1 相手は殺し屋
その日、『プラモショップ葺野』から戻ると、事務所に居た園真会長がノートパソコンから顔を上げて言った。
「綾芽、詩琴、新しい依頼が入ったわよ。目を通しておきなさい」
「い、依頼・・・・・・」
依頼という言葉に、私の胸はにわかに高鳴った。
私がここで働くようになってからの初めての依頼。
一体どんな内容なんだろう。
でもまあ探偵事務所にくる依頼なんだから、
まさか殺し屋相手に戦うなんて、とんでもない依頼な訳がないわよね。
そう思ってタカをくくっていると、綾芽がノートパソコンにある依頼の内容を読み上げた。
「え~なになに?今回の依頼は、殺し屋からのボディーガードですか」
それを聞いた私はその場でがっくりとひざまずく。
殺し屋絡んでるし!
何なのこの探偵事務所は⁉
やっぱり前みたいな物騒な仕事ばっかり専門にしてるの⁉
こんなの探偵の仕事の範疇を越えてない⁉
頭の中で色々な疑問が飛び交うが、園真会長と綾芽はそんな私に構わずに話を続けた。
「依頼人はどんな人なんです?
始終ボディーガードについてなきゃいけないとなると、
学校もしばらく休まないといけなくなりますねぇ」
「その必要はないわ。どうやら同じ四邸阪田高校の女子生徒のようだからね」
「へぇ、そうなんですか。ごく平凡な女子高生が、どうして殺し屋なんかに狙われるんでしょう?」
「殺人予告状みたいなものが届いたらしいのよ。
ま、詳しい事は会って話を聞いてからじゃないとわからないわ」
「あ、あの・・・・・・」
何とか気を持ち直した私は、絞り出すような声で口を挟んだ。
「ここって、いつもこんな内容の依頼ばっかりなんですか?
由奈ちゃんが心配していたように、命にかかわるような危険な仕事ばっかりなんですか?」
それに対して園真会長は、至って軽い口調でこう答える。
「あら、そんな事はないわよ?
そもそもこの仕事だって、命にかかわるなんて大袈裟なものじゃないし。
現実の殺し屋なんて、こそこそ人の命を奪うだけが取り柄の、軟弱な生き物よ。
映画や漫画に出てくるようなのはまず居ないわ。
正体を暴いて居場所を突き止めれば、後はハエを殺虫剤で殺すようなものよ」
「そ、そうなんですか?」
「そうです!ボディーガードの仕事は時々ありますが、
自分の命が危険にさらされるような内容のものはまずありません!
相手は殺し屋だったり
凶器を持ったストーカーだったり
裏切り者の命を狙う麻薬組織だったりしますけど、
どれも危ない感じはしないでしょう?」
「むしろ危ない感じしかしないんだけど⁉」
私が綾芽に食ってかかると、園真会長は頭をかきながら言った。
「ま、あなたに殺し屋相手にドンパチやりなさいなんて言わないから安心なさい。
そういうのは綾芽の担当だから」
「そうです!だから詩琴さんは大船に乗ったつもりで構えていてください!」
自信満々に綾芽はそう言ったが、私はそれでも不安な気持ちが消えなかった。




