第7の男 奇才・クワタの抵抗!6/6
それを聞き、オスカル・アンドレ・ロマンも又、挑発的な笑みを浮かべて言った。
「ふ、ふふ……クワタが世話になったようでこちらも感謝しよう、盗人女。
ロクデナシの女盗賊と聞いたが、こちらに配慮をしてくれるとは有り難い限りだ。
……聞いた話と違うようで意外である」
「へぇ……」
“焼き肉串”は腰のダガーを抜き払いながら「どんな噂を聞いたの?」と尋ね返す。
すると魔公爵は顎を上げ、上から下に見下ろすようにしながら言った。
「お前は、魔物の下着までも全部身ぐるみ剥いで倒すそうじゃないか。
下着泥棒のクソ女として、我が家臣達はお前の事を嫌っていたぞ」
下着泥棒のクソ女……凄いタイトルに目眩を覚えながら、女盗賊は「下着まで盗むのは私じゃないわよッ!」と答える。
「嘘をつくな、魔物の下着をお前はコレクションしていたのだろう?」
「はぁッ⁉なんで私があんな汚いものを集めなきゃいけないのよッ。
私は下着を盗んでないッ、それは全部他の奴の仕業っ!」
それを聞きながらハニーはかつて“焼き肉串”がパンツまで獲ろうとしていたのを、止めておいて良かったと思った。
「あんた撤回しなさいよ!
なんで私がそんな変な奴みたいに言われなきゃならないのッ?」
「おや、聞いていた事と違っていたのか?
それは済まない事をしたな……
だが、お前が魔物を身ぐるみ剥いだ上で倒した事は間違いあるまい?
それのおかげで生活が破綻した者が出て我等は大変だったのだ。
その落とし前は、主である私が必ず付けさせてやる」
「ハン、人間だってねぇ、お前達魔物のせいで海の中の島に行かざるを得なくて大変だったのよ。
私もその落とし前を付けさせて貰うわ」
「フン、その海の中の島に行ったのは、お前ではない。
……フランフランの王だろう?
奴よりも(階級が)下の者がその仇を取ると言うのは随分と立派だ。
だがな、小娘……王は人間達にすら支持されなかったのではないか?
高い税金、過度な贅沢、そして正されることも無い不公平、そしてはびこる耳障りの良い嘘と、それに騙される民衆達……
その全てが祖国滅亡の遠因となった。
民衆はもちろん、その社会の仕組みで一番の受益者である王や政府だって我の前に自分の国を差し出した。
ロクな抵抗も示さずだ……海の中に浮かぶ島に逃げ込む為になぁ。
そのような国王、そのような政府の下で誰が暮らしたいと思う?
お前は彼の為に私と戦うと言っているが、それは本心か?
繰り返すが、王とその取り巻きは民衆も守らず島の中に逃げた。
そんな振る舞いで、しかも不公正な統治で、そして重税でもって民衆の忠誠心に応えたあのフランフラン王。
そんな者の帰還を喜ぶ者が居るはずが無かろう!
お前達島の人間共が私を恨むと言っても、我が鉄の国の国民は、皆こぞって私の統治を歓迎してくれている。
お前達は私が行う善政によって得られた、人間社会の平穏を脅かす無法者に過ぎない!
だから私は、私の国民を守る君主としてお前達と相まみえるのだ!」
怒りも露に睨みつけ、威厳ある姿で“焼き肉串”を怒鳴りつける、オスカル・アンドレ・ロマン。
『…………』
これを見て困ったのは冒険者達だ。
この時、彼女達の脳裏に、とある人物が現れた。
ひのきの棒を尊大に投げて寄越し“それで戦って来い!”と言い出す、コスパ最優先のドケチなフランフラン王である。
そんな頭の中の映像を見ながら、ハニーが思った事を言った。
「ねぇヤッピー、オスカルの方が僕達の王様よりも立派じゃない?」
「うん……まぁ、うん」
人間だから人間の方をかばいたいが……片や負けてばかりでケチで尊大、しかも優しい訳でもなく不公平。
もう一方は人間ではないが、勝利を重ねて勢いがあり、気前が良くて面倒見が良い、しかもボスとして器量があり、割と公平。
どっちが良い?と言われれば……である。
「……人間達に勢いが無くなったのも当然かもね」
ハニーの漏らしたその一言に、思わず皆は黙り込んだ。
……戦う気持ちが、始まる前から萎えそうである。
『…………』
まるで風の中のロウソクの灯、何かを始める前に消えそうな情熱……
自分達の王よりもこっちの方がマトモなんじゃないの?
男達のその顔に、戸惑いの感情が浮かんだ。
正義が自分達に在るのかどうなのか、自信が持てないハニー、アラン、ニック。
戦う気持ちが消え入りそうになる。
「ふ、ふふふ」
だがしかし、ここで女盗賊は静かに笑いだした。
「あは、アハハ……アーッハッハッ!」
ふんぞり返って高らかに笑いだす“焼き肉串”。
驚く男達が、黙って彼女の様子を注目しだした。
その視線の中、彼女は口を開く。
「なんだ、そんな事?馬鹿らしいわ……」
彼女には見えていたのだ、魔公爵の話の問題点が。
そうだ……人間達のフランフランの王は確かに評判が悪い。
だけど彼女は思う(それがどうだって言うの?)と……
彼女のその様子に、皆驚く。
そして確信を抱く彼女が、決意を胸に語り始める。
「魔公爵オスカル……語るに落ちたね」
「なんだと?」
眉をしかめ、怪訝な顔で“焼き肉串”の、歪んだ笑みを睨み付けるオスカル・アンドレ・ロマン。
そんな彼に彼女は言った。
「誰があの王に鉄の国を返すと言った?」
「なに?」
「今居る庭園もねぇ、あの下にあるお城も皆……私のモノよ」
『…………』
ハニーは(今なんて言った?)と思って首を傾げた。
頭が今の一言を処理しきれない。
思わずニックやアランの方に目を向けると、彼等も互いに顔を見合わせて、今の一言に混乱している様子だった。
『…………』
黙ったまま“ピッ!”と、女盗賊の方を指さすアラン。
良く分からないが、なんとなく意図が伝わったニックとハニーが激しく頷き返す。
そんな混乱する人々の前で、彼女は高らかに宣言した。
「オスカル、あなたは大きな誤解をした様ね……
あんなケチ臭い男に私は自分の血と汗と涙の結晶を渡す訳ないじゃない!
アナタが治めたこの国は私が貰い受けるわ。
そして、あなたの代わりに私が立派に治める事にする!
そう……誰も文句は言わさせない!
私は女王になり、あのドケチの支配から逃れ、此処で理想郷を作る!」
『!』
ここにいる全員が驚き、そして彼女の顔を見た。
……まぁ、そうだよね。
「だからみんな安心すると良い。
フランフラン王は未来永劫、この国の支配者に戻って来る事なんか無いわ!
鉄の国は……私が治めるのだから!」
呆然とした表情を浮かべる男達の前で、歓喜に満ちた笑みを浮かべた“焼き肉串”。
自分の使命を悟った女盗賊に、オスカル・アンドレ・ロマンが叫ぶ。
「小娘、お前は正気かっ!」
すると“焼き肉串”は笑みを浮かべて答えた。
「ええ正気よ、魔公爵のオスカル……
だって、あんなロクでもない王が帰ってきたら、皆困るんでしょ?
だったら私が成るしかないじゃない……
どちらにしても、国には王が必要なんだしねぇ」
「狂ってる……お前は貴族でも何でもないだろうに?」
「ええそうよ、でもね……どうせ王なんて、ただの人間じゃない。
同じ人間なんだから、私にだってその権利があるわ。
お前を倒せば、誰も私に逆らわない。
資格の有無は、そうやって証明すればいいのヨ、魔公爵オスカル……」
どこか歪んだ狂気……野望でギラつく彼女の目を見つめ続ける魔公爵はそう、女盗賊の胸に眠る精神を読み解いた。
思わず彼は「我が臣民の為にも、お前のような者に国を渡す訳にはいかない……」と呻いてしまう。
そして次に腕から魔力の波動を発した。
波動は飛翔し“焼き肉串”の近くに落ちる。
フィィィィン……
次の瞬間、地面が紫色に発行し始め、そして甲高い音が鳴り始めた。
「……オスカル、仕掛けたわね?」
「ああ、当然だな……」
全てを明かすつもりは無い。
どこか意味深な言葉を残し、更に波動を発するオスカル・アンドレ・ロマン。
彼が用意したであろう、罠を警戒し、鑑定能力で周囲の情報を必死に集め始める“焼き肉串”。
それを睨みながら、次々と波動を発射し、縁石や樹木と言った、庭園の設置物に光を灯す魔公爵。
(これは何?何の為の魔法なの……)
魔公爵の意図が見えず、必死にこの行動の意味するところを推し量る女盗賊。
……時間がイタズラに過ぎていく。
得意げに笑う魔公爵、それを睨みながら周囲の変化に気を配り続ける彼女……
この時だった。
女盗賊“焼き肉串”と、魔公爵オスカル・アンドレ・ロマンとの間、一本の光の柱が空から降りてくる。
「ふぉっふぉっふぉっ……間に合った様じゃな」
驚く“焼き肉串”の目の前に、若いダークメイジと、そしてそれよりも一回り身体が大きな老ダークメイジが光の柱より現れた。
それを見た魔公爵は「間に合ったじゃないよ、クソ爺ぃ……」と呟く。
「聞こえて居るぞ……」
そう返した老ダークメイジに、魔公爵は「待っていたよ、コウゾウさん」と言った。
……コウゾウ、その名前を聞いて眉をしかめたのは女盗賊“焼き肉串”だった。
そんな彼女に魔公爵が告げる。
「私自ら相手をしてやろうと思ったが、どうやらこの国で一番強い男が来た様だ。
なので彼を倒さぬ限り、私に挑む権利をお前にくれてやる事は出来ない。
悪く思うなよ、お嬢さん……」
そう言うと、オスカル・アンドレ・ロマンは、発し続けていた、魔力の籠る波動を止めた。
……光の失せた、夕方の庭園。
その中で女盗賊は、良く見せる挑発的な笑みを浮かべる。
「道は一歩ずつ、階段は一つずつ……」
「なに?」
「全てを越えたら目的地に辿り着くわ……
どうせやる事は何も変わらないモノ、コイツを倒せばいいんでしょ?
それにね……このダークメイジのコウゾウさんは私と縁があるの」
「何?」
「覚えているかしらコウゾウさん……私貴方に倒されたことがあるの。
それからの私の日々は散々(さんざん)なモノだったわ……
それを恨んだりもしたけど、もうどうでもいい。
ここまで強くなれたのもアナタのおかげでもある。
でもね……お前の事を忘れた事は一度も無いよッ!
お前を棺桶に詰めて、魔物の教会に叩き送ってやるまで、私の復讐は終わらない!
覚悟しろよ、テメェっ!」
それを聞いた老ダークメイジは、普段の穏やかさとは違う、凄みのある笑みを浮かべて言った。
「どうでもいいのに復讐か?
忙しいのぉ小娘……学生からやり直したほうが良さそうじゃな」
そう言って手にした杖を鳴らし、身構える老ダークメイジ。
その顔面目掛けて、女盗賊“焼き肉串”はメテオリクのダガーの切っ先を向ける。
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