あの輝く様な空中庭園の道端で……1/9
―3日後
―フランフラン王国側、ワスプ―ルの橋の傍の隠れ里にて。
「えーと、食料に麻縄、ナイフに石鹸。
お金と着替え……ニック、そっちに砥石ある?」
“焼き肉串”がそう尋ねるとニックは「コンパスと一緒に入れたよ」と答えた。
「コンパス(方位磁針)と一緒?
もうちょっと考えてよ!
あんなに重くて固いのと一緒だったら、歪んだりして使えなくなるじゃん!
……信じられない」
叱られたニックは「ごめん……」と言って声を落とす。
「コンパスはズボンのポケットに入れて。
地図は胸のポケットに……頻繁に見るんだから。
全部のポケットに、穴が開いてないかどうかも確認して。わかった?」
「うん」
ニックにそう言うと次に焼き肉串は、アランを見て「携帯用の鍋とかは?」と告げると、彼は黙って背負う予定のリュックを開いて中を見せた。
「OK全部あるね。これで行けるかな?」
「リストの物は全部持った」
「さすがアラン、手際が良い。
……さて、じゃあ後はあの遊び人が帰って来るのを待つだけだね」
そう言うと3人は、自分達が居る部屋の椅子やベッドに腰を下ろす。
その後“今は此処に居ない人”である、遊び人ハニーの事について話を始めた。
彼女等は「戦闘以外だと役に立つ」とか、「彼は私の癒し!」とか、「意外と賢いよね……」等、色々な噂して時間を過ごす。
ガチャ……
しばらくして、「みんな、たっだいまぁー」と言いながらハニーが帰って来た。
“噂をすれば……”と言いたげに“焼き肉串”は「あ、遊び人が来た」と言ってケラケラと笑う。
「なになに、僕の話をしてたの?
気になるなぁ……悪い事言ってないよね?」
「言ってないよ、居ないと寂しいよねって、皆で話していたのっ」
「本当に?
それは僕の目の前で言ってくれないとさぁ」
「アハハハ、図に乗るから嫌!ねぇ?」
そう言って“焼き肉串”はニックやアランの顔を見る。
このあと少し4人は、互いにからかいながら楽しい雑談をする。
そして区切りの良い所で、ハニーが買い出しに行った先の市場で聞いた噂話を語り始めた。
「そう言えばさっき、マーケットの女性に聞いたんだけどさ」
この時、目をきらっと輝かせながら「女性?」と、女盗賊は尖った声でハニーに尋ねる。
「うん、70代のレディーだよ」
そう淀みなく返すハニー。
……見た目は20代にしか見えなかったとは言わない、もちろん実年齢も知らない。
まぁ、たぶん70代の女性だろう……知らんけど。
「その人が言うには、今度経験値が普段の数倍貰える、伝説の魔獣クエストが始まるんだって。
だからフランフランに普段現れる魔物よりも、強い魔物が現れるらしいよ」
『…………』
……数倍強い魔物が現れる。
そう聞いた瞬間“焼き肉串”の目が大きく見開かれた。
そして3か月前に出会った“ミツカベ”と名乗る、イイダバシの人間の言葉を思い出す。
『―実はあと3か月とちょっと経ったら、強制イベントが始まります。
―イイダバシに帰るのはその頃となりますので、イベントの情報に耳を傾けてくださいね。
―強い魔物に出会えるようなイベントを企画しますので、それを合図だと思ってください』
(ああ、遂にこの日が来たんだ……)
“焼き肉串”はそう思うと、思わずパーティメンバーである、3人のイケメンの顔を見た。
『…………』
少し頼りない、眼鏡を掛けた優しい僧侶のニック。
『…………』
少しぶっきらぼうだけど、褒められるといつも嬉しそうに、素敵な笑顔を浮かべるアラン。
『…………』
この連中と仲良くなるきっかけを作り、皆を実際にまとめていた、明るくて柔らかい、だけど不誠実な匂いがするハニー。
実際一番“焼き肉串”と仲が良かったのも彼である。
それを思いながら、彼女は心で寂しげに呟いた。
(もう、お別れなのかな?)
自分はイイダバシに居るという、本当の両親に会うらしい。
だとすると……やっと組めたパーティとも別れなけれるかもしれない。
いつもパーティメンバーに恵まれなかった過去を持つ彼女は、それを辛いと感じた。
……生まれて初めてだった。誰かと一緒に居て、こんなに楽しく、冒険をする日々を過ごしたのは。
その日々が終わる。
事情を知る自分の目には、このパーティの終わりの日が見える。
この瞬間、例えようも無い寂しさと恐怖が彼女の胸を駆けて行った。
「私、辞めたいと思った事が一回も無かったのに……」
自分に聞かせるように、思わずつボソボソと呟いた彼女の言葉に、上手く聞き取れなかったハニーが尋ねる。
「うん、何か言った?ヤッピー」
「なんでもない。
みんなと一緒にいて楽しいなって……」
別れるかもしれないと言うのが怖くなり、とっさに噓をついた。
表情も取り繕った彼女の心を知らず、嬉しそうにハニーは言う。
「あ、やっぱり?
僕もヤッピーと一緒にいて楽しいよ!
お金持ちだし、強いし、しかも可愛い!」
「え、本当?」
ちょっと嬉しい、泣きそうだな……と思う彼女に遊び人は言う。
「もっちろんだよ!
だから、相談があるんだど……実はさっき登山靴で良いモノ見つけたんだ。
買って来ちゃったけど、良い?」
「可愛いってそう言う事っ!
信じられない、このクソ遊び人……」
……感動を返せ!
しかし可愛い顔をほころばして、遊び人は言う。
「でも、可愛いのは本当だよ!
ヤッピー大好きっ♥」
イケメンは正義だ……
不細工な男にこんな事言われたら殴りたくもなるが、かわいい顔をした男に言われると仕方がないと思える。
思わず噴き出した“焼き肉串”は「じゃあいいよ」と答えた。
「ありがとう、一応みんなの分も買ってきたんだ」
そう言って新品の登山靴を出してくるハニー。
「地図を見たら、山地を歩くみたいだし、必要だよね。
革靴や履き心地の良い靴じゃ、すぐにダメになりそうだし」
「それもそうだな」
そう言うとアランが、床に置かれた登山靴を手に取った。
「アランの持ってるのはニックのサイズのだよ、アランのはコッチで、ヤッピーがコッチね」
そう言って靴をテキパキと仕分けるハニーに、ニックが驚いた顔で言った。
「みんなの足のサイズを知ってるの?」
「この前、雑談がてら教えてくれたじゃん」
「ヤッピーのも知ってるのは凄いね」
「見たら分かるよ、これ位かなって」
これを聞き、感心しきりと言った表情でアランが言った。
「フーン、さすがは遊び人……」
「何その言い方……傷付くな。
まるで僕が不誠実な男みたいじゃないか」
「いや、そう言う訳じゃないけど。
ほら……慣れてそうだし」
「人並だよ、ひ・と・な・み……
ほら、僕はカッコ悪くないしさぁ」
「ああ、まぁ……自分で言う」
「まぁまぁ、アランもカッコイイ男だよ。
僕が女だったら彼氏にしたいもの」
「フーン、俺は浮気されそうで嫌だな」
「うわ、うわぁ……」
この言い方が面白くて皆が噴き出した。
「あは、アハハハ、何その言い方、ヤバくないっ?」
「お前となんか気持ち悪くて嫌だよ!」
止めどなく零れる笑いと笑顔。
終わりの日がかすむ明るい光景。
それを見ていた“焼き肉串”。
彼女は気が付くと笑いながら泣き、そしてその様子を訝しんだ他の仲間が、言葉を止めて顔色を覗き込む。
『…………』
顔を見られている事に気が付いた“焼き肉串”は「ヒッグ、ヒッグ……ごめんね皆、大好きだから」と言って嗚咽を漏らした。
「……お、おう、俺もヤッピー大好きだぜ!」
良く分からないアランが、良く分からないなりに気をまわして彼女を慰める。
次にハニーが“焼き肉串”の頭を抱きしめ。
「みんなヤッピーの事大好きだから、ね?」
と言って良く分からないなりに励ます。
……基本男とは、女の事を知らないが、正しい振る舞いをする生き物なのである。
ニックも「ヤッピーいつもありがとうございます、僕もあなたが大好きです」と言葉を掛けた。
この言葉を聞いて感極まった彼女は「私、皆のこと忘れないからね」と言葉を漏らした。
「も……もちろん」
「そんなの当たり前じゃん!」
そう言葉を返したニックとアラン。
……繰り返し言うが基本男とは、女の事を知らないが、正しい振る舞いをする生き物だ。
だけどその実、何が何だか分かってはいない。
彼等は困った顔で互いに見合わせながら、とにかく彼女の言葉を肯定し続けた。
そしてその脳裏に……もしかしてパーティを辞めるつもり?との思いを過ぎらせる。
そんな困惑する彼等に対し“焼き肉串”は言った……
「みんな、もし私が居なくなっても私の事を忘れないでね」
この言葉に驚いたハニーは「え、ヤッピーパーティ辞めちゃうのっ?」と尋ねる。
「ううん、辞めないよ……」
……男達はイラっとした。
それを知らずに、彼女は言葉を続ける。
「強い魔物が出て、皆全滅するかもしれない……
そうしたら教会で復活するじゃない。
そうしたらお金が半分になるけど、それでもみんなお互いを復活させよう。
そして、もしパーティがバラバラになってもね、フランフランの町の最初に在った酒場で落ち合おうね……」
強い魔物で全滅するかもしれない……と言われて初めて男達は彼女の感情を理解できた気がした。
だから泣いていたのか……と。
我等のヤッピーは、今度始まるキャンペーン内容について悲観的になっていたらしい。
まぁ確かにあり得る話なのでニックは「落ち合う場所は、ボルドーの酒場ですか?」と尋ねた。
「うん」
「分かりました、じゃあ皆そこで何かあっても落ち合いましょう。
何かあってもフランフランに帰れるように僕は胸にキマイラの翼のレプリカを、ぶら下げときますね」
そう言うと彼は、鎖を通してペンダント状にしたキマイラの翼のレプリカを、首にぶら下げた。
他の二人も、それに倣ってキマイラの翼のレプリカを付ける。
それをハニーの腕の中で見ながら(ソレ、要る?)と“焼き肉串”は思った。
本当は全滅するだなんて、思ってもいなかったからだ。
こうしてサヨウナラを恐れた彼女が、とっさに吐いた方便は、男達の胸を羽根で飾り立てる。
彼女はそれを見ながら(まぁいいか……)と思った。
……こうして一連の原因となった女盗賊は、彼等の胸元にアイテムがぶら下がると、静かに「じゃあ皆行こうか」と告げた。
この直後、彼女達は外に出る。
外で女盗賊は、キマイラの翼のレプリカを取り出すと、それを空に掲げた。
次の瞬間エアタクシーの魔法同様、光の柱が現れ4人を飲み込み、瞬時にマーキングされた場所に皆を運ぶ。
こうして首に、キマイラの翼のレプリカを下げた彼等を連れ、女盗賊はこの前辿り着いた、鉄の国にある教会へと飛んで行った。
彼等はそこから、オスカル・アンドレ・ロマンの城を目指す事になる。
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