12 綾芽の相棒
ハッと我に返ったように苽子さんはそう言うと、
カウンターの中に戻り、その台の上に、青い布に包まれた細長いモノを置いた。
長さは一メートルくらいだろうか?
それを見た綾芽は待ちかねた様子でその布の包みを開く。
するとそこに、吸い込まれそうな深い黒色の、一メートル程の長さの金属の棒が現れた。
太さは、リレーのバトンくらいだろうか?
昔の不良がケンカで使う鉄パイプみたいな物かしら?
それにしてはちょっと短い気もするけど、まるでおまわりさんが持っている警棒みたいだ。
「これが、綾芽の言ってた相棒ってやつ?」
私が聞くと、綾芽は得意げな笑みを浮かべて
「そうです!」
と答え、その棒を手に取り、私に差し出してこう続けた。
「これが私の相棒、その名も
『暴憐棒』です!
これを使って私は襲い来る敵をバッタバッタとなぎ倒すのです!」
「へぇ、そうなんだ」
そう言って綾芽から暴憐棒を受け取る私。
暴憐棒は見た目よりも重く、思わず落としてしまいそうになった。
「こ、これ、思ったより重さがあるのね」
「そうです。ある程度重くないと、振り回した時に威力が出ませんからね。
あと、棒の真ん中あたりに小さなボタンがあるでしょう?
ちょっと押してみてください。あ、周りに当たらないように注意してくださいね」
綾芽にそう言われて棒の真ん中あたりにある小さなボタンを押してみると、
棒の両端が「シャキィン!」とキレのいい音を立て、さっきの倍ほどの長さに伸びた。
「うわ、これで長さを調整できるんだ。便利ねぇ」
何か、物干し竿みたいだわという感想は言わない事にした。
すると綾芽は私から暴憐棒を受け取り、長さを元に戻して言った。
「最大で三メートルまで伸びるんですよ。
でも長いままだと持ち運びに不便だし、狭い場所では戦いにくいですから、
こうして長さが微調整できるようになっているんです!
それに、いざという時はベランダの物干し竿にも活用できますし!」
あ、物干し竿としても使うのね。
ちょっと拍子抜けしていると、苽子さんが胸を張って口をはさんだ。
「しかも今回のメンテでは、
『カッチカチメタル』と
『バネノヨウナセラミック』を絶妙のバランスで練り込んだから、強度としなり(・・・)がさらにアップ!
実弾をはじき返す強度と、棒高跳びの棒のようなしなりを両立させる事に成功したわ!」
「さすがは苽子さん!伊達に変態的な美少女好きじゃありませんね!」
それはホメ言葉なの?
という綾芽の言葉に苽子さんは気をよくした様子で(どうやらホメ言葉だったらしい)、
エッヘンと胸を張って言った。
「そうでしょう?武器の性能を最大限に引き出してくれる子が居ると、私も張り切っちゃうからね。
ねぇ、詩琴ちゃんは何か武器を持たないの?
今なら初回サービスでお安くするわよ?
いや、何ならそのボディーで払ってくれてもかまわないわよ♡♡♡」
「それは激しく遠慮します!」
苽子さんの本気の申し出に、私は全力で首を横に振った。
それに私が武器を持って戦うなんて、とても無理だし全然想像できない。
すると苽子さんは一転して真面目な顔になって言った。
「それは残念。でも、詩琴ちゃんみたいに身体能力の高い子なら、
どんな武器でも使いこなせそうなものだけどなぁ。
あ、それじゃあお近づきの印に、最近仕入れたアームドグローブをプレゼントするわ」
そう言って苽子さんは、私にひと組の手袋を差し出した。
それは一見すると普通の深い茶色の革手袋だったけど、受け取ってみるとこれも見た目より重たく、
手にはめてみると、ギュウッと拳に力が入る気がした。
「これは『チギレナイスチール』という特殊な金属が編み込まれた手袋で、
人間の顎を拳で砕く事はもちろん、刀を素手でつかんでも切れないし、
銃弾を受け止める事だって可能な優れものよ?」
何かとんでもなく物騒で高性能な手袋だという事はよくわかったけど、
それを私が活用する日がはたしてくるのだろうか?
と疑問に思っていると、綾芽が私の肩に手を置いて言った。
「よかったですねぇしぃちゃん。苽子さんが人にプレゼントをするなんて珍しい事なんですよ?
これでしぃちゃんも、立派に園真探偵事務所の一員ですね♪」
「そう、なのかなぁ?」
そう言われても、いまいちピンとこない私。
はたしてこれから、私にはどんな試練が待ち受けているんだろうか?
園真探偵事務所の助手としての日々が、本格的に始まろうとしていた。




