あの輝く様な空中庭園の道端で……6/9
翌日……見張り番をしていたことがアホらしくなるほどの平和な鳥の声と共に目覚めた彼女達。
一行は、近くの果樹から果物を取ってきて、持ち込んできた食糧と一緒に朝ご飯を作って食べた。
チュンチュン……ピーッピーッ
昨日は聞こえなかった、穏やかな鳥の鳴き声が耳に届く。
思わずハニーが「良い所だね……」と呟いた。
他の3人も“同感だ”と思って頷く。
「ココは、休日過ごすなら最高ですね」
そうニックが言うとアランも「雰囲気がいいよな」と言って同調した。
鳥を見たり、朝日に揺れる美しい庭園を眺めたりしながら、ぼんやりと時間を過ごしたラ★ニーズの面々。
やがて彼等はやるべきことを思い出したかのように、立ち上がり今日も門番となって立ちふさがる、例の一人と一羽の元へと向かうのだった。
―10時間後
「やったぁー!」
不運な子、ニックが豪運を引き当て、運命ゲームをトップで終えた。
「ああ、くっそー」
普段の清らかな表情を崩し、悔しがるヤンの横で、オオオウムのヤスイは、にこにこと微笑みながら「ニックさん、強かったですよ」と言って、ニックを讃える。
「ありがとう、ヤスイさん……
僕は、この手のゲームで上手く行くことは本当になくて」
そう言ってはにかむニックの横で、“焼き肉串”は「さぁ、朝サファイアは貰ったから、次はエメラルドよ!」と言って鼻息を荒くした。
「ええ、もちろんですそれでは扉の向こうに行きましょう。
ただ、今日はもう遅いので、ダイヤモンドへの挑戦は明日でお願いしますね。
私達も疲れましたし、家に帰らないといけませんので」
それを聞いて口を尖らせ始めた“焼き肉串”に、アランが言った。
「ヤッピーそうしようぜ、運命ゲームを10時間もやったんだ。
俺も、もう限界だよ」
その言葉に不満を抱いた女盗賊はハニーの方に顔を向ける。
この遊び人は「僕も疲れちゃった」と、空気読みの天才らしい一言で、この目線に応えた。
こうして彼等はこの日も昨日と同じように洞窟に入って、宝石を回収し。
園丁が居たと言う例の小屋で眠る。
◇◇◇◇
―翌日朝、空中庭園最上階の屋敷
「オスカル様!繋がったッ」
若いダークメイジがモバセルラの魔法で作られた映像を見ながら、嬉しそうな声で叫んだ。
「繋がったか、コウスケ!」
そう言いながら喜びのあまり走り込んできた、オスカル・アンドレ・ロマン。
彼は、若いダークメイジの作った、モバセルラの映像を覗き込んだ。
映像には老ダークメイジの姿が映っている。
映像の中の老ダークメイジは、皆の様子を見ると『ほッほっ、あれから何かあったかの?』と呑気な声で尋ねた。
オスカル・アンドレ・ロマンは「何かあったかの?じゃないよ……」とぼやくと、張り詰めた声で言った。
「コウゾウさんが出て行って本当にすぐ。
この城に“焼肉”が攻めてきた!」
それを聞いた老ダークメイジは『なんと?』と言って驚く。
そんな祖父に若い孫が興奮気味に話しかけた。
「でも爺ちゃん!オスカル様マジですげぇよッ。
嘘とハッタリと少しの宝石だけで“焼肉”達を2日も食い止めて見せたんだぜっ!」
『なんと……』
「ヤスイも大活躍してさぁ。
アイツ今インチキ教祖みたいな事して、連中を騙くらかして時間稼ぎをしているよ。
……本当にビックリするよ。
あんな子供騙しにみんな引っかかるんだね。
始めてオスカル様の作戦を聞いた時、絶対に失敗すると思ったけど、まさかこんなに上手く行くとはなぁ……」
『ほうデーブの策が上手く行ったか……
そう言えばコウスケ、お前デーブの事をオスカルと呼ぶようにしていたか?』
「あったりまえじゃん!
マジで頭いいわぁ、オスカル様。
俺もあんな感じで頭と口先だけで、ビッグな事起こせるんじゃないかなぁ?
いや、本当に勉強になるわぁ……」
『…………』
孫のこの様子を見て、老ダークメイジの背中に、何か悪い予感が駆け抜ける。
『コウスケや、きちんと魔導士としての修業をするんじゃぞ?』
悪い予感に従うように、そう孫に告げた祖父。
そんな彼の問いかけに、若いダークメイジはヘラヘラと笑いながら答えた。
「勿論だよ!嫌だなぁ爺ちゃん。
勉強もしながら、オスカル様の良い所を吸収しよう、っていう話だよぉ。
もしかして俺が勉強しないと思ったワケ?
そんなことする訳ないじゃん、ねぇ……」
この時老ダークメイジは、急いで孫を魔公爵の元から引き離さねば……と思ったと言う。
『……いま順番待ちをしている。
もう転職神殿の中じゃ、夕方までには全部の手続きを終わらせるから、それまで大人しく待っておくのじゃ』
「はーい、焦らなくても良いよ?」
『……今夜までに終わらせるでの。それまでは魔導書でも読むのじゃぞ?
必ず読めよ?
……デーブは居るかの?』
老ダークメイジがそう言うと、すぐそばにいたオスカル・アンドレ・ロマンが、顔を覗かせた。
『おおデーブ、今聞いた通りじゃ。
無事でよかった……』
「ああ、何とか無事だ。
コウゾウさんも魔素を受け取ったみたいだな」
『うむ、夜には転職を終えて戻れそうじゃわい。
迷惑を掛けた様で申し訳ないのぉ……』
「まぁ準備も進めていたしな、想定内だ。
夜という事だが、もっと早くできそうか?」
『難しいかのぉ……キャンペーンの関係で神殿に駆け込む魔物が多くてな。
皆ワシと同じで、かつての力を一時的にしても取り戻そうとする奴ばかりじゃ』
「そうか……実はこっちもエピリウスの領地との国境が騒がしくなってな。
サワちゃんはおろか、他の魔物も空中庭園に戻せなくなった。
キャンペーン目当ての冒険者の数が、どんどんと増えて、ワスプ―ルも国境も激戦地になっている」
『……ああ、他の魔物からも話を聞いているよ。
とにかく急いで戻る、何とか夜まで堪えてくれ』
「ああ、一刻も早く頼む」
『分かった、それじゃあ公爵殿、そしてコウスケ。
もう少し粘ってくれ……』
「ああ、コウゾウさん待ってる、それじゃあ」
そう言って魔公爵は、モバセルラの映像を閉じた。
通信を終えた魔公爵は「ふぅ……」と、溜息を一つ吐くと、若いダークメイジに尋ねた。
「コウスケ、ヤスイ達はあともう2回負けたら終わりなのだな?」
「はい、次はトーマス達です」
「そうか……
ではトーマス達の次も、万全を期してヤスイを起用するか……
ヤスイはこれまで結果を出してきたし、他の奴よりも確度が良かろう」
「そうっすね」
こうしてオスカル・アンドレ・ロマンは、これまで想像以上に結果を残した、オオオウムのヤスイを起用して時間を稼ぐことを決めた。
若いダークメイジはこの様子を見ながら(なるほど、こう言う功績を見て判断の材料にするのか……為になるなぁ)
と一人納得をしていた。
とにかく人を動かして、何かを成し遂げる術を、彼は此処で学んで見ようとしている。
◇◇◇◇
―5時間後
「……上手く行ったんじゃない?」
ヤンとヤスイのコンビを撃破し、ダイヤモンドを回収し終えた“焼き肉串”達が、木製の門をくぐらず、そのまま洞窟を戻ったのは、この時刻である。
実は彼等、この時になって「あれ……律義に一旦あの扉から外に出る必要あるの?」と、気が付いた。
そこで初めて、宝石を12個回収した後、そのまま洞窟内をUターンをしてみたのだ。
「…………」
彼等は(これで良いのか?)と思いながらこれまで回収してきた宝石を、石版の窪みに収める。
「……何も起きないね」
ニックは思わずポツリと呟いた。
何か仕掛けが作動したとか、そう言う事も特にない。
ただ石を石の窪みに並べただけに思える。
この時何を思ったのかハニーが、恐る恐ると言った様子で、行く先を遮る鉄の扉に手を掛ける。
キィィィィィィィ……
扉はまるで、初めから鍵なんて掛かっていなかったかのように開いた。
これを見てアランが、鼻で荒々しく息を吐きながら言う。
「なんだ、最初からイチイチ外に出ないでUターンすれば良かったんじゃね?」
すると次の瞬間女盗賊が、機関銃ように喋り出す。
「ホントだよ!
あのヤスイとかいうオウムがさぁ、全然ちゃんと話さないのがいけないんだよ!
コッチは2度手間……ううんうん4度手間掛けさせられたんだよ!
ホントあの鳥むかつくよね!
絶対ヤンとかいうのと一緒に居て、やる事が無いから運命ゲームで私達をからかったんだよ。
私今度会ったら、あの鳥に言うよ、ふざけてるよネッ!」
この時ハニーは(元々扉に鍵は掛っていなかったかも……なんて、言わない方が良いのかな?)と思っていた。
とにかく彼らの“ヤッピー”は、自分に責任が来るのを全力で阻止すべく、逆切れ気味に立ち回っている。
とにかく“ヤスイが悪い、ヤンが悪い”と言う彼女にハニーは口を挟めない。
……宝石に目がくらんで、気が付かずにいたんじゃない?なんて、ネッ。
とにかくあともう一回運命ゲームを、やらずに済んだ彼等は先に進む。
扉の向こうは長い坂道になっていて、今度は高地で見られるような花と、草原が広がっていた。
これまで茂っていた木々は無く、見晴らしが一気に開け、そしてバラの香りが漂う。
「明るい……空も近いね」
視界を遮る背の高い植生が無いからだろう“焼き肉串”はそう言って開けた視界と、その先に広がる空に感嘆の声を上げる。
……空中庭園に敵は居ない。
常に漂う平穏と絶景、そして数日滞在した事で染みついた、そんな庭園の空気感。
それらがまるでピクニックのような足取りを彼等に授け、そして足を先に進ませる。
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