行方知れずの正義たち―ワスプ―ルの戦い― (前)
―パーティ結成から3か月後、ワスプ―ルの橋
ラ★ニーズが隠れ里の方に居ると聞いた魔物達はそちらを中心に、警戒を厳重にしていた。
その結果、フランフランの島と、鉄の国とを繋ぐ、ワスプ―ルの石橋の警戒が緩くなる。
……魔物達はその隙をラ★ニーズに突かれた。
ワスプ―ルの橋の上……倒されて横たわる仲間の傍で、ウォードッグやゴブリンは牙をむき、そしてこん棒を構える。
「あらあら、そんなもの構えて……私達とヤルつもり?
お仲間のペリカンと一緒に逃げた方が良いんじゃない」
大きな羽根飾り付きの帽子を被った女盗賊が、そう言って2匹の魔物に挑発的な笑みを浮かべた。
「うるせぇ、焼き肉女!
俺達はなぁ、おめおめと逃げ出す弱虫なんかじゃねぇ!」
「そうだそうだっ」
いきり立ってそう返す魔物の言葉に、女はワナワナと震える。
「や……焼き肉女ぁ?
ふざけんなよ、お前らぁ……」
次の瞬間、女盗賊は怒りに満ちた眼差しを、ウォードッグやゴブリンに向けた。
そしてダガーを構え、風の様な速さでウォードッグに近寄り、そのわき腹を刺し貫く!
「キャイィィィィンッ!」
「おのれっ!」
ゴブリンはそれを見るとすかさず反応して、手にした棍棒を女に振り下ろす。
ス……ボガァーン
振り下ろしたこん棒は、素早く動く彼女の影すら捉えられず、むなしく宙を舞って石橋を叩く。
その腕を羽根帽子の女はダガーで下から切り上げた。
……切れ味の良いメテオリクのダガーは、まるで紙の様に、ゴブリンの腕を切り飛ばす。
「!」
痛み以上の驚き。
メテオリクダガーの威力。
初めて目の当たりにしたその鋭さに、おもわずゴブリンは動きを止めた。
……その耳元で女が囁く。
「じゃあね……」
ダガーはゴブリンの首筋をスッと一筋通り抜けた。
……たちまち吹き上がる鮮血。
ゴブリンはその血反吐の中に潰れゆき、息絶えて橋の上に倒れ伏した。
パチパチパチ
そんな勝利者となった彼女に、誰かが拍手する。
「ヤッピーお疲れさん!
やっぱりヤッピーは頼りになるよね」
少し離れた所から、彼女の雄姿を見ていた男が彼女を讃える。
男はミスリル製のカフスで袖口を飾り、ミスリル製のボタンと、仕立ての良いスーツでめかし込む。
そんなイケメンにヤッピーと呼ばれた女が尋ねた。
「ハニー、そっちは片付いたの?」
「うん、ペリカンとペンギンとシジュウカラはアランたちが倒したよ。
僕はゴブリンの脳天にこう……ブスッとね」
彼はそう言ってダーツを投げる真似を見せた。
それを見て安堵の表情を浮かべた彼女は、柔らかい声で応える。
「なら、これで橋のこちら側はあらかた片付いたね」
「そうだね、他は皆逃げ出しちゃったし。
どうする?連中を棺桶に詰めようか」
「いや、時間が無いからいい。
急いでこの橋を渡り切ろう。
色々な魔物に話を聞くと、どうやら私が探しているダークメイジは、危険な相手みたいだしね。
渡り切った先で拠点を作り、そこから一度キマイラの翼のレプリカで、隠れ里に戻ろう。
だから連中が言う所の相談役が援軍に来る前に、この橋の中ボスを倒したいな」
そう話していると、他のメンバーであるリックもアランもこちらにやってきた。
「すごいじゃん、みんな頑張ってるね!」
彼等に女盗賊がそう話しかけると、アランが息も荒げながら笑顔で「まあね!」と返す。
ニックはその隣で、彼の傷に魔法を掛けて癒していた。
そして呼吸も落ち着いたところで、おもむろに“焼き肉串”が告げた。
「じゃあ皆……行くよ」
女盗賊のそんな声が合図で、合流を果たした彼等は、この長い橋を駆けて行く。
カッカッカッカッカッ……
ビョウビョウゥゥゥ、ヴォン、ヴォ……
石畳の上で鳴る4人の足音、彼等に容赦なく吹き付ける、ワスプ―ルの荒んだ潮風……
途中の道に敵は無く、彼女たちは障害も無く対岸まで辿り着く。
そんな一行を待ち受けていたのは、これまで見たことがない、煌めく鎧の魔物だった。
その後ろには、大勢の魔物が待ち構えている。
「フン、派手な出迎えね」
挑発的な笑みを浮かべ、早速漏れた“焼き肉串”の呟き。
彼女は全身鎧の魔物……リビングデッドアーマーの前に進み出て話しかけた。
「あんたが中ボス?」
鎧の魔物は一つコクンと頷くと“焼き肉串”に言葉を返す。
「俺の名はコージ、この橋で中ボスを張らせてもらっている。
これまで何人たりとも、この橋を通した事は無い。
決して公爵様に、貴様ら冒険者を合わせる訳にはいかない故に……」
「へぇ、これは丁寧な自己紹介をありがとう。
私は“焼き肉串”最近ではヤッピーと呼ばれてているから、そっちでもいいわよ」
「断る、焼き肉女。
俺はお前の仲間でも何でもない……」
「フン、つけあがったね、ボロ鎧。
すぐに鉄くずに変えてやるわよ……」
どこか冷めた目を投げて、容赦のない言葉を返す“焼き肉串“。
それを聞いたリビングデッドアーマーは部下達に「お前達下がっていろ……」と告げて前に出た。
「一騎打ちだ、女。俺と勝負しろ……」
「はッ、やる意味は?」
「……俺に勝ったら通してやる。
部下に手出しはさせん」
「別に……あんたの部下達を全滅させても良いのだけど?」
「手間が減るぞ?」
「……なるほど、確かにそうね」
“焼き肉串”は、手間が減るという言葉を聞いて、一騎打ちを受けようと思った。
自分だけなら橋を通れる自信はある。
だが自分の背後に居るのは、未熟な冒険者仲間だ。
彼等が、魔物に襲われないというなら、それに越した事は無い。
そしてリビングデッドアーマーの方は?と言うと……仲間に悲痛な言葉を告げていた。
「俺が倒れたら、急いでオスカル様に知らせろ。
コウゾウさんに来てもらわないと、もうあの女を止められない……」
「コージさん!」
「みんなが全滅したら、この国はもう終わりだ。
俺が死んでも、敵討ちはせず、あの女は通せ。
とにかく尾行して、あの女の居所だけは把握し続けろ。いいな?」
部下である魔物達は誰一人として、その言葉に返事をしなかった。
いつも陽気でバカ話ばかりをしたがる、コージと言う男。
そんな彼の柄にもない、絶望に満ちたこの言葉に、ただ涙を流す。
『グス、グス……ううっ』
「顎を下げるな、俺を見送る時は顔を上げるんだ……」
そう言うとリビングデッドアーマーは剣を抜き払い、鞘を近くにいたダークメイジに預けると彼女の前に進み出る。
……フッ。
女盗賊“焼き肉串”は、そんなリビングデッドアーマーの様子を見ると、思わず嘲るような笑みを浮かべ、そして応えるように前に進み出ながら言った。
「あら、お涙ちょうだい?
随分と安っぽいモノを見せてくれてありがとう」
……それを聞いたリビングデッドアーマーは答える。
「……俺の為に泣いてくれた奴の悪口を言うのか?
寂しい奴だな、女……」
仲間の悪口にあの鎧はきっと怒るだろう……
そう思っていた女盗賊の思いは、予想外な言葉で裏切られた。
想像もしていなかった、彼の反応に思わず首を傾げる。
「なに?」
そして次に発せられた敵の言葉は“焼き肉串”から言葉を奪う。
「お前……誰かと居ても、結局一人だっただろ?」
「…………」
この時、彼女の脳裏に酒場に捨てられた“あの日”の事が蘇った。
「分かるぞ、俺も昔はそうだった。
死んでしまうまではな……」
次の瞬間、リビングデッドアーマーは剣を構え、そして素早い挙動で踏み込む!
「!」
出遅れ気味に後ろに飛びのく”焼き肉串”。
その足にリビングデッドアーマーの剣が叩きつけられる。
パシーン
軽い音が響き、彼女の足に赤い光のエフェクトが走る。
「くっ!」
痛みに顔をしかめる“焼き肉串”。
彼女は後に飛び退きながら、傷付いた足を見た。
僅かにダメージが入ったようだ。
「……浅いな、やはり効かないというのは本当だったか」
「ッ……」
本当の“自分の姿”を手に入れてからと言うもの。
その高い防御力とスピードのおかげで、ダメージを貰わなかった“焼き肉串”。
久しぶりの痛みは、彼女を激怒させる。
「このクソがぁっ!」
此処にいる全員を動揺させる、女の咆哮。
ダガーを構え直した女盗賊は、瞬時にリビングデッドアーマーに肉薄する!
「フン」
リビングデッドアーマーは冷静に、相手の動きに合わせて剣を振るった。
彼の体は鉄の甲冑で覆われている。
それが為に高い防御力で、この一撃を貰っても、相手を剣で斬るつもりなのだ。
(生意気だよ!)
それを見て吸い込まれるようにダガーを走らせる“焼き肉串”。
ギャイィィィン、タタッ
女のメテオリクダガーは、リビングデッドアーマーの肘の関節部分を切り裂く。
そして華麗なステップで、自分を襲う大剣を避けた。
(まだまだっ!)
女の動きは止まらない、すかさず再度接近しガラ空きの腰にダガーを突き立てる!
パーン
金属音を上げてへこむ鉄板、弾かれるメテオリクダガー。
この様子に内心動揺しながらも、すぐさま後ろに飛び退く“焼き肉串”。
その鼻先を轟音とともに、大剣が掠め行く。
ヒヤリとした恐怖が、女盗賊の背筋を駆け抜けた。
そして距離を取りダガーを構えながら、女は(効いて無いの?)と思う。
「やるな、女……(俺を)傷つけた冒険者は久しぶりだ」
「お褒めに預かり嬉しいわ……
凹んだ鎧の手当てはしなくていいの?」
啖呵を吐きながら、ダガーを前に突き出す“焼き肉串”。
……時間を稼ぐ。
鑑定能力を使って相手の弱点を探していく。
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