行方知れずの正義たち―ワスプ―ルの戦い― (中)
……鑑定の結果見えた、リビングデッドアーマーのステータスはこうだった。
コージ 職業:(前職勇者)リビングデッドアーマー レベル13
攻撃力130 (装備:鋼の剣+39)
防御力165 (装備:フルプレートアーマー+65 盾無し)
知力110 (装備:隠しているけど実は数字に強い人になる護符+20)
素早さ89 (装備:重さに負けない強い気持ち+15)
幸運110 (装備:無し)
特殊能力 運が良くなる生き様:運+65、 人気者:運+20、統率者、上級剣士、超技:真空刃斬
状態異常:肘関節破壊
(低いレベルのわりにステータスが高いわね……
でも、状態異常の所に“肘関節破壊”とある。どういうこと?)
リビングデッドアーマーのステータスを確認しながら、思考を巡らす女盗賊。
やがて彼女は一つの結論に至った。
(そうか関節部分とか、鎧の隙間に攻撃を加えたらいいんだ!)
そう思いを巡らした女は、挑発的に笑いながらリビングデッドアーマーに言った。
「あんた、肘を庇わなくても良いの?」
「戦士に怪我は付き物だ。
実際、ダガーの一撃など、さしたるダメージも無いしな……」
顔色一つ変えずにそう告げる、目の前の敵。
(もしかして……効いて無いの?)
様子の変わらない彼の姿に、一瞬自身の鑑定の結果が間違っているのでは?と思った。
その彼女にリビングデッドアーマーの剣が襲い掛かる!
「!」
全く変わらない威力と速度。
風を切る音を立て、大剣を振り回すリビングデッドアーマー。
その攻撃を避けつつも、ダガーで一撃を加えていく“焼き肉串”。
チンチン、ブォンブォン、ガッシィーン
ダガーで一撃をそらし、鎧に幾度も攻撃を加える“焼き肉串”だが、硬い鎧に阻まれてダメージが上手く与えられない。
こうして繰り広げられた決闘は、時間が5分経ち、10分経ちと続いて行った。
……両者共に息が上がっていく。
「はぁはぁ、はぁはぁ……」
「ふぅふぅ……ング、ふぅふぅ」
防御力が高く、見合った攻撃力を持たない者同士の戦いは、予想以上に長引く。
(どうしたら勝てるの?どうしたら……)
息苦しさの中、そう思い続ける女盗賊。
長く続いた緊張と危機感が“焼き肉串”の精神を、いつの間にか肉体から乗り越えさせた。
……その中で勝利の行方を探る。
漲っていく集中力、感じた事の無い戦いの昂揚。
なぜか命がけなのに、楽しい……
そんな彼女に、肩で息をしながらリビングデッドアーマーが語り掛けた。
「いい決闘だな……」
「……フッ」
言葉ではなく微笑みで返す“焼き肉串”。
目の前の敵が嫌いじゃなくなる、そして倒したくなる。
……こんな思いを、コイツと共有しているのだ、と知った。
そしてリビングデッドアーマーは、腰だめに剣を構え、背中へ大きく剣を振りかぶった。
バッティングを思わせるその構え。
これを見た時、何故か彼がこれから何をするのかが分かった。
(……鑑定で見た“真空刃斬”)
躊躇いも無くその勘を信じる。
そして彼女は、中腰に構え、足と足の間を短めに開いた。
(自分を信じよう、鎧の隙間を、ダガーで斬る!)
「…………」
「…………」
互いに一撃を図る。
判断ミスや、技のスキを見せた瞬間、一撃で相手に負けてしまうのが分かる。
その中でダガーを構えた“焼き肉串”。
……そして彼女は、相手の心のスキを突くように呟いた。
「コージさん、私に“真空刃斬”効かないよ」
ハッタリ……だがリビングデッドアーマーの呼吸が微かに乱れた。
ソコを“焼き肉串”が突っ込む!
「!」
リビングデッドアーマーは高速で剣を振るった。
切っ先から放たれた巨大な真空刃が、地面の石ころを吹き飛ばしながら女盗賊を襲う。
タン……
まっすぐ敵に向かうと見せかけてわずかに左へと、一歩踏んだ“焼き肉串”。
真空刃は紙一重で傍らを過ぎる。
……接近した女。
リビングデッドアーマーは振り切った剣を強引に戻し、崩れた態勢のまま、近くの彼女に叩きつける。
「!」
首をねじって避ける“焼き肉串”……
チー……ン
大剣と兜がかすかに金属音を立てた……
帽子は裂け、中に入っている黄金色の兜が布の裂け目から姿を現す。
『…………』
降ろした剣に引き連られ、体が宙を泳ぐリビングデッドアーマー。
スキだらけのその体。
逃すつもりは無い。
女盗賊は、目にも止まらぬ速さでリビングデッドアーマーの脇を抜けた。
そしてひらっ、ひらっ……と2度ダガーが輝きながら宙を舞う。
「…………」
「見事……」
……リビングデッドアーマーの腕が、ポトリと地面に落ちる。
そしてしばらく後にその兜も落ちる。
やがて彼の体は崩れ、橋の上にバラバラになって散らばった。
肩で息をしながらそれを眺める“焼き肉串”。
(真空霞斬り……初めてだけど上手く行った)
胸の内で、そう呟いた勝利者は、無意識に構えを解く。
……それを見て、魔物達が騒ぎ出した。
「コージさん?コージさん!」
彼を慕う魔物達は急ぎ鎧に駆け寄った。
そして、彼の一部をかき集め始める。
「何も盗ませるな!
コージさんを必ず全部揃えて復活させるんだ!」
悪名高い、あの女盗賊にリビングデッドアーマーの体の一部を獲らせる訳にはいかない。
そう思った魔物達が、力の差も顧みずに両者の間に続々と割って入る。
そして各々、リビングデッドアーマーの体の一部をかい抱いた。
そんな魔物達の中から、一匹のオオペンギンが、女盗賊からリビングデッドアーマーを隠すように割り込む。
オオペンギンは大粒の涙を流しながら、彼女の行く手を遮り、目の前に立ちふさがって叫んだ。
「渡さないぞ、お前なんかにコージさんの一部でも渡してたまるか!
死んでもお前にコージさんを渡さない!」
女盗賊は、何も考えずこのペンギンをダガーで貫こうと思った。
その前でペンギンは、両手を広げ刺し貫かれるであろう、白い胸を前に突き出す。
「刺してみろ……お前は悪なんだろ?
俺を刺し殺して見ろよ!」
「…………」
命を懸けたペンギンのその姿が“焼き肉串”の腕を止めた。
『全部集めた!マカベッ、お前も早く来い!』
そんなペンギンに、仲間達が声を掛ける。
「…………」
それを聞いた瞬間、これまで勇敢だったペンギンの目の色に恐怖が浮かんだ。
「…………」
黙って後ずさっていくペンギン。
それを見ていた“焼き肉串”は鼻でその様子を嗤うと「行きなさい、見逃してあげるわ」と言った。
ペンギンはそれを聞くと、振り返って一目散に仲間の後を追って逃げだしていく。
(なんだ鎧……慕われてんじゃん)
……こうして彼女の前に、道が開かれる。
魔物がいなくなった橋の上、そしてただ目の前の道を見つめる女盗賊……
そんな彼女を労う様に、遊び人のハニーが声を掛けた。
「ヤッピー、すごいカッコよかったよ!
長いこと戦って大変だったね……って、どうしたの?」
「へ?」
思わず涙声で返事をした“焼き肉串”。
そして返事をした事で、自分が泣いていたことに気が付いた。
「あ、ああ」
「どうしたの……痛かったの?」
……説明するのが嫌だった。
「グス、グス……何でも無い」
勇者パーティに酒場で捨てられた過去が彼女に在った。
テストと称して、尊厳を踏みにじられた時もあった。
仲間に恵まれなかった、これまでが頭を過ぎる。
胸を締め付ける。痛みが心に走る。
「私、もうペンギンを倒せない……」
「……はぁ。
ウン、仲間思いのいいペンギンだったね」
判っているような、分からないような、そんな気持ちを持ちながら、ハニーは生半可に答える。
少なくとも、仲間を思うオオペンギンの様子に、彼女が女性らしい感受性で感動しているらしいというには分かった。
とは言え(ヤッピー、アイツら魔物だよ?)とも思う。
しかしそんな事を言ってもしょうがないので「ヤッピーは優しいもんね……」と言って、彼女を抱きしめた。
“焼き肉串”はそんなハニーの胸でひとしきり泣き叫ぶ。
……自分でも、なんでこんなに泣けてくるのか、分からない。
とにかく今はこの優しい遊び人に縋りついて、溢れる感情をさらした。
何時もボスらしい振る舞いをしたがる、そんな彼女の弱い一面を、ハニーは優しく支える。
決闘の最中も、ずっと近くにいたアランやニックも、そんな二人を戸惑ったように見つめた。
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