出会い
その後王宮まで放心状態で帰ってきた俺は自室に戻ると精霊を「見た」
ユアンが言った通り、見るぞ、と意識するだけで精霊が見れるようになった
祠で見た時のように眩しくなく、ほんわりとした淡い光が様々なところに浮いていた
蛍のように少し強い光になったり、弱い光になったりを繰り返す光の玉
「美しいな」
窓から外の世界も眺めてみる
「本当にいたるところに精霊は存在するんだな」
空中にも漂っているが、地面に近いところに多く存在する光の玉。
ここは本当にファンタジーな世界なんだな、と思いながら幻想的な光景を眺める
「ん?」
庭園の片隅に一際光の玉が集まっている。
頭にかすめたのは精霊に愛された男、というユアンのことだ。
ユアンは仕事に戻ったはずなので庭園にいるとは思えない。
俺は気になって庭園にむかうのだった。
そこにいたのはフードを深く被った僕と身長がほとんど変わらない小さな子供だった。
城内でこんな小さな子供を見かけることはない。
大きなローブを纏っているが、ドレスを着ているのがわかる。女の子だ。
その周りを楽しそうに沢山の精霊が囲んでいる。
「こんなところで何してるの?」
びくっと女の子が顔を上げると精霊達が女の子を守るように俺と彼女の間にたち塞がるように集まってくる。
「何もしないよ」と精霊達に囁いたが警戒されているようだ。動く気配がない。
女の子はじっと僕を見つめて黙ったままだ。
このままだと顔も見えないな、と思い精霊達を見るのをやめる。
とたん、女の子の怯えたような警戒するような顔がはっきりと見える。
大きな紫色の眼を見開いている。
「綺麗な眼だね」
色んな髪色や目の色を見たことがあるが、紫色の瞳は初めて見た。
濃い紫と薄い紫が同居する眼の色はとても美しいもので、つい見惚れてしまった。
眼の色だけでなく顔立ちも整っており、きゅっと釣り上がった目尻が猫みたいでキュートだ。城内に入ってこられるくらいだから上級貴族の子なんだろう、こんな小さいのに気品を兼ね備えている。
俺がじっと見過ぎだからか、眼の色を褒められたからか、女の子の顔はみるみる赤くなっていった。
「ごめんね、僕はシャルル。
城内に子供がいるのが珍しくてつい声をかけてしまったんだ」
女の子の緊張をとくために優しく話しかける。
後ろから激しい殺気を感じてバッと振り向く。
鬼のような形相をした5歳くらい年上の黒髪の少年が俺を睨んでいる。
「お兄様!」
女の子が少年に声をかけると、一気に表情が柔らかくなり、まるで長年会えなかった恋人に出会えた時のような甘ったるい顔になる。
「おいで、私の天使」
女の子が少年にかけより抱きつく。
少年の腰くらいの身長なのでしがみつく、という表現の方が的確かもしれない。
少年は少女の頭を撫で、自分の後ろに隠すようにするとまた俺に向き直る。
「宰相ベルナールの息子、フェルディナンドと申します。殿下、我が妹がなにか失礼なことでも?」
口調は丁寧だが声は冷ややかだ。
「第一王子のシャルルだ。
子供が城内にいるのが珍しいので声をかけただけだ。
一言も返してもらってないがね。」
「恐れながら殿下、淑女は知らない相手とは話をしないのが礼儀です。知らない相手とは。」
大事なことなので2回言いました、とばかりに知らない相手を強調してくる。
まるで俺が不審者のようではないか。
第一王子にむかって不敬だぞ、と言ってやりたいが彼のいうことも一理ある。
俺の髪の色でフェルディナンドは一目で王族だと気づいたようで、俺が名乗る前から「殿下」呼びだった。
恐らく少女も気付いていたはずだ。
「小さい子扱いして申し訳なかった。
立派な淑女だ。無礼を失礼する」
王族相手でも知らない相手とは話さない、という淑女のマナーを守る少女に好感を持ち、頭を下げる。
フェルディナンドの後ろから少女が慌ててスカートの端をつまんで綺麗な礼をする。
美しいな、と思い少女を見ているとフェルディナンドが慌てて少女を隠す。
「父への届け物で城内に来ただけですので我々はこちらで失礼します」
そう言ってさっと身を翻す。
「待て、また会えるか?」
「我々は届け物に来ただけです。
今後何かある場合は私だけで参ります」
と振り返りにっこり笑うフェルディナンド。
少女を急かすように足早に立ち去る2人。
その後、城内でフェルディナンドの姿を見ることはあったが少女の姿をみることはなかった。
******
フェルディナンド視点
私の名はフェルディナンド・ドアバック。
代々宰相を務める一族であり、名門ドアバック家の長男だ。
現宰相の父ベルナールと同じ闇の属性。
この国では光と同じく闇の属性を持つものは希少であり、まだ10歳の私の元にも多くの婚約者候補の釣書が届いている。
しかし今私には全くそれらに興味が持てない。
なぜなら我が妹が天使すぎるからだ。
まだ5歳というのに気品あふれる淑女。
艶やかな黒髪に魔性のようにきらめく紫色の瞳。
母についてお茶会に行くと、その珍しい髪や眼の色を同年代の少女にからかわれる、と言って哀しそうな顔をして僕に抱きついてくる。
愚民どもめ。
闇の属性事態が希少なものであり、素晴らしいものなのだ!
それをからかうなどと!
「お茶会にはもう行きたくありません。お兄様とずっと一緒にいても良いですか?」
よくやった!愚民ども!
それから妹はどこに行くにも私の後をついてきてくれる。
妹は真面目で、内向的な性格なので私の膝の上で本を読んでいることが多い。
目に入れても痛くない妹のことを僕はでろでろに甘やかしたが、両親はきっちりと躾けるため、マナーや歴史の勉強の時は引き離された。
妹の私を見つめる潤んだ瞳が、行きたくない訴えている。
離れがたい、とくいさがろうとすると母に呆れた顔で引き離される。
「たかだか数時間だけでしょう、、、」
そして思い出すのも腹立たしいあの日。
父ベルナールが仕事で必要な書物を持ってきて欲しい、と伝書魔法が届いた。
私が出かけようとすると妹も
「お兄様と一緒にいく」
とついてきた。
あまり外に出たがらない妹には良い気晴らしになると思い快諾した。
今思うとそれが全ての間違いだった。
城内までは一緒に入ったが王宮は私しか入れない。
妹は庭園に興味を持ったのでそこで大人しく待つように指示する。少し寂しそうな顔をさせてしまったが、城内には不審者は入れないので安心な場所だ。
大人しく座っていれば危ないこともないだろう。
父に届け物を渡した後急いで妹の元へ戻る。
妹の姿を見つけた時全身の鳥肌がたつ。
妹がじっと見つめる数メートル先に少年の姿が見える。
まさか何か妹を傷つけるようなことを!
そう思った瞬間、身体中から殺気が滲み出る。
その殺気を感じた途端少年が振り返る。
王族の中で5歳くらいの子供。そしてこの髪の色、間違いない、第一王子だ。
王子ならではの傲慢な態度で私の妹を傷つけたのではあるまいな、と睨みつける。
「お兄様!」
私の可愛い妹の顔を見ると真っ赤にはなっているが傷ついた様子はない。
きっと王子に話しかけられて緊張したのだろう。
「おいで、私の天使」
妹を確保して王子の前から隠す。妹が無事なことに安心して少し落ち着くことができた。
「宰相ベルナールの息子、フェルディナンドと申します。殿下、我が妹がなにか失礼なことでも?」
失礼などあったはずがない。むしろお前が失礼なことをしていないか?という意を込めて尋ねる。
「第一王子のシャルルだ。
子供が城内にいるのが珍しいので声をかけただけだ。
一言も返してもらってないがね。」
「恐れながら殿下、淑女は知らない相手とは話をしないのが礼儀です。知らない相手とは。」
ふん、やっぱりな。私の妹は立派な淑女なのだ。
お前がいくら王子だろうと知らないやつと話をするはずがない。
よくやった!妹よ。こんなやつと口をきいてやる必要はない。
「小さい子扱いして申し訳なかった。
立派な淑女だ。無礼を失礼する」
意外なことに謝ってきた。先程の私の発言は流石に不敬ととられるかと思ったのだが。
私の後ろで妹がお辞儀をする。
やはり私の妹はお辞儀までもが美しいな、と思い王子の顔色を伺うと、見惚れるように妹を見ているではないか!
慌てて妹を王子の目から隠す。
「父への届け物で城内に来ただけですので我々はこちらで失礼します」
そう言ってさっと身を翻す。早く帰らなければ。
「待て、また会えるか?」
ふざけるな。
「我々は届け物に来ただけです。
今後何かある場合は私だけで参ります」
2度と妹には会わすものか、と心に決めにっこりと笑い城を後にする。
帰りの馬車で妹に王子から何を言われたか確認する。
「何をしているか尋ねられただけですわ」
ほっとする。
「あ、あと、、、」
言い淀む妹。冷や汗が背を伝うのを感じる。
「私の眼の色が、綺麗だと」
ほう、というため息とともに顔を赤らめる。
この時からシャルル王子は私の中で最重要危険人物となった。
その後、妹がついてきたがっても城内へは決して連れて行かないことにした。
私が妹ベアトリスという天使を、シャルル王子という狼から守るのだ!と固く誓った。