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32/43

あの輝く様な空中庭園の道端で……9/9

……太陽が傾き始め、少しずつ老いぼれていく時刻。

彼女達の目線の先に、一軒の屋敷が現れた。

重い扉の向こう、人の気配が漂う小ぶりな屋敷と広い庭。

ソレが壁の向こう側に広がるのが見える。


「きっとアソコだ……」


それを確認してニックが呟いた。

黙って頷く他の3人。

そんな彼女達の目線の先。

向こうの屋敷の門前に粗末な服を着、門の前で端座する見慣れた魔物が居るのが見えた。


「ヤスイさん?」


見間違える筈も無い、もう何日も一緒に過ごした敵である。


「次もボードゲームかな?」


うんざりした声で思わずつぶやいた、ハニー。

それを拾ってアランが答える。


「次も“運命ゲーム”だったら、俺は参加しないからな」

「それはずるいよ……」


4人はボードゲームにうんざりしながら、オオオウムのヤスイの元に辿り着いた。

いつものように端座して待ち受けるオオオウム。

そんな彼に女盗賊が言った。


「ヤスイさん、朝以来ね。

ここは他に人材は居ないの?

まさかまたあなたと勝負するとは思わなかったわ」

「…………」

「ヤスイさん、次の勝負は何かしら?」


心を貫くような鋭い口調で、そう尋ねた“焼き肉串”。

それを聞いたオオオウムは、瞳閉じたまま満面の笑みを浮かべて言った。


「うぅぅん、ミサホちゃーん……好き好きだギャ♥」

『…………』


この門に辿り着いた冒険者たちは、目をしばたき、そして互いに顔を見合せた。

そしてもう一回“焼き肉串”は尋ねた。


「今、なんて言ったの?ヤスイさん」

「ヤスイさん?」

「俺の卵を産んでぎゃぁ」


次の瞬間、ヤスイの体は横倒しに倒れた。


「……どういう事?」


アランがそう呟くが、何が起きたのか誰も分からない。

そんな当惑する彼等に、この時誰かが声を掛けた。


「おいそこのクソ人間ども……」

『だ、誰だ!』

「フン、テメェの目は節穴か?

ばぁーかめ、ヒック……うぃぃ」


ラ★ニーズの面々は声がした方角に目を向けた。

するとすぐそばの草むらに、半分溶けかかった、だらしない姿のスライムが、一升瓶を大事そうに触手で抱え込んでいた。

スライムは完全に据わった眼で冒険者を見ると「くっそーあの爺、こんないい酒毎日飲みやがってよぉ」と呻く。


「ちょっと何が起きたの?」


焼き肉串がそう尋ねるとスライムが、人間達をせせら笑いながら言った。


「見ても分からん奴に言っても分からねぇよ。

常識だよ常識……ばぁーかっ!」

「ちょっと、アンタ何……もう酔ってるの?」

「酔ってちゃ悪いか?

酔わねぇとやってられるかよッ!

あの爺も爺だし、あのクソなドラ孫も相当なクソ野郎なんだよ!

給料貰ってるからやるよ?やりますけどもぉ……

やってられねぇんだよ、コン畜生!」


次の瞬間手にした一升瓶を持ち上げ、ゴクゴクと中の液体を飲み始めたスライム。

ひとしきり飲むと「ぷはぁ……うめぇな、こんっ酒はっ」と言ってまた大事そうに一升瓶を抱え始める。

そしてしゃっくりを連発しながら“焼き肉串”達にこう告げた。


「おい、お前ら、ヒック……うるせぇから通してやるよぉ。

サッサと好きな所に行って来い。

俺は静かに飲みてぇんだ……ひっく。

オスカルもコウゾウも、そしてクソのコウスケもどうでもいい……ヒック

俺と言う男の友達は“クボタ君”だけだぁ」

「はぁ……」

「純米酒は悪酔いしない!

だから“クボタ君”は俺の友達、俺のガールフレンド!

あれ?でも“クボタ君”は男か……

いや、酒に男も女も無い!

なぁッ?ガァーッハッハッハッ!」


このでたらめな酔っ払いの、(ひど)口上(こうじょう)を聞くのに耐えきれず“焼き肉串”は、「行こう」と言って皆の手を引く。

そんな彼女の背中に酔っぱらいのスライムは言った。


「おいねぇちゃん!ヤスイの懐探(ふところさぐ)りな。

コイツ完全に(つぶ)れてるから起きねぇよ。

鍵はコイツが持ってるから中に入っちゃえ!

そしてこれで全てがおしまいだ……

コウスケの馬鹿め、テメェのでたらめさが招いた破滅だ。

いい気味だ、ヒック……ギャーッハッハッハッ!」


魔物とは、基本自分の事しか考えない生き物である。

若いダークメイジのやりように怒り心頭(しんとう)のスライムは、酒の力も借りて、復讐(ふくしゅう)を成し遂げようとしている。

……まぁ酷い奴だし、酷い話だ。

とにかくそれを聞いた“焼き肉串”達は、ずーっと“ミサホちゃん”への愛を言い続けるオオオウムの懐を探る。

スライムが言ったように鍵を見つけた4人。

4人は何も言わずに、扉を開けた。

それを見てスライムが言う。


「そう、それで良いんだよ……

ミトさんのせいで俺は散々(さんざん)だ、コウスケの所を紹介したのはあのスライムだしな。

あの人がちゃんと管理しないからこうなったんだよ、全部あのエンペラスライムせいだ。

まったくやってらんねぇぞ、くっそ」


そう言った後、スライムは意識を失い、そしてついに酔い潰れた。

それを確認して門の中に入るラ★ニーズの面々。

彼等はこうして目的地に繋がる、最後の門を突破したのである。


……そして、この様子を物陰(ものかげ)から見ていた存在があった。

彼は地面に伏せ、岩の一つに偽装しながら傍にいたのである。

そしてラ★ニーズの面々が居なくなった後で、スックと立ちあがり、この惨状(さんじょう)を見渡しながら呟く。


「……ウーム、これはまずいぞ。

どう言い逃れたらいいだろう?」


……それは一匹のダークメイジだった。

彼は頭を掻きながら(うめ)く。


「やばいぞ、これは爺ちゃんにも、オスカルにも知られる訳にいかん。

どうするんだよ、えーと……」


彼は必死に考え、そしてイチかバチかで心を決めると、モバセルラの映像を繋げた。

次の瞬間映像を映した球体の魔法の中に、魔公爵オスカル・アンドレ・ロマンの姿が浮かび上がる。


「うん?コウスケか……どうした、奴らがついに辿り着いたか?」


辿り着いたどころか突破された後である……

それを思いながら若いダークメイジは言った。


「大変ですオスカルさま。

ヤスイとマツダが破れました!」


その事を聞いて驚愕(きょうがく)の表情を浮かべた魔公爵。

魔公爵オスカル・アンドレ・ロマンとしては、時間を稼げると思って、ヤスイ達に最後の門番をやらせたのである。

ところがだ、時間稼ぎに全くならなかった。

(あわ)てたオスカル・アンドレ・ロマンは「何があったぁッ⁉」と、若いダークメイジに尋ねる。

魔公爵の質問に対し、神妙(しんみょう)な顔の彼はこう答える。


「まずはこれを見てください」


そう言って遠くから潰れて地面に横たわる、哀れなオウムとスライムを映した、モバセルラの映像。

それをしっかり映した後、モバセルラの映像は再び、若いダークメイジの姿を映す。


「連中は鬼です、来た瞬間二人をあんな感じで血祭(ちまつり)にあげ、そしてヤスイから鍵を奪って門の先に進んでしまいました!」


迫真の演技で切々と、現在身内に起きた悲劇を伝える若いダークメイジ。

目から幾つもの大粒の涙を(こぼ)し、仲間を思う気持ちを全身で表わして見せた。

そんな彼に魔公爵が尋ねた。


「先程マツダの(そば)に茶色くて大きな物が見えたがアレは何だ?」


若いダークメイジは、ちらりとスライムの方を見てその茶色いモノを確認した。


……“クボタ君”の一升瓶。


それを確認した後、若いダークメイジは目頭(めがしら)を掌で悲しげに覆いながら答える。


「……連中、ヤスイとマツダをビンで撲殺(ぼくさつ)したんです。

これなら武器じゃないとか言って……」


言いながら若いダークメイジは思った(自分で自分を褒めてあげたい)と。

聞いた魔公爵は「奴等は(けだもの)かっ!」と叫んで頭を抱えた。

そんな彼に(たた)みかけるように若いダークメイジが尋ねる。


「オスカル様ご指示をください、自分はこれからどうしたら良いでしょう?」

「ああ、コウスケ……お前は裏口から戻ってこい。

奴らは私が迎え撃つ」

「え?」


祖父からオスカル・アンドレ・ロマンは弱いと聞かされていた彼は、この言葉に驚いた。

そんな若いダークメイジの表情を見て、オスカル・アンドレ・ロマンが尋ねた。


「コウスケ、何故驚いている?」

「いや、爺ちゃんからオスカル様は戦いが得意ではないと聞いていたので」

「ああ、そんな事か……

だったらよく覚えておくと良い、お前の爺は勘違いをしている様だ」

「はぁ……」

「私は戦いが苦手なのではない。

……戦い以外の全てが得意なのだ!」


そう威儀(いぎ)を正して宣告した、オスカル・アンドレ・ロマン。

彼はそれだけを言うと一方的に、通信を切断した。


「…………」


今の言葉を聞き若いダークメイジは思った。

爺ちゃんが言っていたことと、何が違うんだろう?……と。




ヤスイ、ヤン、トーマス、ゴードン、パーシー、そしてマツダ……

冒険者達は行く手を遮るすべての存在を倒し、ついに最後の門を潜った。

時間稼ぎに失敗した魔物達。

彼等はとんでもないジョーカーを身内に(かか)えたせいで、最後の最後、危機的状況に(おちい)る。

だが頼みの綱である老ダークメイジ到着までは、どんなことをしても時間を稼ぐつもりの魔公爵オスカル・アンドレ・ロマンは(あきら)め無い。

ここで魔公爵はこれまでその才能を語られることも無かった、意外な第7の男に全てを託すことになる。

彼が実力を発揮(はっき)した事で、魔公爵は運命を手繰(たぐ)り寄せた……


見ていただいてありがとうございます。


もしよろしければでございますが……

つまらなかった、面白かった等ございましたら。

画面下に在る星をつまらなかったら★一つ、面白かったら★5ついただけないでしょうか?

そしてご感想の方を戴けたらなおのことありがたく思います。よろしくお願いいたします。

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