私が辿り着いた場所……1/4
―約半年前
そこは暗く、狭く、そして柔らかい空間だった。
新人女魔導士“焼き肉串”は不意にそんな場所で眠りから覚める。
あまりにも暗いので、まだ夜だったのか?と思った彼女は、もう少し眠ろうかと思い寝返りを打つ。
「う、うーん……ハッ!」
この瞬間彼女は、自分がどこに居るのかを直感的に悟った。
……棺桶の中だ。
「開けてっ、開けてぇー」
外にいるであろう、教会関係者に聞こえるように声を上げた彼女。
やがて棺桶の蓋は開けられ、そして外の世界が視界に収められる。
「……どこ?」
開かれた棺桶の蓋の向こう。
ある筈だった教会の立派な天井は見えなかった。
代わりに、どこかのお店の天井が目の前に現れる。
(死んで蘇った場合は、通常教会の中で蘇る筈なのに……どうして?)
この様子に訝しんだ彼女に対し、誰かが声を掛けた。
「大丈夫か?」
気が付くと一人のダンディな僧侶が、棺桶の中を覗き込み、そして自分に手を差し伸べている。
戸惑いの中その手を取った彼女は、僧侶の力を借りて体を起こした。
「……あれ、ココ教会じゃない?」
教会の中とは似ても似つかないこの風景を見て、彼女は思わずそう尋ねた。
だがそう尋ねた後ですぐにこの場所の正体に気が付く。
この店内の様子は間違いなく、行きつけの飲み屋である、ボルドーの酒場だ。
思わず呆然としていると、先程自分を起こしてくれた僧侶に向かって、近くに居たこの店のマスター、ボルドーが「ありがとう司祭」と礼を言っているのが聞こえた。
「それじゃあボルドー、お嬢さんにお金の話をしておいてくれ、それじゃあ」
そう言うと、ダンディなおじさんはこの店を出て行った。
まだぼんやりする頭を引きずり、それを無言で見送る“焼き肉串”。
そんな彼女の様子を見て、マスターボルドーは溜息を吐いた。
「はぁー……酷い話だな。
お嬢さん、水を飲むかい?少しはすっきりするだろう」
「ええ……」
生返事をしながら“焼き肉串は「マスター、私どれくらい棺桶の中だった?」と尋ねる。
その後“焼き肉串”は棺桶から抜け出し、カウンターの席に座った。
そんな彼女の前に水の入ったグラスを置きながらボルドーは「二日ぐらいじゃないかな?」と答える。
「二日もかぁ……他の皆は?」
ボルドーは「あんたをメンバーから外して、連中は旅立ったよ」と、無表情に返す。
「えッ、どう言う事?良く分からないんだけど……」
“居なくなった”と聞かされて、心臓が凍り付く彼女。
そんな彼女にボルドーは言った。
「勇者さん達はお嬢さんを蘇らせず、パーティメンバーから外した。
ウチに棺桶ごと、お嬢さんを置き去りにしてなぁ……
気を確かに持って欲しい、今お嬢さんは一人だ。ソロの冒険者になってしまっている」
「……つまり、あれ?
私、捨てられたの?」
「……一人になった、という事だ」
「…………」
思わず溜息を漏らした後、彼女は両手でその顔を覆いつくした。
頭が痺れるように重く、胸が動揺して高鳴り、そして視界は暗く歪んだ。
『…………』
黙って、そして、再び物憂げな溜息を吐く。
……しばらくしてボルドーが「今回のは、良くある話だよお嬢さん」と声を掛ける。
「面と向かって、クビを言い出せないメス野郎は、相手が棺桶に入っている間に、勝手にパーティからメンバーを追放するんだ。
よくある話さ、アンタだけじゃなく、他にも何人もの冒険者が同じ目に合ってる。
だからという訳じゃないが……気にするな。
別にアンタが、特別見どころの無い冒険者って訳じゃない。
ここから何人もの冒険者が、元のメンバーを見返したのを俺は見てきている。
冒険者は腕と運が頼りの世界だ、アンタも冒険を続けるなら、ココから見返す道を見つけた方が良い。
まだ若いんだ、色々な事に蹴躓くさ!
まだまだやり直せる、自暴自棄だけは起こすな、な?」
そんな優しさの籠ったボルドーの言葉は、どこにでもある慰めで、無いよりはあった方がマシのモノ。そんな虚ろな言葉に思える。
ソレを聞く“焼き肉串”の心は限界だった。
「……う、ううっ、ヒッグ、ヒッグわぁぁーッ!」
溢れだす慟哭、感情の叫び。
言葉も無く悲しく、そして寂しかった。
テーブルに顔を伏せ、彼女は呻く。
「う、ああっ!こんなの卑怯だよ、卑怯だよッ!
目が覚めたらクビになっていただなんて、一人になって居ただなんてっ!」
「…………」
「アイツ等は薄情だっ!
卑怯モンだよ、どうして?
一番仲間に会いたい時に、どうして?
なんで?どうして……」
「見返してやりなよお嬢さん……」
「う、ううっ……クソ、クソぉ」
「お嬢さん……こんな事を言うのは気が引けるが、運が無かったんだよ」
「……どうして?」
「ダークメイジ2匹とスライムとオオガラスとオオオウムの5匹組に出くわしたんだろ?
アイツ等は実はこの界隈で一番冒険者を倒している。魔物のユニットなんだ」
「…………」
「旅立ったばかりであんなのと戦ったら、そりゃ全滅もするさ。
だから気を落とさないでくれ、他の魔物のユニットはあんなに強くは無い。
あのユニットだけが特別なんだ、そう言う事なんだ」
「……う、うう、ヒッグヒッグ」
応える代わりにしゃくりあげた彼女の涙声に、ボルドーは難しい表情を浮かべた。
「後こんな事を、今のお嬢さんに言うのは気が引けるが……」
「ヒッグ、ヒッグ……」
「実はな……」
そう切り出してボルドーは言いづらい事を話し始めた。
内容は彼女が教会に対して、今回の復活の費用を、後払いで納めなくてはならない……という事だった。
現在手持ちのお金が乏しい“焼き肉串”は、自分がまずは金策に走らないといけないのだと、この時知る。
……辛く暗い日々が、こうして始まった。
彼女はまず、薬草の採取等、手っ取り早く収入になりそうな仕事を請け負い、口銭を稼いだ。
彼女は明けない夜も、止まない雨も無いと、めげそうな自分に言い聞かせながら、借金を返す算段を付けて行く。
いつかまた冒険に戻るその日の為に……
◇◇◇◇
―あれから半年後の現在
老ダークメイジの顔にダガーを突き付け、夕焼けの薄明りの中、呼吸を測る“焼き肉串”は、かつて自分に起きた悲劇を思い出していた。
(オオオウム、オオガラス、スライム、ダークメイジ……)
不意に記憶から蘇る、自分を苦しい立場に落とした、あのユニットの姿。
そして目の前にいる老ダークメイジと、若いダークメイジ。
この2匹を見た瞬間、これまで解けなかったパズルが、ぱちりと解けた。
「ダークメイジ2匹に、オオオウム、スライム、オオガラス……」
オオオウムのヤスイ、スライムのマツダ、オオガラスのクワタ、そして老ダークメイジのコウゾウと、もう一人……
「成る程、皆グルだったという事ね」
かつての魔導士、今やこの国で名前を轟かす冒険者となった女盗賊“焼き肉串”はそう呟いた。
「どう言う事じゃな?」
老ダークメイジが杖を構えながらそう尋ねると、女盗賊が言った。
「全部仕組まれていたんでしょ?」
「何をじゃ?
ワシは魔公爵を守るだけじゃぞ。
何かを仕組んだことは何もないが……」
「そうなんだ……それじゃあ、仕組んだ連中は間違いなくアイツ等ね。
ミツカベ、カサハラ……イイダバシ。
コウゾウ……さっきオスカルがそう言っていたから間違いないわよね?名前。
コウゾウさんはミツカベって、言う怪しい奴知ってる?」
「ミツカベ?知らんな」
「そう……それでもいいわ。
私はそいつに嵌められていたのよ、汚い話よ、運命って言うのよね、そう言う事……」
「?」
「私を苦しめてどういうつもりだったのか、あとで必ず聞き出してやる……
ミツカベ、タダじゃ置かないから」
そう呟いた後“焼き肉串”は一気に動いた!
「!」
驚くと同時に老ダークメイジの体が、瞬時に動く。
魔物は突っ込んでくる女盗賊に杖を突き出した。
“焼き肉串”はそれを見越して頭をわずかに振るとそれを紙一重で交わし、深く懐に潜り込む。
パシッ!
その体にダガーを突き立てるべく、振るわれるはずだった腕が叩き落とされた。
長い杖の奥側を使い、老ダークメイジがその腕を上から抑えたのだ。
瞬時に杖を回し、魔物は抑えに使った奥側の杖先で、相手の側頭を薙ぎ払う。
「ッッ!」
急ぎ横倒しに体を倒し、地面を転がる事で間一髪避ける“焼き肉串”。
その態勢の整わない体に、老ダークメイジが次々と連撃を入れた。
ピュン
この時割って入る様に、何かが飛んで来た。
それを杖で撃ち落とす老ダークメイジ。
「ヤッピー!」
ハニーの声が響き、そして彼の手から再びミスリル製のダーツが放たれる。
こうして生まれた僅かなスキをついて、女盗賊は姿勢を整え、背後へと下がった。
「やれやれ、最近の若いモンは手癖が悪いのぉ」
やってきた2本目のダガーを打ち落とし、のんびりとした口調で老ダークメイジはそう呟く。
……その目の中に殺意が漲った。
「勝手に話しかけておきながら、聞きたい事を聞いたら不躾に襲って来る小娘。
そしてそんな礼儀知らずとの決闘に割り込む、チンピラ。
殺してやらんと気が済まん……」
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