私が辿り着いた場所……2/4
次の瞬間、老ダークメイジは手をパーティにかざして「ヒヤヒヤロン!」と叫んだ。
瞬時に放たれる氷の全体魔法。
これまで出会ったダークメイジ達とは比べ物にならない、巨大な冷気がパーティを襲った。
急速に広がる地面の霜、凍れる庭園内の植物、バキバキと言う恐ろしい音と共に世界全てが凍り付く!
「手段も無くお前に会いに来ないよ!
火の加護を受けた護符よ!」
“焼き肉串”がそう叫ぶと、全員の腕に嵌められた宝石付きの腕輪が輝き始めた。
温もりある光が天蓋の様にそれぞれの体を覆い魔法の冷気を和らげる。
ところがそれでも冷気は彼女達を襲った。
アランが「寒い!」と叫ぶ。
「我慢してよ、それでも男の子でしょ!」
キレたヤッピーも叫んだ。
「ああ、一個3万ゴールドもしたのに……
それでようやくこの暖かさだなんて!」
前回この老ダークメイジにヒヤヒヤロンの全体魔法で倒された“焼き肉串”はその反省を踏まえ、今回魔法効果がある護符を買い込み、強敵に挑むことにした。
きっとこの老ダークメイジ“コウゾウ”と戦う筈だと思ったからだ。
そしてこの装備の事を知られたくなかった彼女は(そもそも戦いをしなければ自分達の事は知られないだろう)と考えて、聖水をばらまきエンカウントを0%に抑える。
そこまでして、今回の戦いの為に用意周到に準備したのだ。
それなのにこの程度の優位性しか得られなくて失望する。
「う、うう……」
……この時ニックが呻きだした。
思わず彼女は、目線を彼に動かす。
するとニックは時間の経過と共に、顔色を悪くさせていた。
(ダメージが入ってるッ?)
良く見ると魔法と言うより、凍った葉っぱや枝等が吹雪に煽られてニックに叩きつけられていた。
……丁度居た場所が悪かったようだ。
「……なんて不運ないんだろう」
ステータスを初めて見た時から、彼に運がない事は分かっていたけど、それがここにきてソレが出るとは……
やがて吹雪が収まり、目の前の視界が真っ白に変わり果てた。
その中で老ダークメイジが「カッカッカッ!」と笑いながら語る。
「ほう、泥棒で名高い“焼き肉娘”よ。
この日の為に随分と効果の高い護符を用意したな。
良い心がけじゃぞ」
それを聞き、負けてたまるか!と挑発的な笑みを浮かべて彼女が答える。
「フン、誰だよ“焼き肉娘”って……
ええ、高い装備を揃えて来たわよ。
魔物の皆さんも、闇市で私達の為に色々売ってくれたしねぇ」
「ふ、ふふ……羽振りが良いな小娘。
真面目に働く魔物達に申し訳ないとは思わんか?
そのお金は、お前が身ぐるみ剥いでこさえたお金じゃろうて。」
「魔物が真面目ねぇ……面白い事言うわね、コウゾウさん。
ところで一つ聞きたいのだけど。
……私の帽子の中に在る、兜の持ち主も真面目なのかしら?」
それを聞いた老ダークメイジは、ぴたりと体の動きを止め、そしてニンマリと笑う。
「クワタ君には、後.で余計な事を言うなと言っておかんとのぉ」
「ロクデナシみたいね、そのスライム」
「彼は良い奴じゃよ、仲間思いの良い魔物じゃ、お嬢さん……」
そう告げたのち、老ダークメイジの姿が一瞬ゆらりと揺れた。
(?)
その様子に一瞬戸惑った冒険者達。次の瞬間。
ガッシャーン!
「うわぁッ!」
激しい音を立ててニックのミスリル製の防具が何かに衝突した。
思わず目線をそちらに投げると、いつの間にか身近な場所に老ダークメイジが立っていた。
『!』
驚く冒険者たちの前で、ニックを吹き飛ばした老ダークメイジが邪悪な笑みを浮かべる。
「次は貴様じゃ!」
叫ぶ魔物、再び揺らぐその姿。
「動き回って!」
短い間に鑑定能力を発動させていた“焼き肉串”はそう叫んだ。
瞬間移動能力……鑑定の結果知った、奴の力の正体。
老ダークメイジは直後に、アランが居た場所に現れ、横殴りに杖を振り回した。
アランは間一髪これを避けるッ。
「ほう、良く避けたな小僧。誉めてやろうぞ……」
顔色を青くさせながら、体を敵から遠ざけていくアラン。
その顔を恐怖で引きつらせながら、彼は老ダークメイジを見つめた。
……これまで出会ったどの魔物よりも強く、そして異質なその存在感。
思わずこの勇者の足を後ずらせる……
そしてこの魔物は次に“焼き肉串”の方に目線を投げた。
「小娘、コソコソと人の能力を盗み見るのは感心せんな。
手癖だけではなく、目の癖も悪い……」
女盗賊はその言葉を聞き、冷や汗を背中に垂らしながら、それでも顔にはいつもの挑発的な笑みを浮かべる。
「あらそう?コウゾウさん程のダークメイジなら気前良く見せてくれないとさぁ。
ケチ臭いと思わない?お爺ちゃん」
……バレるとは思わなくて内心焦る。
フランフランでは居ないような強い魔物と出会うと、こう言う事が起きるのか……と知った“焼き肉串”。
更に言うと、現在鑑定は妨害拒否されて、彼女は目の前の老ダークメイジの実力が分からなくなっていた。
そんな状況が“焼き肉串”の心に動揺をもたらす。
それを悟られまいとする彼女に、何を察したのか老ダークメイジは「まぁ、良いだろう」と告げた。
そんな中ハニーが、老ダークメイジの目を盗みニックに回復薬を飲ませた。
たちまち動けるようになったニックは、自動回復効果のある指輪を触り、時間経過と共に体力の回復を図る。
それに気付いた老ダークメイジが、感心した様子でこんな事を言う。
「お前さん達は本当に良いモノ持ってるのぉ。
あの小僧の持ってる回復の指輪も、値段が張りそうな物じゃわい」
魔物が放つ強者の気配にじりじりと押されていた“焼き肉串”は、強がりを張って答えた。
「おかげで大赤字よ。
この3ヵ月で稼いだお金の殆どを、今回の魔法のアイテムに注ぎ込んだんだから。
そのせいでアランと喧嘩までしちゃった」
そして女盗賊は心の中で(だから寄り道してまで宝石が必要なのよ……)と言葉を付け加える。
「ふぉふぉふぉ、ここまで来るには相当な準備をしたのは良い心がけじゃ。
だが……その全ては無駄になるかのぉ」
老ダークメイジはそう言うと、呪文を唱え始めた。
「―主より賜りし大いなる力の根源よ、今その真の力を解き放て。
―真なる闇の高貴な魔素よ……
―その力を我に与えよ。
―そして……我を第10デモンズロードの高みへ!」
“焼き肉串”はその呪文を聞きながら(第10デモンズロード!)と驚愕した。
デモンズロードとは、12匹居る特別な力を持った魔物の事だ。
正確には魔王、4天王、そして7魔公爵……彼等の事を指す。
だからそれを聞き驚いた“焼き肉串”。
そんな彼女の前で、老ダークメイジは体の中から発した闇で全身を覆い始めた。
やがて闇は、真っ黒な真球の形となって、すっぽりと彼の体を視界から隠す。
グゥォン……フゥォン……
巨大な闇の真球からは、聞きなれない鈍い音が響き渡り、その異様な光景が無意識のうちに彼女の足を後退させた。
そしてこの雰囲気に飲み込まれ、他の仲間達も同様に後ずさる。
そんな中アランが、張り詰めた声で彼女に尋ねた。
「ヤッピー、第10デモンズロードって何?」
“焼き肉串”は答えた。
「魔界を統べる魔物達のボス、その中でも序列が上から3番目の奴よ……」
「え?」
「正確には、魔王直属軍の中では3番目ね。
魔公爵は貴族だから魔王に従うけども、自分の領地の中では国主の立場にある。
だからこの序列には参加していない。
デモンズロードの1番から7番は魔公爵。
そして8番目から12番目までは4天王と魔王になる。
第12は魔王。
第11はマーシャルデーモン。
第10がダークロード。
第9がルイニングフェニックス。
第8がキル・オール……こいつはグランオークね」
「強いの?」
「魔王に挑む際、最後のボスラッシュの相手よ……つまりコウゾウはダークロードという訳ね」
そう無意識から出る知識を、物語りながら“焼き肉串”は(どうしてそんなこと知っているんだっけ?)と思った。
……学んだ記憶がどこにもない。
『ほう、実に詳しいな小娘……』
“焼き肉串”が仲間にそう説明しているのを聞いた、闇の真球がそう言葉を発した。
『私の事を知っていると言うなら、それと相対する愚かさも知っている事だろう』
次の瞬間闇の真球は小さくなり、そして一匹の人型の存在がそこに現れた。
人型は、真っ黒な手足、紫と銀、そして赤色に彩られたおどろおどろしい服を纏い、禍々(まがまが)しい気配を放っている。
『…………』
……冒険者達は言葉を飲んだ。
何もしなくても伝わる強者の波動。
恐怖が心に呼び込まれ、思わず体を屈ませた。
感じてしまう、冒険初心者が集まるフランフランで出会う筈も無い、圧倒的恐怖。
この時“焼き肉串”は、イイダバシのミツカベが言った言葉を思い出した。
『―実はあと3か月とちょっと経ったら、強制イベントが始まります。
―イイダバシに帰るのはその頃となりますので、イベントの情報に耳を傾けてくださいね。
―強い魔物に出会えるようなイベントを企画しますので、それを合図だと思ってください』
……奴の言葉を思い出しながら、女盗賊はプレッシャーに逆らうように背筋を伸ばし、そして果敢にもダガーを構える。
「つまりアイツは、目の前の黒い奴に私を引き合わせたかったんだね。
私を踊らせて、何が望み?ミツカベ、そしてイイダバシッ!」
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