莫大な額の借金があるからね。
それを全額返済しない事には、彼女は自由の身になれないのよ」
そして園真会長はその絹のように艶のある長い銀髪をフワリとひるがえし、
校舎の入り口へ戻って行き、最後に一言こう付け加えた。
「お弁当、おいしかったわよ。明日もまた来るわね」
って明日も来る気かい!
あの人学校の中では(化けの皮をかぶっているが故に)凄い人気者なのに、
一緒にお弁当を食べる友達とか居ないのかしら?
まあ、ちゃんとした友達は居そうにないか・・・・・・。