あの輝く様な空中庭園の道端で……9/9
……太陽が傾き始め、少しずつ老いぼれていく時刻。
彼女達の目線の先に、一軒の屋敷が現れた。
重い扉の向こう、人の気配が漂う小ぶりな屋敷と広い庭。
ソレが壁の向こう側に広がるのが見える。
「きっとアソコだ……」
それを確認してニックが呟いた。
黙って頷く他の3人。
そんな彼女達の目線の先。
向こうの屋敷の門前に粗末な服を着、門の前で端座する見慣れた魔物が居るのが見えた。
「ヤスイさん?」
見間違える筈も無い、もう何日も一緒に過ごした敵である。
「次もボードゲームかな?」
うんざりした声で思わずつぶやいた、ハニー。
それを拾ってアランが答える。
「次も“運命ゲーム”だったら、俺は参加しないからな」
「それはずるいよ……」
4人はボードゲームにうんざりしながら、オオオウムのヤスイの元に辿り着いた。
いつものように端座して待ち受けるオオオウム。
そんな彼に女盗賊が言った。
「ヤスイさん、朝以来ね。
ここは他に人材は居ないの?
まさかまたあなたと勝負するとは思わなかったわ」
「…………」
「ヤスイさん、次の勝負は何かしら?」
心を貫くような鋭い口調で、そう尋ねた“焼き肉串”。
それを聞いたオオオウムは、瞳閉じたまま満面の笑みを浮かべて言った。
「うぅぅん、ミサホちゃーん……好き好きだギャ♥」
『…………』
この門に辿り着いた冒険者たちは、目をしばたき、そして互いに顔を見合せた。
そしてもう一回“焼き肉串”は尋ねた。
「今、なんて言ったの?ヤスイさん」
「ヤスイさん?」
「俺の卵を産んでぎゃぁ」
次の瞬間、ヤスイの体は横倒しに倒れた。
「……どういう事?」
アランがそう呟くが、何が起きたのか誰も分からない。
そんな当惑する彼等に、この時誰かが声を掛けた。
「おいそこのクソ人間ども……」
『だ、誰だ!』
「フン、テメェの目は節穴か?
ばぁーかめ、ヒック……うぃぃ」
ラ★ニーズの面々は声がした方角に目を向けた。
するとすぐそばの草むらに、半分溶けかかった、だらしない姿のスライムが、一升瓶を大事そうに触手で抱え込んでいた。
スライムは完全に据わった眼で冒険者を見ると「くっそーあの爺、こんないい酒毎日飲みやがってよぉ」と呻く。
「ちょっと何が起きたの?」
焼き肉串がそう尋ねるとスライムが、人間達をせせら笑いながら言った。
「見ても分からん奴に言っても分からねぇよ。
常識だよ常識……ばぁーかっ!」
「ちょっと、アンタ何……もう酔ってるの?」
「酔ってちゃ悪いか?
酔わねぇとやってられるかよッ!
あの爺も爺だし、あのクソなドラ孫も相当なクソ野郎なんだよ!
給料貰ってるからやるよ?やりますけどもぉ……
やってられねぇんだよ、コン畜生!」
次の瞬間手にした一升瓶を持ち上げ、ゴクゴクと中の液体を飲み始めたスライム。
ひとしきり飲むと「ぷはぁ……うめぇな、こんっ酒はっ」と言ってまた大事そうに一升瓶を抱え始める。
そしてしゃっくりを連発しながら“焼き肉串”達にこう告げた。
「おい、お前ら、ヒック……うるせぇから通してやるよぉ。
サッサと好きな所に行って来い。
俺は静かに飲みてぇんだ……ひっく。
オスカルもコウゾウも、そしてクソのコウスケもどうでもいい……ヒック
俺と言う男の友達は“クボタ君”だけだぁ」
「はぁ……」
「純米酒は悪酔いしない!
だから“クボタ君”は俺の友達、俺のガールフレンド!
あれ?でも“クボタ君”は男か……
いや、酒に男も女も無い!
なぁッ?ガァーッハッハッハッ!」
このでたらめな酔っ払いの、酷い口上を聞くのに耐えきれず“焼き肉串”は、「行こう」と言って皆の手を引く。
そんな彼女の背中に酔っぱらいのスライムは言った。
「おいねぇちゃん!ヤスイの懐探りな。
コイツ完全に潰れてるから起きねぇよ。
鍵はコイツが持ってるから中に入っちゃえ!
そしてこれで全てがおしまいだ……
コウスケの馬鹿め、テメェのでたらめさが招いた破滅だ。
いい気味だ、ヒック……ギャーッハッハッハッ!」
魔物とは、基本自分の事しか考えない生き物である。
若いダークメイジのやりように怒り心頭のスライムは、酒の力も借りて、復讐を成し遂げようとしている。
……まぁ酷い奴だし、酷い話だ。
とにかくそれを聞いた“焼き肉串”達は、ずーっと“ミサホちゃん”への愛を言い続けるオオオウムの懐を探る。
スライムが言ったように鍵を見つけた4人。
4人は何も言わずに、扉を開けた。
それを見てスライムが言う。
「そう、それで良いんだよ……
ミトさんのせいで俺は散々(さんざん)だ、コウスケの所を紹介したのはあのスライムだしな。
あの人がちゃんと管理しないからこうなったんだよ、全部あのエンペラスライムせいだ。
まったくやってらんねぇぞ、くっそ」
そう言った後、スライムは意識を失い、そしてついに酔い潰れた。
それを確認して門の中に入るラ★ニーズの面々。
彼等はこうして目的地に繋がる、最後の門を突破したのである。
……そして、この様子を物陰から見ていた存在があった。
彼は地面に伏せ、岩の一つに偽装しながら傍にいたのである。
そしてラ★ニーズの面々が居なくなった後で、スックと立ちあがり、この惨状を見渡しながら呟く。
「……ウーム、これはまずいぞ。
どう言い逃れたらいいだろう?」
……それは一匹のダークメイジだった。
彼は頭を掻きながら呻く。
「やばいぞ、これは爺ちゃんにも、オスカルにも知られる訳にいかん。
どうするんだよ、えーと……」
彼は必死に考え、そしてイチかバチかで心を決めると、モバセルラの映像を繋げた。
次の瞬間映像を映した球体の魔法の中に、魔公爵オスカル・アンドレ・ロマンの姿が浮かび上がる。
「うん?コウスケか……どうした、奴らがついに辿り着いたか?」
辿り着いたどころか突破された後である……
それを思いながら若いダークメイジは言った。
「大変ですオスカルさま。
ヤスイとマツダが破れました!」
その事を聞いて驚愕の表情を浮かべた魔公爵。
魔公爵オスカル・アンドレ・ロマンとしては、時間を稼げると思って、ヤスイ達に最後の門番をやらせたのである。
ところがだ、時間稼ぎに全くならなかった。
慌てたオスカル・アンドレ・ロマンは「何があったぁッ⁉」と、若いダークメイジに尋ねる。
魔公爵の質問に対し、神妙な顔の彼はこう答える。
「まずはこれを見てください」
そう言って遠くから潰れて地面に横たわる、哀れなオウムとスライムを映した、モバセルラの映像。
それをしっかり映した後、モバセルラの映像は再び、若いダークメイジの姿を映す。
「連中は鬼です、来た瞬間二人をあんな感じで血祭にあげ、そしてヤスイから鍵を奪って門の先に進んでしまいました!」
迫真の演技で切々と、現在身内に起きた悲劇を伝える若いダークメイジ。
目から幾つもの大粒の涙を零し、仲間を思う気持ちを全身で表わして見せた。
そんな彼に魔公爵が尋ねた。
「先程マツダの傍に茶色くて大きな物が見えたがアレは何だ?」
若いダークメイジは、ちらりとスライムの方を見てその茶色いモノを確認した。
……“クボタ君”の一升瓶。
それを確認した後、若いダークメイジは目頭を掌で悲しげに覆いながら答える。
「……連中、ヤスイとマツダをビンで撲殺したんです。
これなら武器じゃないとか言って……」
言いながら若いダークメイジは思った(自分で自分を褒めてあげたい)と。
聞いた魔公爵は「奴等は獣かっ!」と叫んで頭を抱えた。
そんな彼に畳みかけるように若いダークメイジが尋ねる。
「オスカル様ご指示をください、自分はこれからどうしたら良いでしょう?」
「ああ、コウスケ……お前は裏口から戻ってこい。
奴らは私が迎え撃つ」
「え?」
祖父からオスカル・アンドレ・ロマンは弱いと聞かされていた彼は、この言葉に驚いた。
そんな若いダークメイジの表情を見て、オスカル・アンドレ・ロマンが尋ねた。
「コウスケ、何故驚いている?」
「いや、爺ちゃんからオスカル様は戦いが得意ではないと聞いていたので」
「ああ、そんな事か……
だったらよく覚えておくと良い、お前の爺は勘違いをしている様だ」
「はぁ……」
「私は戦いが苦手なのではない。
……戦い以外の全てが得意なのだ!」
そう威儀を正して宣告した、オスカル・アンドレ・ロマン。
彼はそれだけを言うと一方的に、通信を切断した。
「…………」
今の言葉を聞き若いダークメイジは思った。
爺ちゃんが言っていたことと、何が違うんだろう?……と。
ヤスイ、ヤン、トーマス、ゴードン、パーシー、そしてマツダ……
冒険者達は行く手を遮るすべての存在を倒し、ついに最後の門を潜った。
時間稼ぎに失敗した魔物達。
彼等はとんでもないジョーカーを身内に抱えたせいで、最後の最後、危機的状況に陥る。
だが頼みの綱である老ダークメイジ到着までは、どんなことをしても時間を稼ぐつもりの魔公爵オスカル・アンドレ・ロマンは諦め無い。
ここで魔公爵はこれまでその才能を語られることも無かった、意外な第7の男に全てを託すことになる。
彼が実力を発揮した事で、魔公爵は運命を手繰り寄せた……
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