6 心のオアシス、由奈ちゃん
学校の最寄のバス停に到着し、学校まで二、三分の道のりを歩いていくと、
校門の所に、シテ高の制服を着た明るい茶色の髪をお団子ヘアーにした女の子が立っていて、
私の姿に気がつくと、
「しぃちゃん、おはよう!」
と、愛らしい笑顔で駆け寄って来た。
彼女の名前は舞川由奈。
同じ中学で三年間クラスメイトだった私の大大大親友で、
可愛いフランス人形に清らかな魂を吹き込んだような女の子。
明るくて裏表がなく、ちょっとおっちょこちょいだけどそこがまた可愛い!
近くにいたらギュッと抱きしめてずっと頭を撫でていたくなるような魅力(魔力と表現してもいいかもしれない)があり、
中学の時家庭科部に居たのでお料理やお裁縫も上手で、
今すぐどこに嫁に出しても恥ずかしくない女子力を持ち合わせている。
同じ家庭科部に居ながら大して料理も裁縫も上達しなかった不器用な私とは大違い。
可愛くて性格もよくて女子力が高くてしかもそれらをハナにかけない。
由奈ちゃんは私にはないものをすべて兼ね備えた、私の憧れをそのまま具現化したような女の子なのだ。
そんな由奈ちゃんと一緒に過ごせる学校でのひと時(クラスも一緒だしね!)が、
今の私の生きる希望と言っても過言ではなかった。
そんな私の生きる希望である由奈ちゃんは、
綾芽にもニコッと笑いかけ、ハイタッチをして挨拶を交わす。
「綾芽ちゃんおはよう!今日もよろしくね!」
「おはようございます由奈さん!こちらこそよろしくお願いします!」
誰にでも優しく接する由奈ちゃんは、
ノリが良くてお調子者の綾芽ともあっという間に打ち解けてしまい、
この三人で仲良しグループみたいになってしまっている。
ああ、私は由奈ちゃんと仲良くできればそれでいいのに。
しかも綾芽まで私の事を『しぃちゃん』って呼ぶし。
そう呼んでいいのは本来由奈ちゃんだけなんだからね!
まあ、綾芽とは違うクラスになれたから、それだけでも不幸中の幸いと思うべきなのか。
っていうかこんな事考える私って腹黒い?
嫌な子?由奈ちゃんに嫌われちゃう?
なんて事を思いながら一人で勝手に落ち込んでいると、
そんな私の顔色を見て取ったのか、由奈ちゃんが心配そうな顔で私に言った。
「しぃちゃん、何だか元気ないね?何かあった?」
それに対して綾芽が、至って軽い口調で口を挟む。
「ああ、今朝うちの事務所に銃を持った男が―――――」
「わあぁっ⁉」
いきなりとんでもない事を言いやがる綾芽の口を、私は慌てて両手でふさいだ。
「え、じ、銃を持った男?」
綾芽の言葉に目をお皿のように丸くする由奈ちゃん。
そんな由奈ちゃんに私は必死に言い繕う。
「じ、銃を持った男がいきなり乗り込んでくる映画の話!
夕べ夜更かしして見ちゃったから、ちょっと眠いんだよねぇ」
我ながら苦しい言い訳だと思ったけど、由奈ちゃんはそれを信じてくれたらしく、
「ああ、映画の話ね。面白い映画だと眠くてもついつい見ちゃうよね」
と言って頷いた。
その様子を見て私はホッと息をつき、
綾芽を由奈ちゃんから少し離れた所に引っ張って行って声をひそめた。
「あんた、そういう事を由奈ちゃんにぺらぺらと話すんじゃないわよ」
「え?どうしてですか?
今朝みたいな出来事は、野良猫がゴミを荒らすくらいの割合でありますよ?」
「そんな割合であるの⁉
いや、だからってうかつにそんな事言って、由奈ちゃんを巻き込む事になったら大変じゃない!
現にこの前巻き込んじゃった訳だし(第一巻参照)」
「ああ、なるほど、確かにそうですね」
私の言葉に納得した様子の綾芽は、由奈の方に向き直り、二カッと笑って言った。
「いやぁ、私も夜更かししたから眠くって。
なので先に教室に行きますね。しぃちゃん、由奈さん、また後で!」
そして綾芽はさっさと校舎の方へ駆けて行った。
するとそんな綾芽の後姿を眺めながら、由奈ちゃんは言った。
「いいなぁ、しぃちゃんと綾芽ちゃんはずっと一緒で。
夜更かしして映画見たりしてさ、どんどん二人は仲良しになっちゃうよね」
そう言って頬を膨らませるので、私は慌てて弁解する。
「そ、そんな事ないよ!あいつはただのお調子者なだけで、私の一番の仲良しは由奈ちゃんなんだから!」
すると由奈ちゃんは一転してニコッと笑い、こう続けた。
「アハハ、冗談冗談。ただちょっとうらやましく思っただけ。
私、綾芽ちゃんの事も好きだよ?
確かにお調子者ではしゃぎすぎる所もあるかもしれないけど、
誰にでもそうって訳じゃあないみたいだし。
うまく言えないけど、あの子は私の好きなしぃちゃんが好きだから、
そんな綾芽ちゃんを、私も好きだよ?」
「ゆ、由奈ちゃん・・・・・・」
私はそう呟き、由奈ちゃんの言葉にじ~んとしてしまった。
何という大人な考え。
さっき綾芽にヤキモチを焼いた自分が恥ずかしい。
やっぱり由奈ちゃんはとってもいい子だ。
こんないい子とお友達になれて、私は本当に幸せだ。
由奈ちゃんさえ居れば私はどんな理不尽な状況に陥っても生きていける。
由奈ちゃんの笑顔を見ていると、私は今日も一日頑張ろうと思えるのだった。