行方知れずの正義たち―ワスプ―ルの戦い― (後)
急ぐ旅を続けるこのパーティは、間もなく歩みを進めた。
橋を抜けると道は十字路となる。
看板は無く、どの道がどこに向かうのか分からない。
そこで困ったアランはハニーと一緒にいる“焼き肉串”に声を掛けた。
「ヤッピー、どっちに行くの?」
「え?うーん……」
戦った後だからなのか、それとも泣いていた後だからなのか、とにかく何時もの鋭さが無い彼女。
そんな事も有り“焼き肉串”の答えはドコかあやふやだった。
「右かな……それとも左?
ええ、分かんない、どこかに分かりそうな人居ないの?」
それを聞いたニックは「ヤッピー、ココは魔物の国だよ?」と言う。
すると彼女はムキになって叫んだ。
「分かってるよそんな事!
いつも私に聞かないでタマには自分で探してよっ!」
いつも発揮しているキャプテンシーが、今日は責任逃れ方面に押し出される。
それを聞いて、困った表情で顔を向き合わせる男3人。
……そして3人の内、アランとニックは目線をハニーに目を向けた。
「え、俺?」
驚くハニーにアランが言う。
「この中で一番冴えてるのは、ハニーだと思う」
「いや分からないよ?」
次にニックが“焼き肉串”の目が届かない所で(サイコロ、サイコロで行け!)と口パクで伝える。
するとハニーも口パクで(お前馬鹿だろっ⁉)と抗議した。
そんな男達の様子に半分だけ気が付いた女は「ねぇ、ハニーが仕切ってよ」と声を上げた。
ラチが明かないのにイラっと来たのだ。
そこで仕方なくハニーは、サイコロを手の中で転がし、その出目を見る。
……右と出た、そこでハニーは元気よく皆に伝える。
「じゃあ、右行こう!」
「オウ、行こ行こ、外したらお前覚えとけよ」
そうジャイアニズムを発揮して、道を進むアラン、それについて行くニック。
渋い顔のハニーは、“焼き肉串”に腕を取られてソレについて行った。
こうして彼等はどこかに在る筈の、オスカル・アンドレ・ロマンの居城を目指して、歩くのだった。
―翌日
『ああ、もう無理……』
苦行が続くこの人生を呪いながら、歩き続ける男女の呻きが道に響き渡る。
昨日のサイコロの結果は悲惨だった。
あれからひたすら森と原野を歩かされ続けた4人は、空腹のあまり目眩を起こしながらもひたすら進むことになる。
そして体力の限界を迎え、そろそろキマイラの翼のレプリカで、拠点に帰ろうか?と、皆が思ったその時。
小高い丘の頂上から、羊と人間が居る村が見えたのだ。
「人間の村?
嘘……魔物に滅ぼされてない」
これを見て思わずそう呻いたニック。
そして他の3人は、それよりも寝床と食料を求めて一斉にあの村に走り出した。
「ちょっと、待って。用心しないの?ねぇ!」
ニックも又彼等を追いかけて走り出した。
こうして転がるような勢いで、村に駆け込んだ4人。
彼女達はいきなり外部からやってきた人に驚く、通りすがりの第一村人の爺さんに声をかける。
「こ、こんにちは!」
嬉しそうな声で話しかけるアラン。
キョトンとした表情の爺さんはそれに答えた。
「あんた、どこの村の人だ?」
「ハァハァ……昨日、ワスプ―ルの橋を抜けてきた冒険者なんだ。
俺達、この国を人間たちの手に戻すために活動している……」
「は?」
「ココは隠れ里なのか?
それにしては堂々としているけど……
どちらにしても、もう安心だ、これからフランフランの王様から冒険者を派遣してもらって、この村も開放してもらえれば……」
それを聞いた瞬間爺さんは、さっと表情を変えて言った。
「フランフランの王?
……いや、帰ってくれ」
「魔公爵のオスカルが怖いのか、それなら急いで応援を連れて……」
「余計な事をするな、帰ってくれ!」
爺さんはそれを言うと、急いでこの場を立ち去り、そしてその声を聞いた他の者も「フランフランの王が、冒険者を派遣した!」と叫んで村の中央に走っていった。
その声を聞いた他の住民も、一斉に家畜を家に入れ、そして門や窓を閉めて“焼き肉串”達を拒絶する。
こうしてさっきまで人が歩いていた通りは、人も動物もいなくなった。
……目の前に広がる、閑散とした村の道。
『え、え、エエッ?』
驚いた、ラ★ニーズ。
まさか人間達から拒絶されるとは思わなかった。
……彼女達は呆然と立ち尽くす。
それでも4人は、とにかく歩みを進め、村の中を行くしかない。
休憩場所も必要だし、食べ物だって買いたかった。
それなのに店も、家も全てが閉ざされる静けさの村……
その中を行く当てもなく歩く、冒険者の男女。
やがて道をまっすぐ行く4人の目の前に、小さな教会が現れた。
「さすがに教会は私達に扉を開けるでしょう……」
『そうだね』
ニックは僧侶らしくそう呟き、それに賛同した3人は教会へと足を踏み入れる。
教会は、人間が崇める神の祭壇と、その隣の掲示板がまず彼女達を出迎えた。
掲示板にはキザったらしく指を一本立てたオスカル・アンドレ・ロマンの絵が“1日1善”と言うキャッチコピーと共に、飾られている。
『…………』
ごくごくまっとうなキャッチコピーと、魔物の大物のコラボレーションを見て、思考を止めた彼女達。
そんな一行に、誰かが声を掛けた。
「どなたですか?」
思わず振り返る4人。そこには老神父が立っていた……
「ああゴメンなさい、私達はフランフランの国から来た冒険者なの。
昨日ワスプ―ルの橋を越えたばかりなんだ」
「ほう、あの橋を?
凄いですな、コージさんは強いと聞いていましたが」
昨日戦ったリビングデッドアーマーを知っているという、神父に出会って思わず“焼き肉串”は驚いた。
「あの鎧を知っているの?」
「ええ、意外と子供に好かれていましてね。
話すと面白い方なので、皆の人気者でした」
「なるほど……確かに特殊能力が陽キャっぽかったもんな、あのアンデッド」
「ええ、それで……フランフランの方がどうしてこんな所に?」
「ああ、魔物に占領されているこの村を、解放しに来たのよ私たち」
「え、なにからか開放するんですか?」
「何って……魔物、オスカル・アンドレ・ロマンから」
「はぁ……」
「フランフランの王様から援助してもらって冒険者をこっちに連れてくるわ!」
「フランフラン王?
へっ!嫌、イヤ嫌々……誰か村の者がそれを望んだのですか?」
「誰も……むしろこの話をしたらみんな逃げて行ったよ」
「それはそうでしょうね」
「どういうこと?」
「それは……あの王なんか、誰も帰って来てほしくないからです」
この答えに4人は驚いた、そして急ぎ「なぜ?」と尋ねる。
「だってそうでしょう。
あの王は勝手にこの国を、オスカル様に渡し、まだ住んで居た者を見捨てて、一部の人間だけでワスプ―ルの橋の向こうに行きました。
私達はこの事を後で知り、魔物に殺されると思って恐怖に震えていました。
もうこれだけで十分過ぎるでしょう?」
「でも、それは仕方が無かったんじゃない?」
「見捨てられた側はそうは思わんでしょ、当たり前ですよ……
それに、オスカル様の軍がこちらに来た際に、降伏し命乞いをする我々に魔物は言いました。
―これまで人間の王が治めさせていた税金は53%だという事だが、我々魔族はこの比率では税金は取らない。
―これからは40%とする。
―ただし鉄器具は、オスカル様の専売とする。
―人間の村にはこれまで通りの自治を認める、魔物が犯した犯罪は、オスカル様が裁くので奏上するように、以上!
後にこまごまとした法律が出来て、追加で様々な決まりごとが施行されました。
……あの掲示板に出ている“一日一善”がそうですな。
しかしあの方は別に、酷い事は何も私達に押し付けはしません。
それに別に鉄器具だってベラボウに高くなった訳では無い。
なので村の暮らしはあのコソコソと逃げたあの王様が居た時よりも、暮らしが楽になったのです。
税金が安いだけでココまで暮らしが楽になるとは……ソレに魔物に襲われることも無くなりました。
だから、この暮らしを知ってしまうと、あの王様の居た時代に戻りたいなど、誰も思わないのですよ」
『…………』
「むしろ、オスカル様が治める国に居続けたいと、私達は思っているのです。
ですから余計な事はしないで下さい、よろしくお願いいたします」
『…………』
そんな事を、毅然とした態度で言い放つ老神父。
その様子に、彼女達は何も言えず立ち尽くした。
こうして彼女達は、この場所で“現地の人間から何の援助も期待できない”と思い知る。
冒険者の前に立ちふさがる、意外なまでに善政を敷いていたオスカル・アンドレ・ロマン。
加えて、鉄を厳重管路した事で収入と、武器の管理を成し遂げた彼の知恵が、冒険者の心を折る。
そして彼女は此処で、もう一つ重大な事を知った。
それは、この道を行っても、魔戒皇子エピリウスが居る国に向かうので、オスカル・アンドレ・ロマンの城に行けないという事実だ。
つまり目的地に向かう道じゃない。
これを聞いた4人は拍子抜けしてしまい、キマイラの翼のレプリカでまた来れるようにこの教会をマーキングすると、いったんワスプ―ルの橋の近くの隠れ里に帰った。
……平たく言うと心が折れたのである。
こうして一見無駄に終わったかのように思えた、一連のこの動き。
ところがコレが実は彼女達に有利に働く。
……オスカル・アンドレ・ロマンや魔物達に、エピリウスの元に向かうのか?と思わせる事に成功したからだ。
ラ★ニーズの面々がオスカル・アンドレ・ロマンの城に攻め込んだのは、それから7日後の事だった。
そしてその日、意図せずとも彼等は奇襲に成功した。
手薄となった、オスカル・アンドレ・ロマンの居城……
ここで彼等はこの一連の事件の決着をつける。
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