第7の男 奇才・クワタの抵抗!1/6
若いダークメイジこと、ドラ孫のコウスケとの通信を切った、魔公爵オスカル・アンドレ・ロマン。
彼は感情の籠った重い溜息を吐くと、執務室を出て広間に向かった。
こうして辿り着いた目的の部屋。
そこでは二人の男の悲痛な叫びが響き渡る。
「しっかりしろ、パーシー!」
「ゴードン‼ゴードンッ」
見てみると、トーマスとヤンが二人の仲間をソファーに寝かして、介抱していた。
「どうした?」
その声に驚いたトーマス。
急ぎ振り返った彼は、オスカル・アンドレ・ロマンに、縋るように伝えた。
「ああ、公爵様っ!
大変です、ゴードンとパーシーがやられました……」
「まさか……あの“焼き肉女”っ!」
驚くオスカル・アンドレ・ロマン。
武装闘争はしないと約束させていた筈だった。破られたと言うのか……
そう思って唖然としている彼の目の前で、トーマスは涙を流して頷く。
そしてその隣では、ヤンが「畜生ッ!」と叫んで床を拳で叩いた。
「連中は悪魔だッ!
暴力じゃないとか言って、パーシーとゴードンに瀕死の重傷を負わせやがった!
奴らは人間でもねぇ、魔物でもねぇ!
アイツ等は本物の獣だッ。
そうじゃねぇと丸腰の奴に、こんな鬼畜な事は出来ねぇ!」
そう言って悔しさに身を震わせるヤン。
それを聞くトーマスも静かに涙を浮かべて、呟いた。
「オスカル様、仇を取りに行っても良いですか?
古い友達なんです、ゴードンもパーシーも。
敵わないのは分かってます、せめて相打ちにでも……ウッウウ。
そうじゃないと……ウグッ、ズズッ。
ヒック……俺堪らないんです」
広間に響く涙声で潰れた、二人の訴え。
それを聞くオスカルも又、目に涙を浮かべる。
そんなトーマスとヤンの傍には、同じく涙を流すオオガラスのクワタも居た。
オスカル・アンドレ・ロマンはそれに気が付くと「クワタ、お前も居たか……」と呟く。
オオガラスは「はい、最初から居ました」と答え、そして鼻をズズッとすすり上げる。
オスカルはそれを聞きながら何度か頷くと、トーマスに言った。
「トーマス、お前は此処で二人を引き続き介抱せよ」
「……仇討ちは?」
「今は自重だ……」
「そんなっ!」
「理由を聞け……今私は、はっきり判った。
焼き肉女……奴を棺桶に詰めて送ってやらねば、他の者も浮かばれない。
実はついさっきコウスケから連絡が入ってな、ヤスイとマツダ……彼等はあの女にビンで撲殺された」
「ッッッ‼」
オオガラスのクワタは、思わず声無き悲鳴を上げる。
仲間の無残な死を聞き、口を大きく開け、ワナワナと震えた。
幸い死ななかったゴードンとパーシーとは違い、明確に“殺された”ヤスイとマツダ。
その訃報を聞き、残された者は悲しみに暮れる。
特にここ数日ヤスイと一緒にボードゲームをしていたヤンは驚き、そして再び泣き出した。
そんな彼等を見やりながら、優しい声でオスカルは言った。
「私はこの国の国主であり、そしてお前たち臣民の父である。
よって、あの鬼畜な獣は何としても倒さなければならない。
仇討ちに行きたいお前たち人間の気持ちはわかる。
だがゴードン達は死んではいない。
だから仇討ちの権利は、実際に殺された魔物達に与えなければ釣り合いがとれんのだ。
トーマス、そしてヤンは残された者の手当てを……そしてクワタよ、お前は私の手伝いをせよ。
これから、私が奴等と対決する……」
オスカル・アンドレ・ロマンがそうオオガラスに宣告をすると、人間達は悔しそうに、そしてクワタは嬉しそうに頷いた。
その様子を見回しながらオスカル・アンドレ・ロマンが命じる。
「では各々(おのおの)やる事を申し伝える……」
◇◇◇◇
―その頃、冒険者達。
「ねぇヤスイさんて、どんな魔物なんだろうね?」
女盗賊がそう言うとハニーが悩みながら答える。
「さぁ?“ミサホちゃん、ミサホちゃん”……ってうるさかったけど。
なんかよっぽど好きなんだろうね・
それよりもさ、スライムと言いヤスイさんと言い、正直なんであんなに酔っていたんだろう?
酷い泥酔状態だったよね、2匹とも。
あそこまで酔っ払った魔物を見たのは初めてだったから、俺びっくりしちゃったよ」
4人は広い森の中に続く、一本道を歩いていた。
彼等としても数日一緒に過ごしていた、ヤスイについては関心があり、そしてなぜあんな感じで潰れていたのかには興味が尽きない。
……まぁ、あんな魔物だと思わなかったとも言う。
「なんかストレスでも溜まっていたのかなぁ?」
ハニーがそう言うと、近くにいたアランが「どうでも良いだろう、魔物の事なんて」と言って不愉快そうに声を上げた。
「第一お前は忘れているみたいだけど、奴は敵だぞ?
敵が酔いつぶれていてそんなのにイチイチ気をまわしていられるかよッ。
人間と魔物は違う、魔物がどうなってようと俺達には関係がない!分かる訳がない。」
「まぁそうだけどさぁ……」
「この話は終わりにしようぜ、それよりもそろそろボス戦だろ?
空中庭園の一番上に来たし、ココにはあの建物(オスカルの屋敷)意外にめぼしい建物も無い。
誰も魔公爵オスカル・アンドレ・ロマンについて何も気にしてないのが、俺には気になる。
もっと皆真剣にやれよ、ったくよォ……」
それを聞き、確かにその通りだと思った他の3人。
今の今まで、魔公爵について誰も何も話していなかった。
ここでアランは「なぁ、お前は魔公爵について何か知ってるか?」と、ニックに尋ねる。
「オスカル・アンドレ・ロマンの事で知っている事と言えば……
約束を守って人間を島に退去させた事と、女性の味方である事。
魔王軍の本命と言われ、寛大な統治をしている事ぐらいかな?」
「いや、それじゃなくてどれぐらい強いのかって事だけど」
「いや、それは知らない……」
ニックのこの言葉を聞いて、歩きながら天を仰いだアランやハニー、そして“焼き肉串”。
そう言えば、魔公爵がどれだけ強いのか、誰も知らない事に今気が付く。
……魔王の配下として広大な領土を治める、魔公爵オスカル・アンドレ・ロマン。
まぎれも無い魔王軍の大幹部である。
しかしこの魔公爵は、魔法が巧みだとか、圧倒的パワーを持っているとか、変身してくるとか、魔王から火や雷の魔素を授けられたとか、そんな噂も聞かない。
数少ない手がかりを上げるとなると……
せいぜい魔物が「お前ではオスカル様に敵う筈が無い!」と、決め台詞の様に宣告してくる奴が稀に居る位では無いだろうか?
それを思いながらハニーが口を開いた。
「まぁでも、魔物の大ボスの一人なのだから、部下が“敵わない!”と思うほど強いのは確かなんでしょ?」
そう言ってアランやニックの顔を見ると、二人も自信なさげに「それはそうだよなぁ……」と曖昧に返事をした。
次に男3人の視線は、この中で一番経験豊富な冒険者である“焼き肉串”の方に向く。
その目線にたじろぎながら、女盗賊は答えた。
「当たり前じゃない、魔物の世界は弱肉強食なんだから。
強い者が弱い者を従わせる世界なんだから、これまでの敵とは比べ物にならないくらい強いわよ!」
彼女はこの世界の常識を、自信満々に述べ。
その答えが真実かどうかはさておき『まぁそうだよなぁ……』と、説得力のある言葉で皆を納得させる。
……まさか、弱いとは誰も考えない。
こうして思い込みが作り上げる事になった、魔公爵の強者伝説。
コレが、彼女達の胸の中で、確かに膨らみ、そして戦場に近づく事で、こんな想像上の魔公爵の強さに、なぜかリアリティを帯びさせる。
……そんな時だ。
バサバサバッサバッサ……
大きな翼をはためかせて、一匹のオオガラスが空から彼等の前に舞い降りた。
突然現れた魔物の存在に、思わず身構えるラ★ニーズの面々(めんめん)。
そんな彼等にオオガラスは話しかけた。
「良くここまで来た、庭園の客人。
俺の名はクワタ。お前達の案内を仰せつかった」
それを聞き女盗賊“焼き肉串”が挑発的な笑みを浮かべて答える。
「へぇ、随分とご丁寧なお出迎えね……
これも王妃様とやらの指図?
それとも……オスカル・アンドレ・ロマンの命令かな?」
するとオオガラスは「それには答えられん」と言った。
「王妃の望みかもしれぬし、公爵殿の望みかもしれぬ。
これから屋敷の中に在る6つの庭を案内しながら、この空中庭園の秘密を知ると良い」
「知らないとダメ?」
「さぁな……だが知った方が良いだろう。
6つの庭園、それぞれに1つずつ安置された6つの宝石。
これが無ければ王妃様の呪いを解く事が出来ない」
「うん?あれ、ヤスイさんからは最上階では戦えるって聞いたんだけど。
その宝石が無いと、戦ったら追い出されるの?」
「…………」
クワタは思った“その設定は聞いてねぇよ……”と。
しかし命を懸けてここに来た彼は胸を張って答える。
「そうではない……王妃様は悪い魔法使いに魂を囚われ、そしてこの空中庭園に幽閉されているのだ」
「は?」
「それをお助けするのがお前達の役目なのだろう?」
これを聞いて困惑したのが冒険者達である。
その困惑顔に叩き込むように、オオガラスのクワタは言った。
「そこでこれから俺が案内するから、お前たちは宝石を集めて……」
「ちょ、ちょっと待ってよ!
私達はその為に来たわけじゃないんだよ!
何?何なの、アンタ……」
いきなり現れるなり、意味の分からない事を言われたと感じ、女盗賊はキレ気味になってクワタを睨み、そして問い始める。
「いきなり現れてさぁ、宝石集めろだの王妃様が捕まっているだの、それ私達に何の関係がある訳?
そんなのお前達がやる事だろ?
私達に関係ないんだよ!
なんなのさアンタ、いったいッ!」
オオガラスはそう言われて内心ドキドキしながら、取り繕った顔で答える。
「俺は……オスカル魔公爵の能力を封じる事が出来る、存在だ」
「……はぁ」
「その表情だと信じてないな?」
「当たり前だよね」
「実はオスカルは、王妃様の力を欲してこの空中庭園を利用している。
ヤツはこれを手にする為に、この最上階の庭園で巨大な魔法陣を描いていたのだ!」
「フーン、で……オスカルがそれを手にすると何か悪い事が起きるの?」
「え?ああ……フランフランの島を滅ぼせる」
実はと言うかなんというか……
魔公爵から教わった設定に加え、自分でも思いつくままにストーリーを紡いでいた、オオガラスのクワタ。
結果語られる信憑性の無い、破綻した寓話がここで誕生する。
見ていただいてありがとうございます。
もしよろしければでございますが……
つまらなかった、面白かった等ございましたら。
画面下に在る星をつまらなかったら★一つ、面白かったら★5ついただけないでしょうか?
そしてご感想の方を戴けたらなおのことありがたく思います。よろしくお願いいたします。




