第7の男 奇才・クワタの抵抗!2/6
そんな寓話を聞き、顔を見合わせたラ★ニーズの面々。
当たり前だが誰もカラスの話を信じていない。
そんな訳で当たり前だが……空気が悪いと感じたオオガラス。
彼はこの時、不意に目に涙を浮かべて「ヤスイはそれを阻止しようとしていたのに、お前たちは彼を殺したんだ!」と言った。
まぁ、苦し紛れの演技だ。
それを見る“焼き肉串”は“ハァッ?”と言いたげな表情を浮かべ、そして告げた。
「何言ってるの、アンタ?
ヤスイさんならこの屋敷の庭の入り口で、酒で泥酔してるよ」
「……は?」
「いや、何驚いてんのアンタ?」
「いや、ヤスイが死んだから、お前達は此処に
侵入したんじゃないのか?」
「はぁ?何……ちょっと、はぁ?
お前確認してから、物言えよ!」
「ちょ、どういう事だ?
ヤスイは死んで無いのか?」
「生きているよ、酔い潰れて寝てるよ!
ちょっと、コイツ信じられない……ちょっとハニーっ!」
そう言うと呆れ顔の“焼き肉串”はもうオオガラスと話したくないのか、遊び人ハニーに「こいつどうしよう、相当バカなんだけど」と言って列の後ろに隠れた。
逆にそれを見て呆然としたのはオオガラスのクワタである。
バカと言われたのも心に来るが、ヤスイが死んでなくて泥酔しているという事実が、彼を困惑させる。
そんなオオガラスにハニーが言った。
「ああ、ごめん。もうヤッピーが君と話したくないんだって。
もう僕等行って良い?用は無いよね……」
「あ、いや……ヤスイに確認してもいいですか?
あの、王妃様関連で呪い解かなきゃいけなくて。
そうじゃないと、魔公爵と戦っても勝てないというか、なんというか……」
この期に及んでも頑張るオオガラス。
この無理筋に、呆れ果てながらもハニーは返事した。
「勝てないの?」
「ふ、ふーん……あの、実は魔公爵はオリハルコンの兜を被ってまして。
あの……ソチラの“焼き肉さん”と同じで。
それで傷つかないんですね、魔公爵様……」
ハニーは“焼き肉串”が傷つかない秘密は知っていたので「ああ、そうなんだ」と答えた。
そしてそれを聞くオオガラスは、苦し紛れに言った。
「それで、ヤスイと一緒に、皆様の為にその兜盗んでくるので……兜をしまってあるロッカーの呪いを破ろうかな?と」
ハニーの忍耐も、この一言で限界だったようで「もういいよ、嘘なんでしょ」と告げた。
「…………」
図星を突かれ、次の言葉も発せられなくなるオオガラスのクワタ。
近くにいたアランも、蔑みの感情も露に「お前、恥ずかしくない訳?」と、クワタをなじる。
ニックも呆れ果てて「いったい何しに来たんですか?あなた」と、容赦なくその心を叩いた。
オオガラスは恥と悲しさ、そして失敗した事で感じる、例えようも無い苦みで俯く。
……穴があったら入りたい。
そして自分が失敗したのだと実感する。
俯き、震えながら泣き始めたオオガラスを見て、可愛そうに感じたハニーが優しい声で尋ねた。
「クワタだっけ……君はどうしてこんな嘘を僕達に吐いたの?」
アランはそれを聞き「おいハニー!こんな奴に尋ねんじゃねぇよッ」と叱りつけた。
その言葉に思わず顔をしかめる遊び人。
そんなハニーに、クワタは絞り出すような声で言った。
「ヤスイとは、ずっと友達なんです。
それでアンタ等に撲殺されたと聞いたから、オスカル様に協力したくて……」
「誰が、僕達がヤスイさんを殺したって言ったの?」
「えっと……トーマスが、ゴードンやパーシーも殺されかけていたし」
これは、クワタの記憶違いである。
ヤスイが殺されたと言ったのは、オスカル・アンドレ・ロマンその人だ。
実際言った後で、クワタも自分の間違いに気が付いたが“大した違いは無い”として、このたまたま出た嘘をつき通す。
『…………』
これを聞いた男衆3人。
彼らは、ジトっとした目を女盗賊“焼き肉串”の方に向ける。
視線を受けた“焼き肉串”は「な、何よ……」と返した。
ハニーが言う。
「さっきヤッピーがゴードン達にデコピンしたから、可哀想にこのクワタ君が仇を討ちに来たよ」
彼女は悪びれもせず「だから?」と言い返す。
「それが何だって言うの?
そもそもアイツ等がイケないんじゃん!
私は悪くない!だってあいつ等が私を馬鹿にしたのがいけないんじゃん。
最初に喧嘩売ったのはアイツ等だよ。
フン、そもそも私がしたのはデコピンだよ?
デコピンで死にかけるって……男のくせに貧弱にも程があるよ!
私は悪くないからね、絶対!」
『……でも』
「絶対!絶対‼ぜぇぇぇっったい私は悪くないからっ!」
泣く子と、ヤッピーには誰も勝てない……
機嫌までも損ね、ソッポを向いた彼女に誰も何も言えず、ハニーは困り果てた。
そんなハニーにオオガラスは尋ねる。
「あ、あの……ヤスイとマツダは生きているんですね?」
マツダとは誰かは知らないが、それどころではないハニーは「ああ」と返した
「(此処に)入る手前の門に居るんじゃない?」
それを聞き、安堵したオオガラス。
オオガラスは此処でようやく周囲の人の表情を窺う余裕が持てた。
“焼き肉串”はふんぞり返ってこちらを睨み。
アランは敵意も露にイライラとした足取りで、つま先を使って地面に穴を掘る。
ニックはこの悪くなった空気に、うんざりした表情を見せ、ハニーも困り顔だ。
これを見ていたオオガラスのクワタは「ごめんなさい……」と彼等に謝罪をしてしまう。
……同時に時間稼ぎも出来なかった不甲斐ない自分に、失望する。
胸の内で、オスカル・アンドレ・ロマンに(ごめんなさい)と詫びを入れ、そして心の中で闇が広がっていくのを見ていた。
もう、限界だ……ここに至って不出来な自分をなじるオオガラス。
仲間の安否を確認したら、空中庭園から逃げ出したい。
「ヤスイの無事を確認してきます、さようなら」
そう言って羽ばたこうとした、クワタに対し、予想外にも“焼き肉串”が声を掛けた。
「ねぇ、アンタ……なんで私達に宝石集めさせようとしたの?」
クワタは、消え入りそうな声で「時間稼ぎです、オスカル様が“時間が欲しい”と言ったので……」と正直に答えた。
「ちなみに宝石って本物?」
「はい、本物です。
フランフランの王と王妃の持っていたコレクションを、それぞれの庭園区域に設置しました」
「誰が?」
「トーマスとヤンが……」
「なんで?」
「ゴードンとパーシーの為に……」
クワタの告白を聞き、合点がようやくいった女盗賊“焼き肉串”。
クワタはもう耐えられなくなって「それではサヨウナラ……」と改めて別れを告げる。
ところがここで、女盗賊が信じられないことを言い出した。
「だったらいいわよ、その6個の宝石回収してあげるから、終わったらオスカルの所に連れて行ってよ」
『えッ⁉』
全員がビックリして“焼き肉串”の顔を見る。
そしてすぐにアランが声を荒げて言った。
「ヤッピーおかしいだろっ!どうして奴の時間稼ぎに付き合うんだよ?」
「だってさっきの宝石だって、鑑定能力で調べたら本物だったんだよ?
だとしたら次の宝石だって、本物じゃない?」
「そう言う問題じゃねぇよ!
なんでわざわざ敵の企みに乗ってんのって、言ってるんだよ!」
「だって、ここ一週間一切敵と戦闘してないんだよ?
わかる?私はココ一週間、一切稼いでないの!無収入なのっ。
アラン達の冒険費用だって、私が全部費用を持っているんだよ?
ここで少しでもお金を回収しないとさぁ、何のために冒険者やっているのか分からないじゃん!」
「そんな、それ今やる必要ある?」
「あるよ!私のお金が日々無くなっているんだよ?
アラン達は良いよ。
だってお金稼いでないじゃん。
だけど皆の装備品も、宿代も、その他諸々(ほかもろもろ)もお金がかかっているんだよ、誰が出してるの?私だよ!
少しでも取り戻さないと、いつか皆の冒険も出来なくなるよ?
お金ってそれぐらい大事なの。分かるッ?
せっかくこのカラスが宝石を用意したって言うんだから、貰わないと私が破産しちゃうでしょッ?」
“焼き肉串”のこの言葉に、男達は納得が出来なかった。
敵が有利になるような事は、する必要が無いと思うのだ。
だがそれは自分のお金を使ってないからだと言える……
……少しこの感情の背景にある、このパーティの事情を説明しよう。
冒険には宿泊費に装備、飲食、遊興費、交通費その他諸々のコストがかかる。
そしてそのコストを全額持っていたのは、他ならない“焼き肉串”だった。
つまり“焼き肉串”はパーティのオーナーなのだ。
その為これまでも、手に入れた収入を懐に一番多く入れたのも彼女だし、諸経費を全部払うのも彼女。
そして経理はすべて彼女が行っている。
加えて彼女はこれまでこのパーティに対し、結構な額の初期投資もした。
だから未熟な彼等も、良い宿屋、良い装備を宛てがわれ、冒険が出来るのだ。
……冒険者稼業、それは一つの事業である。
だから一番お金を取るのは彼女の権利だと言うのは、彼等も納得が出来る。
だが、その為男達は、この庭園で得た宝石をおそらく彼女は独り占めしてしまうだろう、と思っていた。
と言うのも実はこのパーティ、戦闘に勝った勝利給以外の全ては、彼女の取り分なのだ。
という事で、自分のモノになる事も無い宝石に、誰も執着心なんて持たない。
それに、だ……冒険目標に対して明らかにマイナスになる事をお金の為に、敢えてやるのは違うだろう!と思う。
ましてやここ二日で、宝石なら大量に獲得もしたじゃないか!と……
再び言う。だから余計に敵の企みに乗ってまで、更に宝石を欲しがるその彼女の心が、男達には分からない。
……ある種の人は男女問わず、自分の蓄えが減って行く事に強いストレスを覚える。
特に“焼き肉串”は人間関係やお金など諸々に対して相当苦労した過去があった。
だからお金を失う事への恐怖心が人一倍強い。
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