第7の男 奇才・クワタの抵抗!4/6
……冒険者パーティのラ★ニーズは、修羅場を継続中だった。
傍目からでも判るギスギスとした空気、誰も何も言葉を発しなかったのだろう……シミの様に広がっている気まずい沈黙。
そんな中帰って来たオオガラスの姿を見届けた“焼き肉串”は「……じゃあ、行こうか」とだけ言って立ち上がった。
他の3人も同様だ。
「……で、ではこちらに」
こうして先程とは打って変わって、腰を低くして案内をするクワタ。
テクテクと歩きながら彼等を先導し始めた。
「…………」
『…………』
敷き詰められる、耐え難い空気……
オオガラスのクワタは思った(これは空気を変えないと、時間が持たないぞ)と。
そこで彼は一番自分と話してくれた、遊び人のハニーに話しかける。
「先ほどはありがとうございます、おかげでヤスイ達は無事、どこかに送り届ける事が出来ました」
「ああ、そうなんだ……」
「いやぁ、急性アルコール中毒でしてね、病院に送るかもしれませんね。
普段あいつは“酒に酔うなんて情けないギャぁ”とか言ってるんですが、いやアイツの方が情けないと言うのか何なのか……
ホントビックリしますよね、アイツ酒なんて飲めなかったはずなのにね」
「フーン……」
「それにしてもお兄さんカッコいいですねぇ、こんな美しい男の人見たことないので俺びっくりしちゃいましたよ!」
「ああ、ありがとう」
「きっとモテますよねぇ、彼女とかいるんですか?」
とにかく何でもいい、必死に話しかけるクワタ。
褒められれば悪い気はしないモノで、ハニーははにかむ様に笑うと「どうだろうね……」と答えをはぐらかした。
諦めずクワタは喋りかける。
「俺実は彼女いるんですよ、今度結婚しようという事になってですね。
付き合ってまだ6ヵ月なんですが、これが運命の女だって、思って」
「え、早っ!なんで?
もっとお互い知った方が良くない?」
クワタの恋愛話に思わず食いついたハニー。
クワタはどこか救われた気持ちになって話を膨らませた。
「俺の彼女オオスズメの年上なんですが、とっても御淑やかで、しかも公務員なんですよ。
もうこれは逃す手は無いな、と思いまして」
「公務員のお姉さんかぁ、悪くないねぇ」
そう言ったハニーは次の瞬間“焼き肉串”が自分を睨んでいるのを見て、咳を一つコホンと打つ。
「いやそう言ってくれます?
お兄さんにそう言ってもらえると自信が付くなぁ。
マツダにこの話をしたら“俺はもっと気が強いのがタイプだな”とか面白くないこと言いだしまして。
付き合うならそれも良いけど、真面目でお堅い人も悪くないんだぞ!と、俺は思うんですよねぇ」
「まぁ、その子にはその子の良い所あるよね」
そう言って控えめに、それでいてノリノリの相槌を打つハニー。
それを聞いて“焼き肉串”が「ふっ」と挑発的な笑みを浮かべて言った。
「ハニーも真面目な人捕まえて、身持ちを良くしたら?」
ハニーは「ああ、そう言う事言う?」と返した。
すかさずクワタは揉み手をしながら、こう“焼き肉串”に言った。
「姉さんも俺の決断良いと思います?
俺、今の彼女が俺の天使だと思っているんですよ!」
「天使?天使なんだ……へぇ」
そう言って楽しそうに笑った“焼き肉串”。
それを見てクワタは(イケるっ!)と確信する、そして楽しげに一生懸命“焼き肉串”に話しかけ始めた。
……こうして辿り着いたのは綺麗な蓮の花が咲く、池を中心とした庭園だった。
桃色や白色に咲き乱れる美しい花々を前にして思わず“焼き肉串”が「うわぁッ」と嬉しそうな声を上げる。
そんな焼き肉串にクワタが楽しげに言った。
「綺麗でしょう姉さん!
ここが空中庭園内にある小庭園……の蓮の池庭園です」
「へぇ、宝石はどこなの?」
「今から行く池の中の島……ほらアソコに在るヤツ、アソコに在ります」
クワタはそう言って離れた所に掛かる、瀟洒な石造りの橋で繋がれた、池の中の島を指さす。
見ると見栄えのいい四阿が立っており、それがとても印象的だった。
「けッ、おいカラス!さっさと案内しろよッ」
それを見てアランが苛立ちも露に、クワタに怒鳴りつける。
それを聞いてこっちも苛立っている“焼き肉串”が「ちょっとっ、怒鳴らないでよッ!」と怒鳴り返した。
それが面白くないのかアランは再び「けッ!」と言うなり、そこら辺に唾を吐き散らかした。
これを見てクワタは思う。
(この男を不機嫌なままにすると、絶対後でひっくり返されるぞ……)
クワタは人間関係の調整に入る事を決めた。
彼は慎重に周りを観察しながら、自分側に立った感がある“焼き肉串”に「姉さんありがとうございます」と言い、続けてアランにこう語りかけた。
「……そしてアランのお兄さんごめんなさい」
するとアランは目をひん剥き、白目をギラギラさせながら「うるせぇよ」と吐き捨てる。
「今すぐ宝石の所に案内しますから、兄さん許してください……」
そう言ってすかさずテクテクと池の中の島に向かって歩き始めるクワタ。
クワタの背中では相も変わらず沈黙が広がるが、このオオガラスは知っている。
……謝られると、怒りは半分以下になってしまう事を。
実際ピリピリとした空気は、大分柔らかくなった気がする。
こうして気まずい雰囲気の冒険者を引き連れながら、クワタは必死に頭を働かせた。
謝罪した事で露払いは出来たはず、そこからどう道を切り開く?と。
……嘘をつくしかあるまい。
一行が島へと向かう石橋を渡る時、クワタは言った。
「綺麗ですよねぇ、この庭園。
風に揺れる蓮も見事だし……
あ、そうそう。この空中庭園で王妃様の思い出を抱いて生きる男で、俺の友人のオオオウムのヤスイって居るじゃないですか」
『…………』
誰もクワタの言葉に反応しなかった。
ソレに焦りながらクワタは「この庭園の池には、そんなヤスイのロマンスがあるんですよねぇ……」と、放り投げるように言う。
『…………』
誰もヤスイに興味ないのか誰も何も言わない。
失敗したと思ったクワタ……
次は宝石を“焼き肉串”に差し出す際、宝石にかこつけて話しかける事にしようと思う。
……この時だ。
「ヤスイさんのロマンって?」
“焼き肉串”が、無視されるクワタをかわいそうに思ったのか、此処で軽く乗ってくれた。
クワタはこの配慮に飛びつき、嬉しそうにこう返す。
「実はヤスイって、子供の頃から仲の良い彼女が居るんですよ。
オオペリカンのミサホって言うんですけどね……」
すると“焼き肉串”が目を丸くして「あ、ミサホって聞いた事ある!」と食いついた。
そしてハニーやアラン、ニックへと目を向ける。
ハニーは「ミサホって本当に居たんだ!」と驚いて見せた。
アランとニックは、反応は見せないが怒ってもいない様子だ。
ここでクワタは勝負どころが来たと感じ、戦果を広げるべく仕掛ける。
「姉さんにハニー兄さん、もしかしてミサホの事、聞いてます?」
すると“焼き肉串”は「さっきヤスイさんが、酔っ払いながら好き好き言っていたんだけど、その時ミサホの名前を連呼していた」と言ってケラケラと笑い出す。
それを煽る様にクワタが明るい声で「ですよねぇッ!」と食いつき、そして続けた。
「俺とヤスイは子供の頃からの付き合いなんで、空中庭園を守る一族出身の奴と遊ぶ際ここによく来てたんですね
そんなある日、子供の頃のヤスイと池の周りを歩いていたら、池がバシャバシャと騒がしくなったんです。
ヤスイが『これは……どういう事でしょう?』と、池に目を向けると、そこに池から大きな魚を盗み食いしようとした、オオペリカンの少女が現れました。
くちばしに咥えた魚をビッタンビッタンさせながら、水面から出て来た彼女を見てヤスイが言ったんです。
『か、可愛いギャぁ……』って。
マジでこのヤスイって男は趣味が悪いと思いましたねっ!」
『ぷっ!アハハハハハ』
モノマネを織り交ぜながら、現場を高い再現力で表現して見せたクワタに、全員が噴き出す。
……嘘だけどね。
クワタは心の中で(ヤスイごめん……)と、詫びた。
“焼き肉串”は嬉しそうに笑いながら「ちょっとクワタこれ本当?ミサホヤバイね!」と突っ込み。
アランも「いや、これはヤバいわぁ……」と思わずコメントを残す。
「ミサホヤバイでしょっ?
この日からヤスイはミサホに夢中になってですね、この池の魚を次々とミサホに献上し始めたんですよ。
これがバレて、ヤスイは一度ここから追放されているんですよぉ。
それで俺と一緒に一時期、フランフランの島で、ごくごく普通の魔物として働いていたんです」
「あ、そうなんだ?
じゃあ島の方で、昔私と戦ったことがあるかもしれないね」
「いやぁ、姉さんみたいにキレイな人と戦っていたらきっと忘れないと思いますよぉ。
だからきっと無いんじゃないですかね?」
ヨイショ・クワタが耳触りの良い言葉で返事を返すと彼女は「またまた、クワッチ口が上手いなぁ!」と上機嫌に言った。
……以前、老ダークメイジのコウゾウに、全滅させられた彼女は、あの日クワタに出会っている事に気が付かない。
そしてクワタも、あの日の女魔導士がここにいるとは思わない……
とにかくクワタは「いや、此処にいる皆さんルックスのレベルが高い!」と褒めた。
とにかく褒める、褒めるクワタはさらに続けた。
「僧侶のお兄さんもカッコいいですねぇ!
他の人と違って、知的な雰囲気が最高ですよ!」
「おい、他の人はバカみたいなのか?」
クワタは思わず凡ミスをし、それにアランが軽く噛みつく。
焦るクワタ……
ところが上機嫌の“焼き肉串”が「ニックは知的なの、アランとは違うんだよッ」と言って、フォローした。
クワタなら火傷の案件も、一度“焼き肉串”が引き受けた事で皆が笑えるネタに変わる。
ハニーもケラケラ笑いながら「ニックは知的だもんね!」と言ってフォローに加わった。
クワタは逆にアランのフォローへと回り「いや、兄さんも知的!俺近所の物知り兄さんが、アラン兄さんと雰囲気似ていたこと思い出しますわぁ」と言い始める。
この微妙にアランを立てたクワタのフォローにアランは、笑いながら「お前適当な事言ってんなよ……」と返した。
「いやぁすみません」
そう言いながら頭を掻いて反省するクワタ。
その愛嬌ある姿は皆にとって好印象だったようで、この場の空気が弾むような明るいモノへと変わる。
こうしてクワタは最初の宝石であるイルカの目玉がサファイア、胴体がプラチナのネックレスを冒険者たちに渡した。
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