4 竜巻の盾と飛斬・三日月
「ぬん!」
すると潟奈ちゃんの瞬がその回転に巻き込まれ、瞬の切っ先は綾芽の首から大きく逸れて、
そのまま地面に突き刺さった!
「なっ⁉」
潟奈ちゃんの動きが一瞬止まる。
そのガラ空きになった脇腹目がけて、綾芽が暴憐棒を思い切り打ちこんだ!
ドフゥッ!
鈍く、重い衝撃音が当たりに響く。
それと同時に潟奈ちゃんは三メートルほど吹き飛ばされ、うつぶせに倒れこんだ。
脇腹に大きなダメージを受け、愛刀の瞬は綾芽の近くの地面に刺さったまま。
これはもう、勝負ありだろうか?
と、思ったけど、潟奈ちゃんは脇腹を押さえながらも立ち上がった。
その眼には相手を焼き尽くすような闘志が燃えており、自分が負けだとは微塵も思っていないようだった。
そんな潟奈ちゃんに敬意を示すように綾芽は言った。
「さっきのは、私のちょっとした必殺技です。
名付けて『竜巻の盾』とでも言いましょうか。
どんな攻撃でも受け流す私の得意技です。どうです?凄いでしょう?」
それに対して潟奈ちゃんは、ニヤリと笑ってこう返す。
「確かに、言うのは簡単ですが実行するのがとても難しい技ですね。
正直意表を突かれました。では私も、必殺技をお披露目しなければなりませんね」
「ほう?それは楽しみですが、あなたの愛刀はここですよ?
この状態でどうやってその必殺技とやらを繰り出すんです?」
綾芽は余裕の笑みでそう言ったが、潟奈ちゃんも余裕の笑みでこう言った。
「瞬が無くとも、これ(・・)があれば十分です」
そう言って潟奈ちゃんが右手に構えたのは、瞬を納める鞘だった。
それを見た園真会長は反射的に叫んだ。
「綾芽!よけなさい!」
その声と同時に潟奈ちゃんはその鞘を横一文字に振りぬいた。
すると次の瞬間鞘の先から三日月のような形の風(?)が放たれ、それが綾芽の上半身に直撃した!
「かはっ⁉」
その衝撃は凄まじかったらしく、綾芽も三メートルほど後ろに吹き飛ばされ、
仰向けのまま地面に倒れこんだ!」
「あ、綾芽⁉」
「え?え?一体何が起こったの⁉」
あまりに不可解な出来事に、私と柊さんはパニックになりそうだった。
そんな中園真会長が冷静な口調で言った。
「あれは、かまい(・・・)たち(・・)よ」
「へ?か、かまいたち?」
まぬけな声で尋ねる私に、園真会長は頷いてこう続ける。
「あの子、あの鞘で空気を切り裂き、それを衝撃波として綾芽にぶつけたのよ。
あれを真剣でやられていたら、綾芽の体は真っぷたつになっていたかもしれないわね」
「えええぇっ⁉そ、そんな⁉」
柊さんが悲鳴に近い声を上げる。
この戦いは、もはや私たちの考えが及ばない領域に達していた。
「うっ、ぐぅうううっ⁉これは効いたなぁっ!」
綾芽は口からひと塊りの血を吐きだし、よろめきながら立ち上がった。
その目にはまだ闘志が燃えているけど、今の一撃が相当効いている事は、誰の目にも明らかだった。
そんな綾芽に、潟奈ちゃんは息を切らしながら言った。
「これが私の必殺技の『飛斬・三日月』です。どうです?なかなかのものでしょう?」
「そうですね、真剣でやられてたら、体が真っぷたつになっていたかもしれません」
そう言って睨みあう二人。
しかしその表情には笑みが浮かんでいた。
それは友に笑いかけるような種類のものではなく、
自分の本能をそのままぶつけられる相手に出会えた、喜びにあふれたような笑みだった。
しかしそんな中、二人はまともに立っていられないほどに消耗しきっているのはよく分かった。
潟奈ちゃんは今の一撃を放った事で脇腹の痛みが更に増しているみたいだし、
綾芽も潟奈ちゃんの必殺技が相当効いているようだ。
もう、どちらが倒れてもおかしくないような状況の中、
二人は目の前の敵を打ち倒すため、最後の力を振り絞って駆け出した。
と、同時に、私もそんな二人に向かって駆け出していた。
「な、習志野さん⁉」
柊さんが声を上げたが、私は構わず走り続けた。
何か思いついた訳じゃあない。
ただ、もうこれ以上あの二人に戦いを続けさせちゃいけない。
純粋にそう思っただけなのだ。
そう思ったら、勝手に足が動いていた。
私は再び戦いを始めようとする二人に、なりふり構わず飛びかかった。
「えぇっ⁉」
「うわぁっ⁉」
まさかの出来事に綾芽と潟奈ちゃんは驚きの声を上げる。
そして私を交えた三人は、そのまま崩れ落ちるように地面に倒れこんだ。
「あ、危ないじゃないですかしぃちゃん⁉何て無茶するんですか⁉」と綾芽。
「そうですよ!これは私たちの戦いなんですよ⁉一切の手出しは無用です!」と潟奈ちゃん。
二人の言い分はごもっともだったけど、それでも私はこう言わずにはいられなかった。
「もう、いいじゃない、やめようよ、こんな戦い。
二人とも、いっぱい戦ったじゃないの。
こんなに傷だらけになって、痛い思いして。
それなのにまだ戦おうとするなんてダメだよ。
見てられないよ・・・・・・」
そこまで言ったら、勝手に目から涙があふれ出てきた。
拭いても拭いても止まらなくて、とうとう私は二人を抱きかかえ、
人目もはばからずにおいおい泣いてしまった。
それがよかったのか悪かったのかはわからないけど、とにかくこれでこの戦いは幕を閉じた。
潟奈ちゃんは
「もう、この仕事からは手を引きます」
と言ってその場を去り、私達は柊さんを連れて、無事に家に帰る事ができた。




