あの輝く様な空中庭園の道端で……7/9
そんな彼女達が次に目にしたのは、3人の人間の男がボールを叩いて走り回っている様子だった。
タンタンタン、キュッキュッキュッ……
「あれ、バスケじゃないッ?」
テンション高めに、アランが声を上げる。
男達は小刻みにボールを叩いて地面と手の中を、往復させ、頭上の輪っかの中にボールを入れる。
その様子を見てハニーも「確かにあれはバスケだね」と言って彼等の事を評した。
こうして呆然と、彼等の事を見ていた4人。
するとこのバスケをしている男達が、こっちの存在に気づいたらしく、手を休め“焼き肉串”達に手を振ってきた。
「……行こうぜ」
それを見たアランがそう言うと、皆が従うように動き始める。
こうして冒険者達が近くに行くと、バスケをしていた彼等は、汗をリストバンドで拭いながら、爽やかに笑って声を掛けた。
「やぁ、王妃様の試練に挑んでいるのは君達だね?」
「ええ、そうみたいだけど……あなたは?」
“焼き肉串”が警戒心も露に、そう返すと一人が答えた。
「やぁ、僕の名前はトーマス、右に居るのがゴードンで、左に居るのがパーシーだ。
扉の先に進むためにここで君たちに試練を課すのが役目なんだ」
それを聞いた“焼き肉串”は(なんだろ、煙を吐き出しそうな名前……)と思った。
「それじゃあ、あなたたちが、ヤスイさんの次の相手という訳ね」
「ああ、ヤスイさんの次が僕達だ」
「また運命ゲームをやるの?」
「いや、コートの先に在る門を潜りたかったら、僕たちと3ON3のバスケで勝負だ。
1ラウンド20分でハーフタイム10分の前後半2ラウンド戦。
攻める方と守る方をお互いのチームが、それぞれ順番にやっていく。
バスケのルールは分かる?」
「どうしてもやらなきゃダメ?」
「女の子はやらなくても良いけど、男の子はやるべきでしょ。
それともソコの3人は僕達から逃げるの?」
トーマスのまっすぐな挑発に、アラン、ニック、ハニーの3人はカチンときたようで『やってやるよ!』と声を荒げた。
それを聞いたトーマスの右に居るゴードンが「じゃあやろうぜ、ストレッチとウォーミングアップをやりな」と言って、ニヤッと笑う。
こうして男達が瞬く間に、バスケをする雰囲気に染まり、それを近くで見ていた“焼き肉串”は、少し下がってこの様子を見る。
やがて試合は始まり、白熱した展開が目の前で繰り広げられ始めた。
「ヘイ、パスパスッ!」
「決めろ決めろっ!」
「ニックそこから撃てぇッ!」
靴底をキュッキュッと鳴らし、ダムダムとボールを弾ませながらコートの半面を走り回る男達。
「ああクソッ!」
必死になって走り回りながら、一つ一つのプレーの度、笑ったり、悔しそうな表情を露にして叫ぶ。
良いプレイが出る度に「ナイスっ!」と叫んで、互いに褒め讃えた。
「みんなぁっ、頑張ってぇーっ!」
そんな様子を外から声を挙げて応援する女盗賊“焼き肉串”。
(あ、このポジションすごく良いかも……)
彼女はスポーツに夢中な男の子達にエールを送る自分が何となく好きになってきた。
だが残念ながら試合は36対14で負けてしまう。
全力で走った全員が、屋外コートに寝そべって息を荒げる。
「はぁハァハァ、ングっ……ハァハァ」
アランが普段のそっけない感じではなく、感情も露に気持ち良さそうに、喘ぎながら空を見上げる。
仰ぎ見る空は青く、鳥が仲間と共に頭上を過ぎった。
それを見ながらアランは「お前ら、つぇーな」と、相手を讃えた。
そんなアランの言葉を聞いたパーシーが「君も結構うまいよ」と、笑いながら答える。
「はぁ、はぁ……バスケ久しぶりだよ」
その傍でハニーが苦しそうに、それでいて楽しそうに声を上げた。
「休んだらまたやろうぜ、俺達に勝てないと先に進めないぞ」
ゴードンがそう言うと、彼等はそれに同意し、次の試合までの休憩に専念し始めた。
『…………』
それを黙って見つめていた“焼き肉串”は此処でふと気が付いた。
(もしかして、今日もあそこ(園丁の小屋)に寝泊まりするんじゃない?
今日中には、ハニーたち勝てそうにないし、そうなるだろうなぁ。
すると……また勝つまでバスケするのかな?
はぁ時間かかりそう……
この庭園に来てから今日で3日目かぁ……
3日……3日、うんッ?)
ここでようやく彼女は何をしに、自分達がここに来たのかを思い出す。
魔公爵オスカル・アンドレ・ロマンを倒すために来たはずが、気が付いたらレジャーキャンプ場で遊んでいる状態じゃないか?と。
当たり前だが、このままここで無為に時間を過ごして良い筈も無い。
宝石に目がくらんで、目的を見失いかけたが女盗賊はここでようやく正気を取り戻した。
……むしろ欲しいモノ全てを手に入れたから、賢者タイムを手に入れたのかもしれないが。それはそれだ。
そんな彼女の目の前では男達が試合前に、シュート練習を始め出し、そこに焦りも何もないのが見て取れる。
そんな中「次はせめて10点差にまでつめようぜ」とアランがニックやハニーに声を掛けた。
この言葉を聞き“焼き肉串”の疑惑が、確信に変わる。
空中庭園の平和と安寧が、冒険者だったはずの彼等の心を蝕んでいたのだ。
それを知って、彼女は初めて(本当はココ、ヤバいんじゃない?)との思いに至った。
◇◇◇◇
―同時刻、最上階の屋敷にて。
「ヤスイさん、アイツ等最後ズルしやがりましたよ、マジで許せねぇ!」
そう言って屋敷に帰って来るなり、人間のヤンがブチギレた。
それを、隣で聖人のような目をしたオオオウムのヤスイがこう言ってたしなめる。
「ヤンさん、怒らないで下さい、王妃様の御志を汚してはなりませんよ」
だがそんなヤスイの様子に納得がいかないヤンは、苛立ちも露にこう訴えた。
「最後の最後、宝石全部回収したら、アイツ等、運命ゲームもせずに洞窟内をそのまま戻っていくなんて……ホントずる賢いと思いません?
あんな事されたら、こっちの計画だって狂いますよ」
「まぁまぁ、明日の朝まで食い止めたら王妃様もお喜びになります。
トーマス達も策があるようですし、お手並み拝見しましょう」
「ヤスイさぁーん……もう居もしない王妃様の話はいいですよぉ。
演技が上手いんだから、もう……
まぁそれはそれとして。トーマス達大丈夫ですかね?
俺達はボードゲームだけで2日も持たせましたけど、トーマス達はヤスイさんほど賢くないかもしれないって、俺疑っているんっすよ」
ヤンはオオオウムのヤスイに、そんな言葉をヨイショ気味に掛けた。
そして、少し悪そうな笑みを浮かべる。
「そう言えばヤスイさん、先程オスカル様から次の指令を受け取っていたじゃないですか?
何を言われたんですか?」
「ああ、新しい指令です。
トーマス達がもしも敗れたら、サイコロを振りながら、ボードの外周を駒でぐるぐる回り。
止まったマス目で、物件を買い集めるゲームで勝負だと」
「ああも……モンポリーでしたっけ?
なんかそんな名前のボードゲーム……
次の勝負のパートナーはスライムのマツダさんでしたよね」
「ええそうです、そしてモバセルラで私達の事を撮影するそうです。
なんでも公爵様がそれを随時ご覧になられるとか」
「へぇ、撮影は誰が?」
「コウスケ君ですね」
「ああ、あの……大変ですね」
「何がです?」
「いやいや、まぁ、コウゾウさんの孫だし、ヤスイさんは何も言えないっすよね。
判ってます、何も言わないで下さい。
じゃあ魂を預けます、頑張ってくださいね」
そう言うとヤンは、息を「ふぅー」と長く吐き、気持ちを落ち着けた。
そして次に、オオオウムの背中を、力強く掌で叩きつける!
バシーンッ!
「!」
ヤスイは目を白黒させて驚く。
次に「ケホケホっ!」と咳き込んだ。
そしてヤンは「じゃあヤスイさん、頼みましたよ!」と爽やかな笑顔を見せて立ち去った。
この様に次の戦場に向かわぬ戦友から思いを託されたオオオウム。
彼は、痛みのあまり顔をしかめて背中をさすった。
次に周りを見回して呟く。
「俺は、此処で何をしているギャ?
何、え……モルポリーってゲーム?
え、なんだギャ?」
……今の衝撃で暗示が解けたヤスイ。
うっすら残る記憶を辿る、素面に戻ったオオオウム。
……そして、大活躍を見せていた、ついさっきまでの自分の姿を思い出した。
「王妃様って、誰だぎゃぁ?……」
誰でしょうね……そう言ってくれるはずの、ヤンは居ない。
次の瞬間、彼の全身を恐怖が電気のように流れた。
そして思う……自分は何をやっていたのか?と。
「あ、居た居た」
この時、スライムのマツダが、ポインポイン跳ねながらやってきた。
「ヤスイ、早く行こうぜ!
モーポリーだっけ?
あのルールを俺に教えてくれないと、アイツ等にすぐ負けちゃうだろ」
「う、うぎゃ?」
「ウギャじゃねぇし……いつものヤスイに戻るなよ。
仕事が終わるまではインチキ教祖モードでやれよ」
「へぇ……」
「へぇ、って……まぁいいや。
コウスケ君は先に最後の門に居るらしいから、早く行こうぜ。
ほらほら、さっさと行く!」
そう言って強引にオオオウムの翼を触手で、引っ張るスライム。
ソレにひかれてオオオウムはヨタヨタと、歩き出した。
―5分後
「無理ぎゃぁ……あんなハッタリ俺には無理だギャア」
屋敷の前にそびえる、最後の鉄門の目の前……
戻らなくても良いのに、正気に戻ってしまったヤスイが、怯えた声で悲しげに呻く。
「どうすんだよコウスケ君!
ヤスイがインチキ教祖辞めて、いつものヘッポコに戻っちまったぞ!」
この様子を見て泡を食ったのが、次の相棒役である、スライムのマツダだ。
魔公爵オスカル・アンドレ・ロマンの催眠術で、暗示にかかったヤスイだから、これまで“焼き肉串”達を足止めできた。
そう……話している事を嘘だと思わず、心の底から真実を告げていると思っていたヤスイだからこそ、人間達は騙されたのである。
それなのにこんなにも動揺している、今のヤスイの嘘では、今度は見破られる。
こうして、土壇場になって非常事態を招いてしまった3匹。
「どうするって、うーん……」
相談を受けた若いダークメイジは、頭を抱えた。
……いいアイデアが浮かばない。
そんな時だ。
コンコーン、カンコーン、カンコーン
坂道の下に在るバスケットコートから、けたたましい鐘の音が響き渡った。
それを聞いて若いダークメイジが、慌てた声でスライムに言う。
「おい、マツダ……ヤバいぞ、トーマス達負けやがった!」
「え、今の鐘の音って……」
「ああ、負けた時の合図だ!」
「ど、どうするんだよ!
コウスケ君、こんな時にアイツら時間稼ぎも出来ねぇのかよ!」
「俺に言うな!
俺のせいじゃないんだぞ!」
「分かってるよッ!だからどうすんの?ッて聞いてんのッ」
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