3 殺し屋、入ります
あれ?
ここは五階建てのビルだから、屋上はもう一階上だよね?
私、ボタン押し間違えたかな?
確認してみたけど、私は間違いなく屋上を示すRのボタンを押していた。
じゃあ誰か、乗り込んでくるの?
そう思う間もなく、エレベーターのドアはゆっくりと開いた。
するとそこに、一人の女の子が立っていた。
背丈は綾芽より少し低いくらいだろうか。
ふんわりした青みがかった黒髪を肩のあたりまでのばしていて、
きりっとした太めの眉の下に、おっとりと優しそうな瞳が私を眺めている。
純白のワンピースの、セーラーカラーがついた制服を着ているけど、
これってもしかして、隣町の白鳥学園の制服じゃなかったっけ?
確かお金持ちのお嬢様ばかりが通う名門校らしいけど、その生徒が、どうしてこんな空きビルに?
突然の出来事に軽い思考停止状態に陥っていると、
そんな私にその子はうやうやしくお辞儀をし、ニッコリ愛想のいい笑顔を浮かべて言った。
「初めまして、私、アヤメビトコーポレーションから参りました、桐咲潟奈。
通称『瞬きの潟奈』と申します。どうぞよろしくお願いいたします」
「えぇっ⁉あ、あ、あなたが例の殺し屋なの⁉」
衝撃の事実に、私は思った事をそのまま口に出してしまった。
まさかこんな私と同い年くらいの女の子が殺し屋だなんて!
しかも組織の中で最強の殺し屋なんかには、どこからどう見ても見えない。
確かによく見ると、その細い両腕に自分の身長くらいある長い日本刀を持っているけど、
それを振りまわして人を斬り捨てるなんて、全く想像できない。
そんな私に、桐咲潟奈と名乗ったその子は、小首をかしげて私に尋ねた。
「はい、私があなたの命を頂きに参りました殺し屋なのですが、
あなたが柊彩さんでよろしかったでしょうか?
まさか身代わり、なんて事はないですよね?
人に嘘をつくのはとてもイケナイ事ですものね?」
「え、ええ、私が、柊彩よ」
ひきつった笑みを浮かべ、私は答える。
人殺しもイケナイ事じゃないの?
という質問はしない事にした。
それはキコリに
『あなたはどうして木を切るの?』
と問いかけるのと同じような気がしたから。
すると桐咲潟奈は
「それでは参りましょうか」
と、エレベーターに乗り込んできた。
「ひっ⁉」
まさかここで私殺されちゃうの⁉
ここじゃあ綾芽や園真会長も助けに来られないし、私絶対に助からない!
が、どうやらそうではないらしく、エレベーターが屋上へ着くと、
「お先にどうぞ」
と、私を屋上へと促した。
ど、どうやらエレベーターの中で殺そうと思っていた訳じゃあなかったみたいね。
とりあえず命拾い(?)した私は大きく息をつき、ゆっくりとした足取りで屋上の真ん中あたりまで歩いた。
そしてそこで立ち止まり、後ろをついて来た桐咲潟奈の方に振り返った。
私は改めて彼女の頭から足までを眺める。
う~む、両手に刀を持っている事以外、品のいいお嬢様にしか見えない。
彼女が殺し屋で、今から私の命を奪おうとしているなんて、何かの冗談にしか思えなかった。
そんな私に、桐咲潟奈は改めてお辞儀をして言った。
「今日はお忙しい中、私の勝手な呼び出しに応じていただき、誠にありがとうございます。
早速ですが、あなたにはここで死んでいただきます。
大丈夫、痛いなんて感じる暇もなく首を飛ばしますので、どうぞご安心ください」
「ちょ、ちょっといいかな⁉」
この状況がどうしても受け入れられない私は、思わず彼女の言葉を遮った。
すると彼女は目を丸くして
「はい?何でしょう?」
と聞き返す。
そんな彼女に私は言った。
「あの、あなた本当に殺し屋なの?何か見た感じ、悪い人には見えないし、
言葉づかいも丁寧だし、とても人殺しって感じじゃないんだけど」
すると桐咲潟奈は一転して恐ろしい顔つきになり、布を引き裂くような声で叫んだ。
「わ、私は間違いなく殺し屋です!私から放たれるあふれんばかりの殺気を感じませんか⁉」
ごめん、あまり感じない。
とは言わないことにした。
そんな中彼女は続ける。
「私がその気になれば、今こうして喋っている間にあなたの首を飛ばす事もできるのです!
私の愛刀である『瞬』は、その名の通り瞬く間に相手を斬り捨てる殺人剣!
この刀の餌食になった人間の数は、それはもう、星の数ほど、ゴニョゴニョ・・・・・・」
な、何か急に大人しくなっちゃったけど、もしかしてこの子・・・・・・。
と、ある事を思いついた時、屋上一帯に、馬鹿みたいな人間の馬鹿みたいな笑い声が響いた。
「あーっはっはっは!ふーっふっふっふ!」




