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あの輝く様な空中庭園の道端で……2/9

―2時間後

―オスカル・アンドレ・ロマンの居城。


『オスカル様、失礼いたします。

ピース村の村長のバンゴと申します』


そう言って緊急(きんきゅう)を告げる、人間の村からのモバセルラの映像と音声が、魔公爵オスカル・アンドレ・ロマンに届く。

このピース村と言うのは、ワスプ―ルの橋から少し離れた所に在る、牧畜(ぼくちく)が盛んな(ひな)びた村である。

この時、執務室(しつむしつ)椅子(いす)に座って顧問(こもん)と話し合っていたオスカル・アンドレ・ロマンは、顧問との語らいを中断し、自分に繋がったモバセルラの映像と音声に目を向けた。


「バンゴか、どうした一体」

『はい、この前ご報告しましたあの冒険者どもがまたこの村の教会に現れまして。

そしてまたどこかに旅立ったようです!』

「なんだとっ!」

『あいつら相変わらず迷惑(めいわく)……いや、不届(ふとど)きな事を申しておりまして。

そしてエピリウス様の国に向かう街道に出て行きました』

「フーム、随分(ずいぶん)厄介(やっかい)な事が起きたな。

村長、とにかく礼を言う。

その村が私に向けてくれた忠誠を決しておろそかにはしない。

アイツ等を駆逐(くちく)する様な、強者を派遣して村を守るように命令をするゆえ、安心すると良い」

『あ、ありがとうございます』


……モバセルラの映像は消えた。

それを確認したオスカル・アンドレ・ロマンは、思いつめた顔で「コウスケを呼べ!

ミヤマエサワをここに召喚(しょうかん)するのだ!」と叫んだ。

……そう言った後、オスカル・アンドレ・ロマンの心に、悲壮感(ひそうかん)が宿る。

見えてしまう、息も詰まりそうな暗い未来。

それに語り掛けるように、彼は呻く。


「コージが破れた今、頼りになるのはコウゾウとサワだけだ……」


……そして(こぼ)れる(うれ)いの()びた溜息(ためいき)

人材層が薄く、もはや切れるカードはわずかしかないオスカル・アンドレ・ロマン……

その事を自覚する彼の前に、若いダークメイジのコウスケがやってきた。


「……オスカル様、御呼(およ)びと聞きました」


いつも不遜(ふそん)な態度の、老ダークメイジのドラ孫が何故か今日に限って、殊勝(しゅしょう)な振る舞いで、目の前に現れる。

その事に、何か違和感を覚えながら、魔公爵は言った。


「コウスケか……なんか気持ち悪いくらい丁寧(ていねい)(しゃべ)りをしているな。

まぁいい、今からスチムパンク(ミスリルが取れるバルセールの国の首都)に行き、ミヤマエサワを連れてまいれ。

そしてそのままエピリウスの国の国境で奴等を待ち伏せさせよ。

絶対に奴等を絶対にエピリウスの元に行かせるわけにはならぬ」

「かしこまりました」


……目の前で続く若いダークメイジのバカに丁寧な振る舞い。

態度も素行(そこう)も良くない、有名なドラ孫の様子に悪い予感を覚える。

怪訝(けげん)に思った彼は、若いダークメイジをじっと凝視(ぎょうし)しながら尋ねた。


「……今日は随分(ずいぶん)と大人しいな、お前?」

「はい、心を入れ替えましたので」

「ほう?」


聞いた瞬間、魔公爵は(絶対嘘だ……)と思った。

そんなオスカル・アンドレ・ロマンに、若いダークメイジが尋ねる。


「つきましては一つ確認したいのですが、あの女を倒した暁には、アイツの装備は(もら)っても良いのでしょうか?」


それを聞いた魔公爵は(ほら来た!)と思う反面、疑問(ぎもん)氷解(ひょうかい)して“ホッ”とする。


「ああ、そう言う魂胆(こんたん)か……

気持ち悪い振る舞いをするから、何をねだるのかと思ったわ、まったく……

ああ、持ってけ持ってけ、あの爺(老ダークメイジのコウゾウさん)にもそう言ってヤル気を出させてやれ。

どうせあれだろ……オリハルコンの兜が欲しいんだろ?

この前オオトリ先輩からその話聞いた。

全部承知だ、分かったらサッサと行け」

「さっすがオスカル様!話が分かるッ」

「どうせお前じゃなくて、爺さんが取り上げるんだろ。

お前はサッサと行け、もし連れてくるのが遅れて、奴等が国境を越えたらこの話は無しにするぞ!」

「すぐ行きます、ではっ!」


そう言うと若いダークメイジは、いつもの調子を取り戻し、エアタクシーの魔法を使うべく、急ぎこの場を離れた。

それを見ながらオスカル・アンドレ・ロマンは「まったく、なんて厚かましいんだ……」と(つぶや)いて溜息を吐く。


「良いのですか?オスカル様……」


(かたわら)(ひか)えていた顧問がそう言うと、オスカル・アンドレ・ロマンは「ああ、別にいい」と呟いた。


「コージが破れ、代わりにサワちゃんをバルセールから借りる事にしたが、彼女はバルセールとの約束で、私の身辺警護には使えない事になっている。

だから何かあったらあのアホ孫の爺さんを、こっちに呼んで、私の護衛をさせなきゃならん。

だからここであのアホ孫と()めて、あの爺の機嫌を悪くできんのだ」

「なるほど、それでは仕方がないですな」

「うむ、あのアホ孫が爺の後ろ(だて)で、好き勝手するのは気に入らんが、まぁ仕方がない。

別に悪い事をするのでもないからな」

「城から逃げますか?」

「逃げられん、イイダバシからそれは固く禁じられている。

冒険者がこの城に侵入した際、もし逃げたら私は消滅(しょうめつ)させられる事になっている」

「なんと……」

「まったく、ままならない世界の掟よ……

だがおめおめと敗れるつもりは無い。

もし“焼き肉串”とかいう女盗賊が現れたら、迎え撃ってくれよう!」

「ははぁッ!」

「……もし奴らがこの城に現れたら、(かね)をひたすら鳴らし続けろ」

「かしこまりました……」

「では出迎えの準備をしてくるか……」


そう言うと立ち上がり、彼はこの部屋の出口を目指しながら口を開いた。


政務(せいむ)は一旦停止とする、夜私の部屋に報告書だけ届けてくれ。

私は空中庭園に(こも)って、奴等を待ち受ける準備をする」

「かしこまりました」


オスカル・アンドレ・ロマンはそう言うと、この部屋を出て廊下を歩く。

廊下は壁画や調度品に飾られ、大きくて立派な窓が幾つも並んでいた。

これは現在オスカル・アンドレ・ロマンの居城であるこの場所が、かつてはフランフラン王の居城であった事の名残(なごり)だ。

フランフラン王国の王が居たこの城は、豪華(ごうか)で、彼等がどれだけ贅沢(ぜいたく)を愛していたのかが分かる。


そんな彼等の生活の面影(おもかげ)色濃(いろこ)いその中を、一人コツンコツンと、足音を立てて目的の場所へと歩くオスカル・アンドレ・ロマン。

彼は不意に足を止めた。

そして窓から、城壁の中にそびえる、まるで緑に(おお)われた、滝を備える階段のような形の巨大な構造物を見る。

あの構造物は。近くの川から水を水車でくみ上げ、最上階から流している。

そんな水の幾つかは、空中で霧のようになり、天気のいい日は虹を()けた。

……アレこそ、かつてフランフランの王が自分の贅沢の為に立てさせた、偉大な空中庭園である。

オスカル・アンドレ・ロマンも此処を気に入り、手入れを続けていつでも散策(さんさく)が出来るようにしていた。

そしてそれを見ながら、彼は胸の内で(うめ)く。


(ココは私の国。私の国なのだ……

フランフラン王よりも、ずっとまともな統治をしてきたという自負(じふ)だってある!

負けてたまるものか……

……あそこなら、何も財産は置いてないし、盗人が入っても問題は起きまい。

最悪庭園におびき寄せて、被害を軽微(けいび)に抑えられよう……)


彼は弱い自分の部下の能力を考えながら、アイデアを()り始める。


「ココで迎え撃って……ダメだコージを破る位だ、此処で他の奴に行かせても時間稼ぎにもならない!

だとしたらここで人数を掛けて数の有利を生かし……

ダメだ!それも破られる。

どうしたら防ぐ……いや待てよ。

防げないなら防げないで手段はあるんじゃないか?

例えばそうだな……時間稼ぎに(てっ)するとか。

だとしたらこんなやり方もあるよな」


普通よりも、念入りにアイデアを出して勝負に打って出るオスカル・アンドレ・ロマン。

魔界詐欺師とも呼ばれた、彼の真骨頂(しんこっちょう)が今、発揮(はっき)されようとしていた。


◇◇◇◇


―4日後


「やっと着いた」


そうアランが呟いて城を見上げたのはこの日である。

ラ★ニーズの4人の冒険者は、野宿や、途中の山小屋での宿泊を繰り返しながら、この日遂にオスカル・アンドレ・ロマンの居城にまでたどり着いた。


「聖水を結構使ったね」


そうハニーが言うと、女盗賊“焼き肉串”が自信に満ちた顔で答えた。


「でも、アレのおかげで魔除け効果も発揮され、一回も敵と遭遇せずに済んだじゃない。

予定よりも早くここまでこれたし、上出来よ」

「そうだね、ヤッピー頭いい。

金に物言わせて聖水を大量に買い込んだのはさすがだよ」

「でしょ?

ここの連中は人間も信じられないから、誰にも会わずに、ここまでくるのが大変なのよ。

絶対にアイツら私達の事密告(ことチク)ると思ったからさぁ。

だけどほら、私達って、お金あるじゃん?

貧乏な他のパーティじゃマネできない方法で、この問題を解決する事が出来るのよぉー」

「さっすがヤッピー!あったまイイっ」

「褒めすぎぃ、本当にぃ。おーっほっほっ」


盛り上がる二人をよそに、大量の聖水持たされていたニックと、他の荷物を背負っていた相棒のアランは冷めた目で地面を見ていた。

女だからって、重いモノを持たなくていいとは、誰も言ってないと、彼等は心で呟く。

ニックは悲嘆(ひたん)にくれた声で呻いた。


「世の中は理不尽(りふじん)と、不条理(ふじょうり)で出来ている」


聖水を詰めた革袋が、チャプチャプと彼の背負うリュックの中で無慈悲(むじひ)な音を立てる。

アランはそれを聞きながら「15リットルの聖水は、お前にしか持てないよ……たぶん」と答えた。

ニックは僧侶だから……と言う理由だけで、女盗賊から、大量の聖水を持たされたのである。

あれから4日も立ち、聖水は残り2リットルぐらいまで量を()らしたが、負担が軽くなったらなったで、女は自分の荷物を彼に持たせた。


この時このパーティのオーナ兼、リーダーの“焼き肉串”と言う女盗賊が吐いた言葉が。

『……私は女で、ニックは男だからぁ』である。


ニックはこの重量とパワハラに苦しめられながら、今日旅を終えた。

因みにアランも、鉄製の重たい荷物を押し付けられた。

だからニックの気持ちも理解できる。

この4日間、手ぶらで元気に歩く女と、荷物運び役となった男3人と言う構図(こうず)で旅を続けたラ★ニーズの面々。

男達は財布を握り、4人の中で一番強い彼女に逆らう事は出来ず、言われるがままに苦しみ、そして(あえ)ぎながらここまで来た。

この地獄の様な4日の間に不満を溜めながら、男達は目的の場所に着く。

……さて、そんな恨みの対象である女盗賊の様子は?と言うと。

彼女は自身の強い立場を実感しながら旅をしたからなのか、実に上機嫌だ。


「みんな頑張ったねぇ、敵が来たら私が蹴散(けち)らすから安心して。

それ位はしてあげるからさぁ」


機嫌よくそう言い放つ女盗賊“焼き肉串”。

その言葉に応えて、男達は力ない笑みを浮かべてこう返した。


『ああ、ありがとう……』


得意な事だけしてればそれでいいのかよ……と、アランは言いたかった。

……言えないけど。

こうして吐く言葉の、本音と建前が違う男達。


見ていただいてありがとうございます。


もしよろしければでございますが……

つまらなかった、面白かった等ございましたら。

画面下に在る星をつまらなかったら★一つ、面白かったら★5ついただけないでしょうか?

そしてご感想の方を戴けたらなおのことありがたく思います。よろしくお願いいたします。

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